長生きTSダークエルフはひっそり暮らしたい〜今はごく普通の占術師なので、どうか放って置いて下さい〜   作:きつね雨

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7 アウロラ

 

 

 

 

 この世界には幾つかの特殊な職業がある。

 

 代表的なものとして真っ先に挙げられるのが、やはり冒険者だろう。

 

 この"冒険者"と言う名称はずっと昔に付けられた。まだ大地の隅々まで把握していなかったヒト種は、未開の土地に夢を抱き始める。何より希少な資源や名声を得れば、巨万の富を掴む事が出来たのだ。

 

 しかし同時に其れを妨げる存在が今も昔も闊歩していた。そう、皆が"魔物"と呼ぶ存在だ。

 

 魔物の発生理由は現在も判明していない。そもそもヒト種より古くから生きる存在で、中には深い知性を宿す連中だっているのだ。一部の友好的な種類を除き、ある種の自然現象の一種とされている。洪水、雷、火事、あるいは魔物。そんな生活に根ざしたことで、其れに対処する者も現れ始めた。

 

 それが未知の世界を探究し、同時に魔物への対処を行う冒険者誕生の要因だ。現在の彼等は主に二種類に分かれている。研究肌の探索者と、戦闘を主とする戦士達。そこから更に派生し、魔法使い、弓士なども居る。探索と戦闘の両方を熟す者は稀で、非常に重宝された。

 

 だが、光ばかりでなく闇も生まれるのは世の常。

 

 無謀な挑戦によって落命し、才気溢れた若者達も散っていった。有能だった彼等の損失はそのまま国家の弱体化を招くことになる。それを憂いた各国により、作り出されたのが"冒険者ギルド"である。

 

 依頼される内容、危険度によってランク分けされ、適した冒険者を選抜。成功報酬をある程度コントロールすることで、貴族など特権者の専横も阻止した。これによりギルドは大きな発展を遂げ、現在では国家の出先機関としての役割を果たすまでになったのだ。

 

 今やギルドは多岐に渡り、鍛冶や商人にはじまり、かなり特殊な例では"占術師"が含まれる。

 

 "占術師"

 

 主な依頼……いや、殆どと言って良いのは所謂"失せ物探し"だ。それは物に限った話でなく、人もこれに該当する。上位クラスともなると、運命や危機を占うことが可能となり、能力の高い占術師に依頼するには非常に高額な費用が発生する。

 

 最高クラスは星級。以下は空、雲、雨、土。人から遠い存在ほどに高く設定されている。星級は世界に十二名。星は国のお抱えが多いために、市井ではまずお目にかかれない。空級ならば極稀に依頼も出来るだろう。まあ費用も高額で、何度かある人生の転換期を占うのが一般的だ。

 

 冒険者ギルド同様に依頼の難易度や質により等級ごとに振り分けされる。占術師組合が仲介し、所属している占術師に斡旋を行う仕組みだ。だが冒険者達と違うのは、必ずしも組合を経由する必要がないことだろう。名を売れば独自に店を構えての活動が可能となる。商人ギルドと二重登録を行い、生計を立てる者も僅かだが存在するのだ。

 

 だが大半は組合に寄り添い、日々の糧を得ている占術師が殆どと言っていい。そもそもまともな占術師の絶対数が少ないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◯ ◯ ◯

 

 

 

 夕方に差し掛かるころ、セナ=エンデヴァルは街の雑踏に紛れていた。

 

 オーフェルレム聖王国は歴史も浅く、まだ全体的に真新しい。そのためか、街は他国と比べて整然と造成されている。複雑な小道も少ないし、古い下町ですら面積は乏しい。美しいと言える反面味気ないと思う者もいるだろう。

 

 焦茶色したローブをセナは目深に被り、変わらず容姿は隠されている。黒エルフはエルフ族より更に数が少なく、閉鎖的な種族だ。人族の街に現れるのはかなり珍しい上に、オーフェルレムでは拍車がかかる。長耳と褐色の肌を晒して歩くと衆目を集めるし、セナはそれを全く望んでいない。

 

 だが、特定の場所、そして相手ならば非常に有用であることも彼女は知っていた。

 

 カラン。

 

 鈴の付けられた扉を押し開けると、人熱(ひといきれ)と大きな声、食べ物や酒の匂いが充満した場所だった。

 

 セナが立ち寄ったのは、酒場だ。

 

 頭まで隠したローブ姿は不審極まりないが、誰一人気にもしていない。見渡せばまだ地味な方と分かるからだろう。鎧姿のままな大男、魔力の籠っているだろう杖を撫で回す魔法士の女、ナイフをテーブルに突き立てて騒ぐ若者達、我関せずを貫き通す店主……セナは寧ろ普通かもしれない。

 

「らっしゃい」

 

 カウンターに無言で座ったセナに顔を向け、ボソリと声を出したのは店主の男だ。中年一歩手前の年齢だが、見た目はかなり老成している。ヒゲを蓄えた彼は、スラリと細い体が真っ直ぐ伸びていた。

 

「盛況だね。何かあったの?」

 

