ラブコメ展開に恵まれるけど告白されたら死に戻る呪いをかけられた 作:管章 眞曽
さて、堅物生徒会副会長イケメンの攻略に期せずして成功したわけだが。
この物語はラブ回避系ラブコメなんだ。
友情にかまければ明日は失われるのである。
トリプルタスクを背負ってまで得た肝心の成果といえば、今までのどの周よりも大きいといえるだろう。
でも、でも、でもっ!!きっっつい!!
最期になにもせずに怠惰に過ごした日がいつだったか思い出せない。
はやくこの生活やめたい。
なにもせずともモテるこの体が疎ましい。
なにきしょいこと言ってんの?くたばれや、カス。
こうして自己催眠の如く気分を無理やりハイにしないと心の大事な何かが欠落しそうなのである。
決して手を出すまいと思っていたエナジードリンクも飲み始めちゃったし。
エナドリの無駄に甘ったるい味はどこか苦手だ。
しかしその苦労の甲斐あってか特に誰とも甘い雰囲気になることなく時は過ぎ、バレンタインデー、勝負の日を迎えた。
ここを越えればあとは特に何もイベントがない、ただ
でもここを越えるのがきついんだよな。
思えばこれまで俺は幾たびとこの日に敗北を喫してきた。
普通に登校したらダメ。休んでもダメ。かといって登校するふりをしてサボるのは呪いが許してくれず。
ほぼ詰みの状況だが何周も前から用意し、失敗経験をもとに常に修正を加えてきた秘策が今周の俺にはある。
今回こそ、今回こそいける気がするのだ。待ってろ!高2ライフゥゥゥゥ!!
「いってきます」
小声でつぶやくように言ってから音を立てないように静かに、慎重に玄関の戸をわずかに開け体を滑り込むようにして外に出てから再びそっと閉める。
時刻は5時半、まだ雫は家で寝ているだろう。
書置きは残して置いたから騒ぎにはならないはずだ。
あたりもまだ薄い暗闇に包まれている中、時間を潰すためにいつも学校の校庭を使えないときは自主練で使う2キロほど離れた公園に向かう。
その後7時に学校に向けて出発し、着替え、教室に素早く荷物を置いていきこの日に無理やりねじ込んだ朝の図書室での業務に就く。
HRギリギリで教室に滑り込み、授業の間は寝るふりかトイレに行くふりをしてやり過ごす。
もはや限界呪われ高校生である。
そして昼休みになった瞬間、教室を飛び出す。
目的地は家庭科室や理科室が並ぶゆえに昼休みは人気がない別館の2階の奥つまりは生徒会室。
俺は生徒会役員でないため、使えないはずの部屋だがしかし、今周の俺には
「失礼します!」
「入れ。まったく蓮斗、話ついでに生徒会室で共に昼食をとりたいとはなんだ。
本来、お前は部外者だし、しかもこの部屋で飲食を摂っていいかはグレーだが…まあいい、たまの趣旨替えも悪くない。
正直言えば俺もこういうのはワクワクする。」
潤彰先輩がいる!ありがとう、堅物に見えて意外と物分かりがいい先輩!ありがとう、意外と悪戯好きで子供っぽい一面もある素敵な先輩!
