長生きTSダークエルフはひっそり暮らしたい〜今はごく普通の占術師なので、どうか放って置いて下さい〜   作:きつね雨

97 / 97
66 いつの日か

 

 

 

 

 

 最近の赤の旋風は羽振りがいい。

 

 冒険者ギルド内で多く流れている噂だ。

 

 いや、噂では語弊がある。斧使いのイェンは愛娘にこれでもかと色々買い与えているし、クォーターエルフのキーランは消耗品として使える訳もない高級ナイフを手に入れた。冷静と思われていた老魔法士のベレルマンでさえ、新品の魔法杖を撫で回している始末だ。

 

 だが、リーダーであるセウルスだけは違った。

 

 いつも遠くを眺めるようにぼんやりしていて、僅かな間に溜息を何度も。暫く依頼を請けない予定なので、その力の抜けようが凄まじい。

 

「セウルス、お前大丈夫か?」

 

「……あ、ドティルさん」

 

「あ、じゃねえよ。最近溜息ばっかりだぞ」

 

「そう、ですか?」

 

「あの依頼から帰って、それからずっとだな。結果的に何とかなったし、セナだって無事と聞いてる。達成報酬もたんまり、王女殿下から感謝の言葉まで頂いたんだ。なのに辛気臭え。どした? 何か悩みでもあんのか?」

 

 よければ話を聞くぞと、ドティルは優しい顔で向かい側に座った。まだ昼のため、周りには赤の旋風やバイアの連中もいない。軽い昼食をモソモソと食べていたら、偶然ドティルに見つかったわけだ。

 

「……どうしたらいいか分からないんです」

 

「ふむ」

 

「久しぶりに会えたのに、まともな会話も出来なかった。話したい事がたくさんあって、でも彼女はずっと城から出て来ません。会いに行きたくても王城にはおいそれと入れませんし……」

 

 盛大な溜息をこぼし、セウルスは俯いた。一方のドティルはちょっと意外に感じ、同時に悩みも理解した。と言うか、自分と似た感情を抱いていると仲間意識まで働く。

 

「俺も……結局告白もしてねぇよ。せめて盛大にごめんなさいしてくれたら諦めもつくのに」

 

 間違いなく玉砕するが、区切りが必要な場合もあるのだ。

 

「ドティルさんも?」

 

「まあセナも困るだけだし、大体アイツには心に決めた相手がいた。向こうからしたら迷惑なだけだから、早く忘れようとしてるとこだ」

 

「忘れる……」

 

「セウルスは? せめて気持ちを伝えるくらいしたいだろ」

 

 正直、ドティルはセウルスの言う相手が誰か知らない。王城にいるらしいから、その辺の町娘ではないだろう。そんな事が頭に浮かぶ程度だ。それでも、せめて話すくらいはして欲しいと思う。目の前のセウルスはまだ若く、自分のような大人ではないのだ。

 

「それは」

 

 もちろんと言葉を続けようとした時、店の扉が開いた。天気も良い日なので、明るい光がドティルの背中を照らし、セウルスは眩しそうに目を細める。

 

「聞いて来た通り、やはり此処にいましたか」

 

 入って来たのは背の高い女性。銀髪は陽の光を反射し輝いている。細い身体は昔から全く変わっていない。丁寧な口ぶりと、美しい所作も。

 

「シャ、シャティヨン?」

 

「はい」

 

 セナの様にローブで隠したりしないので、シャティヨンの全身は余す事なく視界にある。ちなみに、周囲の何人か、ドティルさえもポカンと眺めて固まっている。エルフが珍しいのもあるが、不思議な圧迫感を感じるのだ、彼女から。

 

「アナタはドティルさんでしたか。バイアの御活躍、我が姫に代わってお礼を伝えさせて下さい」

 

「あ、ああ。こちらこそ?」

 

 緊張のあまり意味不明な返しをするドティル。何となく席を譲り、目配せでセウルスに頑張れと伝える。別名を逃走とも言うが。

 

