女神を腕に抱く魔王   作:春秋

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ここからが新しい話になります。
しかし、あまりイチャイチャが書けなかった。





 

 

 

 

 

 

東京都にあるとある建物の一室、ひと組の男女が険しい顔で話し合っていた。

一人はスーツを着た苦労性な雰囲気のある男性、甘粕冬馬。

一人は机上で手を組む男装した端麗な少女、沙耶宮馨。

 

「それで甘粕さん、裕理からの報告はそれだけなんだね?」

「はい。しかし、その一つが驚異の難題ですがね」

「この国に魔王が誕生し、しかもまつろわぬ神を妻として扱っている、か」

「何とも萌える(燃える)シチュエーションではありますが、些か事態は緊迫していますねぇ」

 

神殺しの魔王、カンピオーネ。

世界に伝わる神話より抜け出したまつろわぬ神を殺し、その権能を簒奪した超越者。

 

人類が決して敵わないとされる神と魔王が手を組んだ。

それは日本呪術界のみならず世界中の裏社会に大きな衝撃を与える爆弾となるだろう。

 

これが他六名のカンピオーネに伝われば、顕現している神を殺そうと日本に来襲という可能性も否定できない。

人類を超越し、人類を歯牙にもかけず、人類を支配する、人類最強の傍迷惑な愚か者。

それがカンピオーネと呼ばれる連中であるからして。

 

「万里谷さんの霊視によれば、かの君が殺められたのは天空神であるとか」

「天空神と言えば、ギリシアで顕現したゼウスだろうね。大嵐を起こして人知れず消えたという話だったし」

「加えて言えば雷のイメージも視たそうですから、もうこれは間違いないでしょう」

 

天空神ゼウスの持つ雷霆ケラウノスは、オリュンポス最強と名高い有名な代物だ。

神の怒りとして恐れられた落雷は、天空神には付き物と言える。

 

「半年も顔を合わせながらあの裕理が今の今まで気付かなかった、というのは少々驚きではあるけれど」

「その辺は権能で隠されていたと見るべきでしょう、匿われている女神は蛇の神格らしいですし」

 

蛇の神格はまつろわされた地母神の象徴ともされ、命を育む大いなる母は生と死を司り、その多くは死や闇に関する記述が残っている。

そのため、霊視を曇らせる闇で隠蔽されていたと見るのは妥当な所だろう。

 

「問題は、これをどう処理するかですねぇ」

「裕理の霊視という点から見てまず間違いないだろうけど、確かめない訳にはいかない」

「さりとて、確証を得るために動けば感付かれる可能性が高い」

「でも僕らとしては、動く必要がある」

「……堂々巡りですねぇ」

「……夫婦(神魔)仲良く暮らしてるんだからそっとして置きたいんだけどねぇ」

 

触らぬ魔王(かみ)に祟りなし。

そうと分かっていても関わらない訳にはいかない、重いため息を吐いていそいそと働く二人であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所変わって草薙家、現在は夕食の時間。

家族四人(人間でない者と人間でなくなった者が混じっているが)の団欒で、静花がこんな話を切り出した。

 

「そう言えば今日、万里谷先輩に話しかけられたんだよねー」

「万里谷? 誰だそれ?」

「お兄ちゃん知らないの? 高等部一年の万里谷裕理先輩。クラスは、確か6組だったかな」

 

そこから数分に渡り万里谷裕理に関しての薀蓄を述べていく静花。

護堂はそれに少々辟易しながらも、重要な部分は聞き逃さず整理していく。

 

「その万里谷がどうしたって?」

「なんか、最近変わったことがなかったかって聞かれたの。あと、雰囲気変わった人がいないか、とかって」

「……ふーん」

 

静花から聞いた万里谷という少女の情報と合わせると大体の事情は見えてくる。

古い豪族の家系というなら呪術に関わりがあってもおかしくないし、神社の巫女とくれば霊視されたのだと想像はつく。

 

近々向こうから接触があると見るべきか、護堂はそう判断する。

 

横目でアテナを見ると、目があった。同じような結論に達したのだろう。

何にせよ、明日から少し気を引き締めなければならないかもしれないと思い直す。

 

アテナから与えられた知識を思い起こせば、事が大きくなると他のカンピオーネを呼び寄せかねない。

護堂とアテナだけならともかく、祖父の一郎と妹の静花を始め、他の家族親戚をも巻き込む恐れがある。

それは避けねばならない、この日常が崩れる事は許容できないと、護堂は決意を固める。

 

しかし、その決意が揺らぎ無に帰すのは間も無くの事だった。

騒動に好まれ無自覚に騒動を巻き起こすのが、カンピオーネの宿命なのだから。

 

「嵐、ですね」

「ああ、嵐だな」

「ん? 台風でも来るの?」

「何でもないよ、なぁアテナ」

「はい、何でもありません」

「なんか二人だけで通じ合ってるし……」

 

少し面白くない草薙静花だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

某日某時、地中海のとある孤島にて。

 

「軍神め、よくも儂の眠りを妨げおったな。その驕りを叩き潰してくれるわ!」

 

嵐が来ようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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