長生きTSダークエルフはひっそり暮らしたい〜今はごく普通の占術師なので、どうか放って置いて下さい〜 作:きつね雨
「初代女王レオナはセナに命を救われ、勃興の後も助けてくれたんだ」
「だからセナに恩を感じてる? もう百五十年前だから、ヒト種は誰も生きてないのに」
「そうだな。だが、レオナ様より、セナが少しでも安らぎを覚えるよう花を咲かせよと口伝が残っているのさ。それに、セナが聖王国に残してくれた色々も一度や二度じゃない」
どうやらクラウディアは納得がいってないようだ。それを察したアーシアは、ある事実を明かす事にした。
「クラウディア様。弟も幼き頃に助けて頂いています。それと、確かに記録は残っていませんが、時代を超えた肖像画は宝物庫の奥に安置してありますよ。その……セナ様には内緒なのですが」
多少の時代的衣服の違いはあり、古き絵なのは明らかのだ。聖王国との繋がりを示す唯一の存在となる。もちろん画題も記されていないし、作者名も残していない。知らない者が存在を知ったとしても、描かれた黒エルフがセナだと断定は出来ないだろう。
「見せて」
「はい。どうぞこちらに」
「あなた達の気持ちは本当だった。疑ったみたいでごめんなさい」
「仕方ないさ」
クラウディアは頭を下げ、シャティヨンもそれに倣った。この時、聖王国と白の姫は、セナを愛し守る為の仲間となったのだ。
「じゃあ話してくれるか。最後のやつを」
「お願いがある」
「ああ。出来るだけの事をしよう」
「異なる世界、この城よりも高い建物、魔法とも違う灯、馬が引かないのに走る金属の馬車、ヒト種だけがたくさん存在する国。どれでもいいから、何か知っていたら教えて欲しい」
「異なる、世界……どうだ、アーシア」
「申し訳ないですが……」
「精霊が死滅して、空が割れた。その向こう側に見えたけど、どうしても分からなくて」
二人は顔を見合わせたが、やっぱり思い浮かばなかった。そもそも異なる世界とは。ヒトからしたら精霊達もある意味で別世界の存在だ。しかし、クラウディアが話す内容はそれではないだろう。
「うーむ……」
「セナがそれを眺めて、帰りたいって言ったの」
「帰りたい?」
「そう」
「それでは黒エルフの里ではないのか?」
「そんなのじゃなく、本当に違う世界」
クラウディアも本当に分からないので、質問自体が曖昧になってしまうのだろう。シャティヨンも気を失っていたため目撃していなかった。
「クラウディア様。セナ様に聞く訳にいかないのですか?」
アーシアの疑問は当然だが、クラウディアの顔色で何となく察してしまう。
「心の奥底に沈んでた強い想い……
「でも?」
「私の我儘でセナの帰りたい気持ちを無視して止めたの。もう……離れたくなかったから。そしてその罪は絶対に消えない。だからいつの日か、本当に帰りたいなら何とかしてあげたい」
「それが別れを意味しても、ですか?」
「……違う。許されるならついて行く」
「な、なるほど」
「だから」
レオンは手を上げクラウディアを止めた。仲間として理解し、共に歩む誓いを言葉にする為だ。
「白の姫よ。君の要望はよくわかった。その"異世界"と"渡る方法"の情報を集めて欲しい。そう言うことだろう」
「うん、お願い」
「オーフェルレム聖王国として正式に受けよう。時間がどれだけ掛かろうとも、我等の世代が変わっても、君たちならば問題ないからな」
エルフ種は永遠とも謳われるほどの寿命を誇る。もちろん黒エルフも。彼女達にとって、時間とはゆっくりと流れて行くものなのだ。
「あと、これを」
シャティヨンから受け取り、それをテーブルの上に置く。ゴトリとかなりの重さを感じる音がした。見れば拳大の石のようだ。
レオンは手に取り、マジマジと眺めてみる。だが、やっぱり石にしか見えない。敢えて言うなら何層にも重なる様な不思議な模様か。
「……これは?」
「
「ベヒーモスの祝福……⁉︎」
驚いた表情のアーシア。聖王国最高の知識に引っ掛かったのだろう。
「アーシア、そんなに凄いものなのか?」
「は、はい。
ましてや祝福したのは
「……そ、そうか」
実際にはよく分からないが、アーシアがそう言うならばヤバい逸品なのだと慄くレオン。ついさっき、軽々しく触ったり、ひっくり返したりしたのだが。
コホンと軽く咳をして、レオンは頭を下げた。
「必ず役に立ててみせよう。さて、議題は大体終わったか。時間もずいぶん過ぎた。セナもそろそろ目を覚ますのだろう? 皆で軽い食事でもどうだ?」
