長生きTSダークエルフはひっそり暮らしたい〜今はごく普通の占術師なので、どうか放って置いて下さい〜   作:きつね雨

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20 まじょねーる

 

 

 

 

 白い壁に水色した窓枠。同じ水色に染めた正面の扉には「占術師セナ」と可愛らしい丸文字で書かれている木製の板。貸店舗ラウラのラウラお婆さんから借りた、セナの現在の住居兼店舗だ。

 

 ラウラはヒト種の老婆で、彼女が小さな女の子の時に出会った。年齢的見た目はセナ=エンデヴァルを遥かに上回ったが、黒エルフとは寿命が余りに違い過ぎるのだ。だから、ラウラは今も「セナお姉様」と呼び続ける。

 

 そんな一階の一室に、美しい声が響いていた。

 

「高い場所、白いテーブル、雨は降り込まない。そして、レミュから離れなくて良いです。どうですか?」

 

 声の主は濃い茶色のローブを羽織り、頭からすっぽり被っているために顔色も窺えない。だが、張りのある澄んだ声音で、若い女性だと分かる。

 

 占術師のセナだ。

 

 そして彼女の向かい側、つまり玄関側に座る男性は二十代中頃か。口髭は整えているが、髪には無頓着なのだろう。ボサボサな頭は寝起きみたいだ。

 

「はあ? 雨は降り込まない? 何だよ一体……って高い場所に白いテーブル?って……も、もしかしてアレか! 分かったよ! 絶対に間違いない!」

 

「早く行った方が良いかもしれません。多分ですけど、今日中に」

 

「直ぐに行って来る! すげえな、アンタは!」

 

「まだ見つかってませんよ? でもまあ、それが占術師の役目ですから」

 

「ああ、ああ! 眉唾だと笑ってたが、ドティルの話はホントかもしれん。とにかく、じゃあな!」

 

「またどうぞ」

 

 占術師としての代表的な仕事。それは失せ物探しだ。お財布、装飾品、手紙、鍵、などなど。笑えるところだと武器である剣や革鎧なども。一体どうやったら大きくて長い剣や重い鎧を忘れてしまうのか、セナには全く分からない。恐らくだが、酔っ払った挙句の所業だろう。

 

 さっきの男は子供から贈られたナイフが何処を探しても見つからないと、セナの住まい兼お店まで訪ねて来た。

 

「ドティルさんの紹介か。うん、あの酒場に行ったのは正解だったね」

 

 セナは占術師組合に所属こそしているが、現在の活動を詳しく申告していない。つまり、占いを求める客は斡旋されないし、そもそもが宣伝さえ行ってないのだ。普通に考えて客など来るはずがないのだが、紹介だけは違う。

 

 ヒト種のドティルだが、数日前に酒場で出会った冒険者ギルドの一員で、少しの時間だけ食事を共にした。まあ彼が美人なセナに声を掛けてきた訳だ。所謂ナンパってやつだが、ドティルは気持ちの良い話し上手な男だったため、セナとしても楽しかったのを覚えている。

 

「今度会ったら御礼でも言っておこう」

 

 あの分かり易い下心には付き合わないけれど。

 

「弓を預けて七日目だ。約束の日だからヴァランタンのお店に行かないと……お土産はやっぱりお酒かなぁ。あと、手料理も食べたいって言ってたっけ?」

 

 占術に使った石コロと紙を片付けつつ、セナは独り言を呟き続ける。長い寿命、長い一人暮らし、でも実は少しだけ寂しがりや。そんな訳で、誰にも届かない独り言は増える一方だ。

 

「ドワーフは酒好き、か。ホントに面白い」

 

 生活圏である二階に上がり、セナは手際よく料理を始めた。お酒のつまみであるから味付けは濃いめである。調味料もたっぷり使うし、特製のマヨネーズ擬きはヴァランタンも気にいるだろう。昔に食べさせたら目を剥いて「美味い!」と叫んだものだ。

 

 出来上がった二品を厚めの油紙で厳重に包む。タレとか溢れて衣服が汚れたら、気が滅入ってお出掛けもしたくなくなる。

 

「帰りに冒険者ギルドに寄るかな。依頼の進捗を聞いておきたいし」

 

 カチャリと扉を開けると、看板代わりである木の板をひっくり返す。「占術師セナ」から「おやすみ」に変わったようだ。因みに、ラウラにより用意された板だからか、デフォルメされた黒エルフの少女が居眠りする姿が端っこに描かれている。

 

「……ラウラったら」

 

 腹立たしいことに、黒エルフの少女は非常に可愛らしく、セナとしても気に入ってしまったのだ。だから今も変更する気は起きない。

 

 ムーと唇を尖らし歩き出す成人の黒エルフ。

 

 本人は全く気付いていないが、その顔も可愛らしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◯ ◯ ◯

 

 

 老ヴァランタンはドワーフの鍛冶師だ。

 

 エルフにも負けない寿命があり、土精霊(ノーム)に愛された種族でもある。その生まれつき持つ特性から、鍛冶師や庭師、そして戦士にも向いているとされる。非常に頑強な身体を備えているためだ。

 

 長く生きて来たセナの経験からも、ドワーフはその通りの存在だ。ずっとずっと昔に知り合ったドワーフの一人なんて、体の倍はあろう巨大な斧を振り回す、とんでもない戦士だった。単純に強い上に、体も非常に頑丈。おまけに魔法への耐性も僅かに持つため、倒すのは容易じゃない。そして、味方ならば非常に心強いのだ。

 

「こんにちは」

 

「らっしゃい」

 

「ヴァランタン、来たよ」

 

「おう、セナか。時間や日をしっかり守るのは変わらんな」

 

