「スキュア、お前は儂の跡を継ぎ…神のパズルを…もう1度、解放するのだ…そしてオルペウスを…」「解くんだ、スキュア」「解け」「解け」
「「「解け!!」」」
―――!!
声にならない叫びをあげ、私は飛び起きた。じっとりと汗がにじみ、どきどきと心臓の音がうるさい。
…随分昔の夢を見た、気がする。あれは久しぶりに部屋に来たあの人と交わした言葉。憔悴しきった顔で、しゃがれた弱々しい声で私に掛けた言葉。
見慣れない景色に目を擦っていると、昨日の事がさまざまに蘇ってきた。そうだ、私倒れたんだっけ。
「あら、お目覚めだったのね。おはよう」
確かメイズ、といっただろうか―昨日世話をしてくれた女の人―が声を掛けてきた。こくりと頷くと、体調や空腹について尋ねてきた。特に問題は感じなかったため、
「だいじょうぶ。」
とりあえずそう答えると、女はどこかに電話をかけ始めた。数分後、『白い人』と『黒い人』が来た。『黒い人』は何かを持っている。
「おはよう、スキュア。体調はどうかな?昨日はすまなかったね…君が疲れてることに配慮が足りなかったよ…。」
「だいじょうぶ。」
メイズに言った時のように答えると、私が話したことに安堵したのか『白い人』はふわっと微笑む。
「ルーク様、ご用意ができました。」
『黒い人』がそう告げると、『白い人』は頷き私を抱きかかえた。
「朝ごはんを用意してもらったんだ。もしよかったら一緒に食べない?」
あさごはん…ご飯はいつも昼くらいに1回もらうだけだった。ここでは朝にもらうのか。こくりと頷く。用意されていたのはつやつやとしたロールパン・ほかほかと湯気の立つスープ・色とりどりの野菜サラダ・『黒い人』が切り分けてくれるハムとチーズであった。こんなに食べられるのか…と戸惑っていると、『白い人』は
「いただきます!」
と言って、もぐもぐと美味しそうに食べ始めた。
「スキュア様もどうぞ?」
『黒い人』が笑顔ですすめてくるので、私も食べてみることにした。
「い、いただき、ます」
『白い人』の見よう見まねだけど、言った方が良さそうだから言ってみた。咎める人がいなかったからきっと正解だろう。
「ビショップ、トマト入れないでって言ってるのに…」
「ルーク様、好き嫌いはよろしくありません。ましてスキュア様がいらっしゃるのです。年長者としての姿勢を――」
「わかってるよー…。んむっ……うー…好きにはなれないなぁ…。スキュアは苦手な食べ物とか無いの?」
苦手…食べられないってことなのかな。
「ない…とおもう」
だって食べられなかったら大変だから。実際歩けなくなっちゃったし。
「本当!?すごいな〜…。」
結果、朝ごはんはすごく美味しかった。朝にこれだけ食べられたらお腹が空く心配は無いかなと思う。『白い人』には感謝だ。
食後、メイズが私を昨日のパズル部屋に連れていってくれた。あの人に与えられていたものとは違くて、『答え』がある。解けば解くほどメイズが驚いてくれる。そんな反応が少し面白くて、夢中でたくさん解いた。だから気づかなかったのだろう。いつの間にか『白い人』と『黒い人』が部屋にいた。
「スキュア、少し話をしないかい?」
「…?…うん」
『白い人』がパズルを解く私の前に座る。昨日同様、白で統一された姿が部屋をさらに明るくしているように感じた。
「さて、まずは…君、どこまで記憶があるのかな?覚えていることを話してくれる?」
唐突な質問。覚えていることなんてほとんどない。けど…
「わたし、私は…あのひとにたすけてもらったの」
「助けられた?ピタゴラスに…?」
「うん。そういわれた。外のせかいはこわいからって。」
「ではどうしてあんな部屋にいたの?」
「あのひとに、ここにいろっていわれたから。」
「…なるほど。…ご両親のことは覚えてる?」
「(ご両親?)ううん。」
「部屋にあったあのパズルは…君が作ったの?」
「あのひとがくれたの。あれをといて、私に…」
神のパズルを解け、と言った―――。
言えない。そんな突拍子もない、ましてあるかもわからないパズルを解けなんて、変だと思われるかもしれない。それに、あの人がどんな人だったのか…聞かずとも、この人達にとっては良くない存在だったことは何となく気づいたから。
「…?スキュアに…何を?」
「…っな、なんでもない。これで、おわり。」
「そっか…。話してくれてありがとう。」
そう言うと『白い人』は『黒い人』に何やら指示を出していたが、小声で私には聞き取れなかった。話し終わるのを少し待ち、疑問をぶつけることにした。
「あの、」
「?どうしたの」
「私も…すこし、ききたいことがあるの。」
「いいよ、僕らばかり質問してしまっているからね。」
1つ深呼吸をする。
「その…しろ、じゃなくてルークは、あのひとのことしってるの?」
「うーん…まぁ、知ってはいるかな。何度かお会いしたこともあったよ。」
「あのひとは、どんなひとだった?」
「!…どんな人、かぁ…。難しい質問だね。厳格で、周りにも戒めを求め、神のパズルに取り憑かれた…あぁ、最後のは気にしないでくれ」
がたんっ!と大きな音を出してしまった。驚いて立ち上がろうとして椅子から落ちるなんて…と思ったが、メイズが起こしてくれた。気遣われながらもまたルークの前に座らせてもらう。私は必死に尋ねた。
「かみのぱずる…ルークにも、といてって…いってた?」
「なっ!?…『にも』ってことは…スキュア、にも?」
こくり、肯定する。ルークはしばらく考え込んだあと、ありがとうと告げて『黒い人』と部屋を出ていった。
その後、メイズがお昼ご飯(1日にご飯を3回食べることはここで教えてもらった)を出してくれて、食べ終わるとまたパズルに興じた。パズルを解きながら、私はメイズにいろいろ聞いてみた。
「すきなパズルは?」「ここはどこ?」「あのひとにあったことある?」「ルークはどんなひと?」
メイズは1つひとつ、丁寧に答えてくれた。そして、この世界がとても広いことや所謂常識というものを教えてくれた。しかし、知れば知るほど疑問は積もっていった。
メイズは、いや、メイズだけでなくきっとみんないろんな経験や出来事を経て、自分を見つけている。私には何も無い。何も知らない。私って、何なんだろう。あの人は私に、何を求めていたんだろう。
私を、何にしようとしていたんだろう。
ねぇ、教えてほしかったな。