長生きTSダークエルフはひっそり暮らしたい〜今はごく普通の占術師なので、どうか放って置いて下さい〜   作:きつね雨

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34 糸の絡まり

 

 

 

 

 

 

「分かった。もう言わない、約束する。ヒューゴ、いいな」

 

「ああ」

 

 哀しそうに伏せられた表情を見て、追求する気持ちをドティルは抑え込んだ。正直に言えば色々と聞きたい思いはある。彼女の存在は謎が多過ぎるのだ。

 

 あれほどの力、精霊魔法、そして赤い弓。長い年月であっても消えない伝説や"赤と黒(ルフスアテル)"とは一体何なのか。だが今、目の前にいるのは大昔に名を売った誰かでなく……占術師のセナだ。

 

 ドティルはそんな風に自分へ言い聞かせた。そして、話題自体を変えるためか、明るく話を続ける。

 

「そんなことより、まずは助けて貰った御礼の話だな。慣習に習って二割五分、帰ったら渡すよ」

 

 冒険者パーティ"バイア"は三人。セナを入れて、それを均等に割った数字だ。知らない者が聞けば命の恩人に対して少ないのではと思うだろう。しかしこれも長い歴史を持つ冒険者達の自衛の一種だ。昔、無理矢理に割り込み、報酬を奪うやり方が横行したため、割合が固定されたのだ。

 

 セナもそんな彼の気遣いを知り、笑顔を浮かべる。ただ、回答だけは慣習と違った。

 

「ありがとう。でも、気持ちだけ受け取るよ。さっきの質問の答えでもあるけど、ホントに此処に来たのは偶然だから」

 

「おいおい、そんな訳にいかないぞ。俺たちにも誇りがあるんだ。無償で助けられたなんて許せねぇ」

 

「その通りだ。ルフ……いや、セナさん。そもそもウェリズンは二頭いたから報酬は予定を上回る。ドティルの言う通り、嫌でも受け取ってもらうぞ」

 

 ドティルに続き、ヒューゴまで説得に回った。さっきまであれだけ警戒していのに、鼻息荒く話すのが可笑しい。

 

「私の占術も間違ってたし。占った"幸運"どころか大変な目に遭って、下手したら全滅してたよ。だから、気にしないで」

 

「「だが」」

 

「うん、二人の気持ちも分かる。だからこうしよう」

 

 疑問符を浮かべ、二人の男は顔を合わせた。

 

「用事があってこの森に来たって話、実は色々と調べ物をしてる。こうしてシグソーに来たのもそうだしね。で、バイアに仕事の合間で手伝って貰えたら助かる。それと依頼料で相殺しない?」

 

「調べ物か」

 

「そうそう。自分だけだと大変なんだよ」

 

「なるほどな。ヒューゴ、どう思う?」

 

「そりゃ構わんが……俺たち程度で役に立つのか?」

 

 ヒューゴからしたら、冒険者として足元にも及ばないセナ=エンデヴァルの調べ物だ。難度的に無茶な場所や強大な魔物の生態調査など到底不可能だろう。彼女にとっての当たり前は当たり前じゃない。

 

「まだヨヒムさん?は目を覚まさないし、話を聞いてから判断して良いよ」

 

「参った。降参だ。よし、話を聞かせてくれ」

 

 意識を失ったままのヨヒムの頭はすでにセナの膝枕から下ろされている。ドティルの薄汚れたマントを丸めた枕擬きへと。移動させたとき、なぜか苦しそうな表情に変わったヨヒムだが、誰一人として同情しなかったらしい。

 

「天候について、例えば雨量や気温の変化を知りたいんだ。分かり易く言うと、普通の季節に見合わない何かが起きてないか、だね。オーフェルレム聖王国は温暖な地域で、変化が出たら気付く事も多いだろうし」

 

「……ふむ。加えて言えばオーフェルは"水の副都"として知られた街だ。当然に周辺は潤っていて、森や川も多い。調べ物には適していると、そう考えた訳だな」

 

「わ、その通りだよ。凄いねヒューゴさん」

 

 正にその通りで、セナは思わず嬉しくなった。この国を訪れる前に滞在していた"熱砂漠のアーシント王国"も、同じ理由から選んでいたのだ。あちらは火や土の精霊が活発で、だからこそある意味で尖った環境だった。

 

「遠出も多い冒険者にとって最適な仕事だな。おまけに、このヒューゴは趣味が高じて歴史や地域の情報に詳しいぜ。何とか役に立てそうだ」

 

「趣味の話は余計だが……まあ概ねそうだな」

 

「へー。それなら尚更お願いしたいな」

 

「セナさん、その調査の理由は? それを教えてくれたらもっと詳しく調べることも出来るが」

 

「んー、確かに」

 

 少し悩んだ風だったが、決めたのかセナは淡々と返した。

 

「大体五十年前くらいから精霊達に僅かな変化があった。言葉にしにくいのだけど、動きが鈍ったり、逆に活発になったり。でも、特に敵対的な行動じゃないから……ただ、最近少し引っかかっててね」

 

「精霊……俺たちヒト種じゃ微妙だな。だが、表面に出て来る現象なら分かるってことか」

 

「そう。因みに、この森も妙に樹木の中位精霊(ドライアード)が活発だった。長靴猫の事も、もしかしたら関係あるかもしれない」

 

「マジかよ……」

 

「ドティルさん、ヒューゴさん。約束して欲しいけど、危険な場所に態々行かないで。あくまでも依頼の中で、気付いた事があったときに教えてくれたら良いから。それと」

 

「ああ。で、あとは?」

 

「……私のことと今日のこと、内緒にして欲しい、かな」

 