「失礼しても?」

 

「も、もちろんです。シャティヨン」

 

「ありがとうございます」

 

 その座る所作さえ美しい。澄んだ雪解け水を想起させるのも昔と同じだ。

 

「……どうして此処に?」

 

「セナから叱られました。セウルスと黒の森以来話してないと言ったら。なのでアナタが現れそうな場所を幾つか教えて貰い、こうして会えた、そんな感じですね」

 

 セウルスは思い出した。セナと会った最初の頃に占術をしてもらっていたのだ。その内容は恋の悩み。憧れのシャティヨンと、いつかもう一度会えるのか。そんな依頼を不思議なカードで占い、必ず再会は叶うと言ってくれた。

 

 あの森で確かに占い通りとなった。気持ちを知るセナがシャティヨンを此処に導いてくれたのだろう。

 

「まずはお詫びを」

 

「え? な、なんで」

 

「セウルスが持つ特別な力。それを知りながら、導くこともなく利用しました。でも、後悔はしていません。もしもう一度選択するとしたら、また同じ事をします」

 

「……セナさんが教えてくれました」

 

「よく知っています。セナならばそうするだろうと思っていましたから。彼女は私と違い、誰にも優しい女性です」

 

「知っていて、だから僕に近づき、剣を教えてくれた。そう言うことですか?」

 

「はい」

 

 はっきりと、視線を逸らすことなく答えた。シャティヨンには間違いなく後悔がなく、目的のためなら全てを捧げるエルフだ。

 

「……変わっていませんね、シャティヨンは」

 

「?」

 

「何も謝る必要がありません。シャティヨンが伝えてくれた知識、言葉、剣技、全てが僕の歩む道を照らしてくれた。それに、最初からシャティヨンは隠したりしてませんでしたよ? 私の行動は全て同行しているあの娘の為にある。だから感謝は要らないって言っていたじゃないですか」

 

「そうでしたか?」

 

「ええ。忘れたり出来ません」

 

 他者のために自らを捨てる。そんな誇り高いシャティヨンにセウルスは憧れたのだから。

 

「シャティヨン。また旅に出るんですか? クラウディアさんと」

 

 当たり前。そう返ってくると思っていたセウルスに意外な答えが齎された。

 

「いえ、これから暫くは別行動ですね」

 

「え? 本当に?」

 

「あの娘の横にはセナがいますから。私はクラウが歩む道を助けたかっただけ。まあ要は、お邪魔虫になりたくありません」

 

「や、やっぱり()()なんですね」

 

「見た通りです」

 

「で、でも、異種族で、年齢だって随分違いますよ?」

 

「関係ありません」

 

「関係ない……」

 

 フツフツとセウルスの心が震え、そして赤く燃え上がる。異種族であろうと、年齢が離れていようと、関係ないのだ。

 

「シャティヨン!」

 

「な、何ですか?」

 

 急な大声で、普段冷静沈着なエルフも吃驚したようだ。

 

「今日の夜、もう一度僕に会ってください! 大事な話があります!」

 

「え、ええ。構いませんが」

 

 この夜。シャティヨンに更なる驚愕が襲うこととなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◯ ◯ ◯

 

 

 

 

「セナ。もう慣れた?」

 

「この弓? もう大丈夫だよ」

 

「やっぱりあの弓じゃないから」

 

「クラウ。その話はお終いって言ったでしょ」

 

 ヴァランタンに頼んだのはクラウディアの剣だけでなく、セナが使う弓もだ。如何に名工の老ドワーフであろうと、あれほどの紅弓は用意出来ない。精霊に祝福された武具は少なく、ましてやアダルベララとなると不可能だ。

 

 それでもセナは笑い、ポンとクラウディアの頭に手を乗せた。ついでにナデナデまで続ける。最近、白と黒の距離は随分と近付いた。何かあったか誰もが想像するが、それを言及するのは許されないだろう。