実は昼休みはバレンタインデーで一番の鬼門だったのである。
例えば昼休みに一人になるために別館の階段で昼食をとっていたところ、な・ぜ・か、ヒロインの誰かかしらに見つかり一緒に昼食をとることになり、食後のデザートに、と本命チョコを渡され死ぬ周が何度かあった。
ならばと最終手段に考えていた便所飯ではハッサクに「おいwwwおまwwなんてとこで食ってんだwwばかか、おまえはよぉww」と見つかり教室に連れ戻された。
声かけられた時、正直ビビった。弁当を危うく落としかけた。
この日の昼休みに関してはどうするかと悩みの種だったが、潤彰先輩と仲良くなれたことでこの普段昼には使われない生徒会室に逃げ込むことができたというわけだ。(ハッサク達には副会長と食ってくるからと断りを入れておいたので探し出されることはないだろう。)
こうして俺は先輩(先輩のお弁当は手作りらしい、かわいいかよ。)とお昼をともにし委員会等の話もそこそこに歓談を楽しんだのだが先輩は目ざとく俺の目の隈などから不調を見抜き「無理はするんじゃないぞ?作業時間を減らしてでも睡眠時間は確保しろ。」と気遣ってくれた。
ありがたい先輩である。本当に。
昼食後は朝と同じように次の授業ギリギリに戻り、放課後までやり過ごす。
そして放課後になったら荷物は教室に置いたまま、トイレに行くふりで教室を出て、事前に別館に隠しておいた外靴を履いて裏門から荷物を置いて行って学校を脱出。
部活には事前に私用で今日は不参加になると連絡済み、我ながらぬかりない計画だ。
ブラついて時間を潰し7時ごろに帰宅。
風呂やら夕食やらを済ませ、雫に「今日はオンラインのミーティングがあるから部屋に入らないでほしい」と嘘をつき部屋に閉じこもった。
この時雫は悲しそうな表情を見せ「最近、お兄ちゃんがんばりすぎじゃない?…大丈夫?」と心配してくれたのだが俺は「ははは…」と愛想笑いしかできなかった。
すまない!!雫!そんな悲痛そうな表情をさせてしまって。俺は兄失格だ…
俺は罪悪感に身を焼かれつつ疲れから電気をつけたまま、ベットに倒れこみ泥のように眠った。
そして、ついに俺は二月十五日の朝、長い間見れなかった新鮮な今日を手に入れたのだ。
長かった…とにかく長かった。まだまだ二年あるどころか一年も終わってないという現実を忘れ狂喜乱舞していたところ、雫に「朝からうるさいっ!!最近の本当にお兄ちゃんおかしいんじゃないの!!」と怒られた。
はい…すみません…。
「にしても素晴らしい朝だ。すがすがしい。鳥のさえずりすら祝福のファンファーレのよう!」
この日は自分に甘え朝練をせず、ゆっくり登校した。
それからというもの日々が楽しくて仕方がなかった。
ハードワークは依然として変わらないものの知らない内容の授業、予想だにしない出来事、食べたことのないコンビニの新商品。
全てが輝いて見えた。
ハッサクからは「ついこの間までピリピリしていたのに急に豹変しだしてなんでもないところで笑い出すわ。ニコニコと授業に臨むわでお前本当に大丈夫か?」とガチ目に心配された。
お前、蓮斗君さぁ、心配されてばっかりだな。果報者かてめぇはよぉ。実際はド畜生なのにさ。
それからさらに飛ぶように月日は流れ、バレンタインデーで徹底拒否したおかげか少しばかり周りと疎遠になり(畜生)死に戻ることなく無事に俺は高校二年の始業式を迎えた。
おぉ…校長先生の話ですらなんか感動するぞ!
かくして俺は高校二年に進級したわけですが、高校二年に、進級したわけですが!!
ということはつまり俺にも後輩ができるってわけだ。
サッカー部の後輩ができるということでもある。
同時に義妹、雫が後輩になるということでもあるけど…なんとかなれー!
後輩の話になるが中学生の頃は帰宅部だったので実のところ、俺個人を指して先輩とよばれたことがない。
先輩と呼ばれるのは卒業式の見送りで卒業生としてひとくくりに呼ばれたくらいである。
だから後輩から二宮先輩と呼ばれるのはひそかな楽しみであったのだ。
後輩にサッカー教えちゃったりね、ふふ。
体験入部期間が終わり部活動を希望する新入生が各々希望する部活に所属してから最初のサッカー部の部活動では最初に自己紹介が行われていた。
「ーーーです。ポジションはミッドフィルダーを希望していますが、出れるならどこでも構いません。精一杯頑張りますのでよろしくお願いします!」
今年は23人の新入生がサッカー部に入部を希望し、二人のマネージャーとして入ってくれるようだ。
ところでマネージャーがいるってザ・花形部活って感じするよね。
まあ去年、俺は期待の新星ならぬ期待できない宇宙ゴミであったせいかあんまりマネージャーの子たちと縁がなかったんだけど。
というか話はするし明らかに疎外されてるわけじゃないけど無二の友達すらサッカー部でできてないんだけど…
ははっ、悲し。やっぱり花形部活に入ってもそうそう人は変わらないんですかね。
そうこう自己ネガキャンをやってるうちに新入生の自己紹介はあらかた終わったらしい。
次の子が最後だ。
「一年C組の園田詩穂ですっ♪不慣れで皆さんに迷惑をかけることもあると思いますが皆さんをしっかりサポートできるように頑張ります♪これからよろしくおねがいしまーす!!」
と、ところどころキラッとしてるような口調での自己紹介が終わると気のせいか他の子たちの時よりも大きな拍手が起こった。
周りからは、やべっあの子可愛くねwお前も?俺もそう思うわwあんな子がマネージャーなんてツイてるぜ!ちょ、俺告白しますwwマジかwwイケイケwwと互いに互いを突っつきあって沸き立っている。
そしてその中に入れてない男子、俺。君たち楽しそうね…
この会話に、このグループに入る方法ってどうやって見つけるんだ?
