長生きTSダークエルフはひっそり暮らしたい〜今はごく普通の占術師なので、どうか放って置いて下さい〜   作:きつね雨

42 / 84
間違い修正のご指摘、いつもありがとうございます。何度か読み直してるのに、誤字脱字って全然減らない……


(19)解き放たれたその先

 

 

 

 見上げても悲哀の上位精霊(バンシー)に大きな変化はない。此方を妨害するような行動も起こさないし、感じる精霊力も同様だ。

 

 灰色した髪の毛の拘束がいつの間にか離れていることは、森の上位精霊(エント)のミスズが語った事を証明してくれている。精霊の中でも相当に優しいとのことだ。

 

「クラウ」

 

 セナがしっかりと抱き留めたクラウディアは軽い。ワンピースに近い白い衣服の下は素肌のまま。両手には白の姫の体温としっとりした肌の感触があった。

 

 瞳を閉じているのに、その圧倒的な美貌は決して霞まない。長い睫毛も、細い顎も、首筋から肩にかけて流れる線も、その全てが美しい。

 

 フワフワと髪がセナを擽ぐる。そんな青みの混ざる白い髪。黒エルフであるセナの金髪も女性らしい柔らかさだが、クラウディアの糸と比べるのも烏滸がましい。

 

「本当に綺麗……ずっと、会ったときから、そう思ってた」

 

 小さな身体をギュッと抱き締めた。花の蜜に似た香り、それがセナの周りを舞い、クラウディアの顔に視線を合わせるだけで次々に言葉が溢れて来る。

 

「昨日の夜のこと、ごめん。クラウが心配してくれたのに、自分のことばかり考えてた。扉を閉めたあと、後悔して、謝りたかったんだ。キミの胸で泣くのは今も恥ずかしいけれど……凄く嬉しかったよ」

 

 ほんの少しだけ、クラウディアの唇が揺れたような気がした。

 

 額に掛かる髪を優しく払い、その手で頬に触れる。初めて触ったクラウディアの頬は、瑞々しくて、吸い付いてくるような柔らかさだ。

 

「この依頼を請けたとき、馴れ合うつもりなんて無かったのに……もう、そんなの無理みたい」

 

 ピクリと、瞼が動いたように見えた。

 

「……? クラウ? 起きてる?」

 

 だが、お姫様はまだ目を覚ましていないようだ。

 

 森の上位精霊(エント)のミスズは言っていた、気持ちを伝えろと。きっと未だ足りないのだと、セナは自分の心に本心を問い掛ける。この感情が何なのか、もう一度噛み締めるのだ。

 

「……私は、クラウのことが」

 

 クラウディアの頬に赤味が差していたが、セナは幸い気付かなかった。だから始まった言葉は止まらない。いや、止める必要もないだろう。

 

「好き、だと思う」

 

 パチリと、クラウディアは瞼を開いた。青い澄んだ瞳は、抱き締めてくれているセナを捉えて離さない。

 

「ほんと?」

 

「あ、あれ? ク、クラウ?」

 

「答えて」

 

「……うん、好き」

 

「じゃあ許してあげる。()()()()

 

 そうして、白の姫に"満面の笑顔"が浮かんだのだ。

 

 すぐ近くで見てしまったセナは魂が抜けたのではと錯覚するほど驚き、同時にとんでもない幸せに襲われた。冗談でなく意識が飛びそうになり、夢だったのかとクラウディアに目を合わせる。しかしそこには、変わらぬ笑みを浮かべる白の姫。幻なんかじゃない。

 

 その可愛らしさたるや、セナの長いエルフ生など吹き飛ぶほどの衝撃だ。

 

「か……」

 

「ん?」

 

「可愛いすぎでしょ……反則だよ……クラウ。大体さ、笑えたの? 今まで見せてくれた事ないのに」

 

「全部()()()()()()から。だからもう精霊も気持ち悪くないよ。全部、全部セナのおかげ。見せれるなら見せてあげたい、この色鮮やかな世界を。セナが来なかったら、ずっと暗い場所にいたままだった」

 

 クラウディアにとって、セナはただ惹かれた相手と言うだけではない。燻っていた呪縛から解き放ち、世界の美しさを教えてくれたのだ。そして何より、目が覚めたら精霊との距離も変化していた。今なら自由に精霊魔法を放てる確信がある。

 

 誰よりも鋭く、強く、美しく、出来る。

 

 まさに解放だった。

 

「それはクラウが頑張ったからだよ」

 

 そんな解放を齎したセナの優しい言葉。その返事に、クラウディアはもっと深い笑みを咲かせた。

 

 セナはさっき可愛いと言ってくれたが、クラウディアに言わせたら、貴女こそ可愛らしくて綺麗と言いたいのだ。自分より遥かに歳上で、強くて、同種族でもない。それでも、守ってあげたいと心から思う。

 

「そんなセナだから大好き!」

 

 首に両手を回し、思い切り抱き付く。触ってみたいと思っていたセナの肌を感じながら。もうたくさんの気持ちが溢れて爆発しそうだった。

 

「わっ、クラウ、あぶ」

 

 危ないからと言葉にするはずだったセナは、それ以上口を動かせない。だって、クラウディアが唇を塞いできたからだ。二人とも、今は息なんてしなくていいと。

 

「……んはっ。ちょ、ちょっとクラ」

 

 そしてまた塞がれる。今度は上唇を唾液ごと吸われた。そんな経験なんてないセナの頭の中は大混乱。恥ずかしい気持ちと、幸せな感触。混乱して抵抗の弱いセナを感じたのか、更にキスを重ねて来る。さっきまで抱き締めてたのはセナなのに、今は完全に立場が逆転だ。

 

「セナ……セナ、セナァ」

 

「お、落ち着い、て、ク、クラ」

 

