長生きTSダークエルフはひっそり暮らしたい〜今はごく普通の占術師なので、どうか放って置いて下さい〜   作:きつね雨

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36 眩しい再会

 

 

 

 着込んでいたローブを壁に掛け、更には装備も解除する。あとはこのまま衣服と下着まで脱ぎ捨てて、お風呂に直行するはずだった。

 

 だが、今は手紙が気になって仕方ないようだ。

 

 結局はそのまま椅子を引き、その座面にお尻を下ろす。テーブルに封筒を置くと、丁寧に封蝋を剥がしていった。中には二枚の便箋。その用紙も真っ白で、仄かに甘い香りがする。恐らく端に香水を振り掛けてあるのだろう。ある花から香料を抽出した珍しくもないものだが、セナが昔から大好きな香りだ。

 

 この手紙を書き綴った相手が予想通りならば、その細やかな気配りに納得出来る。そして、三つ折りの紙を開けば、やはり想像通りの相手だった。

 

「アーシアだ、やっぱり。確か、そろそろ二十歳くらい……? 字も相変わらず綺麗だし」

 

 手紙の送り主。それはオーフェルレム聖王国の王女であり、セナに横恋慕しているレオアノの姉に当たる人物だ。

 

 内外から明晰な頭脳を評価され、現聖王国の政に対して影響力を及ぼしているとされる女性だ。と言うか、父である国王レオンの相談役であり、助言さえ行う才女である。ごく稀ではあるが、初代女王レオナの再来などと謳われているらしい。セナも会ったことがあり、幼い時から飛び抜けた才能を感じさせた。

 

 じっくりと読み進めていく。

 

 正直まだ王城に立ち寄る気も無かったし、何ならそれこそ伝言で済まそうとさえしていた。だから今回も適当な理由をつけて時間稼ぎをしようと思っていたのだが……

 

 残念ながら相手はアーシアである。

 

「建国百五十年に際し、初代女王の軌跡の再編纂を行っている。ついては、その当時を知る者に見識を伺いたい、か。えっと……間違った歴史を刻みたくなく、またあの輝きを濁らせることも許されない。である以上、我が王家に忌憚なく言葉を投げ掛ける存在が必要となるだろう。どうか、近々で来城頂ければこの上ない幸い、ね」

 

 実際にはもっと難しい言葉で綴られている。簡単に示せばと、そんな感じだ。

 

 更に更に、目立ちたくないセナの事情も考慮し、指定の時間に小型の馬車を用意してくれる。大正門には案内せず、人払いをした別の入り口より入城とあった。

 

 最後におまけ的な追伸で、弟のレオアノが会いたがっていて、父レオンやもちろん自分もと記されていた。そして、弟の暴走まで時間がないだろうとも。

 

「……」

 

 つまり、かなり噛み砕いてみれば以下の通りである。

 

 レオナの歴史書を書き直してるから色々教えて? だいたい百五十年を祝う祭りまで時間ないし、そろそろレオアノが突撃しそうだけどいいのかな? 来ないなら責任とりませんから。て言うか早く会いたいのですけれど!

 

 である。

 

 現在のお家もバレてしまった以上、セナに逃げ道はなかったようだ。そもそも彼等聖王国の皆を嫌っているわけでもなく、レオアノやアーシアに久し振りに会いたい気持ちもあった。ただ、何となく照れ臭かったのが正直なところだろう。

 

「……まあいつかは行かないと、ね」

 

 そんな風に小さく笑顔を浮かべ、丁寧に便箋を畳んだ。合わせて入っていた返信用の紙を取り出し、ほんの少しだけ考えたあと……セナは御招待の返事を綴っていく。

 

 その返事はどう渡すのかと思うが、その辺は全く心配していないようだ。今日帰宅したことは間違いなく伝わり、王城から颯爽と使者が訪れるだろう。アーシアのことだから明日の朝にでも。

 