一年生を何十回とやってもわからないんだが!?陰キャは天性なのか!?
たぶんきっとこれも呪いのせい、きっとそう、うん!!
いたたまれなくなりつい、不自然にならない範囲でそっぽを向く。
その時、件の彼女がこっちに目線を向けた気がした。…いや、自意識過剰かも。
「じゃあ今からレクリエーションとして一年生、二年生混合のチームを組み試合を行う。適当に分かれてくれ。」
来た…!秘かに楽しみにしていたイベント!
普段、試合にすら出れない俺が試合に出れて、一年生の時にやったがあまりのついていけなさに一人道化を演じ多くの恥をかき、体中を痛すぎる視線に貫かれたあの黒歴史イベントを払しょくするチャンスが!!
今の俺は何度も繰り返した経験とそれについてこれるようになった念願の肉体があるのだ!!
長い間、筋肉痛に悩まされた苦しみの成果を出す時だぜ!
あれぇ?俺ってこんなに弱かったっけ?
というかパスってこんな難しいの?
そういや基本自主練は一人だったからパス練習ってなんもしてないや。はは…ははは…
結果だけ言えばへなちょこパスで何度もチャンスを潰す大戦犯。
あまりの視線の痛さに死に戻りたいと思ったほどである。
実力を発揮するどころかトロールであることを発揮してて草。やかましい。
後輩君達もすごい強いんだけど。
何人かには歯がたたなかったし!
そりゃそうだよね!彼ら、小学校とか中学校からやってるらのに対し俺なんか、えーっと合計して3年くらいか。思ったより少ない…
さらに部活もあるとは言え自己流練習が大半だし。
まあ道理よなぁ…ただただ周りと疎遠になるためっていう邪念でやってたもんなぁ…
だからこの感情はお門違いではあるけど悔しいなぁ…
などとガックシ、うなだれていると
「せんぱーい♪お疲れさまでーす♪」
きゃぴるーんと話題の新人マネージャー、園田詩穂がやってきた。
なんかいちいちの動作がきゃぴるーんってしてる、うん。
うまい表現ができねぇや。
「園田さんもお疲れ様」
「詩穂でいいですよー、先輩失礼ですがお名前は…」
「二宮蓮斗だ、これからよろしく。」
「はいっ♪蓮斗先輩、よろしくおねがいします!そしてよろしくついでにこれ!どうぞっ」
彼女はジャージのポケットから青色の包装を一つ取り出すとこちらに差し出してきた。
塩分タブレットのスポーツドリンク味である。
彼女のような彗星の如く現れみんなの注目を一身に集める人気者マネージャーが醜態をさらした俺にまで声をかけてくれたのはどうやらこの塩タブを皆に配りまわってるからのようだ。
分け隔てなく接してくれる優しさに涙がほろりと出ちゃいそうです。
「先輩はいつからサッカー始めたんですか?」
これにて解散!と思いきやまだ会話が続く様子。
「あぁーっと、去年かな。」
ここで実際には概算でサッカー経験は三年ですと言わないのは俺のちんけな
器が小さくて哀れなやつ、二宮蓮斗君です。
「へぇー!ということは部活が初めて?