 頬に、額に、瞼に、キスの雨を降らして来る。優しく、時に強く。首筋に吸い付かれ、弱々な耳に触れられた時は変な声まで出てしまった。露出した肩を甘噛みされて、力まで抜ける始末だ。

 

 もう訳がわからない。そんな風に諦めかけたとき、漸くキスの雨が降り止んだ。正確に言うと、ザカリアに首根っこを掴まれたクラウディアが、セナから引き離されたからだが。

 

「長老! 邪魔しないでよ!」

 

「頭が痛くなって来た……性格まで変わってないか、クラウディアよ」

 

「これが本来のクラウなのでしょう。今までは様々な精霊達に抑圧されていたと考えれば筋が通ります」

 

「シャティヨン……何でお前は冷静なんだ? コレを見て何も思わないのか?」

 

「困ったものですね」

 

 コレ。つまり、力が抜けて倒れ込んだセナだ。肩で息をしていて、肌もほんのり赤く染まっている気がする。かなり扇情的と言っていい。おまけに、下着の肩紐が片方だけだが、ずり下がっているのはどう言うことなのか。村の連中をここから遠去けたのは正解だったとザカリアは思った。

 

「長老、は、な、し、て」

 

「クラウディア。先ずは服を着せよう。良いな?」

 

「セナに触らないで。私が着せる」

 

「今はダメだ」

 

 いつなら良いのかザカリアも分からなかったが、取り敢えずはそう返すしかなかったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◯ ◯ ◯

 

 

 水浴びで体をしっかり清潔にして、下着ごと着替えたセナの仮住まい。

 

 そこに四名のエルフが集まっていた。もちろん一人は黒エルフだが、それは些細な話だろう。その黒エルフの腕には幸せ全開笑顔満開少女エルフが抱きついている。

 

 テーブルの向かい側には緑髪と白銀の髪を持つ残りのエルフの女性たち。

 

 クラウディアはセナに「今日から一緒に住む?」と聞き、相手を困らせたりしてやっぱり笑っている。

 

 緑髪のザカリアは呆れを隠すことも出来ず、ただ目の前でベタベタする二人(何か)を眺めるしかしてない。

 

 黙ったままにしていると、今度はセナの首筋に鼻を擦り付け「良い匂い」と宣った。そんなクラウディアの視界に、ザカリアやシャティヨンは入っていないのか。

 

「……何を見せられてるのだ、私は」

 

「長老、私もです」

 

 呆れの言葉などクラウディアは聞いてない。セナの横顔をジッと見詰め、そのまま動かなくなった。一方のセナはかなり緊張していて、クラウディアにどう接したら良いか分からないようだ。

 

「セナの瞳、ほんと夕焼けみたいだね」

 

「そ、そう?」

 

「うん、綺麗」

 

「ありがとう」

 

 ザカリアが吐血した、いや、したような仕草を我慢出来なかった。吐いたのはきっと甘い砂糖か花の蜜だ。シャティヨンは無表情のままだが、もう知りませんと天を仰いだ。

 

「くっ……このままじゃ話が進まん。おいクラウディア、そんなのは後にしろ。先ずはセナから離れて座るんだ」

 

「イヤ。話ならこのままでも出来る」

 

 そこは冷静なのかと、ザカリアの呆れは増していく。

 

「……クラウ。みんなずっと心配してくれてたんだよ? だからちゃんと話をして欲しい。今のキミの状態だって、まだ分からないし……さあ、離れて」

 

「……分かった。ごめんなさい」

 

 セナに諭され、クラウディアはあっさりと離れた。もちろん隣は確保している。

 

「まったく……さて、クラウディア。先ずはもう一度確認だ。体や精神に異常はないか?」

 

「うん、大丈夫と思う」

 

「それならば良い。だが、何か異変を感じたら、誰でもいいから言え。悲哀の上位精霊(バンシー)が何をしたか、結局のところ分からない事も多い」

 

「そうする」

 

「良い子だ。では、何があったか理解している範囲で教えてくれるか?」

 

悲哀の上位精霊(バンシー)?」

 

「それも含めて、昨夜からの全てだな。ああ、もちろん言い辛いことがあれば好きにしろ」

 

「ん」

 

 昨晩からの流れは事前に聞いた内容と殆ど違いはないようだ。敢えて指摘するならば、セナの泣く姿を盗み見て、涙を流すなら自分の胸でと強く思った"動機"だろうか。セナは「親切心」と表現していたが、実際には「嫉妬」と「独占欲」で、他の誰かを想うのが許せなかったらしい。これも悲哀の上位精霊(バンシー)に眠らされたあと、理解が進んだ感情だ。

 

「眠っている間も意識があったのですか?」

 

 シャティヨンの質問も当然だろう。

 

「もう一人の自分と語り合う感じ。別に起きてる訳じゃないの。多分、あれが悲哀の上位精霊(バンシー)なりの優しさかも」

 

「優しさ……」

 

森の上位精霊(エント)も言っていたけど、乱れた心を癒してくれてたのかな」

 

「うん、セナの"癒す"って表現が合ってると思う。段々と整理されて、私がセナに求めたことが良くないことだったって分かった」

 

「良くない?」

 

「……エルジュビエータの代わりにって。ごめんなさい。ホントはただセナを奪いたかっただけなの」

 

 俯く仕草と暗い表情はクラウディアの懺悔そのものだ。本心からの謝罪が伝わり、セナは胸が熱くなった。何よりクラウディアの感情の起伏がはっきりしたことで表情の変化が凄まじい。いや、本来の彼女なのだ、これが。

 

「もう謝らなくていいよ」

 

 ポンと手を頭に乗せて、軽く撫でてあげる。それだけで、クラウディアは気持ち良さそうに目を細めた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。