もう1人の「ファイ・ブレインの子供」   作:ひびき@不定期

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5.悪魔の囁き

お出かけは楽しかった、と思う。街やそこにいる人を見て、お店を見て、たこ焼きを食べて…。そして、ルークから過去を告白された。

私は一体何なのか。なぜ閉じ込められ、パズルを解かされていたのか、神のパズルを解けとはどういう意味だったのか―――。楽しかったはずのお出かけ以降、私の頭はそんな自問自答でいっぱいだった。

 

「スキュア様?」

「っ!う、うん?」

メイズに顔を覗き込まれる。パズルを解く手が止まってしまっていたようだった。

「ここを動かしてみてはいかがです?」

「そ、そうだね…解けた!」

わからなくなったと思ってくれたのか、それ以上詮索はされなかった。メイズがパズルの部屋をぐるりと見回す。

「ここのはほとんど解いてしまいましたね〜…。そうだ、私が新しいのをとって来ましょうか?以前幹部達が作った物がまだあったはずなので」

「うん、解いてみたい。持ってきてくれる?」

メイズは楽しそうな足取りで部屋を出ていった。それを見送ったあと、私にはふと1つの考えが浮かんだ。

 

建物の中を見てみるのって、そういえばしてない。

 

助け出された日とその後髪を切った時・お出かけした日以外、ここから出たことがない私。もしかしたら、私が生きるための何か…答えがあるのかもしれない。

そう思うと、自分でも驚くほど行動は早かった。すぐに戻るねと先程解いたナンプレの裏に書き置きをし、ドアに触れる。

―うぃん。

ドアが開く。

私は初めて、1人で部屋から出た。

 

 

やらかしたと思ったのはその数分後。

あてもなく階段を昇ったり降りたり、角を曲がるとすぐに迷ってしまった。

「どこだろう…誰もいないし…」

そんなことを呟きながらあちらこちらを見ながら歩いていると、前にあった何かにぶつかってしまい派手に転んだ。

「いっ…たい…」

「な、何だ?!…ちっ、子供か…。」

何か―――は、男の人だった。

「ご、ごめんなさい…」

私はよろよろと立ち上がると、そのフードを目深にかぶった人に謝った。ふん、と男の人は私を見下ろす。ちょっと嫌だなぁとは思ったが、私がぶつかったから仕方がない。

「あ、あの…パズルがいっぱいある部屋、どこかわかりませんか?」

「そんなもの知らん。そもそもなんでお前みたいな子供がこんなところにいる。ここはPOGの再教育施設エリアだぞ。」

「え…?わ、私は…ピタゴラス伯爵っていう人の…『しそん』で…ルーク達と一緒に…いて…」

しどろもどろになりながらも、わかる範囲で私がどんな人間かを説明する。言えば言うほど自分というものの無さがわかり嫌になってしまった。

だがその人は、ほう?と関心を持ったかのように私に近づいてきた。そして耳元で囁くように告げる。

「お前、私と一緒に来るか?」

「え?」

「お前はな…ルーク達に騙されているんだよ。いいか?ここは再教育施設だ。パズルで利用されて捨てられた、ルークやピタゴラスの駒共がうじゃうじゃいる。お前もその1人なんだよ。」

何言ってるんだろう、この人…と思いたくても、私はいろんなことを思い出した。あの部屋・あの人・見つかった時・今まで…思えば全部、パズルが絡む。頭が軋む。

「ど、どうして、そんなこと、いうの?」

「私もお前と一緒だからだ。だからこそ、ここから脱出し再びパズルによってあいつらを…ルークもその周りも全部!!殲滅する…!!」

遠雷が鳴る。いつの間にか日が陰り暗くなった廊下で、紅く光る瞳が私を捕らえる。

「行くぞ」

 

どこをどう歩いたのかはわからないが、いつの間にか外に出ていた。どんよりとした暗い景色に雨が降る。その背を追いかけてずぶ濡れになりながら走る。漸く追いつき、ずっと尋ねたかったことを口にする。

「ねぇ、あなたの名前、は?」

「ヘルベルト・ミューラー。哀れにも奴らに利用された、お前と同じファイ・ブレインの子供さ。」

隠すように停められていた車に乗り込むと、タオルを渡される。

「早く拭け。私の車が汚れる。」

ルークならこんな言い方しないのに…と思いつつ、言われたように髪や顔を拭く。結局はシートが濡れてしまい、ヘルベルトには舌打ちをされた。

「ヘルベルト、あの…」

「ヘルベルト『様』と呼べ。」

「…ヘルベルト、様」

「何だ」

「ルークは、本当に私を…利用、していたの?」

「奴に閉じ込められパズルばかり解かされていた、そうだろう?あいつはかつて、親友だった大門カイトすら己の欲のために神のパズルを解くのに利用した。どんなご大層な目的があるかは知らんが、お前はそのために利用されている。そうとしか思えんだろう。」

不機嫌そうに言葉を吐き捨てるヘルベルト様。だが私は、他のことで既に頭がいっぱいだった。

「やっぱり、ルークも神のパズルを解けって言われていたんだ…」

あの時、初めてこの話をした時ルークは何かを考えている様子だった。しかし、「僕も聞いた」とは肯定してくれなかった。

「…?やっぱりとはどういう意味だ。」

私は自分のことをヘルベルト様に話した。ピタゴラス伯爵の子孫と言われて助けられたこと、彼の人に神のパズルを解けと言われたこと、そして助け出された後もルーク達とパズルを解き続けていたこと―――。

「…そうか、ようやくわかったぞ…」

雨はいつの間にか土砂降りに変わっている。車の窓を激しく打つ雨音の中で、ヘルベルト様はにやりと笑い確かにそう呟いた。雷鳴が近くで轟き、その顔を照らす。

怖い。

ぞわりと鳥肌が立った。本能的に逃げなきゃ、と思ったが遅かった。ヘルベルト様は私の退路を断つように隣に座ると、手を取った。

「合格だ…お前はやはり私の部下に相応しい。一緒にルークを倒し、自由な人生を取り戻そう」

そういうと私の手首に何かを嵌めた。

―――これは…フクロウ?

奇妙なデザインのリングを見つめていると、私は不思議な感覚に襲われた。リングとひとつになるような…思考がまとまり、加速していく感覚。驚いてヘルベルト様を見ると、彼はにやりと笑いながら私を見つめて、上出来だ、と言った。

 

 

私には何がなんだかわからない。でも、心の底から何かがせり上がってくるのはわかる。とめどない憎悪、悲しみ、そしてあの人とルークに対する…殺意。

 

 

これが私の、新しい生きる道標なのか。

―――もう、迷わない。

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