長生きTSダークエルフはひっそり暮らしたい〜今はごく普通の占術師なので、どうか放って置いて下さい〜   作:きつね雨

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(7)ザカリア

 

 

 

 あの後も色々話をしたし、クラウディアへの理解は少しだけ進んだかな。そんな風に思うセナだったが、同時に数多くの疑問が生まれた。

 

 とにかく気になるのは精霊との関係だろう。まだ詳細は不明だが、現在は精霊魔法さえ使えず、しかも何か精霊(かれら)へ気持ち悪さを感じているようだ。感情の乏しさに関しても彼女の個性でなく、何かに抑圧されている可能性だってあるし、両親との死別が影響している点も考慮しないといけない。更に言えば戦闘への強い興味にも違和感を覚える。

 

 白の姫である少女の要望もあり、アダルべララの紅弓を披露する予定だった今日。しかしセナはクラウディアと過ごすのを中止した。

 

 彼女への教導を行うために、情報が不足していると確信したからだ。早々の予定変更にクラウディアは不満があったようだが、結局は何も言わず素直に従ってくれた。

 

「ザカリアさんに、えっと、長老に取り次ぎを」

 

「……少し待っててくれ」

 

 陽も上がり、明るさを増した頃、セナはオーラヴ村の長老宅を訪れていた。ザカリアの住処の前に護衛らしき男性エルフが居たため声を掛けたのだ。彼は不審気な表情を隠しもせず、そのまま扉の奥へ消えて行った。

 

 黒エルフはかなり珍しいだろうし、ましてやオーラヴを訪れた例も無いのかもしれない。だからあの表情にも理解出来るが、かと言って気持ち良いものでもなかった。

 

「……どっちかと言うと、アダルべララの所為かな」

 

 あの愛弓は仮住まいで保管したままだ。つまり今のセナは非武装なのだが、詳しくない者には、ましてやエルフにとっては恐怖の対象なのだろう。"殺戮の魔弓アダルベララ"と"セナ=エンデヴァル"はエルフの間で悪名高い。

 

 そんな事をツラツラと考えていたら、先程のエルフが戻って来たようだ。

 

「いまは裏で畑仕事をしている。すぐに済ませるから、入って待っててくれとの事だ」

 

「分かりました」

 

「ああ、中だ」

 

 視線で確認すると、彼は閉じた扉をもう一度開いてくれる。基本的には優しいエルフなのかもしれない。

 

「ありがとう」

 

「俺は外で待つ」

 

「はい」

 

 つい先日に訪れた長老の居室は当たり前だが何も変わっていなかった。真ん中辺りにある椅子にとりあえず座ろうかとセナは思い、でも何だか違う気がして立ったままにする。

 

 まあこの家の主人も居ないことだし、遠慮なく周りを見渡してはいたが。

 

「薬草、花、種子……ガーデニングが趣味なのかな。かなり変わってる、エルフにしたら」

 

 お手製の棚に並ぶガラス瓶には種類豊富な種が入っている。陶器だろう大小の鉢があちこちに配置され、草花が旺盛に育っていた。いわゆるエルフは森の住人であり、同時に精霊種の仲間と言っていい。つまり自然が身近過ぎるので、それ自体を愉しむことは殆ど有り得ない。異世界日本のように、ガーデニングなどと言う文化さえ存在しないのだ。

 

 だから、オーラヴ村の長老であるザカリアは間違いなく変わり者の一人になる。

 

 暫く待つ時間が退屈に感じ、珍しい種子を貯めたビンを手に取り眺めてみる。うーむと内心で唸ったころ、勝手口らしき扉が開く音がした。

 

「あ、すいません、無断で」

 

「構わないさ。気になるなら好きに見たら良い」

 

 両手を白い布で拭き拭きしながら、ザカリアが帰って来た。畑仕事していたらしいから、土汚れか何かだろう。

 

「たくさんあるので驚きました。これってこの辺りに自生していない種類ですよね」

 

 手元にあるビンをザカリアに見せて、セナはそれをコトリと置いた。

 

