長生きTSダークエルフはひっそり暮らしたい〜今はごく普通の占術師なので、どうか放って置いて下さい〜   作:きつね雨

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45 冒険者達

 

 

 

 

 

 オーフェルレム聖王国、その聖都レミュ。

 

 冒険者ギルドからの帰路は夕闇に包まれている。ヒトの流れは朝より落ち着いていて、同時にどこか浮ついた空気があるようだ。

 

 赤の旋風の四名は、そんな街中で会話を重ねながら歩いていた。

 

「結局は請けちゃいましたね」

 

「仕方なかろう。やんごとなき御方からの指名依頼だからの。ワシの人生でも初めてのことじゃ」

 

「やっぱりベレ爺でも?」

 

「いくらドワーフの血が入っているといっても、ほんの僅かヒト種より寿命が長いだけじゃ。のう、イェン」

 

 頷くイェンにも遥か昔の祖先にドワーフの血が混じっているらしい。本人は知らなかったが、精霊視を持つセウルスには何となく分かるのだ。

 

「おい。この中で最も長い寿命を持つのは(ワレ)だぞ。忘れてないか」

 

「あ、そうでしたね。確かキーランは百歳を超えて」

 

「百十歳である」

 

 クォーターとはいえ流石はエルフの血。耳の先も少しだけ尖っており、だがとても百歳以上には見えない。寧ろ童顔で丸いため、幼く見えるくらいだ。まあ子供のように扱うとキレてくるが。

 

 彼等三名は精霊視に見出された側面もある。しかし誰もがセウルスの才能に惹かれて集まったのが理由だ。彼の成長は目を見張るほどで、その手助けをするのがパーティの隠れた目的でもあった。リーダー御本人は知らないけれど。

 

 そして、最近手に入れた剣は本当に凄まじい。

 

 それを操るセウルスに、自分たちの見る目に間違いなかったと語り合うのがオジイサマとオジサマ達の日常だったりする。

 

(アーテル)の森。凄く不思議な場所ですよね。妙に静かで、魔物も強いし。ただ最近は遭遇や目撃情報がどんどん減って来たって聞きますけど」

 

「この五十年の間だ。我は知っておる」

 

 キーランはこれでもかと胸を張り、毎度のごとく尊大な言葉で合わせて来た。

 

「へー、思ってたより随分前からだ。僕なんて生まれてもないですよ」

 

「ほほ、まあお主はこれからじゃよ」

 

「んー、今日はこのまま解散のつもりでしたが、やっぱり話を詰めたいですね。調査はともかく、もう一つの依頼について」

 

「そうじゃな」

「我は構わんぞ」

 コクリと頷くイェン。

 

「じゃあいつもの店に行きますか」

 

 少し無愛想な主人がいるあの酒場は赤の旋風のお気に入りだ。冒険者連中にも有名で、特に料理の味が素晴らしい。最近だと、某黒エルフの女性が訪れて舌鼓を打っていた。ちなみに、彼女に占術の依頼を出す場合、主人に言えば繋いでくれる。

 

 そうして歩き出したその時、聞いた事のある声で呼び止められた。前から歩いて来る男性のようだ。

 

「セウルス! ベレルマンの爺様も居るし勢揃いだな!」

 

「ドティルさん! ちょっと久しぶりですね!」

 

「おう! 元気そうで何よりだ!」

 

 ガハハと笑うのは、同じオーフェルレムの冒険者ギルドに登録している一人、ドティルだった。

 

「お主は相変わらずうるさいのぉ。夜も更けた街中じゃぞ。もう少し静かに喋れんのかい」

 

「うっせい。ま、爺様も達者そうだ」

 

「ふん。まあの」

 

 互いの口振りこそ乱暴だが、彼らとドティルは馴染みの仲だ。合同で依頼を請けたこともあるし、友人と言って良い間柄と言えた。性格も心地良く、パーティであるバイアは実力も手堅い。赤の旋風に戦闘力では劣っても、十分に信頼のおける者達だった。

 

「しかし丁度良かったぜ。明日にでもセウルス達に話を聞きたいと思ってたからな」

 

 ドティルは本当に嬉しそうだ。

 

「丁度良かった? 何でしょうか?」

 

「こっちの依頼に関わることでな。南の(アーテル)の森で」

 

(アーテル)の、森?」

 

 笑顔を浮かべていたセウルスは、感情が消えたように無表情になった。それを見てしまったドティルはちょっとだけ慌てる。ベレルマンもキーランも、イェンですら緊張した空気を纏ったのだ。

 

「お、おう。べ、別に大したことじゃないぞ?」

 

「いま依頼と言いましたね?」

 

「ま、まあ正確に言えば依頼に近い感じで……冒険者ギルドじゃなくて、個人的な頼みたいなものだが」

 

「ギルドからじゃない……? では偶然、ですか、ベル爺」

 

「どうだかの。ドティル、話してみい」

 

「あー、えっと、情報の、いや噂の裏取りでな。あの森に雪、いや吹雪?が吹いたって話があって、ちょっと考えられないだろ? だいたい此処より南方で雪なんて聞いた事もないし。ようはその個人的なヤツで、変な気候とかあったらって調べてるんだ。あの厄介な森でも赤の旋風の実力なら行けるだろうから、何か知ってたら……何だよ、その顔は」

 

 彼等の真剣味はますます強まり、赤の旋風の四人は顔を互いに見合わせている。明らかに不穏な雰囲気だった。

 

「ドティルさん」

 

「お、おう」

 

