長生きTSダークエルフはひっそり暮らしたい〜今はごく普通の占術師なので、どうか放って置いて下さい〜   作:きつね雨

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誤字を幾つか指摘して貰いました。ありがとうございます。


11 恋の予感

 

 

 

 

 

 警戒心、猜疑心、或いは悪意を隠した笑顔。それらを全く感じない。精霊に関わりが深いほどに"精霊視"は忌避されるのに。

 

 間違いない。ずっと昔に謳われたヒト種の"勇者"や、エルフなどを相手にした大戦だって頭に無いのだろう。いや、精霊視と情報が繋がっていないのだ。

 

 考えてみれば当然か。

 

 セナの前世である日本や世界の様に、義務教育などほぼ存在しない。当然に"歴史"の授業や"道徳"を学ぶ時間もない訳だ。高位貴族や酔狂な学者でもない限り、過去にあった大戦を詳しく知るなど有り得ないのが常識。永い刻を生きる黒エルフとなったからか、極稀に別の知識が邪魔をする一つの例だった。

 

 目の前のセウルスが本来の特殊性に気付いていないのも、不思議な事ではないのかもしれない。それを教え、導く人だって近くに居ないのだろう。ましてやオーフェルレム聖王国は他種族が非常に少ない国だ。

 

「占術ですか。依頼であれば勿論占いますよ」

 

「良かった。昨晩も声を掛けそびれたので、二度と会えないかと思ってました。翌日に会うなんて、凄い偶然ですね」

 

「……そうですね」

 

 精霊力を感知出来るなら探し回る手もあるが、そこまでの精度は無いのだろう。見た目通りの若さなのか、身長だってセナより低いし、相貌にも幼さが残っている。

 

「えっと、占術を依頼したことがないのですが、やはり組合に頼めば良いですか? セナさんを指名依頼すれば」

 

「いえ、決まりは特に。占術師は必ずしも組合を通す必要がないですから。目の前に依頼者が居る以上、後は占いをするだけですね。ただ、料金への不安もあるでしょうから……普通は組合を経由するのをお奨めします」

 

「なるほど……では直接依頼します」

 

「大丈夫?」

 

 思わず子供に接する様な声が出てしまう。直接依頼はトラブルが付き物で、冒険者ギルドなどは禁止しているほどだ。信頼を積み重ねた相手なら別だが、二人はそんな間柄でもない。それをよく知るセナの言葉だったのだが……セウルスは笑いながら返して来た。

 

「ハハハ、勿論大丈夫です。貴女の精霊力は凄く澄んでいて、他で見たことも無いくらい綺麗ですから。そんな人に悪い奴なんていません。それに、昨晩のやり取りだって悪意の欠片も感じなかったですし」

 

「まあ貴方が良いなら構いませんが」

 

 酷く甘い答えだとセナは思った。精霊力が澄んでいて綺麗なら良い人? 残念なことに、それこそ完全に間違った回答なのだ。一般には余り知られていないが、人から見て悪意としか受け取れない行動を取る精霊もいて、その精霊を使役する方法でさえ存在する。

 

 何よりも重要な点は、精霊達に善悪の区別などないことだろう。風精霊(シルフ)がその力で以って傷付けるのも、優しい微風を贈るのも、彼らにとっては同じ事だ。そもそも最上位の精霊王で無い限り、会話すらしないのだから。

 

「良かった。ではどうすれば?」

 

「都合に合わせます。お店に来てくれれば」

 

「今からではだめですか?」

 

「今から、ですか」

 

「はい」

 

 やけに急いでいるなとセナは再び警戒感を持った。占術に緊急性を求めるとなれば、厄介な問題を抱えている場合が多い。しかしニコニコ笑ったままのセウルスを見ると、そんな警戒も違う気がする。

 

「では、ついて来て下さい」

 

「分かりました!」

 

 元気いっぱいに声を出し、セウルスは満面の笑みを浮かべている。セナは何だか若いなぁと内心で呟いた。まあ初めて招く客としては悪くないかもしれない。彼は街の噂になるほどの、絶賛売り出し中な冒険者だ。

 

「そういえば、僕に敬語なんて要らないですよ。こっちは間違いなく歳下で、セナさんは黒エルフでしょう? 見た目が若くて凄く綺麗な女性だとしても、生きる時間が違う訳で」

 

 少し失礼かなとセナは思った。まあ自意識が純粋な女性でもないから強い怒りを溜めるほどでもない。指摘しても良かったが、それは他の誰かに任せることにした。彼には仲間も多く、いつか学ぶことになる。将来有望な容姿をしているから女の子とも出会いが多いだろう。

 

「セウルスくん、ありがとう。お店は遠く無いからすぐに着くよ」

 

 もしかしたら"セウルスくん"呼びを嫌がるかも。セナはそんな風に思いチラリと顔色を伺ってみた。しかし変わらずニコニコと笑顔を浮かべている。

 

「セナさんはお幾つなんですか? 見た目通りの年齢じゃないんでしょう?」

 

 ど真ん中に悪い質問をぶつけて来た。さすがに指摘しないワケにもいかず、立ち止まって返す。

 

「……あのね、セウルスくん」

 

「はい?」

 

「女性に年齢を聞くのは失礼に当たる。そう聞いたことない?」

 

「んー、もちろんありますが、エルフ族の常識とは違うと聞いたので……あれ? もしかして間違ってます?」

 

「それは当然……」

 

 いや待てよ。

 