「うん、もっと話をしたい。私の知らないセナのこと」
このとき何故かギラと青い瞳が光って見えた。アーシアからの報告で、相当な独占欲を持っているのは聞いている。何となく怖くなるレオンだった。
「ふむ。そう言えば、君達は回復したらどうする? 城か城下に住まいを用意するが」
レオンとしても無理だろうと分かっている。勿論そのまま居てくれても良いが、エルフ種として息も詰まるだろうし、何よりセナがそれを認めるとは思えない。過去の口伝や経験から、残念ながら明らかな事だった。
クラウディアは首を振る。
「気持ちだけ。セナとまた話すけど、一緒に旅へ出るつもり。詳しく説明出来ないし、本当に色々な理由があるけれど、まだ危険が去ったと結論を出せない。だから、守る方法と、さっきの帰る為の情報を集めようと思ってるの。もちろんセナには別の理由を伝えてね」
占いの先、未来視の発露、揺り戻し。心配ごともあるが、何よりも共に歩く時間を作りたい。クラウディアにとって、それが何より大切なことだ。
今までの旅路の中で印象的な場所がたくさんあった。そんな時いつも考えていたのだ。セナと一緒にこの景色を見れたら素敵だって。
「そうか。私達オーフェルレム聖王国はいつまでも君達を歓迎しよう。疲れたときは羽を休めに寄ってくれ」
「うん。ありがとう」
◯ ◯ ◯
建国の大祭が終わり、それなりの日数が経過したころ。聖都レミュのとある街角、老ドワーフの鍛冶屋に来訪者があった。
「ん?」
正面扉が開き、ヴァランタンは顔を向ける。もう夕方で、ちょうど店を閉めようと思っていた矢先だ。
背がバラバラな二人。しかし顔を隠したローブ姿は同じ。特に身長の高い方は間違いなく女性だろう。ローブでも体の線が隠し切れていない。
「ごめんヴァランタン。遅い時間に」
その女性は隠していた顔を出し、慣れた様子で話し掛けてきた。
「お、セナか。アダルベララの整備ならまだ要らないと思うが、まさかまた汚したのか?」
「違うって。別の用事」
「用事、ねぇ。またいつものお節介だろ、そのお前の後ろのちっこいのが」
セナの背後で動かない小柄な影。ペタリとくっついていて、子供っぽい印象を与えている。伸ばした指先がセナのローブを摘んでいるからそれを強めた。
「ほら、クラウ。挨拶して」
「ん」
「……まさか」
セナの許可が出てクラウディアは顔を見せた。現れた白と青がヴァランタンを驚かせ、直ぐに何者かも理解する。噂では聞いていたし、しかもセナと一緒にいるのだ。
揺り戻しを恐れ、共に生きる事を諦めていたはずの異種族。
そんな悲しい運命に踊らされた彼女達が並んで立っている。ヴァランタンはそれだけで嬉しくて、長い髭と飛び出た腹が揺れた。その笑いは次第に大きくなる。ほんの少しだけ涙も滲んだようだ。
「俺は理由なんて聞かん。でも、良かったな、セナ」
「ヴァランタン……ありがと。さ、クラウ」
「シャティヨンから色々教えて貰ってたから貴方の事は知ってる。私の名前はクラウディア。それと、これからは私がセナを守る。だから安心して」
「え? ちょ、クラウ。何を言って……」
守るのは自分だと思っているので、セナは吃驚している。遥かに歳下で、可愛らしい白の姫なのだからある意味で当たり前だ。しかし、笑って返すと思っていたヴァランタンは真面目な顔のまま。
「頼む。コイツは放っておいたらダメな女だからな。幸せにしてやってくれ」
「分かった」
「え? え?」
何故かガッチリ握手をする老ドワーフと若きエルフ。残された一番背の高い黒エルフは困惑顔だ。
「ほお、良い手だ。かなりの使い手だな、クラウディア」
「セナに勝ちたくて、たくさん練習したから」
「なるほどな。つまりセナの用事ってやつは、この娘に剣を用意してくれって事か」
「え、あ、うん。そうだけど」
何も説明していないのだが、勝手に話が進んでいく。しかも何故か意気投合するドワーフとエルフ。セナはますます困惑顔で、思わずクラウディアの瞳を見た。そのクラウディアはセナを見返して、ニコリと笑った。
「引退した爺だが、この頼みは断れないな。よし、クラウディア。どんな剣がいいか教えてくれよ。あっちの奥で話をしよう」
「うん」
「ちょっ、待ってよ!」
スタスタと歩き出す爺様に慣れた様子でついて行く白の姫。不可思議な嫉妬心が疼き、セナも慌てて追い掛けていった。
余談だが、アダルベララが喪われた事を聞いたヴァランタンは、この日一番の大きな声を上げたらしい。