「このあと時間もらえますか? どうやら互いの情報の擦り合わせが必要なようです」

 

 否定など許さない。そんな凄みと意味を含み、セウルスは問い掛けてくる。だからドティルは無意識に頷き、それを肯定するしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◯ ◯ ◯

 

 

「ドティル。帰ったばかりだよな?」

 

「まあな」

 

「さっき迄の支払い忘れてるぞ?」

 

「ちっ……」

 

 バイアの残り二人、ヒューゴとヨヒムはまだ店にいた。ドティルが去って行って大した時間も経っていないのだから当たり前だ。そしてすぐ後ろ、見慣れた四人組が続いていて、ヒューゴ達も何となく察している。

 

「赤の旋風かよ。しかしセウルス達はともかく、イェンのおっさんは珍しいじゃないか。娘さんとの時間を犠牲にしてまで此処に来るなんて」

 

 愛娘を溺愛するイェンは何故かベレルマンを見た。それを察した爺様は仕方なく、ホントに仕方なくヒューゴに返していく。

 

「ハア……まあ色々と事情があるんじゃ。お前らにも少し関係があるし、席を移すぞい」

 

「ん? 分かった。いいな、ヨヒム」

 

「ああ」

 

 そうして店の奥に配置されたテーブルに移動した。もちろん店主に断りを入れて。彼は皿を拭きながら無言で頷いたようだ。

 

「何で俺の周りには無口な野郎が多いんだよ。店の親父といい、イェンのおっさんといい、ヨヒムまで。なあヒューゴ」

 

「珍しく意見が合ったな、ドティル」

 

 ブツブツと愚痴を呟きつつ、合計七名の男達は席に着いた。此処は店の中でも離れた席になっており、話し声はまず他に届かない。パーティの打ち合わせをするときによく利用されているのだ。

 

 セウルスは果実水、残りはそれぞれ酒を頼んだようだ。ついでに酒の肴も何品が追加し、すぐにでもテーブルは賑やかになるだろう。

 

 ヒューゴも注文済みの料理と酒を置き、会話を続けていった。

 

「さてと。で、何だ?」

 

「いや、俺の方じゃなくて赤の旋風だよ、この話し合いの発端は」

 

「ふぅん?」

 

「ヒューゴさん、ヨヒムさん。息抜きしていたところすいません。ただ、バイアが請けた依頼と、僕等の指名依頼にどうやら関係があるみたいで……正直な話、かなり警戒感を持ってしまいました。もちろん依頼内容を明かすのは望ましくないのですが、どう考えても不自然な点が多いんです」

 

 此処に居る誰よりも若きセウルス。しかし相変わらずの丁寧な言葉遣いだった。ヒューゴとヨヒムは視線を交わしたあと、続きを促す。

 

「ありがとうございます。実は今日、僕たちも似た依頼を請けまして。(アーテル)の森の調査依頼で、対象は気候の変化となっています」

 

「……それで? 別に調査依頼が被るのは珍しくないぞ」

 

「そうですね。ただ、こう言っては何ですが、僕達には不向きな依頼です。ましてや指名なんておかしいと思いませんか?」

 

「確かに。赤の旋風は戦闘特化型のパーティだからな。調査系なら他に優秀な奴らがいる」

 

「気になってギルドを出る前に調べましたが、同じ様な依頼が複数掛かっています。依頼主名は"レミュの街角に住まう占術師"。内容はよくあるものですが、調査範囲が広過ぎてまだ完了もしていません」

 

「街角の、占術師……?」

 

「……ええ。ご存知ありませんでしたか?」

 

 ヒューゴはドティルを見た。あの夜、シグソーの森での劇的な出会いを改めて思い出したのだ。そう、今は占術師であり、元冒険者の黒エルフである女性を。

 

 だが、依頼主の情報を明かすなど三流以下の馬鹿がやることだ。例え個人的依頼だとしても、ヒューゴ達にとって変わりなどない。よく知る赤の旋風であっても同じこと。

 

「その"街角の"何とやらは知らなかったが、まあ別におかしくないだろ。さっきも言ったが、気候についてとか魔物の動向も、よく掛かる調査依頼だし。なあドティルよ」

 

「……まあな。多少気になるが、それ以上でもない。でも、セウルス達だってそれぐらい分かってるだろ? つまりまだ続きがあるんじゃないか?」

 

 セウルスはニコリと笑い、ドティルに向けて頷いた。ベレルマンもうむうむと首を二回振っている。

 

「さすがドティルさんですね。仰る通り、此処からが本筋になります。ただ、僕達の依頼主がかなり特別な方でして、これから話す内容は絶対に他言無用でお願いします。まあ聞いたら話す気も失せると思いますけど」

 

「凄く嫌な感じだな……因みに拒否権は?」

 

「勿論ありますが……情報の擦り合わせをしない方が互いに不利益を被ると、そう言っておきます。あとは僕を、赤の旋風を信じてくださいとしか」

 

 ドティルは暫く黙り、一人考え込んだ。こんな時の決定は彼が担い、それが冒険者パーティであるバイアだ。セウルスもベレルマンも静かに待っていて、キーランは瞼を閉じているし、イェンは……言及の必要がない。

 

「……分かった。先ずは話を聞くよ。他言もしないと約束する。だが、調査内容はともかく、こちらの依頼主については保証なんて出来ない。俺たちにも誇りがあるんだ」

 

「構いません。ですけど恐らくその依頼主は……いえ、今はいいでしょう。では、よいですね?」

 

 セウルスの呼び掛けに、残る全員が首肯した。

 

 

 

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