長生きTSダークエルフはひっそり暮らしたい〜今はごく普通の占術師なので、どうか放って置いて下さい〜   作:きつね雨

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2024/12/28 20:30 ティコ→ジュディに改稿


23 慈しむ心は今も

 

 

 

 

 

 背の高いセナと、頭ひとつ分だけ低いセウルス、そして更に小柄なジュディは無言のまま歩いていた。

 

 セナが凍えるような声で叱り、場所を移すと宣言したからだ。セウルスとジュディは何を言うべきか言わないべきか分からず、とぼとぼ足を動かすしかない。

 

 セウルスの方は少し悪戯が過ぎたなと反省していた。セナを詳しく知っている訳ではないが、あの噴水で男漁りをする様な女性ではないと理解している。つまり、隣を歩くジュディが案内したのだろう。それにしても、着飾ったセナさんって破壊力が凄いなと背中を眺めてしまう。

 

 もう一人の女、いや女の子のジュディは何故セナが怒っているのか良く知らない。ナンパに困っていた友達を助けたはずなのだが。いや、隣を歩くセウルスとやらは知り合いだったからか。しかし、足首まで届くスカートらしき格好はホントに綺麗だ。あと胸だけじゃなくお尻も大きくて良い感じと視線を外せない。

 

「ん、此処にしようか」

 

 立ち止まり、セナは二人に声を掛けた。

 

 街中ながら低木が植えられており、聖王国の民が憩うエリアなのだろう。腰を下ろして休める場所もあった。寛いでいる家族の姿もあるから、先程の噴水辺りとは雰囲気が違う。

 

「どしたの? 二人とも座って」

 

「う、うん」

「はい」

 

 セナを挟み、二人は分かれて座る。一瞬だけ睨み合ったが、真ん中にセナが居るので自重したようだ。

 

「あー、そこまで緊張しないでよ。もう怒ってないし」

 

 何度も聞いた優しい声音に、二人はようやくホッと出来た。

 

「怒ってはないけど……注意はさせてね。まずジュディ。エイムーの件もそうだけど、無茶をしちゃダメ。相手を見て、ちゃんと考えないと。剣を持ってるの見えてたでしょ?」

 

「う……ごめん」

 

「セウルスくんも。アナタなら直ぐに察しただろうに、煽ったりしないで。もしホントに喧嘩になったらどうするの? しかも依頼帰りで、赤の旋風のリーダーでもある」

 

「はい、すいません」

 

「うん、注意はこれでおしまい! ジュディ、飲み物はこれかな?」

 

「う、うん! こっちは蜜入りだから甘いんだよ!」

 

「んー、コレはセウルスくんにあげたら駄目? ほら仲直りの証に」

 

「え……何で、いや、それは、まあ。でもそれだと足りないよ?」

 

「私はジュディのを少し分けてくれたら良いよ」

 

「え? カップは一つだけど……」

 

「あ、ジュディはそういうの気にしちゃう? 私は大丈夫だったからつい。じゃあ他を」「いや! 全然構わないし! そういう関係もあり!」「ん? そういう関係ってなに?」

 

 わちゃわちゃと会話が弾み、先程までの張り詰めた空気感も消えてなくなった。冷静に見ていたセウルスからしたら、セナが気を使っているのが丸分かりだ。自分も含め子供達と思っているのだろう、と。何となく悔しくはあったが。

 

 暫く経ったころ、ジュディとセウルスの二人は意気投合した。理由はある意味簡単で、お互いが別種族の女性に出会ってしまったからだ。

 

 セウルスはエルフのシャティヨンに。

 ジュディは黒エルフであるセナに。

 

 しかも、年上が相手で、振り向かせるのが大変なのも会話に花を添えた。女の子にとって、恋愛話は堪らなく好きなことなのだ。

 

 話を聞いていたセナとしても、綺麗なお姉さんに憧れてしまう若さを知っているし、将来は全然違う人を好きになるのも分かっていた。だから、彼等が仲良しになるのも良い事だと思う。まあ今話題に上っているのが自分なのは困った話だけれど。せめて本人の居ない場所で盛り上がって欲しい。

 

「見てよこの胸を! 破壊力がありすぎ!」

 

「いや、まあ、でもジュディ。羨ましいよ、その猪突猛進な性格。僕はそんな風に出来なかったからね」

 

 そんな過去を話しつつ、セウルスまでチラチラ見るんじゃない、胸を。

 

