ラブコメ展開に恵まれるけど告白されたら死に戻る呪いをかけられた   作:管章 眞曽

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マジで蛇足回。
人によってはかなり不快にさせてしまうかもしれません。


「ラブコメに黒幕なんて無粋じゃないかい?」

昼下がりの午後、ある女子大学生、岩崎咲良は駅前のランドマークとして有名な石像の前で本を読んでいた。

人でも待っているのだろう。

 

高校生の時から人目を引いていた美貌は大学生となるとさらに磨きがかかり、見るものに神聖さをひしひしと感じさせるものとなった。

 

「お待たせしました。」

 

周囲の人々が遠巻きに彼女に視線を向ける中、大学生らしき男が声をかけた。

彼女の待ち人という体で声をかける強引なナンパかと人々は考えたが声をかけられた彼女が顔を上げ、彼の顔を認めると彼に向け、柔和な笑みを浮かべるのを見て、すぐに考えを改めた。

 

「いや、ボクも今来たところだから気にしないでくれ蓮斗君。今日は誘ってくれてありがとう。」

 

なるほど、おそらく皆の憧れである彼女に勇気をだしてデートお約束を取り付け、今日がその日なのだろう。

それにしてはその彼の表情はなにかを吞み込んだような言語化できない複雑な表情であるけど。

となれば違うのだろうか?

 

まあどうでもいいか。あまり他人の事情に首を突っ込むもんじゃない。

と人々の視線が外れていく。

 

「それでは案内します。こちらに。」

 

蓮斗はどこかそっけなく咲良を目的地へエスコートした。

 

 

 

道中、咲良からの問いかけに蓮斗が答えるだけの会話をしながら進んでいき、10分ほどであるカフェに着いた。

店員に蓮斗が人数を伝えテラスの席に二人は座った。

 

休日の昼過ぎであるがピークは過ぎたのか店内は混雑していなかった。

 

「へぇ~なかなかいいカフェだね。君が見つけたの?」

 

木が巻き付いてできた人工的自然の天井から漏れる木漏れ日が咲良を照らしていた。

問われた蓮斗は相変わらず淡々と答えた。

 

「はい。変わらず先輩はカフェに行くのですか?」

 

「たまにね。ここら辺はあまり行かないからこういうのを知れて嬉しいよ。今日はありがとうね。」

 

そう言ってたたえた微笑みは、きっと多くの人は惚けてしまうだろものだがそれに対し蓮斗は石のように表情を変えなかった。

二人は各々好きな飲み物を頼み、咲良は軽食も頼んだ。

 

ほのかに湯気をたてる紅茶がテーブルに届けられた頃、

 

「先輩、聞きたいことがあります。」

 

ここで初めて蓮斗から積極的に会話を切り出した。

 

「なんだい?なんでも聞いてくれ?」

 

蓮斗は一つ、息を吐くと咲良に問いた。

目を咲良の目に合わせた。

 

「先輩が、『呪い』をかけたんですよね。」

 

その質問にぴくりと眉を動かし咲良は口を開いた。

 

「『呪い』?なんのことだい?」

 

蓮斗は矢継ぎ早に言葉を紡ぐ。

 

「先輩、俺の今周の国立の志望大学わかります?」

 

「すまないが、わからないな。」

 

蓮斗は今度は大きなため息をついた。

 

「そう言いますか。まあいいです。今周の俺はふざけて東京じゃなくて京都のほうを受けたんですよ。結果、落ちてしまいましたけど。」

 

蓮斗はふっ、と自嘲しながら言った。

 

「それで先輩は卒業式の時もさっきも俺が東京のほう受けるって口ぶりじゃありませんでした?今周の俺は一度もそんなこと口に出してないんですよ。意図したものでなく偶然ですけど。

それでわかったんです。『呪い』の゙張本人が」

 

本人も無自覚に段々となり語気が強くなり、問い詰めるように話しながら前のめりになっていく蓮斗に対し咲良は飄々と動じず座っていた。

 

「そうだったかな?そう言った記憶はないのだけどもしかしたらボクが思い違いをしていたのかもしれない。

ボクは君のことを気に入ってるからね。無意識に同じ大学に来てくれたらなと、考えていたのかも。」

 

咲良はまるで遥かに年下の親戚の子供との勝負で、大人げなく完勝されて怒る子供を微笑みながらあしらう大人ような目で蓮斗を見ていた。

長年の仇を見るかのような目で睨む蓮斗を前にして、だ。

流石にこれは普通の反応とは言えない。

 

「先輩いや、岩崎咲良。お前に危害を加える気はない。ただ俺は聞きたいだけだ。白状しろ。」

 

「ふふっ、仕方がないな。」

 

抑えきれない笑いがほのかに溢れたことを感じさせつつ咲良は身を乗り出して

 

「ーーーーーーーーーーーーー」

 

耳元でなにかをつぶやいた。

そしてさっと自分の席に戻って再び蓮斗に対面した。

 

「っっっっ!!!!!」

 

ガコンと蓮斗は立ち上がり左手をテーブルに付けて身を乗り出そうしたがすんでのところで激情を抑えたのか立ち上がるのみとなった。

蓮斗の右手は爪が手のひらに食い込むほど握られている。

 

「ふふふ、そうだよ。ボクが君に『呪い』をかけた。

そういえば言ってなかったな。卒業おめでとう。そしてよくぞ『呪い』を乗り越えた!