 そして翌朝。予想通りに現れた使者はセナから恭しく受け取ると、風のように去っていったのだ。

 

「出来過ぎでちょっと会うの怖いかも……」

 

 溜息は変わらず、しかしやっぱり何処か幸せそうなセナは、部屋に戻ってお風呂の準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◯ ◯ ◯

 

 

 

 三日後。澄み切った風が優しい夜。

 

 セナの住まい、その前に小型の馬車が到着した。

 

 人通りは多くもなく少なくもなく。幾人かは注目するが、その内に興味を失い去っていく。外観はごく一般的な造りであり、二頭の馬にさえ華美な馬具はついていない。そのため、特別な珍しさは感じなかったのだろう。

 

 だが、通りに出て来たセナは直ぐに分かった。夜目が効くのもあるが、柔らかな月明かりがそれを助けてくれたのだ。

 

 四輪は通常よりやや大き目で、脚部は衝撃をしっかりと吸収する為の特別な設計だろう。強度はありつつ柔軟性を持つ素材などどう考えても高級なもの。

 

 手綱は新品で、月明かりで白く浮かんで見える。と言うか、全てが真っ新な馬車で間違いない。今回の為に用意されたのだ。

 

 そんな馬車を操る御者は全く動かず、目線も合わさない。

 

 そして側面の扉が音もなく開けば、中から一人の女性が降りて来た。セナは初めて会うが、高位の教育を受けた者。一挙手一投足に品があり、声なくとも意味を伝えてくる。そんな彼女は目立たなく、しかし敬意を欠かさない礼をしっかりと行った。

 

「セナ=エンデヴァル様。どうぞ、こちらへ」

 

 一般的な送迎に比べ、言葉は短い。明らかに訓練されたものだ。

 

「ありがとう」

 

 手を添え、二段あった台で乗り込むのを支えてくれる。視線は低く、やはりセナに合わさないようだ。恐らくだが、問い掛けない限り返事もしないだろう。

 

 中は外観と全く違う。

 

 セナが好まないので豪華絢爛とは言えないが、それでも内装には力が入っていた。基本色は白と青。ところどころに金糸で刺繍が施されている。様々な花と樹々、そして長耳を思わせる羽を広げる小鳥たち。

 

 現実的でありながら、どこか幻想的でもある。

 

 緊張する……

 

 顔には出さないが、セナは内心で呟いていた。だって、すっごいお金が掛けてあるし、歓迎の意図がこれでもかと伝わってくるのだから。

 

 彼等聖王国の気持ちは理解しているつもりだが、レオナとの出会いから既に百五十年以上経過しているのだ。なのに、気持ちがちょっと凄すぎて、セナは何だか落ち着かない。

 

 もう忘れてくれても良いのになぁ。

 

 そんな台詞を声に出さず、流れて行くレミュの景色を眺めてみる。

 

 そう。セナは知らないのだ。

 

 孤独に苛まれる黒エルフが一時の安らぎだけでも覚えるよう、決して準備を怠るなとレオナの時代より口伝していることを。

 

 レミュの街中に花や樹々が飾られる文化が根付いているが、その最初の理由がセナ=エンデヴァルであることも。

 

 数ある貢献を記録に残していなくても、決して忘れ去られない。何故なら、数ある肖像画が王城奥深くに残され、レオアノやアーシアは暇さえあれば眺めているのだから。もし知ったなら、セナは悶絶するかもしれないが。

 

 王城へは合計二つ、正確に言えば三つの門を潜る。どの門でも止まることはなく、検分もされない。これは当然で通達が出ているのだろう。警備の兵士達は直立不動のままに、通り過ぎる馬車に目もくれなかった。そんな姿を見れば、セナの緊張は高まっていくばかり。

 

 アーシアからの伝言通り、歓迎の際に使う大正門は使わないようだ。速度が落ちた馬車は城の側面に回り、暫くすると緩やかに止まった。

 