高校デビューってやつですか?自分を変えたくて!的な!」
にひっ!と手を顎にあて探偵のようなポーズをとる姿はかわいらしさを感じさせた。
あっ!あざといってやつだな、これ。
前に雫がいかなヒロインが最強かと熱く語っているときに雫の思うあざとさの魅力からその原理まで説明されたことがある。
勝手なことだが彼女を形容するのに一番似合いそうなものだ。
「だいたいそんなところ。でも実際には、ははは…面目ない。」
俺的にはもう会話は終わったとばかりに思ってるがまだ詩穂は俺の前を去ることなく手を顎にあてたまま、俺の体全体を見つめてくる。
…正直、辛くなってきたぞぉ。
この感覚はだいぶ前に岩崎先輩とデートしたときと同じ感覚だ。
住む世界が違うと思っちゃうもんだから居心地が悪いやつ。
しかも岩崎先輩の時とは違って彼女は一日も経たずにサッカー部の人気者となっていて周りからの注目が高い。
そんな子が俺といっしょに居るのはマズイ!
気のせいかもう周りの視線が痛い!背筋が変な汗で冷えていくのを無性に感じてきた。
きっと俺よりコミュ力が高い彼女はそんなこと気づいてると思うんだけどなぁ。
俺なんかやっちゃいましたかね?
「じゃ、じゃあ。俺水飲んでくるから。」
「はーい♪お疲れ様でーす♪」
ここはおとなしく撤退。
長年の戦いの中で磨かれた撤退技術、まさに一流!
…こんなの何になるねん。
「ではこれで部活を終了とする」
「「「ありがとうございました!!」」」
結局いいところ一つもないまま、この日の部活は終了した。
自尊心めっためったです♪ここにいてすみません♪
今日はいち早くこの場を去りたい気分だったのでちゃちゃっと着替えを終わらせ帰路につく。
「はぁ…マジですかぁ」
いつも秋葉にため息の多さを指摘されるので意識してしないように努めていたが思わず漏らしてしまう。
まあ俺は、べつにぃ!本気でサッカーやってるわけじゃないし!真の目的を達成できればいいし!
と言い訳して合理化はできるんだけどそれはそれとして悔しいのだ。
悔しいならもっと正しい努力をしろって話ですけど。
どうやら俺はいつのまにやら手段に入れ込んでいたらしい。
あるいは死に戻りループのなかで得たものがあるというのを、その中での意味をなんとかして肯定したかったのだろう。
毎回毎回、積み上げたもの全部ゼロに戻された!と思ってたら生きる意味を失ってしまいそうだし。
頭の中でのネガりがとまらないままトボトボ歩いていると
「せんぱーい!ちょっとまってくださーい!はぁ…はぁ…ふぅ、先ほどぶりです♪私もこっちの方向なので一緒に帰りませんか?」
「え、あっいや、別にいいけど。」
どうしてそんな走ってきたんだ?とはまさかの人物の登場にどもって言えなかった。
ちょwwヲタク君、きょどり過ぎww
にしてもどうしてでしょう。早く帰りたかったのかしら?
いや、ねえか。
「すみません、ちょっと失礼しますね。」
と断りをいれて彼女はバックからスプレー缶を出すと自身の体に吹き始めた。
制汗剤…?だろうか。あまり詳しくないので正確には分からないけど彼女からはふんわりとしたなかに爽やかな柑橘系の匂いがした。
…失礼、今のは変態ちっくだった。無心、無心。
だけれどもどうしましょう。話すことがないのです。
岩崎先輩は話し上手だったから先輩のうちだした話題を返すだけでよかったけどそれは先輩が特異なだけでこの状況は違う。
彼女が何を話し始めるのを待つか?
いや、それは最低すぎないか
やはり俺から会話を打ち出すべきか。で、なに話すよ!?
彼女のことなんも知らないから、下手な話題選んで気まずくさせたらどうしましょう、申し訳なさでいきていけなくなっちゃう…
「おまたせしました!行きましょう!」
よし、ここは無難に学校のことを話そう。
うなれ、何十回と一年生を過ごした俺の経験よ!
あの先生の課題は面倒くさい、あの先生は楽だ、文化祭はこういうことをやる、なんだ!意外とあるぞ!
よし、いくぞ!話すぞ!
「ところで先輩は
ヒュッ、危ない。危うく彼女の出鼻をくじくところだった。
優柔不断でよかったぜ。
サッカーやってて楽しいですか?」
楽しいか、だって?
