勘のいいガキはデカパイハーレムの夢をあきらめない!   作:そとみち

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100 話到達したってのに主人公死んでる

 

【side 王都】

 

 王都に侵攻してくる魔王軍に対し、迅速に防衛隊が組まれた。

 魔装具を持つ有力冒険者を前衛として、侵攻を少しでも食い止めるための冒険者、兵士を中衛に置き、後衛に回復や支援魔法を得意とする支援部隊。

 これを王都の城壁前に配置し、城壁からも王族を中心とした魔装具による遠距離魔法を放てる部隊を配置し、上方からの火力支援も同時に行う。

 この短時間で、これ以上はできないというほどに迅速に手配は進められたと言えるだろう。

 もう間もなく魔王軍が王都に到達する。

 そうすれば、この()()()()()()が否応なく始まってしまう。

 

 魔王軍の数は23万。

 人類軍の数はグランガッチからの増援も含めてわずか2万。

 魔装具所有者は500に満たない程度。

 

「……厳しいか。戦争は数ではないとはいえ……10倍以上の戦力差は……」

「ウィリアムよ、二度とそのようなことを口にするでない。我々王族が……命令を、文字通り()を投げうつ()を出す者が、わが軍の勝利を疑うことは余りにも失礼というものだ。勝つことだけを考えよ」

「……すまない、父上」

 

 人類軍の前衛の、その中でも最前線の場所にいる国王ディストールとその第一王子ウィリアムが、目の前の地平線に広がる魔族の群れに虚勢を張る。

 勝利する未来は─────余りにも朧気で。

 1対100でも勝てる猛者も冒険者の中にはいるだろう。

 一騎当千の英雄、ヴァリスタやメルセデス、カトルなどもいるだろう。

 

 だが、戦争の基本は数と数だ。

 たとえ1人が100人を倒しても、1万人が10万を倒すことは難しいのだ。

 王都を包む守護防壁もその出力範囲を広げ、出来る限り防壁を利用して戦うように作戦を練っているが……消耗戦になったら圧される。

 常識を超える様な何かが起きなければ、余りにも厳しい戦が始まろうとしている。

 

 そんな中で。

 

「……ノルンはまだ塞ぎ込んでいるか」

「アンドレ……ああ、ノルンはまだ気落ちしている。例の、ロック少年の訃報を受けて……」

「うむ……遠征中も実に親しい様子を俺も見ていた。ノルンの気持ちは分かる……ウィリアム兄、ノルンを責めてはならんぞ。アイツの力をもってしてもこの軍勢を打ち破るのは難しかろう」

「分かっている、何も言うなアンドレ。ノルンには万が一王都に魔族が侵入されたときに王城を守ってもらう役目を果たしてもらっているのだ。末妹に心配をかけたくない……勝つさ。勝たなければ」

「そうであるな……民を守らねば」

 

 第一王子ウィリアムと第五王子アンドレは、末の妹である第九王女ノルンの事を案じた。

 先程ギルドに走った激震。

 冒険者ロック=イーリーアウスの死亡報告。

 その報は、これより起きる戦争を前にして冒険者たちの気勢を大きく削ぐ事となってしまった。

 

 ロック=イーリーアウスという少年と、その周囲の女性たち。

 ギルドでも有名人になっていた彼らは、いつしか平和の象徴のような……そう、なにか見ているだけでも元気が湧く様な、冒険者たちの希望となっていた。

 どんな危機に陥っても、いつもへらへら笑って生き延びる様な、そんな男だと全員が認識していた。

 だからこそ青天の霹靂にもほどがあるその死亡報告は、余りにも大きな衝撃を残した。

 

 その報告を聞いてふさぎ込んでしまった大きな戦力を持つ者が二人。

 一人はノルン。

 彼女はその報告を聞き、茫然自失となり、自室に閉じこもってしまった。

 

 そして、もう一人は。

 

「……うっ……うぅぅ……!! お兄ちゃん……!!」

「ティオ……」

 

 ティオ。

 ロックの妹分にしてクラン・ケンタウリスのエースが、冒険者になってから……いや、ロックが孤児院を卒院してから見せなかった、生来の泣き虫に戻ってしまっていた。

 それを心配し声をかける団長たるメルセデスの声も、今の彼女には届いていなかった。

 

 ティオは子どもの頃、よく泣く弱気な少女だった。

 ロックという無限に前向きな兄貴分を持ち、彼に引っ張られて離れたくなくて、三歩後ろをそっと歩く様な内気な少女だった。

 だがロックが卒院し、彼のように強くならなければならないと誓い、そうして強くなっていった少女だった。

 

 そんな少女が拠り所を失った。

 ケンタウリスという新たな拠り所を得ていても、彼女の心にいるのはいつも赤毛の少年で。

 それは彼女が冒険者として前に歩むための柱そのものであった。

 それを失った今……ティオという()()()の少女に、立ち上がる力は残っていなかった。

 (うずくま)り、涙を流すのみで。

 