 言われる迄もない。ドティルは強く思った。もう既に周りへ吹聴する気などないのだ。彼女が昔のことを伏せているのは明らかで、"赤と黒"を嫌っていることからも間違いない。

 

「それも約束するぜ。ヒューゴも」

 

「分かってる。そもそもな話、ある意味でセナさんは依頼主だからな。内容をベラベラ喋るなんて三流以下だ。任せてくれ」

 

「ふふ、そうだね」

 

 やっぱり笑顔が綺麗で、ドティルは見惚れた。見れば隣のヒューゴまで目を奪われていて、普段の捻くれ具合は何処にいったのかと、問い詰めたくなった程だ。

 

 暫くしたあと、調べ物の続きがあるからと、セナは其処から立ち去って行った。夜の森、たった一人、美しき女性。十分に止めるべき理由ばかりだが、彼女は軽く首を振り、そのまま姿を消した。

 

「慣れてるから」と言葉を残して。

 

 

 

 

 

 ドティルは結局、帰ったらまた一緒に酒を飲もうと誘う事が出来なかった。だけど、彼女の正体が何であっても、どれほどに強くとも、やっぱり気持ちは変わらない。セナはセナなのだから。

 

 そう。次に会う時は互いに笑い、いつもの様に声を交わすのだと。

 

 今夜の()()()()を覚え、精霊とやらに感謝だって出来たのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◯ ◯ ◯

 

 

 

 

 

 

 

 

 セナが冒険者パーティ"バイア"と別れ、夜通し調査をした翌日の朝。

 

 

 

 

 

 

「らっしゃい」

 

 扉がゆっくりと開いた。つい先ほど看板を出したばかりなのだが……外で待っていたのかと、ヴァランタンは客に注目する。

 

 かなり若い。少年でもなく、青年の一歩手前と言うところか。間違いなくヒト種であり、見た目通りの年齢だろう。

 

 ヴァランタンの店は調理器具を中心に置いてあり、あとは修繕の依頼が大半を占める。だから彼の様な年齢の者が早朝から訪れるのは余りない。まあ恐らくだが、切れ味の落ちた包丁を預かって来たり、鍋の取手でも折れて困っているのだろう。母親から頼まれたのなら、そうおかしな話でもないのだ。

 

 ドカリとお手製の椅子に座り、ヴァランタンは話し掛けて来るのを待ってみる。

 

 しかし想像と違い修理を依頼してこない。となるとホントに何か買いに来たのだろうかと、手元の道具を手入れしたり、並べ替えたり、時間だけが過ぎて行く。

 

 赤い髪、赤い瞳。少しだけ目尻が垂れており、優しい印象を与えた。そんな彼は鍋を手に持ち眺めている。顎に指を当てて、商品をじっくりと観察しているようだ。だが、ヴァランタンはすぐに分かった。その赤い瞳をチラチラとこちらに向け、話し掛けるのを躊躇しているのだ。

 

 それでもそんな無言の時間が暫く流れ……イライラし始めた老ドワーフはグアー!と叫んだ。

 

「おい小僧っ子! 用があるなら早く言え! さっきから気になって仕方ねぇ!」

 

「あっ……! は、はい!」

 

 店に轟く大声にビクリと体を揺らし、そのあと背筋を伸ばす。そして、緊張丸分かりの歩き方でヴァランタンの前に来ると、直立したままに自己紹介を始めた。

 

「僕は、セウルスと言います! その、セナさんに言われて此処に来ました!」

 

「セウルス?」

 

「はい! 冒険者をしていて、新しい剣を探して……ヴァランタンさんに、えっと」

 

「あー、例の。セナが言ってた奴だな」

 

 整備の終わった"アダルべララの紅弓"を取りに来たセナが、紹介したいと伝えた若き冒険者セウルス。彼女曰く、彼は"精霊視"を持ち、しかもシャティヨンから教えまで受けているらしい。

 

 容姿も聞いていた通りだし、名前も間違いなかった。つまり、あの極度の優しさを持つ黒エルフが、専属の鍛冶師として剣を用意して欲しいと伝えた相手だ。とは言え、念のための確認はいるだろう。

 

「俺は確かにヴァランタンだ。だが、はいそうかと受ける訳にはいかん。少し試させて貰う」

 

「も、もちろんです! 剣技ならば幾らでも!」

 

「こっちは鍛冶師だぞ? 剣技なんて見ても仕方ないだろ。ちょっと待ってろ」

 

 ヴァランタンはそう言うと、店の奥に消えて行った。そのあと直ぐに戻って来たが、手には数本のナイフと小剣があるようだ。テーブルに其れ等をガタガタと並べて、セウルスに近づくよう促す。

 

「この中に一本だけ特別なヤツがある。当ててみろ」

 

 筋肉に覆われた両腕を組み、老ドワーフは一歩下がった。

 

「特別……えっと、多分これでしょうか」

 

 考えた様子もなくあっさりと指し示したのは、一二を争う貧相なナイフ。刃も濁って見えるし、握りも安物にしか思えない。そんなナイフをセウルスは選んだのだ。

 

「……それを選んだ理由は?」

 

「精霊力を纏っているので、特別と言うならこれしかありません」

 

 正解だ。

 

 ヴァランタンは唸り、同時にある種の恐れを感じた。精霊視はヒト種に発現する能力だが、ドワーフやエルフ達から酷く嫌われる存在である。

 

 そして何より、彼こそがセナの紹介してきた者で間違いない。

 

 超絶お人好しな黒エルフの、昔に見た哀しそうな微笑を思い出し……ヴァランタンは深い溜め息を吐くしかなかった。

 

 

 

 

 

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