「まあ暇だしね」

 

 セナからしたら約束の時間を守るのは当たり前だ。だが、この世界の住民は相当におおらか、いや適当である。だから、セナはかなり珍しい部類に入る。

 

「まあ座れ。アダルべララを取って来る」

 

「うん。あ、少し台所借りたり出来ない? コレ温めたいんだけど」

 

「お! まさかセナの手料理か!」

 

「前に言ってたから。ほら、安いやつだけどお酒も」

 

「かー! さすがセナは分かってるな! よっしゃ! 台所なんて好きに使え!」

 

「じゃ、お邪魔して」

 

 ドワーフに合わせて作られた台所は小さく、とにかく低い。今は亡きヴァランタンの妻が使っていたから尚更だ。彼女もドワーフの一族だった。だが、セナからしたら当たり前で、別に気にもならない。温めた後に周りの片付けまでしてしまったくらいだ。お爺さんであるヴァランタンは、整理整頓も苦手らしい。

 

「お待たせ。はい、どうぞ」

 

「おっしゃ! この匂い、アレだな……名前は、名前、何だったか」

 

「マヨネーズ」

 

「そうそう! まじょねーる、だ!」

 

 いや、違うし。セナは思ったが訂正はしないようだ。何度教えても覚えないし、言い間違いをする。

 

「ん? お前は飲まないのか?」

 

「お茶で良いよ。このあと冒険者ギルドに行くつもりだし」

 

「そういや、セナは酒が苦手だったか。はあ勿体ねー。生きる楽しみの七割を捨てるなんてよ」

 

「七割はドワーフだけでしょ。私を入れないで」

 

「ガハハ! まあそりゃそーだな!」

 

 持ち込んだ料理。

 

 一品目は種類豊富な野菜炒めだ。前世で言うところの"中華風"にあたり、味付けには拘りが強く濃い。二品目はキノコと魚介のマヨネーズ和え。一度油で揚げた食材をお手製マヨネーズソースに混ぜ混ぜすれば出来上がる、簡単そうで非常に面倒くさい料理である。

 

 普段なら新鮮な生野菜を齧りたいところだが、今日はヴァランタンに合わせたカタチとなっているようだ。

 

「あー、これだこれだ! こりゃ酒が進んじまう!」

 

 マヨネーズソースが気に入ったのか、次から次にパクついている。作ったものを美味しそうに食べて貰えたら、セナとしても凄く嬉しいだろう。彼女はその様子を眺めつつ、お茶で唇を潤した。

 

「肉は……入ってないな。なのに、こんなに美味いなんて、やっぱりセナは凄え」

 

「残念でした。我が家のお肉は品切れ。だから材料の有り合わせだよ」

 

 セナが肉を余り好まないのもあるが、単純にお高いのも大きい。この世界でもお肉は高級食材なのだ。

 

「はっ、何でも美味けりゃ良いのさ。酒に合うなら文句なんて土の中に埋めちまえ」

 

土精霊(ノーム)が怒るでしょ、文句なんて埋められたら」

 

「なに? そうなのか?」

 

「いや、知らないけど」

 

 まあ恐らくドワーフの慣用句だろう。

 

「お、こっちの野菜も美味いな……」

 

「そう? じゃあ全部食べていいよ。私はいつでも作れるし」

 

「いいのか?」

 

「アダルべララの御礼、だからね。お金はホントにいいの?」

 

 セナの主武器である「アダルべララの紅弓」を久しぶりの整備に出した。信頼の置けるヴァランタンに頼んだ際、彼は無料で請けてくれたのだ。色々と事情もあり、代わりに手料理と酒を手土産に求められたのが七日前となる。

 

「要らん。大体お前はいつも貧乏だろうに。そうだな、金があるなら化粧の一つでも買ったらどうだ。美人に磨きが掛かるぞ」

 

「お化粧なんてしないって」

 

「はあ……相変わらず()()()には興味なしか」

 

「余計なお世話」

 

 セナ=エンデヴァルは恋愛関係に余り興味がないと思われている。実際には女性の身体に男性の自意識が入っているからだが、長い付き合いのヴァランタンでも流石に知らない事実だ。それに、本当のところ、恋愛をしてこなかった訳でもない。

 

 本当に短い時間だったが、とある相手と付き合っていた時代があった。そのお相手は女性、いや年下の女の子で、かなり個性的な性格をしていた。その彼女からの熱烈なアプローチに絆されたのが実態ではあるが、あの時の気持ちに嘘はなく、そして今もまだ愛している。

 

 いつかまた会って、ちゃんと話をしないといけないか。セナは最近そんな事をふと思う。だって、あの日の別れは幸せじゃ無かったから。幸せな別れなんてあるか分からないが、彼女は滅多に見せない涙をボロボロと溢していた。必死に、泣きながら、こちらに手を伸ばして……

 

「私から嫌われる様にしたくせに、勝手な話か」

 

「ん? セナ、何か言ったか?」

 

「ううん、別に」

 

「……なら良いが」

 

 お前、いま泣いてなかったか? そう聞きたいのをヴァランタンは我慢した。

 

「食べ終えたら食器を洗うからそのままで良いよ。ほらほら、早く食べて、冷めるでしょ」

 

「おいおい、ゆっくり味わわせてくれねえのか」

 

「え? ヴァランタンって味わって食べてるの? いつも吸い込むようにしてるから信じられない」

 

「て、てめえ! 失礼な娘っ子だな!」

 

「娘っ子はやめれ」

 

「うるせー! 誰が見ても娘っ子だろうが、セナは!」

 

「へー、次から味付けを酷いのにしようかな」

 

「な! 卑怯だぞ!」

 

「ふーん、だ」

 

 

 

 

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