 再び側面の扉が開き、左右には兵士の列。その列を辿っていけば、そこには可愛らしい女性が一人立っている。両手をふんわり組み、体の前に垂らしたその人は、比喩でなくキラキラした瞳を隠していない。

 

 少しだけ燻んだ赤い髪。腰まで真っ直ぐに伸びていて、丁寧な手入れを感じさせた。スッとした瞳は知性を宿し、青みかがった翠。シーグリーンではないが、やはりオーフェルレムの色を漂わせている。

 

 肌は白く、陽には余り当たっていないのだろう。手足も細いため、ちゃんと食べているのか心配してしまうくらいだ。華奢で仄かな儚さも見え隠れしているようで、セナからしたらクラスに一人はいる美人系優等生に見えているだろう。

 

 それでも仄かな可愛らしさが残るのは年齢からで、記憶通りなら二十歳くらいのはずだ。

 

 セナはゆっくりと歩いて行く。今回はローブなどしてないので、特徴的な黒エルフの美貌はそのまま現れていた。

 

「……久しぶり。随分大きくなったね」

 

「はい。セナ……様」

 

 懐かしく変わらない声に感極まり、アーシアは礼儀など無視してセナへと飛び込んだ。柔らかな胸の感触は変わらず、自分より頭一つ分高い黒エルフは抱き止めてくれたのだ。昔は抱きついても腰辺りだったが、少しは成長出来たのかなとアーシアは思った。

 

「どうか、もっと強く抱き締めてください」

 

「昔、レオナも同じこと言ってたよ」

 

 感じる体温で、セナの高まっていた緊張は解きほぐれていった。アーシアは変わらず可愛いらしいし、成長した姿だって眩しい。懐かしい気持ちだって嘘じゃない。

 

「初代レオナ様が? そうなのですか?」

 

 胸の間から顔を上げ、アーシアは真っ直ぐに問い掛けた。

 

「うん。バルレオやアリシアも一緒にいたとき、だけどね」

 

 バルレオ。聖王国二代目の王であり、偉大なるレオナが生み出した礎を更に発展させたずっと昔の人物。アーシアからすれば、最も古いセナの肖像画を残した王として尊敬している相手だ。アリシアはアーシアの名をつける時に父レオンが参考にしたことで、やはり記憶に強く残っていた。

 

 そして強く思う。やはり、セナ=エンデヴァルは遥か昔からオーフェルレムに寄り添っていてくれていたのだと。

 

「その胸に私も……幸せで不思議な気持ち、です」

 

「そう? これぐらいなら安いものだよ、うん」

 

「あら? それならばもっと此処に来て下さってよいのですよ?」

 

「あ、藪蛇だ……」

 

「ふふふ……冗談です。セナ様の事情は学んでおりますから。貴女様の思うままに、我が聖王国はいつまでも待っております」

 

「それもレオナが言ってたなぁ」

 

 互いに笑い合い、夜なのに朝の様な眩しさを……感じる事が出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 




キャラ紹介16
アーシア。

オーフェルレム聖王国の王女として生まれた。
初代女王レオナとは少しだけ違う赤髪。燻んで見えるので、アーシアは幼いとき自分の髪が嫌いだった。しかし、黒エルフの女性に褒められて、櫛まで通して貰ってからは好きになれたらしい。

次代の女王にと望まれたが、本人には全くその気がない。参謀的立ち位置こそが向いており、人々をまとめる力はないと自覚している。弟のレオアノは自身の対極に位置し、彼こそが相応しいと日々教育を施しているらしい。

レオアノからは恐れられ、場合によっては父レオンさえ慄くこともある。それ程に頭脳戦に長けており、内政ではかなり貢献していることは周知の事実。

セナに対して尊敬の念が強いが、どちらかと言えば憧れのお姉さん的に見ている。

口伝されているセナについて全てを記憶しており、百五十年と言う長きに渡った事柄さえも例外ではない。現在の聖王国内で最もセナについて詳しいのは彼女かもしれない。
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