 

「お互いの怪我も癒えたし、そろそろかな」

 

「うん。いつまでもオーフェルレムのお世話になってられない」

 

「だね」

 

 間もなくセナ達は旅立つ。

 

 かなり前から決めてあったが、それぞれの回復具合と新しい武器の練度が高まるまで。そう話していたのだ。両者とも相当な使い手とは言え、世界は広くて深い。油断などしたら悲惨な結果が待つだろう。

 

 まあセナの力は多少落ちたが、クラウディアは白の姫。この精霊使いたちに害を及ぼす存在など、それこそ上位精霊くらいだ。

 

「最初は何処に行こうかな」

 

「セナ。私が決めてもいい?」

 

「ん? もちろん」

 

 セナとしては特に目的地のない旅になる。この二百年はクラウディアから姿を隠すことだけを考えていた。そんな理由も失われ、まさに気の向くままの旅。ちょっとワクワクしてたりする。ましてや隣には、誰よりも大切なクラウディアがいるのだ。

 

「じゃ、カルフルゼに行きたい」

 

「カルフルゼ? 北方のヒトの国だね」

 

「国じゃなくて、森に」

 

 セナの身体は強張った。目の前の彼女が何を考えているか分かったからだ。言葉を返せないセナを見て、クラウディアはそっと抱き締める。

 

「ごめんね。私の我儘だけど、どうしてもエルジュビエータと話をしたいの。もうセナのことは心配いらない。安らかに眠って欲しいって。だめ?」

 

 セナの古き友であり、揺り戻しの犠牲となったエルフ。彼女はカルフルゼ近郊の森が故郷であり、今もその地で眠っている。

 

「……ううん、行こう。私も、エルとずっと話がしたかったから」

 

「うん」

 

 クラウディアは両手に力を込め、大丈夫だよと伝える。言葉がなくとも、きっとセナは分かってくれるはずだ。

 

「ありがとう」

 

 だから。そんな全てを察してお礼を言うセナが大好きなのだ。もう一度、これから先も、クラウディアは力を込めて抱き締めるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アーシア発案により作られた通路を通り、セナとクラウディアは城外まで歩いてきた。

 

 普段は封印されていて、そもそも存在を知る者は僅か。そのためヒトの気配は少なく、限られた者だけが追随しているだけだ。

 

 最後の小さな門。閉じられたその前で振り返る。

 

「みんな、本当にありがとう」

 

「セナ様……」

 

 アーシアは寂しそうに呟いた。分かっていても別れは悲しいものだ。ましてや、二度と会えないかもしれない相手ならば尚更だろう。

 

「アーシア」

 

 手をそっと握り、目を合わせる。燻んだ翠、見詰めるのは夕焼け色。セナはニコリと笑う。

 

「この城の日々は楽しかった。絶対に忘れないよ」

 

「私も、私も決して……!」

 

 静かに泣き始めたアーシアの手を、そばに立っていたレオアノに預ける。同じように涙を溜めるオーフェルレムの王子は、頑張って声を出した。

 

「セナ! また必ず! 必ず戻ってきてくれ! このオーフェルレムに……僕や姉様じゃなくても、次代の誰かでもいいから。待ってる」

 

「うん。そうだったら幸せだね」

 

 決して肯定しない。もし運命に嫌われたなら、オーフェルレムに害が及ぶなら、セナは二度と現れないだろう。アダルベララは失われても、世界の「敵対者」である事実は消えない。

 

「セナは今も昔も綺麗なままだ。偶には俺にも涙を見せてくれよ」

 

「もう、レオンは相変わらずだね。でも、そんなレオンも好きだよ」

 

 隣で黙っていたクラウディアがジロリとセナを睨んだが、幸い見ていなかった。まあレオンにはバッチリ目撃されて、ちょっとびびっていたが。

 

 ギギと門を開き、明るい朝の光が道を作る。

 