もしかしてこんなクソみたいなプレーして恥ずかしくないんか?とか聞かれてる?
「ああ、いやその、言い方があれですけど別に深い意味はなくてですね…あはは、変なこと聞いてしまいましたね。すみません。」
俺の考えすぎだった。
勝手に彼女の性格を悪くしてしまったな。
彼女が進む道をついていくように進みながら返答を考える。
んー楽しいかどうかって聞かれれば
「全体的に言えば楽しいと、そう思ってる。
俺は下手糞だからおちこぼれで、まさに今日とかそれで恥ずかしいなって思うことはあるけど、それでもできなかったことができるようになっていくのは楽しいかなって。
情けないことに俺、試合とか出たことなくてさ、部活の対抗試合ですら稀でさ!
でもいつか一回でも出てやる!って思うとやる気が湧いてきてさ!」
実際はネガキャンクソ野郎なんですけどね。
本心でないわけではないけどつい、かっこつけちゃった。
「なあんて、ちょっと高望みかな!あはは…」
「先輩ならきっと、できますよ。」
「へ?」
「だって、いつもここで頑張ってるじゃないですか。」
といって詩穂が目線を向けた先にあったのは公園ーいつも俺が自主練している公園だった。
「え?あー、もしかして見てた?」
俺の問いに詩穂は小さくこくりと頷いて返答した。
「私の家、ここなんです。だから窓から公園は見えてて、それで先輩が朝早くからだったり、夕方から夜まで練習したり走ってるの見てました。」
「えっと、その、それは、そのありが…とう?」
マジかよ。こんなことってある?
ってことは俺がリフティングがボロカスだったり普通のトレーニングに飽きて人がいないことをいいことに変なことやってたの見られてたかもしれないってこと?しかも後輩に!?
うわっ恥ずかしっ!
「ちょっと、先輩!なに照れてるんですか!私まで恥ずかしくなってきました!
先輩はただ頑張ってただけなんだから顔赤くしなくていいでしょ!!」
さっきまで小動物のように縮こまっていた彼女は急にこちらをぺしっ、ぺしっ、と叩き始めた。
叩き方も妙に弱くてなんかあざといぞ!!
そうしてる彼女の耳は真っ赤でそれを受けている俺の耳もおそらく真っ赤だった。
たぶんきっと季節外れの寒さのせい。うん、そう。きっとそう。
「悪かった!悪かった!自分でいうのもあれだけど確かに俺は頑張ってるのかもしれない。
けど俺以外の人はみんな昔から頑張ってて、そこに割って入るのはやっぱり並大抵のことじゃないよ。
今の俺じゃあとてもとても…。」
「私はサッカーのことあんまり詳しくないから先輩の言う通りなのかもしれません。
でもっ、先輩の努力はきっと並大抵のことじゃないですよ!だってあれ以外にも部活でも頑張ってるんでしょう!
私、サッカー部の人に聞きました。
先輩は下手糞だけどバカ真面目に練習に取り組んではいたって。」
マジか。俺のことみてくれる人いるんだ。
とても感激かも。(語彙消滅)
「そんなに努力してるんだったら報われてほしいです…。それに先輩は私が努力する…っっっ!!
と、とにかく!頑張ってください!私は応援しかできませんけど精一杯サポートします!
私はここで失礼します!さようなら!」
彼女は矢継ぎ早に言葉を紡ぐというや否や走り去って公園のすぐ近くの家の玄関に入っていった。
分かれ際の彼女は最初の自己紹介の時のようなきゃぴるーん感はなく、どっちも本当の彼女なのだろうがより感情的というか情熱的というか失礼かもしれないけど絶対的ヒーローを信じる無垢な子供のようなそんな様相であった。
……はぁ…ほんとっ、もったいないくらい俺は果報者だなぁ。
顔のほてりが冷めないまま家に着くと、最近うちの隣の空き地に新たにできた家に引っ越しトラックがとまっていた。
そういえばだいぶ前、家を建築する前のあいさつにと、夫婦が家を訪ねてきた。
なるほど、とうとう引っ越しをするのか。
なんでも数年前はここからちょっと離れたところに住んでいてその後、転勤により引っ越したものの家を建てるならこのあたりと決めていたとかなんとか。
そういえば夫婦は俺と同い年の娘がいると聞いていたがうちのクラスに来るという転校生はその娘さんか?
