長生きTSダークエルフはひっそり暮らしたい〜今はごく普通の占術師なので、どうか放って置いて下さい〜   作:きつね雨

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9 魔性の女

 

 

 

 

「占術師だよ」

 

「……占術師? セナが?」

 

「なに? 信じられない?」

 

「い、いやいや! もちろん信じるさ!」

 

 ドティルは正直信じていないが、せっかくの良い雰囲気を壊したくないらしい。会話も弾んでいた筈だし、セナが自分を嫌ってないだろう感触もあるのだ。真横に座り、ムスリとした顔もとにかく綺麗で、もっと話していたい。いや、出来る事なら一晩共に、と。

 

「ふーん、それなら良いけど」

 

 セナの、橙色した切れ長の瞳がジト目に変わっている。

 

「マジで信じてるって。な、機嫌直してくれよ。お! ほらよ、次の料理も来たぜ! 腹一杯好きなだけ食べろ!」

 

 追加注文分の第二陣料理達だ。特製ソースにディップするだろう細く切り分けた野菜達。揚げた川魚は香草の香りが素晴らしい。燻製肉だって一度軽く炙っているからか、香辛料も手伝い食欲を更にそそった。全部酒の肴だが、ここは酒場なのだから当たり前だ。セナの機嫌も少しだけ治りかけになっていて、長耳もピクピクしてるから間違いない。

 

「全部美味しそう!」

 

 早速野菜を手に取り、ソースにチョンチョン。パクリ、シャリシャリと食べ進めれば、野菜達そのものが絶品と分かる。もちろんソースの味も絶妙だ。

 

「んー!」

 

 だから、セナの斜めだったご機嫌はもう完全に完治した。魚、野菜、魚、肉、野菜。止まらない。

 

「セナはホント美味そうに喰うなぁ。ん、あれ? そう言えば、エルフって肉を喰わないんじゃなかったか?」

 

「あー、あれは迷信。私は確かにお肉が苦手なんだけど、それは個人的な好みだし。これは凄く美味しい」

 

 その燻製肉を飲み込んだセナは返した。

 

「迷信かよ……」

 

「うんうん。まあ歳を重ねたエルフは少しずつ食べなくなるけど、それはヒト種だって一緒でしょ? 例えば私の知ってるエルフの一人なんて、肉ばかりバクバク食べるし、扱う武器は凄くでっかい大剣だったりします」

 

「肉? 大剣? おいおい嘘だろ……エルフと言えば細っこくて、白くて、小柄な連中ばかりだと思ってたぜ……て言うか弓じゃねーのかよ、武器」

 

 ある意味で幻想を打ち砕かれたドティル。ちょっとだけガッカリしているようだ。

 

「ちなみにだけど可愛い女の子だから。その肉好きエルフ」

 

「ちくしょー! もう何を聞いても驚かねーぞ!」

 

 ドティルはヤケクソになり、手に持っていた酒を一気飲みした。まあ半分演技で楽しくなったのが正しい。セナは思っていた以上に気さくで、黒エルフに対する幻想も破られたのだ、良い意味で。

 

「酔っ払っても介抱しないからね?」

 

「せめてベッドまで連れてってくれよ」

 

「やだよー。何されるか分かったものじゃないし?」

 

「ぐ……」

 

 下心はばっちりあるので誤魔化せない。軽い探りのつもりだったが、やっぱり相手は手強いようだ。こうなれば長期戦に移行するしかない。つまり今夜は良い友人となり、これからゆっくりと口説いていく。少しだけ酔っていても、ドティルは冷静に思考していた。ほんの短い時間なのに、もうセナの虜になった自覚がある。

 

「でも、こんなに美味しい料理に楽しい冒険譚も聞けた。せめて何かお礼をしないとダメかな」

 

 一方のセナの本心だった。最初はタダ飯ラッキーなどと思っていたが、ドティルは気持ちの良い男で、過ごす時間も楽しい。残念ながら諸々の事情により恋愛対象にはならないが、話し相手としては素晴らしいだろう。

