長生きTSダークエルフはひっそり暮らしたい〜今はごく普通の占術師なので、どうか放って置いて下さい〜   作:きつね雨

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2024/12/28 20:30 ティコ→ジュディに改稿


19 大人と子供

 

 

 

 

 転がっていたのは三本の瓶。それらを台の上に並べると、セナやヤトヴィが立つ場所へジュディは戻って来た。

 

「訓練は大体この辺からだけど」

 

「構わないよ。もっと近くても良いし」

 

 腕に覚えがある大人ならばやや近く、子供であれば結構遠い。そんな距離でジュディは問い掛ける。一方のセナは両腕を組みつつ真剣な表情で返した。

 

「近くだと簡単に当てちゃうよ?」

 

「大丈夫。瓶に当たるとかは気にしないから。私が見るのは別のこと。勿論ジュディはちゃんと狙いなさい」

 

「……分かった。まあ此処からにする」

 

 ジュディは一度セナから視線を切った。

 

 フーと大きな息を吐き、構えに入る。

 

 ほんの少し足を開き、一度的である瓶を見た様だ。ここから胴構え、矢つがえへと動作が変わる。この時に重心が流れたり、安定しないのが拙い。背筋を伸ばし、腰の真ん中辺りに重心が来れば良いとされる。

 

 おや?とセナは耳を揺らした。

 

 この世界に競技としての弓はほぼ存在しないため、ゆっくりと構えを取るのは珍しい。だが、基本は大切だし、結局は矢を放つ回数と経験がモノを言う。無論正しい構えと基本があってこそだ。

 

 まともな師も居なかっただろうジュディだが、セナから見ても美しい構えなのだ。そして、少し考え事をしてるうちに、彼女は弦を引き絞り始めた。

 

 弦を引くと言うが、実際には引く力と押す力は五分五分となる、そうセナは昔に習ったのを覚えている。その力加減をジュディは体現している様に見えた。

 

 もうここまで来れば理解は深まる。

 

 正直な話、彼女の持つ弓は決して良いものじゃない。整備は我流でしているようだが傷みもあるはずだ。玄人ならば買い換えるか、専門家に任せるだろう。ジュディはそんな弓を何とか操っているのだ。

 

 濁った音と共に、先端を潰した矢が放たれた。

 

「あ! ち、違う、今のはナシ!」

 

 狙った瓶より随分と上を矢は通り過ぎる。そしてすぐに後ろの壁へ当たり、刺さることもなくポトリと地面に落ちた。それを分かったジュディは必死な声で訴えている。

 

「ね、ねえ、もう一度、いいよね?」

 

「……」

 

「セ、セナ」

 

「ん、ああ、ごめん。いいよ、もう一回ね。それとあと十歩だけ近づこうか」

 

「うっ……わ、分かった」

 

 細い顎にやはり細い指をあて、セナは何かを考えているようだ。その強い視線を見たジュディは、何か怒られてる気がして元気が無くなっている。しかも近くに行けとか、腕にも疑いを持たれたと思った。

 

 言われた通りに十歩、ジュディは近づく。彼女からしたら近過ぎて当たらぬ訳がない距離だ。振り返るとセナは最初の場所から全く動いていない。もう傍で見る必要も無いってことなんだと、ジュディの気持ちは落ち込むばかりだ。

 

「ヤトヴィさん、聞いていいですか?」

 

「ああ、勿論さね。全く、自信満々で騒いだ割に、ちっとも当たる気がしないじゃないか。はあ、恥ずかしいったらないよ」

 

「あの子に聞かれたくないので、小さな声で……」

 

「ん? ああ、そう言う事かい。アンタ、ホント優しいね」

 

 十歩近づいたと言うより、ここから距離を取らせた。そう判断したヤトヴィが、娘への気遣いと思ったのだ。これから「やっぱり才能なんて無いよ」と伝える訳だが、話し方は考えないと駄目だろう。御転婆だとしても、ジュディはまだ子供なのだ。

 

 見ればジュディは次の矢を手に取っている。すぐに第二の矢を放つだろう。

 

「まず一つ。お父さん以外に誰か、教えを説いた人はいましたか?」

 

「ん? いや、多分いないよ。誰かに習う金なんて無いしね」

 

 ヤトヴィは何やら話が違うと思ったが、とりあえずは質問に返していく。

 

「ではお父さんが教えたのは何歳頃まででしょう?」

 

「そうだねぇ、多分だけど五、六歳だね。もうその頃から酒ばかりだったし、まともに家に帰ってなんか無かったからね。そもそも買い与えた玩具の弓矢も四歳を迎えて暫く経った頃さ」

 

「つまり、ちゃんと習ったのは一年もありませんね」

 

「習ったなんてご立派なことなんて無いよ。暇つぶし程度に遊んでやっただけさ、きっとね」

 

 なるほどと、セナは視線を戻した。ジュディの放つ二矢目は見事に瓶に向かい、やったー!と喜ぶ姿はやっぱり可愛らしい女の子でしかない。

 

「ジュディ! もう一回だけ、膝を落として打ってみて!」

 

「うん! 見てて!」

 

 片膝を地面につけ、先程より随分早く矢をつがえた。構えの省略もちゃんと出来ているようだ。

 

「ヤトヴィさん」

 

「なんだい?」

 

「恐らく、お父さんが言っていた事は本当だと思います。小さな頃から()()が出来てたら、私だって同じ様に言いますから」

 

「……つまり」

 

「はい。ジュディには才能があると思います。勿論しっかりと鍛えないといけませんし、他にも学ぶ事がありますけど」

 