「じゃあ行くね」

 

「ああ。白の姫よ、セナを頼む」

 

「任せて」

 

「……ねえ、そんなに私って頼りない?」

 

「セナはそんなのじゃないの。ね、シャティヨン」

 

「そうですね。私からも頼みます」

 

「ええ……シャティヨンまで……?」

 

 シャティヨンは暫くの間、この聖都レミュで過ごすことになった。理由は聞いてないが、セナは何となく幸せな気持ちになる。きっと、また何かが動き出したのだろう。

 

 セナとクラウディアは寄り添い、門を通り抜けたあともう一度振り返る。

 

 そして暫しの、別れの言葉を紡いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いつの日か、また」

 

 

 

 

 

 

 

 




これで完結です。
今まで読んでくれて、何より評価やコメントありがとうございました。本当に励みになりました。
気紛れで後日談を書くこともあるかもしれませんが…セナとクラウディアの物語は一区切りとします。それではまた何処かで。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

【TS】兄だった人は姉になりました。(作者:R884)(オリジナル現代/文芸)

私の兄だった人が、ある日突然姉になった。別にトルコに旅行に行ったわけでもないし、そんな素振りもなかったし本当にいきなりの事だった。▼姉になった兄は、お世辞抜きで美人さんで私の彼氏も親友も、ついでに兄の会社の上司もメロメロだ、おい彼氏よそれで良いのか?▼これはこの前代未聞の出来事に立ち向かう、私と兄だった者の物語である。▼兄だった人が姉になっていた。TS病なん…


総合評価:1080/評価:8.66/連載:77話/更新日時:2026年07月18日(土) 13:11 小説情報

うわぁぁ!!! エルフだ!!??!(作者:葛城)(オリジナルファンタジー/日常)

例によって例のごとく、神様のミスで異世界TS転生しただけでなくエルフになった人の話▼なお、異世界ではエルフはお伽噺の住人扱いされるぐらいで、本当にエルフっていたんだって超驚かれる存在である▼※セルフレイティングは、いちおう念のため


総合評価:3172/評価:8.27/連載:10話/更新日時:2026年07月04日(土) 23:35 小説情報

TSオリ主は完璧なチートオリ主になりたいようです【本編完結】(作者:GT(EW版))(オリジナルファンタジー/コメディ)

 自分が転生した世界をいい感じの二次創作に仕上げる為に、意識高い系オリ主が完璧なチートオリ主を目指す話。▼ ヨロニモ様から表紙絵を頂きました!▼【挿絵表示】▼


総合評価:47653/評価:9.19/完結:132話/更新日時:2026年06月09日(火) 22:24 小説情報

転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す(作者:暁刀魚)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

【書籍発売します!】▼異世界にTS転生し、前世の娯楽が失われたことで空虚な毎日を送っていたカグラは、ある日魔力を込めた剣で岩を切ることを経験する。▼前世ではあり得ない強さを手に入れる楽しさに目覚めたカグラは、剣の道を邁進するようになった。▼本人としては異世界での数少ない娯楽を楽しんでいるだけなのだが、自由気ままに強さを求めるカグラを、周囲は天衣無縫の修羅とみ…


総合評価:19072/評価:8.64/連載:134話/更新日時:2026年07月19日(日) 18:33 小説情報

壊れかけの聖女に俺がインストールされたらしい(作者:あまぐりムリーパー)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

聖女ちゃんが、心を閉ざして動かなくなっちゃった、どうしよう!?▼せや、適当にそこら辺の魂突っ込んどけばええやろ!▼それで、俺が選ばれたってわけ▼んで、死なない体で化け物退治とかさせられてたんだけど、なんか聖女も狂信者も神官くんも、様子がおかしくない?▼※不定期更新▼カクヨム、小説家になろうにもマルチで投稿始めました


総合評価:3411/評価:8.17/連載:81話/更新日時:2026年07月20日(月) 07:03 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>