 

「お礼?」

 

「そ。全部食べたら時間をくれる?」

 

「そりゃ構わないが……」

 

 ドティルとしても、夜を共にしてくれるとは思えない。知り合えただけでも幸運だと考えていた。

 

「大したことじゃないよ。私の仕事、聞いたでしょ」

 

「あ、ああ、占術か。なるほど、何か占ってくれるって訳だな。でも、この店で勝手に商売するのは御法度だぞ?」

 

「もうOK貰った」

 

「お、おうけー?」

 

「あ、えっと、親父さんには話をして、認めて貰ってる。だから大丈夫」

 

「そうなのか……手際が良いな。よし、それなら頼むよ」

 

 占術師にも一応等級があり、上位となればまず市井ではお目にかかれない。当然に払う依頼料も高額で、ドティルも数える程しか頼んだことは無いのだ。町の噂にもならない占術師なんて間違いなく下級であり、当たれば幸運、外れて泣くなが合い言葉となる。つまり、当たりもしない占術の御礼とやらに付き合うのも、彼からしたらある種の御機嫌取りみたいなものだ。

 

 ドティルは知らない。

 

 美味しそうに残りの料理を頬張るセナが、セナ=エンデヴァルが"聖級"の占術師だと。この聖王国や他国の名だたる人々が……世界で最も美しく、そして誰よりも強いとされる大剣使い、エルフ族の至宝"白の姫"すら血眼になって探す女性(ひと)が目の前にいることを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◯ ◯ ◯

 

 

 

「よし、じゃあ始める?」

 

「お、おう。俺はどうしたら良いんだ?」

 

「そのまま座ってて大丈夫。直ぐに準備するから」

 

 周りでドティルと黒エルフの二人に注目していた連中も、何かが始まりそうと近づいて来ている。宣伝を兼ねているので、セナから拒否感は感じない。寧ろ丁度良いと思っているだろう。占術師組合を経由しない以上、街角でひっそり始めるのが彼女の希望に合っている。

 

「ふんふ〜ん♪」

 

 聞いたことない鼻歌を響かせつつ、セナは占術の道具をテーブルに並べた。

 

「……水晶か何かの玉か?」

 

「ん? 正確には違うけど、そんなところ」

 

 セナの細い腰に巻かれていたベルトには、合計三つのポーチが装備されている。そのうちの一つから取り出したのが、ドティルの指摘したものだ。指先程度の小さな玉がコロコロと複数。数えてみれば合計六つあった。そして、濃い紫色した敷物もやはり小さく、大して大きくもないテーブルでも余裕がある。その敷物の上に半透明の玉が転がっている訳だ。

 

 ドティルは眉を顰めそうになるのを必死に抑えている。

 

 その理由は簡単で、この占術に期待が持てないからだ。セナは少し楽しそうに準備しているが、その道具が見窄らしいのが最たる理由だろう。

 

 六つの玉は透明度が低く、濁って見える。完全な球形でもなく歪で、転がしても真っ直ぐ進まないのは間違いない。はっきり言えば、安っぽくて水晶にさえ見えないのだ。最初に水晶と言ったのはお世辞でしかない。

 

 取り出した敷物も、折り目や皺こそないが高価な生地でもないだろう。

 

「本格的なヤツは他にあるんだけど、持ち運びしやすいのはコレなんだよね」

 

 そんなセナの台詞も、ドティルには言い訳に聞こえてしまう。

 

「……しかし見た事も聞いた事もない占術だな。大抵は宙空に文字が浮き出るヤツのはずだ。いや、たまに水面や紙もあったが」

 

「ドティルさん、詳しいんだね」

 

 この世界の占術はかなり目立つ。と言うかその様に創り出された。商売でもある以上、相手に強い印象を持たせる必要があるからだ。魔法を行使することも一般的なため、具体的な文言で表現されることもある。ただ、各占術師達に連携は殆どなく、技術的にも秘匿されることが多い。ドティルの話は間違ってないが、全てを示している訳でもないのだ。

