もう1人の「ファイ・ブレインの子供」   作:ひびき@不定期

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6.忍び寄る危機

スキュアとの外出は楽しかった。たこ焼きを物珍しそうにほおばり、街を不思議そうに眺めるアメジストの双眸が美しかった。

しかし彼女はあの日以降、何か考え込むようになった。楽しくなかったのだろうか…と最初は思ったが、尋ねても大丈夫と返されてしまう。人の感情の機微を見極めることに長けているビショップですら、

「何を考えていらっしゃるのか…」

と首を傾げる始末だ。もちろんメイズにも何も話していないらしい。

こうなるとルークにはお手上げであったが、何とかして彼女自身の考えを探ろうと努力は続けていた。

そして今も、彼女について情報が無いかPOG内のあらゆるデータベースを洗い出してるところであった。

―うぃん

「し、失礼致します!!ルーク様ッッ!!!!!」

突然、酷く慌てた様子で1人の幹部が走り込んできた。

ルークの隣に控えるビショップが咎める。

「騒々しい。ルーク様は執務の最中です。ご要件は私が――」

「へ、ヘルベルトが、ヘルベルト・ミューラーが…再教育施設内から脱走しましたッ!!!」

「「なっ!?!!」」

ビショップとルークは顔を見合わせる。まずい。だってヘルベルトは―――過去の災禍が思い起こされる。

「ビショップ。火急、施設内の全ての出入口を封鎖しろ。車1台、ネズミ1匹も出すな。そして君、状況を詳しく報告してくれ。」

「かしこまりました…!」

「は、はい!」

ビショップが執務室から走り出ていく。その姿を見送るとルークは静かに部屋にロックをかけた。

「?…ルーク様?」

幹部の声は震えている。当然だろう。だって彼は、ルークの部屋に入る権限を持たないはずの存在だから。

そう、POGの幹部ですらない『侵入者』。

「僕が気づかないとでも思っていたの?……まず、あの再教育施設からヘルベルトが逃げ出すことは不可能だ。彼には発信機付きのリングを付けていたからね。それも何の力もない、金属の塊。ある意味本物のレプリカリングだ。それに君自身も、調査不足がありすぎる。ビショップ達には教えていないけど、ここに入れるのは一部の人間だけにしてあるんだ。君は僕が許可した人間ではないし、POGの人間ですらない…ということは、」

「ふッ…ははっ、なるほど、さすがルーク様ですね…顔を覚えてらっしゃるとは…。えぇ、そうです。俺がここのシステムをハッキングして侵入しましたよ…ヘルベルト様のためにねッッ!!!」

いつの間にか空は暗雲が立ち込めている。遠雷が鳴り、空気を震わせる。彼がルークににやりと笑いかける。

「何のためにこんなことを?ヘルベルトは統率力はおろか、もう何も持たない1人の――」

言いかけたところで、彼の顔つきが変わった。わなわなと震え、今にもルークに殴りかからんとするような怒気を放つ。

「黙れ黙れだまれぇぇぇ!ヘルベルト様は!!ヘルベルト様こそがッ!俺の真の主なんだ!!…あの方はなぁ、お前でも怖気付いて手が出せなかった…神のパズルに挑まれるんだよ!!オルペウスの腕輪をつけ、未来を見て、真のファイ・ブレインの子供になったんだ!!!」

狂っている。ルークは背筋に冷や汗が流れるのを感じた。

第一、もうレプリカリングの大半はPOGが回収し、厳正な処分をルークやフリーセル立ち会いのもとやらせている。此奴の頭がおかしいのか、或いは…ルークの目をかいくぐったか。

『ピピッ』

奇妙な電子音が響くと彼は耳に手を当て、ぶつぶつと会話をし出した。相手は恐らくヘルベルトだろう。

「はい、はい、おめでとうございます。いえ、私は役目を果たしましたから…。貴方がPOGを変え、私を救って下さるまで待ちますよ。えぇ、それでは…。ん?あぁ、今絶賛対峙しておりますが…え?…ははっ、それは傑作ですね!えぇ、お伝えします。…それでは。」

通話を切った彼は、さも幸せそうな顔でこちらを見てこう言った。

 

「我が主は、どうやらピタゴラス伯爵の子孫をも手中に収めたそうですよ?」

 

思考が停止する。それは、スキュアのことか?何故?

気づいた時にはルークの拳はしびれるように痛み、頬を押さえた彼が倒れていた。

「ふっ、殴ったところで現状は変わりませんよ?」

「そんな事はわかっている…!」

どうする、スキュアがヘルベルトといるとしたら…いや、その前に「伯爵の子孫」であることがバレているのだから…ファイ・ブレインの子供であることは気づかれて…

―うぃん

「ルーク様!!」

鋭く叫びながらビショップとフンガが執務室に突入してきた。

彼奴はフンガに押さえつけられ、通信機を潰される。

ルークの元にはビショップが駆け寄ってきた。途中で事態の重さに勘づき戻ってきたのだろう。

「ルーク様、ご無事で?」

「あぁ…。メイズは何処に?」

「メイズ、にございますか?ダイスマンに探させていますが…。」

「スキュアが攫われた」

「なっ…!?」

ビショップの中でも、ルークと同じように様々な考えが巡ったようだった。

 

その後メイズによって、スキュアが失踪したこと・ヘルベルトの脱走が真実であることが確認された。

再教育施設内の職員は、今にも死にそうなほど顔を真っ青にして平身低頭謝り続けている。

処分は追って伝えること、ひとまず捜索に徹底するよう言い渡すビショップの声を聞きつつ、ルークはずっとスキュアのことを考えていた。

その時、一通のメールがルークのPCに届いた。

 

外はいつの間にか、土砂降りとなっていた。

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