「嘘だろう? そんな都合の良い話、余計な気遣いならやめとくれよ。さっきだって的を外したじゃないか」

 

「あれは弓が合っていないのと、目の使い方を知らないだけだと思います。むしろ縦の線は全く狂いが無かったですから……凄いですね、ホント」

 

 未だ信じられない、いや信じたくないヤトヴィだった。あのロクデナシが残した言葉が真実だなんて、受け入れ難いのだ。

 

 一方のセナは内心で喜び、同時に不安を覚える。彼女との出会いが都合良過ぎるし、あの場にセナが居たのもおかしい。また何かの、運命の悪戯を感じてしまう。勿論ただの偶然かもしれないが、こう言った経験を数多く重ねて来たのだから。

 

 そして、だからこそ、これ以上深く関わらない方がとも思う、彼女等親子に。占術をしなくて良かったと心から安堵した。

 

「道を選ぶのは自分自身であって欲しいと、そう思います。ですので、私から彼女に伝えるのは真実だけ。ヤトヴィさんには申し訳ないですが、嘘で道を歪めたくありません」

 

「……そ、そうだね。アンタの言うこと、分かるよ」

 

 二十歳前後にしか見えないセナだが、実際は遥かに歳上で、ジュディどころかヤトヴィさえ及ばない経験を重ねて来た女性なのだ。言葉に不思議な重みを感じ、ヤトヴィは頷くしかない。

 

 最後の矢だが、当たりはしても微妙にずれていた。情け無くなっただろうジュディはトボトボとこっちに歩いて来る。心なしか涙も浮かんでいるようだ。

 

「ジュディ、お家に入ろうか。それと、話をする前に手と顔を洗って来たら?」

 

「うぐ……分かった……」

 

 腫れぼったい目を見られたくないだろう。お化粧とか恋の指南役とか、きっと好きな男の子だっている。そんな可愛らしい顔が涙で濡れるのを望む者なんていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◯ ◯ ◯

 

 

 

「才能あるよ」

 

「どーせ私は……え?」

 

「正直驚いちゃった。私から見ても、ちゃんと力があると思う」

 

「マジで?」

 

「マジで」

 

 最初はこじんまりと席につき、背中まで丸くなっていたジュディ。だが今は、ピンと背筋が伸びてセナの顔をジッと見返している。母親であるヤトヴィだって、苦い顔をしながらも止めない。

 

「だ、だ、だよねー! やっぱり私はトーチャンの言う通り天才で」

 

「ジュディ、座ってくれるかな。まだ話が途中なんだけど」

 

「あ、すいません」

 

 勢いで立ち上がったが、セナの冷めた声に震えが走った。気がつけばちょこんと腰を下ろしてしまう。

 

「よろしい。じゃあしっかりと聞いてね。ヤトヴィさんもお願いします」

 

「ああ、頼むよ」

 

「まず、弓が合ってない。続けるならちゃんとお店に見てもらうこと。それと、目の使い方が違う。これは正式な先生に習った方がいい。どちらもお金が必要だから、ヤトヴィさんと話さないとね。その上で、一番大切な事を伝えるよ」

 

 緊張の面持ちのままジュディは頷く。

 

「外に行くのはやめなさい。エイムーだけじゃなく、狩り自体も駄目。分かった?」

 

「な、何で⁉︎ セナがさっき言ったばかりじゃない、私には才能があるって! だったら」

 

「死んじゃったら才能も何もないよ。でも、止めるのはそれだけじゃない。今のうちにしっかりと基礎を固めた方が良いからって言うのが理由だね。狩りに限らず、実戦では応用が必要だけど、基礎が弱いままだと歪んじゃう。キミの、折角の才能が狂ってしまうのは悲しい事だから」

 

 今ならまだ間に合うよと、優しい声音でセナは語りかけた。

 

 当たり前だが、実戦では平坦な場所が少なく、相手だって不規則な動きをする。反撃にも注意が必要で、目の使い方が重要なのだ。このままだと、才能を活かせないままに成りかねない。

 

「ジュディ。黒エルフのセナが言うんだ、間違いないさね。分かるだろ?」

 

「う、うん」

 

「しかし、まさかホントに才能があったとはねぇ……はあ、困ったもんだよ」

 

「では、あとは話し合って決めてください。そろそろ私は失礼しますので」

 

「え? も、もう帰るの⁉︎ セナ、どうせだったら泊まっていってよ! もう夕方だし……えっと、ほら、私」

 

「ダメ。それじゃ、ヤトヴィさん。ご飯ご馳走様でした」

 

「セナ、本当にありがとね。いつでも好きな時に遊びに来ておくれよ。まだまだ恩を返し切ってないんだから」

 

「いえ、私も楽しかったですから」

 

 セナはまた来ますと言わない。それが分かってヤトヴィは悲しそうに笑った。

 

 そして俯き悔しそうなジュディ。だが何かを決めたのか、グイと顔を上げた。うんうん、偉い偉いと内心褒めたセナだっだが、次の言葉に吃驚することとなる。

 

「セナ、約束したよね? 認めてくれたら一日遊ぶって、私の指南役で、お化粧の実験台になるって」

 

「あ」

 

 そう言えばとセナは固まる。ついさっきのことなのに、頭から消えていた。

 

「さあさあ、いつにする? 明日? 明後日? いや毎日?」

 

 何でだよ。再び眉間をグイグイとして、とりあえず反論しておくしかない。遺憾ながら子供との約束だし、反故にするには心が痛むのだ。

 

「約束は一日だけでしょ。あとさ、いつの間にか役割増えてない? お化粧の実験台ってなに?」

 

 

 

 

 

 

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