 

 理論的に言えば、凡ゆる生物や物体には記憶と記録が宿っており、特殊な魔法や道具などで呼び覚ますことを基本にしている。だからこそ、関わりの深い身近な装飾品や、長い会話を重ねたりするのだ。

 

 だが、セナが用意した歪な玉はそれを踏襲していなかった。

 

 ドティルが内心で落胆したのも仕方ないだろう。大変珍しく、しかも飛び抜けた美人である黒エルフ。そんなセナが行う占術に興味があったのも間違いない。

 

「よし、準備オッケー」

 

 この世界では意味不明な単語を再び声にしたセナ。ドティルは特に反応しないようだ。

 

「ドティルさん、何か占って欲しいことはある?」

 

「そりゃ、あー、うーん……やっぱり、仕事に関わることだな。割りの良い依頼があったら助かるよ」

 

セナとの仲。そう返したかったドティルは何とか誤魔化した。

 

「ふむふむ。りょーかい」

 

 フワリと両手を広げると、敷物に転がっている玉の上に添える。そしてブツブツと小さな声で何かを呟き始めた。一応の雰囲気作りはするんだなと、ドティルはかなり失礼なことを思っていたりする。だが、そんなある種の諦めは、次の瞬間驚きに変わった。

 

 濁っていた其れ等から光が漏れ始めたからだ。

 

 赤、青、緑、黄、白、黒。

 

 決して強い光ではない。だが、不思議と視線を引き寄せられる。距離を取りながらも眺めていた他の者達も同様だ。

 

 しかもまだ終わらない。光を放つ玉は僅かに浮かび、ゆっくりと回転を始めた。キラキラと輝くせいか、まるで宝石に見えてくる。安っぽい歪な何かなど、そこにはもう存在しなかった。

 

「……すげぇ」

 

 回転速度も上がっていき、もう目を離したり出来ない。

 

 さあこれから何が起きるのかと期待していると、唐突に光が消えた。おまけにポトリと敷物に落ちると、元の濁った玉に戻ったようだ。

 

「え?」

 

「はい、おしまい」

 

「お、おい。もう終わりか、セナ」

 

「そうだよ」

 

「マジかよ」

 

 勝手な期待だったが、どんな占いが描かれるか楽しみになっていたのだ。あの方角に良い依頼があるとか、日時を指定してくれる場合だってあるだろう。しかし残念ながら、具体的な文言も助言も顕れなかった。

 

「依頼に関することでしょ? 文字にしても良いけど、他の人も見てるし。そんな占術じゃドティルさんだけに向けた占いにならないよ」

 

「あ、ああ。なるほどな」

 

 周りを見渡せば、確かに同じ稼業の男達が注目しているのだ。こんな良い依頼があるかもよと知らせた場合、最悪は出し抜かれる可能性があっただろう。セナはそれを察して手を打ったらしい。

 

「で、結果はどうやって知れば良いんだ?」

 

「ん? そんなの簡単だよ。ほら、耳を貸して」

 

 そう返したセナはドティルの横に立ち、耳元に唇を寄せた。微かな吐息がドティルの耳と背筋を震わせる。鼻腔を擽ったのは甘い花の香り、そして酒精の僅かな匂いも。艶やかな女性の声がドティルだけに届いたとき、身体はただただ強張った。

 

 酒ではない別の理由で、ドティルの顔は赤色に染まったらしい。

 

「それと、これも上げる。邪魔じゃなければ依頼に持っていってね。じゃあ、お仕事頑張って。また会おう」

 

 そう言って手を振ると、セナは店を後にする。その後ろ姿まで幻想的で、何より妖艶に見えたのは錯覚なのか。

 

 赤い顔したドティルの手には、同じくらい赤く染められた細い革紐が残されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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