「セウルスも次会ったら抱きついて離れちゃだめ! 男なら当たって砕けろって言うじゃない! 困ったら私の最高な助言を授けてあげるからね!」

 

「シャティヨンに抱きつく……? どうなるか怖いな。でも」

 

 あのシャティヨンのことだから、間合いに入った瞬間、無表情のまま斬られるんじゃないか? そんな風に思いながら両腕で胸を隠すセナだった。

 

 

 

 

 ところでまだ随分先の話だが、セウルスのパーティ"赤の旋風"へ、成長した後のジュディが参加することになる。セウルスの剣とジュディの弓の連携は磨かれていき、レミュでも屈指の二人となるのだ。

 

 そう、彼等はオーフェルレム聖王国を代表する冒険者パーティになっていく。

 

 後に起るオーフェルレム聖王国内の波乱においても、"赤の旋風"は大きな貢献と伝説を残すこととなった。

 

 

 今のセナ自身そんな事を考えもしないが、それでも若い二人を……微笑を浮かべて眺め続ける。それはただ、温かな慈愛溢れる笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◯ ◯ ◯

 

 

 

 

 セナ達が語らっていた、それと全くの同時刻。オーフェルレム聖王国から遥か彼方ーーーー

 

 

 

 元は活火山だったが大昔に活動は止まり、ゴツゴツした岩肌と数多い洞窟で構成されている。洞窟にも大小あって元は溶岩の通り道だったため、全体的には蛇行している様だ。長い年月を掛けて風化がすすみ、今や火山の面影はない。

 

 そんな洞窟達の中でも一際大きく、そして深いところ。高さも幅も、小さな町くらい入りそうな巨大洞窟に何かが横たわっている。

 

 

 何かの生物だろうか。

 

 

 分厚い金属の板にしか見えない鱗。

 

 鋭い爪は鈍く光を放っている。

 

 その体躯はあまりにも巨大で、人など一飲みに出来るだろう。(あぎと)にはズラリと牙が並んでいた。

 

 だが、縦に割れ、恐怖を呼ぶはずの眼に力はない。

 

 この洞窟に住まい、地域最強だった"錆の龍"はもう既に死んでいるからだ。その証拠に頭と尾は力なく地面へ落ちているし、周囲には血臭が漂っている。

 

 そして、そんな"錆の龍"の胴体の上に、一人の女の子が腰掛けていた。青みを含んだ長い白髪はサラサラと風に吹かれ、瞼は閉じているため眠っている様に見える。だが、それでも、少女の美を損なうことは出来ていない。

 

 余りにも、余りにも美しい。

 

 それが、彼女を見た者が抱く強い憧憬だろう。

 

 白髪の合間から長い耳が飛び出している。肌の色は雪の様に真白で、触らずとも分かる艶と滑らかさ。細い手足でさえも全てに均整が取れていた。あらゆる美を集めて結晶にしたような、作り物めいた姿だ。

 

 エルフ族。

 

 肌色も耳も、細く小柄な身体もそれを示している。

 

 そしてもう一つ、どうしても視界に入ってしまう異物があった。

 

 それは錆の龍に突き立てた剣。いや、隣に座るエルフの少女より大きく太い"大剣"だ。血糊に濡れ、元の姿は覆い隠されている。ヌラヌラと光る血はついさっき付着したのだと分かった。錆の龍の血はヒト種やエルフと同じ赤い色をしているのだ。

 

 エルフの少女が持つ武器なのだろうか。だが、彼女の身長より長く見える剣身である。当然にその重量は想像に難くない。僅かに持ち上げることもまず不可能なはずだ。

 

 しかし、少女以外に誰かの姿はなかった。錆の龍の遺骸とエルフの少女だけだ。

 

 静かな時間がただ過ぎていく。

 

 フワリフワリと白髪の踊る姿だけが、時の経過を教えてくれた。

 

「クラウ」

 

 ふと気付けば、少女のすぐ後ろに女性が立っていた。その女性もやはり両耳が長く、同じ種族の者だと分かる。違いとしては、成人に見えることと短く揃えた白銀の髪だろう。そのエルフの女性がポツリと声にしたのが「クラウ」だ。女性の視線は目を瞑ったままの少女に固定されていた。

 

「……なに?」

 

 気怠げに返した声は幼い。何故か晴れ渡った青空を想わせた。つまり、クラウとは少女の名前だろう。

 

 少女の唇は、ほんの少しだけ笑みを浮かべていた。それからゆっくりと瞼を上げる。映った瞳は蒼。ただ澄んだ蒼だった。空でもなく、海や湖の色でもない。何にも例えられない純粋な蒼だ。