今までの君も面白かったけどこれからの君にも期待してるよ。これを糧に頑張ってくれ。」

 

歯を食いしばり咲良の話を聞く蓮斗をよそに話し続ける。

 

「ボクが君に興味を持ったきっかけは本当にささいなことなんだよ。

それは君が作詞した曲、ホライゾンが活動してから5曲目のオリジナル曲、愛と自己嫌悪を歌った曲さ。

ボクが手を付けなかった別世界だとちょうどこの頃に作ることになる。まあ、そこらへんはどうだっていいよ本当に些細なことでボクは君に興味を持ち、きまぐれで『呪い』をかけることになったってことがわかればいい。」

 

昔を懐かしむように、ありふれた出会いを今から見ることで、その出会いが奇跡であったと思いそれをかみしめるように咲良は語った。

 

「んふふっ。殴らなくていいのかい?悪いけどこれからもっと酷くなるよ?」

 

「君の人生のあらましはこうだ。小学校五年生で父の浮気が発覚し離婚。隣町へ引っ越すことになる。と、同時にこの世界の君は父に習っていたギターをやめる。

しかし、幼い君に不倫による両親の離婚は心の奥底に大きなダメージを与えた。君の想像以上にね。

君の自己肯定感の弱さと恋愛への忌避感はそこから来ている。

中学の君がカノン君を求めたのは自身で愛の誠実性を証明したかったからだ。

結局、一歩を踏み出せなかったけどね。」

 

表情が険しくなっていく蓮斗に反し、咲良はますます愉快そうな口調で子供がおもちゃを自慢するように話す。

 

「他に君を調べてみたらね、義妹やら幼馴染やら君に好意を抱く子が多くてね!

それでね、それでね!そんな君に告白された時にちょっとでも拒否する気持ちがあったらリセットするようにしたら面白いかなって思いついてさ!

周りを恨むかな?すべてを諦めるかな?明日のために頑張るのかな?って色々考えてこりゃ、名案だって思ったよ!

やてみれば、ははははっ!!最高だった!君は!ボクはすっっごく楽しめたとも!!」

 

もはや取り繕うこともやめ、昂る気持ちにまかせ咲良は口走った。心底楽しそうに。

蓮斗はそんな彼女を人間とは思えなかった。ここまで人情を無視して自身の快楽を優先できる奴がいるだろうか。

人間をここまで滑稽に遊べるほどの精神を人間に生まれてできるだろうか。

 

「あんた、想像以上に最低だな。この世のどんな罵倒もお前の所業を非難するのには力不足だ。」

 

「ははっ、ボクは人間じゃないからね。豚や蟻の気持ちを慮る人間はいるかい?いつだって人間は人間以外を評価するとき人間の基準を絶対に離れられない。

悪いけどボクもそうなんだよ。殴りたければ殴ってくれ。というかボクになにをしたっていいよ?

〇そうとしてもかまわない。贖罪をすることはないが楽しませてくれた君へのお礼はしよう。」

 

手を腰の上で組み、背もたれに全体重を預けながら咲良は聞いてきた。

 

「じゃあ質問する。これには正直に答えてくれ。あの『呪い』は彼女たちの思考に介入してたのか?」

 

「そんなことかよ。『呪い』は君が簡単に壊れてしまわないように記憶の強化や知ってのとおり都合の悪い(おもしろくない)ことをすると頭痛をおこすようになっているけど彼女たちの思考を操るなんてことはしていない。

ボクはただラブコメ(都合のいい)展開を起こしただけさ。

これは君と彼女らが織りなした物語だよ。

まあ、間接的な思考誘導ともいえるのだけど。」

 

「そうか。」

 

そう、咲良が答えると蓮斗の剣呑な雰囲気が霧散して脱力したように椅子にもたれて天井を仰いだ。

木漏れ日の向こうに目をそむけたくなるほど輝かしい太陽が見え、蓮斗は目を細める。

 

「他になにかないの?お金でも渡そうか?」

 

再び蓮斗は咲良に向き直る。

 

「黙ってろ。もういいんだよ。」

 

蓮斗はテーブルの上の時間が経って少し冷めた紅茶のカップを手に取り、傾けて一気に中身を飲みほした。

 

「もう、お前とはここでお別れだ。二度と会いたくないな。」

 

財布から千円札を取り出しテーブルに置くと蓮斗は席を立った。

 

「おいおい、暴力をぶつけるまではしなくても罵倒もなしかよ。君、自分がこんなにめちゃくちゃにされたのに良く受け入れられるね。

普通、貶められた自分の価値を取り戻すために抵抗するだろ。」

 

返答はない。

蓮斗自身も怒りの感情が自らを支配しないことに驚いていた。

 

あえて言うならこいつ相手に無言を貫くのがせめてもの抵抗だ、と蓮斗は考えている。

 

「『呪い』がない君は徐々にループの経験を忘れるだろう。伝えるなら早くするんだよ。」

 

もうすでに蓮斗はこの場を去ろうとしているのにお構いなしに声をかける。

周りから何事か、と好奇の視線にさらされようと二人は止まらない。

 

「愛おしき蓮斗君!ボクは君が大好きだ!ボクにとって君は最高の主役だったよ!!」

 

そう言った頃には既に彼の姿は見えなかった。

目線を二人に交互に向ける群衆に対し咲良は片目を閉じて人差し指を口の前にたてるジェスチャーをして黙らせた。

 

そして既に相手がいなくなった椅子のほうに向きなおりカップを手に取った。

 

「ふふふ。蓮斗君、まだ物語は終わってないよ。苦難は報われるためにあるのだから。

これからの君の一生がエンドロールだ。」

 

そんな彼女の独り言は誰の耳にも止まることなく空中に消えていった。

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