女神を腕に抱く魔王   作:春秋

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「――太・極――」

という事で、神咒神威神楽・神世創生篇読了。
そこで終わりかよ! ってことは後の三つをやってから、ようやく波旬戦に到達できるってことなのか……





 

 

 

恵那から天叢雲劍に関する連絡を受けて、一週間あまりが過ぎた。

九月に入り夏休みも終わりを迎え、護堂も学生にとって忌まわしき始業式に出席する。

 

教員たちによる毎度毎度の長話。

聞き流す者もいれば、なんだかんだと言いつつ話を耳に入れている者。

護堂はと言えば、面倒だとは感じつつも聞いておいた方がいいだろうと、姿勢を正すエセ優等生っぷりを発揮していた。

 

彼も中学時代は野球に精を出す優良生徒だったのだが、高校入学から私生活の変貌により授業態度に粗が出始めていた。

 

休み明けの度に体育系の授業を見学する不自然さ。

無論、土手っ腹に穴が空いたりした影響である。

 

時折気が付けば姿が見えなくなり、そのまま授業を欠席する事もしばしば。

無論、呪術関係のあれこれである。

 

ここに万里谷裕理という少女との噂が加われば、教員の間で要注意という意識が共有されるのも仕方ない事だろう。

 

今も気配に敏感な護堂が視線を察知し、肩身が狭い思いをしている。

その視線が今後、妻と名乗る少女の転入によって更なる鋭さを増すことを、彼はまだ知らなかった。

 

 

 

 

 

その帰り道の事である。

友人連中に別れを告げ、護堂はひとり学校を後にする。

 

校門を抜け帰路を歩んでいると、道半ばで覚えのある顔を見かける。

向こうもコチラに気付いたようで、まだあどけなさが残る美貌がほころんだ。

 

心なしか目を輝かせつつ、小走りで駆け寄って来る。

 

「やっほー王様」

 

そんな気の抜けた呼び声が、しかし美しい声音でもって発せられた。

 

白い肌に対照的な黒の艶髪が映える乙女。

肩に下げる布袋の中身が物騒を通り越して災害そのものに成り得る事を、護堂は良く知っている。

 

声の主は誰あろう、制服姿の清秋院恵那である。

 

「――どっちだ?」

 

対する護堂はただ一言。

可憐な笑みを浮かべる撫子に、彼は粗雑とも言える対応をした。

 

件の乙女はそれを気にせず、朗らかに返す。

 

「今のところはまだ、どっちに転ぶか分かんないかな」

 

聡明な彼女は、護堂の言いたい事を理解しているのだ。

即ち、事態が良いか悪いかどちらに転んだのか。

 

その問いかけに対する答えは、不明。

それをこれから明らかにするため、護堂の元へ来たのだろう。

 

「天叢雲はこの通り、今はおとなしくしてるんだ。だから一度会いに行ってきなさいって」

「まあ確かに、変な気配はないみたいだな」

 

チラリと、肩に下がる袋に視線を寄越す。

 

護堂の眼からしても、今は眠っているようにおとなしい。

いや、恵那の話からして人格――仮にも神の一部にその表現が正しいかは不明だが――らしき物は存在しているらしいので、実際に休眠状態にあるのだろう。

 

先日までは危険だったらしいが、その兆候は見られない。

これは事態が終息に向かっているのか、それとも……

 

「嵐の前触れか……だね」

「……だよな」

「恵那としては圧倒的に後者だと思うな」

 

俺も思う。

――とは言わない。

口に出してしまえば、すぐさま実現しそうで怖いのだ。

 

その地道な努力も、そう間も無く水泡と帰すのだが……

 

神刀を持った恵那を連れて帰宅する訳にもいかず、お馴染みとなった七雄神社へ向かう二人。

目的地が同じ場所であるため当然と言えるが、道中で裕理に出くわした。

 

「おーい裕理ぃ――っ!」

 

制服のまま歩く後ろ姿を見つけた恵那は、大手を振って声をかける。

 

振り返り声の主を見つけた彼女は、立ち止まってお辞儀をひとつ。

小走りで近付いてきたので、恵那と共に護堂も歩み寄った。

 

「恵那さんに草薙さん、ご一緒だったのですね」

「久しぶり裕理、今から神社に行こうとしてたんだ」

天叢雲劍(こいつ)の件で清秋院と顔を合わせたんでな、万里谷に会って相談もしておきたかったし」

 

仲のいい友人同士そのものの様子で神社に向かう三人。

関係者からいつもどおりの避難(かんげい)を受けて、すっかり慣れ親しんだ和室に足を踏み入れる。

 

恵那と二人で腰を落ち着け荷物を脇に置くと、裕理が遅れて麦茶を持ってきた。

 

「お待たせ致しました。二人共、どうぞ召し上がって下さい」

 