となれば明日あたりにあいさつにくるかも。
娘さんは俺が苦手なタイプじゃないといいな。
翌日、予想通り家のインターホンが鳴った。
「雫、たぶんお隣の倉元さんだ。お前も来い。」
「はーい」
俺は雫を呼び玄関の扉を開ける。
「どうも、お久しぶりです。引っ越しが完了しまして本日は挨拶に参りました。
今日からそこの隣に住む倉元です。これはつまらないものですがどうぞ。
ところでご両親はいらっしゃいますか?」
物腰のやわらかそうな雰囲気の夫婦とショートボブの活発そうな印象を受ける女の子が一人。
「どうもご丁寧にありがとうございます。すみません、父と母は不在でして、挨拶できず申し訳ございません。」
「いえいえ、ご両親にはよろしくお伝えください。また日を改めて伺います。
それとつかぬことで申し訳ないのですがあなたのお名前をうかがってもよろしいでしょうか。」
「二宮蓮斗ですが…?」
その瞬間夫婦の後ろにいた女の子がずいっと前に出てきてこちらの手を握ってきた。
「蓮斗!!君、蓮なんだね!!」
「こらっ!瀬那!いきなりなにをしてるんだ!すみません、なんでもうちの娘がご子息と旧知の仲かもしれないというものですから…」
せなと呼ばれた娘はキラキラとした目でこちらの目をのぞき込んでいて感極まったように俺の手を握っている。
「ええっと、俺、君に会ったことあるかな?」
あいにくだが俺はせなという女の子は覚えがないのである。
たぶんこれ人間違い…
「私だよ!私!瀬那!よく君とあそこの公園で遊んだり、つぶれかけの駄菓子屋行ったり、結局失敗したけど二人だけでバスに乗って海に行こうともしたじゃん!」
そういいながら、彼女は握った手を思い出せと言わんばかりにぶんぶん振り回してくる。
駄菓子屋いって、バスに二人で乗った…?
待て、それには覚えがある。
でもそれって…せな…
噓だろ、そんなことある!?
「君は…幼いころー小学校低学年の時、一人称オレじゃなかった?」
「はっ!!思い出してくれたんだね!!」
「君がその時好きだった戦隊ヒーローは…」
「クールに決めるぜ!フリーズブルー!!」
「好きな駄菓子の食べ方は…」
「十円カツのナヨナヨしてんじゃねぇよ!のせ!」
「海に行こうと言い出したのは俺が…」
「山のほうが好きっていう私に海のほうがいいに決まってる!行ったことないだけだ!って言ったから!
どう!思い出した?
思い出したよね!うわぁ!なつかしいな!君とまた会えるだなんて!しかも君も近くの県立高校でしょ?
君と同じクラスだったらいいな!
それとまた遊ぼうよ!今度こそ海に行こう!そして山もいこう!!ふふっ!夢みたいだね!ほんと!」
夢みたい…幼いころに公園で出くわして以来、一つしかないブランコをかけていがみあったり、取っ組み合いの喧嘩したりしてはいつも体格さで負けていたあのライバルが、
すくない小遣いを握りしめて何時間と駄菓子屋で共に遊んだり、飲み食いしたり、公園で他の子たちと一緒にヒーローごっこしたり、鬼ごっこした親友が、
女の子になっちゃった!!いやもとから女の子だったのか!?
いったいどういうことなの!!????
言われてみたら面影があるような気がするけど!!
とうとう俺の手を握ってぶんぶん振りながらぴょんぴょん飛び始めた。
かつてはなかったはずの胸が揺れている…
違う!なに下品なこと考えてるんだ!バカ!だってあいつは!セナは!男じゃ…なかったのかよぉぉぉ!!?
あまりのショックにぼうぜんとする俺。
そしてついていけてない雫と倉元夫妻。
いくら代わり映えのない日々はつまらないといえどここまでしろなんて言ってないんだよクソカースが。
あらすじに6話前後で終わりますと書いていましたがすみません、筆が乗り8話前後に伸びます。
着地点は考えてますし全力で完結させますのでどうかこれからも読んでいただければ幸いです。