 

「次の目的地が分かりました。やはりこのセンザン山脈内です。予想通り、この錆の龍は守り手で間違いないでしょう」

 

「そっか。じゃあ漸く出発ね。()()()は弱っちかったし、本命の炎の精霊王がどんな奴が楽しみ。歯応えがあれば良いけれど」

 

 少女の指先はサワサワと龍を撫でている。

 

「錆の龍を簡単に弱いと言えるのはクラウだけですよ。では出立を皆に伝えます。ところで、何故笑っていたのですか?」

 

「ああ、バレちゃった? まあ別に大した事じゃなくて、少し思い出してたの。セナとの最初の出会いをね」

 

 クラウは少女らしい笑顔を浮かべ、ほんのり頬が赤くなっている。現実感に乏しかった美貌だが、この時ばかりは可愛らしさを示してくれたようだ。

 

「まだ別離から二百年と少し。忘れるには短か過ぎますか」

 

「シャティヨン、相変わらず意地悪ね。私がセナとの時間を忘れるなんてあり得ない。知ってるくせに」

 

「……後悔しています。クラウに教えてしまったことを」

 

 成人のエルフであるシャティヨンは、固い表情を全く崩さない。言葉遣いさえも固く、感情の起伏も小さく感じるのだ。

 

「でも、その事実があって、あの日セナが私を嫌って離れた訳じゃないと分かったの。どれだけ嬉しかったか、シャティヨンには理解出来ないかしら」

 

「やはり諦めたりは」

 

「しない。怒るよ? セナと私のことを止めるなら、例え貴女でも許さない」

 

「邪魔など……クラウが歩むなら私が道を斬り開きましょう。我が剣を捧ぐのは貴女だけ、()()()クラウディア=オベ=オーラヴよ」

 

 二人の間に一陣の風が吹いた。少しだけそれに身を任せたあと、クラウは返す。

 

「剣、か」

 

「はい」

 

「じゃあ興味半分で聞くけど、セナとシャティヨンが戦ったら、どちらが勝つのかしら?」

 

「間違いなく私です」

 

「簡単に決めるんだ」

 

「厳密に言えば、今ならば、ですが」

 

「ふぅん?」

 

「腑抜けたセナに負けたりはしません。ですが、"()()()()()アダルベララ"を操る以前の彼女ならば……」

 

「ふふ、確かに」

 

「では、行きますか、クラウ」

 

「ええ」

 

 白の姫。

 

 世界最強にして最も美しい。

 

 エルフの至宝であるクラウディアは、愛するセナを想い再び笑った。

 

 そう。

 

 もう二度と手を離したりしない。

 

 思い切り抱き締めて、涙もたくさん流させよう。

 

 そして、運命の呪縛から解き放ち、自らが安らぎの揺籠となるのだ。

 

「待ってなさい。セナ」

 

 

 

 

 

 




次回より過去編を予定しています。思うところがあって、次の投稿まで時間が掛かります。


キャラ紹介⑤-2

白の姫
クラウディア=オベ=オーラヴ

彼女は極々稀に生まれるエルフ族の至宝で、深い叡智に触れる事が出来るとされている。
まだ三百歳にも満たない若いエルフ族の少女。
青みがかった白い髪、瞳も蒼色。種族の特性のままに小柄で細く、肌は新雪の様に白い。セナ曰く、今まで出会った中で最も美しい女の子。その見た目に反した大剣を使い、かなりの戦闘狂でもある。

二百年と少し前のこと。黒エルフであるセナ=エンデヴァルと出会い、大きな影響を受けた。今ではセナに傾倒し、依存し、全てを投げ捨てても愛する存在となっている。

一度正式なお付き合いにも発展したが、最終的にセナから別れを切り出している(軽いキスまでのプラトニックなお付き合いだったらしい)。余りに突然で理由も教えて貰えなかったため、一時期はかなり落ち込んでいた。その憔悴ぶりに耐えられなくなったシャティヨンによって、クラウディアを捨てた本当の事情を知ることになった。

因みに、セナはシャティヨンに事情を明かさないよう約束させていたが、あっさりとそれを破られている。シャティヨンにとっては、他者との約束よりクラウディアの体調の方が大事だからだ。

現在のクラウディアは文字通りの最強になる事を目指し、長い旅を続けている。その最終目的はただ一つ、二度とセナを離さないこと。
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