 セナは思った。この常識は前世のものかもしれない。黒エルフとして教育は受けてないし、諸事情で故郷を追い出された身なのだ、セナは。はっきり言えば、感覚や考え方は人間と変わらない。長命とは言っても、引き篭もり生活の方が圧倒的に長いので、コミュニケーション能力も成長などしていないだろう。ましてや元男なので、女性の一般常識さえ自学と聞き齧りに等しい。

 

 もしかして違うのか? セナは不安になって来た。

 

「セナさん?」

 

「と、とにかく、年齢の話はお終い。いい?」

 

「あ、はい」

 

「あの角を曲がった先、少しだけ奥まったところだから」

 

 無理矢理に話題変更したが、セウルスも何かを感じたのか黙ってついてくる。セナは何だか恥ずかしくなって、フードを深く被るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◯ ◯ ◯

 

 

 

 こぢんまりした丸机を挟み、二人は椅子に座った。椅子もテーブルもごく普通のもので、窓からは陽の光も入ってくる。引越ししてきて間も無いからか、装飾なども殆どなかった。見回していたセウルスも、意外に地味だなぁと思ったりしている。

 

 占術に限らず、雰囲気作りは大切だ。

 

 飲食店ならば清潔にして食器などにも拘るだろう。衣服などを扱う店舗の場合でも、配置や色合いを大切にする。

 

 占術は無形のためにそれがより顕著になるのだ。薄暗くしたり、出所不明な物体を並べてみたり、お香を焚くこともある。だが、セナの店はごく普通の家の一室にしか見えない。

 

 大変美しい女性でもあるからと、セウルスは内心ワクワクしていたのだ。

 

「どうしたの?」

 

「い、いえ。初めて占術をお願いするので緊張してます。知らない事ばかりなんで、色々教えてください」

 

「ああ、さっきもそう言ってたかな。でも私も初めてのお客さんだよ、この聖都レミュだと。だから一緒だね」

 

 ニコリと笑い掛け、セナも返した。当然に緊張を解きほぐす意味も込めている。私も緊張するし、恥ずかしいことじゃないよ、と。まさか殺風景な店にガッカリしているとは想像もしていないようだ。

 

「……笑顔、素敵です」

 

 黒エルフに限らず、エルフという種は大変美麗な容姿をしていることで有名だ。もちろん個人差はあるのだが、ヒト種からしたらまさに精霊の如く美しい。そんな中にあり、彼女は更に上位の美貌と言って良いだろう。

 

「そう? ありがとう」

 

 だがセナも慣れてしまっていた。それを知るからこその外出用ローブだし、逆に利用もする。占術においての雰囲気作りは重要だが、彼女の容姿こそが答えなのかもしれない。

 

「あ、黒エルフの方と話すのは初めてなので……すいません」

 

「何で謝るの? 褒めてくれたのでしょう?」

 

「ええ、それはもちろん」

 

「さて、先ずは料金の話をしようか。気に入らなかったら断ってくれていいし、分からない事は質問して」

 

「はい」

 

「とは言え、決まった額を設定するのは難しいんだけどね。正直な話、まだ本格的に占術を始めるつもりも無かったから聖都レミュの相場も調べてない。だから、言える範囲でいいから何を占って欲しいか教えてくれないかな」

 

「ああ、占う内容でも難易度が変わってしまう訳ですね。冒険者ギルドで細かくランク分けしてるのも、依頼難度がバラバラだからですし」

 

「うんうん、その通り。さすが"赤の旋風"のリーダーだね」

 

 頷くセナの髪が揺れた。肩口で切り揃えた黄金の髪、橙色した瞳はもう隠されていない。ついでに言えば、大きい両胸も揺れたのが見えてしまったので、セウルスは視線を向けないよう頑張ったりしている。あと、偶にピコピコ動く長耳も興味が唆られる。

 

「えーっと……」

 

 瞳と胸は余り見ないようにしよう、集中が乱れるし。赤の旋風のリーダーはそんな風に思った。

 

「失せ物、ギルドの依頼、それともパーティ内の人間関係? 他には……装備に関してかな?」

 

 セナには過去の冒険者経験もある。もちろん自身は彼のような剣士ではないが、仲間には大勢の一流冒険者がいたのだ。いや、超一流さえ超えた化け物みたいな連中も。殆どが寿命を迎えたが、記憶だけは今も色褪せない。大切な、忘れたくない、忘れられない思い出たち。

 

 セウルスならば、やはり戦闘や依頼についてだろうか。他には人間関係などの悩みが多い。

 

 セナは何となく観察しつつ予想を立てたりしている。

 

「いえ、そうではなくて……」

 

 意外にも逡巡しているようだ。その仕草や様子を見て、セナは最も代表的な依頼を思い出した。同時に自身は苦手な部類に入る悩みでもある。

 

「もしかして……恋愛関係かな? 好きな人が出来たなら悩んだりするのも当たり前。気にせず言ってみて」

 

「あ、はい。セナさんの言う通りです。実はずっと探している女性がいて……どうしても忘れられなくて」

 

「探している、か。なるほど、それも占術師に依頼が多く掛かる内容だね。じゃあ、料金だけど」

 

「どうぞ」

 

 特殊な依頼でなかったためセナは安堵した。ややこしい内容になると最近の相場なんて分からない。恋愛系は代表的なものだし、まだ若いセウルスの悩みならば複雑でも無いはず。年齢に違わない可愛らしい依頼だ。

 

 まあ実際の詳細を聞いたあと、天を仰ぐこととなるのだが。

 

 この時のセナは、未だそれを知らない。

 

 




セウルスの精霊視に関しては、今後に関わってくる予定です。
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