「……いや。毎日のことだ。まああえて言うなら、最近悩まされていた強力な魔物が倒されたことか」

 

 セナの発する美声に少しだけ詰まったが、店主はそのまま話を続けた。

 

「へえ、それは良かったね。あ、この店ってアウロラを頼める?」

 

「ああ」

 

「じゃあ一杯」

 

 無言でアウロラを作り始めた店主から視線を外し、セナは騒ぎの一番大きな中心を眺めてみる。如何にもな一団が乾杯を繰り返していて、あれが討伐を果たした冒険者達だろう。男性だけで構成されたパーティで、思ったよりもずっと若い。一人だけだが少年と言ってもよい男の子が含まれていた。

 

「はいよ」

 

 赤い液体に満たされたグラスに頷き、セナは一口だけ喉に通す。

 

「うん美味し。そう言えば、さっき言ってた強力な魔物ってどんな奴?」

 

「確か……真っ黒なデカい鳥だ。名前は」

 

「ネブカハ?」

 

「ああ、そうだ」

 

「それは……凄いね。アレを彼らだけで討伐したのなら」

 

 先程の若いパーティに視線を合わせる。セナは感嘆の溜息もこぼしたようだ。

 

「信じられんが、あの小僧っ子が相当な腕らしい。偶に現れる天才って奴だろう」

 

 あのパーティで最も若い男の子。酒は飲んでいない。手にするのは果実の搾り汁で、何かの肉を美味しそうに頬張っている。子供らしい無邪気な笑顔を見れば凄腕には全く見えない。歳の頃は十四、五か。赤い髪、赤い瞳、目尻は垂れていて、優しい印象だ。そばに置いてあるのは片手剣で、おそらく剣士だろう。

 

「名前は?」

 

「パーティ名は"赤の旋風"。あの小僧っ子がセウルスだ。奴があのパーティの中心で、同時にリーダーでもある」

 

 セウルス……セナはそう小さく呟いた。

 

「そうだ、もう一つ教えて欲しいんだけど……最近暑くなったとか、雨が少ないとか思うことある?」

 

「いや? 別に感じないが。何故そんな事を聞くんだ?」

 

 真剣な言葉の響きに店主も興味を持ったようだ。

 

「んーん、無いなら良いんだ。ちょっと気になって。知り合いから聞いた事があるから」

 

「なるほどな。ところでおかわりは?」

 

 チビチビと飲んでいたアウロラも空っぽになっている。

 

「いや、元々お酒は得意じゃなくて……」

 

「はあ? じゃあ何でこの店に来たんだ? しかも女一人なんて」

 

「ん、ここなら仕事にありつけるかなって」

 

「……悪いが娼婦はお呼びじゃない。出てってくれ」

 

 マントに隠れても分かる肉感的な身体、若い声、人慣れした話し方……店主はそう判断したらしい。まあ酒場と組んでいる女達も居るし、特におかしな判断ではない。

 

「あー、ごめんごめん。違うんだ、私は」

 

 そう言うと、セナはフードから顔を出した。当然に現れたのは大人びた美貌だ。風切羽と評される長い両耳と褐色の肌、橙色した瞳に誰もが視線を奪われてしまう。セナはそれを理解して、使う。もちろん本人が望んで行うかどうかは別だ。

 

「占術師だよ。久しぶりに聖王国に来たから、先ずは酒場かなってね」

 

「……あ、ああ、そうだったか、済まない」

 

 予想通りに店主は驚き、暫く固まっていた。美貌だけでなく、黒エルフ自体が珍しいのもあるだろう。

 

「ね、黒エルフ族伝統の占術。興味ない?」

 

「そりゃ……だが高そうだな」

 

「この店で、偶にで良いから許可してくれないかな。対価は……無料で一回の占術と」

 

「占術、と?」

 

 ゴクリと店主は唾を飲んだ。黒エルフ族の占術なんて聞いた事がないし、そもそも当たるのかも分からない。しかしセナの綺麗な瞳を見ていると、まるで酔いが回ったように感じてしまう。

 

「アウロラを一杯だけ」

 

 ニコリと笑い、セナは首を小さく傾けた。はっきり言えばあざといし、子供じみた仕草でもある。間違いなく手練手管の娼婦などではないだろう。あの女達は男を手玉に取る技を身につけているのだ。こんな分かり易い態度なんて意味もなく取らない。

 

「ふ、ふふ……面白い姉ちゃんだ。分かった、許可しよう。ただ、荒くれ者も多いし、あんたみたいな美人だとちょっかいを出す奴もいるぞ? 大丈夫なのか?」

 

「それこそ見た目だけで判断したら後悔するんじゃない?」

 

 本気で、平気そうにセナは返した。

 

「ああ、降参だ」

 

 フフフと笑顔が浮かんだセナは楽しそうに体を揺らし、ついでに大きな両胸も揺れた。店主の視線は釘付けとなったが、セナは気付いていない。それを知った店主は、見た目に反して子供みたいな女だなと思った。

 

 

 

 

 

 

 




セウルスくん。彼はセナの良く知る人物と関わりがあり、近々再登場します。
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