「ほう、なかなか詳しいな。確かに北方でしか育たない植物だよ」

 

「最近まで北に居たので」

 

「そう言えば、キミに会うためシャティヨンが向かったのはヒトの国カルフルゼだったか」

 

 カルフルゼは北方を代表する大国で、冒険者ギルドの活動も活発な地域だ。セナは最近そこを拠点としており、同時に"赤と黒(ルフスアテル)"として名が通っていた。

 

「さて、何か要件があったかと聞くところだが……まあ確認する意味もないな」

 

「私達の共通の話題なんて、一つしかありませんよ」

 

「寂しいことを言う。だがまあ、仕方あるまい。しかし想定していたよりずっと早い」

 

「早い?」

 

「分かっている筈だ。クラウディアの詳しい情報は意図的に伏せていた。キミもあの娘と初めて会ったとき、かなり面食らっただろう」

 

「それどころか、いきなり石のナイフで襲い掛かって来ましたけど」

 

「う、うむ。それは、何というか、すまない……」

 

 流石のザカリアも吃驚しているようだ。長い緑髪をクルクルと指で弄る姿を見れば、長老であるはずの彼女(ザカリア)が何故か幼く見えるほどだった。

 

 外見は三十過ぎの美しい女性。長い耳、長い緑髪、スラリと細く、しかしシャティヨンよりは低い身長。エルフである以上見た目は全く当てにならないが、かなり長く生きて来たセナよりも歳上なのは間違いない。

 

「ザカリアさん。クラウの教導を進める前に確認しておきたい事がたくさんあります」

 

「……ちょっと待て。そのクラウと言う愛称、あの娘が? そう言ったのか?」

 

「え? あ、はい。シャティヨンもそう呼ぶからって。もしかして拙かったですか?」

 

「いや……構わないよ。少し驚いただけだ。僅か一日なのに、随分と打ち解けたものだ。それに、教導を行う上で有意義な事だしな」

 

「は、はあ」

 

 驚きの色を残したままに、ザカリアは席に着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◯ ◯ ◯

 

 

 

 

「ああ。悲哀の上位精霊(バンシー)か」

 

「その感じ……やっぱり知っていたんですね?」

 

「ふむ、その前に……キミを呼んだのは正解だった。この短い時間で()()に気付くとは、な。()()()()強い精霊力に包まれたクラウディアを()()のは容易じゃない」

 

「なにを……何を軽々しく! 深い悲しみの果てに、クラウの心が消え去ったらどうするんですか!」

 

 セナは思わず大きな声を出してしまった。

 

 あの可愛らしい白の姫が死ぬかもしれない重大な情報なのだ。伏せておく意味も分からないし、悠長に構えているザカリア達オーラヴ村の連中にも腹が立った。ましてやクラウは現在一人暮らしであり、大人が見守っている時間も限られている。何かあったとして手遅れになる可能性が高い。

 

「自らに迫った危険に怒るのでなく、会ったばかりのクラウディアの心配か。シャティヨンの報告のまま、セナは優しい心の持ち主のようだ」

 

 ザカリアの言う通り、上位精霊の影響を色濃く受けた者は非常に危険な場合が多く、第三者にとっては悪夢と言って良い、そんな存在だ。

 

 まるで怒りの上位精霊(フューリー)が舞い降りたかの如く、セナは怒りに震えた。当然だが、怒りの感情は自身の危険性ではなく、クラウディアを案ずる気持ちからだ。

 

 なのに、まるで幼子を相手にするような、茶化す空気をザカリアから感じた。本当にクラウディアが生まれた村の長老なのかと、子供を守るべき年長者なのかと問い詰めたくなる。手元にアダルべララが無いのは幸運だったかもしれない。

 

「まだ隠してることがあるなら言いなさい! 例え長老だろうと、依頼主だとしても、私は」

 

 絶対に許さない。そう続ける筈だったが、セナは一度押し黙る。ザカリアが瞼を軽く伏せ、同時に頭をスッと下げたからだ。謝罪かとセナは一瞬思ったが、彼女が次に紡いだ言葉は心からの感謝だった。