木製のお盆にグラスが三つ。

結露の具合からして、よく冷えているのが見て取れる。

気を利かせて冷たい飲み物を用意してくれたらしい。

 

「ありがとう万里谷、助かるよ」

「もらうね裕理」

 

受け取った麦茶は容器越しにも冷気を伝えてくる。

飲む前に首筋に当てたりしたくなったが、オヤジくさい気がするので自重する。

 

口に持ってきたそれを、一気に流し込んだ。

 

「~~~ぷはぁっ」

 

思わず声が漏れ出てしまうほど美味い。

冷えた液体が体の中を通っているのがよく分かる。

 

この清涼感がたまらない。

飲み物を喉に通しただけで体温が一気に下がった気さえしてくる。

 

裕理の気遣いは喉だけでなく心まで潤してくれた。

 

「美味い。本当にありがとう万里谷、生き返った気分だ」

「ふふっ、大袈裟ですよ」

「そんなことないって。王様の言う通り、まるで生き返ったよ」

 

隣の恵那も賛同している。

発言こそ自分と似たようなものだが、その動作は何とも言えない品がある。

 

和室だからか、それがよく分かる。

裕理にしてもそう、こういった細かい所に育ちの良さが現れている。

 

そんな中でひとり庶民の出である護堂は、関心しながら話を切り出した。

 

「それで万里谷、今日ここに来たのはさ――」

 

恵那の補足も入りつつの説明に、裕理も相槌を打ちつつ事情を把握していく。

 

「……で、これが問題の天叢雲なんだけどね」

 

そう言って取り出された天叢雲劍を直に見たとき。

まさに天啓、裕理に霊視が下りてきたのだ。

 

媛巫女や魔女たちの霊視。

啓示とも呼ばれるそれは、生と不死の境界に揺蕩う知識を呼び込む技能。

彼の領域には宇宙の開闢以来あらゆる記録が存在するとされるが、その神々の叡智を授かれる者は僅かばかり。

 

たとえその才に恵まれたところで、効果的な知識を呼び込む確率は精々が1割前後。

そもそもがアテにできるような代物ではないというのに、万里谷裕理のそれは異端とすら言える。

 

何よりも――このタイミングで霊視を授かるその豪運こそが侮れない。

 

思えば、幼くして魔王デヤンスタール・ヴォバンに眼を付けられることに始まり。

直後にあったまつろわぬ神招来の秘儀から生還し、ヴォバン侯爵の来訪は新たな魔王との縁により庇護を受けと、常人ならば二度三度は命を落としていても不思議はない。

 

しかし彼女は生き延びた。

その豪運、その悪運。草薙護堂と良縁を築きつつある今の立場からしても、万里谷裕理の天運は類稀(たぐいまれ)だ。

 

そして天に愛された淑やかなる才媛は、貴き魔王へ助言を呈す。

 

「――《鋼》の神刀を猛らせるは、古き偉大なる女神の落し子……未だ微睡み、母を求めし大いなる命……」

 

刹那だけ瞬く玻璃の瞳は、しかしそこまでしか看破できず。

神々の領域より賜った叡智の光は、謎かけを残し淡く消え去る。

 

「……ここまでしか分かりませんでした」

「いや、十分だよ。少なくとも(なにがし)かに影響を受けているっていうのは分かったんだから」

「女神の子供って事は、やっぱり英雄か竜の類なのかな……」

「天叢雲劍って言えば八岐大蛇だし、そっちなんじゃないか?」

「未熟で申し訳ありません……」

 

その後、修行が足りませんと落ち込む裕理を二人がかりで励ましたのだった。

 

 

 

 

 

天上に燃える太陽を避け、少女は木々の枝葉に身を潜める。

木漏れ日に照らされた口元は、穏やかな弧を描いていた。

 

「暴風の猛き《鋼》の神刀とは、お(あつら)え向きの役者がいるではありませんか」

 

鈴の音色を思わせる声。

サファイアの瞳が妖しげに揺れる。

 

「あの剣があれば、貴方もきっと神に上がれる(・・・・・・)。私が手を差し伸べましょう……」

 

幼き魔女王が、神々の踊る舞台を作り上げようとしていた。

 

「願わくばそれが、我が君の降臨の一助とならんことを――」

 

 

 

 

 





さて、続いて殺し愛夫婦の軌跡を覗いてきますか。
個人的にkkkで四番目に好きな宗次郎の活躍を見に行きましょう。

kkk好感度
一位は夜刀様。異論はないだろうしあっても認めない。
二位はエレ姐さんもとい龍明の姉御。修羅の矜持、痺れます。
三位は司狼。人間賛歌、あの名場面では背筋が正されます。
四位は刑士郎。兄様かっけー! さらばベイ。

あれ、剣鬼くん五位だったw
ということで、またしばらく間が空くと思いますm(-_-)m スマヌ
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