 

「許さない、か? ありがとう、セナ。あの娘をそこまで想ってくれて。クラウディアはこのオーラヴで生を受けた"白の姫"であり"精霊の愛し子"。それなのに、キミは特別な存在でなく一人の子として向かい合ってくれる。これが如何に幸運なことか、私はいま心から実感しているよ」

 

「……まさか、村の者や今までの教導者は」

 

「残念ながら想像通りだ。まるで精霊王に対するが如く、私利私欲さえ隠さないクズも一人だけだが居たくらいだよ。我等エルフにとって"白の姫"は特別に過ぎるのか、何とか手を打とうと苦心すればするほどにクラウディアの心は変化してしまったんだ。本当に……長老だ何だと偉そうにしながら情けない話だ」

 

 ザカリアも予め注意を促したり、目を配ったりと動いたらしいが、やはり"精霊の愛し子"は眩し過ぎたのか。空回りが続き、何か良い手段はないかと探していたとき、セナに行き着いたと言う。

 

「じゃあ、あの戦闘狂……じゃなくて強さへの憧れも……」

 

 あんな娘に何て事をと憤慨するセナ。

 

「いや、あれは生まれつきだが」

 

「……」

 

 どうやら違ったらしい。

 

「ある日、アダルべララの存在を伝えてな。その頃殆どの事柄に無関心だったあの娘が喰いついて来たんだ。その弓を使ってみたいと珍しく欲求を表に出していたよ。だが、さすがの"白の姫"であろうと危険過ぎるし、そもそも現在の使い手がいるぞと言ったのだが……あとはまあ、想像がつくだろう?」

 

「えっと、私に会いたいと?」

 

 コクリと頷き、ザカリアは立ち上がった。喋り過ぎて喉が渇いたのか、水を用意するようだ。

 

 澄んだ水を木製のカップに注ぐ。もちろんセナの分もだ。

 

「もちろん最初は私も躊躇した。怒りの上位精霊(フューリー)に気に入られたらお終いな上、悲哀の上位精霊(バンシー)の存在もある。制御などそもそも考えられないし、キミがどんな黒エルフなのか誰も分からなかったからな」

 

「確かに普通は戸惑うでしょうね」

 

「だが……クラウディアの不満は溜まる一方で、ほとほと困り果てた私は調査を命じた訳だ。殺戮の魔弓アダルべララの使い手、セナ=エンデヴァルを」

 

 ハグレで、冒険者を生業としている。他のエルフなどと殆ど接触がなく、ヒト種と共に過ごす事が多い、かなり珍しい黒エルフの女性。精霊魔法にも長けているらしく、相当な腕前を持つのは明らか。むしろ当然か、あの紅弓に喰われない初めての使い手なのだから。

 

 それで居ながら心持ちも柔らかく、攻撃的な性格でもないらしい。

 

「最初の報告を聞いたとき、とにかく全く信じられなくてなぁ。調査にはかなりの回数と時間を要したよ。おまけに冒険者ギルドに依頼までしたから金も掛かった」

 

「ええ……? ギルドに依頼って……」

 

 もしかして、一時期ギルドの職員から色々と質問を受けたアレだろうか。好きな食べ物、好きな花、何故か異性の好みまで聞かれた時があったのだ。

 

 余りに意味不明で、非常に気持ち悪かった記憶が残っているセナだった。

 

 

 

 




キャラ紹介11
ザカリア

オーラヴ村の長老。扱いとしては村長や族長と同じ。
長い緑髪を編み垂らしている。外見は三十代後半に見える女性エルフ。セナよりかなり年長なのは間違いない。

過去には村から離れ、世界を巡っていた。そのため、他のエルフ達に比べてかなり柔軟性のある思考をしている。

淡々とした話し方から誤解を受けることもあるが、クラウディアを心から案じている。アダルベララの使い手を招聘する決断をしたのも彼女。周囲の反対を押し切りセナを呼んだが、後悔はしていない。むしろセナとの邂逅に希望を見出し始めた。
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