 そんな姿を見て、ケンタウリスのメンバーもその涙に同情し、慰めの言葉をかけたが……この緊急時にどうする事も出来ずに。

 いや、ケンタウリスの女傑たちもまたロックの明るさに触れていたものたちだ。お転婆な弟のような彼のことを、憎からず好ましく思えるくらいに関係は深まっていた。

 だからこそ、ケンタウリス全員が急な訃報に感情を揺さぶられている。

 弔い合戦だと気勢を上向きにするには、この襲撃は余りにも性急が過ぎた。

 

「……いつまで泣いてんだよ」

「ぐすっ……カトルぅ……!!」

 

 だがそんな泣き虫ティオに檄を飛ばす少年が一人。

 カトル。

 彼もまたロックと深い関係にある少年であった。

 子供のころから、ずっと3人で遊んでいた。どこに行くときもずっと一緒だった。

 

「ティオ……俺は行くぞ。王都を守るために戦う。この国を守る。お前はどうするんだよ」

「だって……だってぇ……!! ひっく……ロックが、死ん、じゃって……わたし、なにも、まだ、なにもっ……看取る事も、できなくって……っ!!」

「俺は信じてない」

「っ。カトル……」

「死ぬわけないだろあのバカが……俺の目で見てないモンは信じない」

「……でも!! ギルドカードが送る情報は絶対……」

「───信じねぇっつってんだろ!!」

 

 若干の口論が幼馴染二人の間で交わされる。

 ギルドカードの死亡通知は冒険者にとって絶対だ。

 カードは特殊な素材で制作されており、どんな衝撃を加えても壊れる事はない。世界のシステムに守られている。

 山を吹き飛ばすほどの一撃をカードにぶつけてもヒビ一つ入らないのだ。

 冒険者が死亡した後、その場に宙に浮くようにして留まるギルドカードは、魔物にも狙われず、死亡通知をギルドに送る。

 そのようになっている。だからギルドの報告に、死亡通知に誤りはない。

 

 それでも。

 カトルはそれを信じないと叫んだ。

 

「アイツの傍にはイレヴンさんもサザンカさんもリンちゃんも、ヒルデガルドさんだっていたんだ。あれだけ美女に囲まれてアイツが死ぬはずねぇだろ。どうせ鼻の下伸ばしてアホ面晒して帰ってくるさ」

「でも……」

「……アイツが帰って来た時に孤児院のみんなやお前に万が一があったら、俺はロックに顔向けできねぇ」

「っ!!!」

「だから守る。俺が、俺とイルゼが……みんなを守る。そうじゃないと俺はロックのダチなんだって胸を張れないからさ。…………行くぞ、イルゼ」

『はい』

 

 カトルだって、本心から死亡報告を信じていないわけではない。

 ロックも人だ。自分だっていつ死ぬか分かったモノではない。冒険者とはそういう仕事だ。

 だが、ロックが死んだからって自分が何も出来なくなるようなことがあってはならない。

 

 ロックがいたら、絶対にこの国を守ろうとしただろう。

 生まれ育った孤児院を、縁を結んだ女性たちを守ろうとしただろう。

 そして守り通してしまうのがロックという男なんだと。

 カトルはそれを信じていた。だからこそ、この場にアイツがいたらなんて言うかを考えて、それをやり通すことにした。

 友への敬意を貫くことにした。

 

「…………私、は…………っ!!」

 

 最前線に向かい去っていくカトルの背に、ティオは何も言葉をかけられなかった。

 まだ、蹲る脚に力は入らなくて。

 流れる涙は止まらなくて。

 

 それでも。

 お兄ちゃんがいたならどうしただろうと。

 そんなことを考える余裕は生まれ始めていた。

 

 

 

※    ※    ※

 

 

 

【side ホエール山脈】

 

 

「マス、ター…………」

 

 目の前で、己の主が殺された。

 それを助けようとしたイレヴンは、しかしヴィネアの妨害に見舞われ、噴火口に投げ捨てられたロックを護ることができなかった。

 

 動揺は他の3人も同じで。

 

「主殿……ッ!! ……くそォッ!!」

「ロック……? うそ、だよね……?」

「…………」

 

 ロックという少年が、本来ならばこの場で一番戦力に劣る存在であったはずの彼が死亡することで、全員の気勢が一気に静まってしまっていた。

 彼はそういう少年だった。

 いるだけで─────どこか心が温かくなるような。安心感を与えてくれる少年だった。

 それは、己を見つけてくれた主であり。

 それは、己が仕える主であり。

 それは、己を育ててくれた主であり。

 

 そんな少年が、死んだ。

 

 若干の静寂。

 しかしその後には更なる魔族からの攻撃が待っている。

 ここで生き残りを殺さない理由はない。

 闇のマナの奔流の中で、今や力関係が逆転しているこの場において、今後相対すれば更なる強敵となり得るであろうアンドロイドやドラゴニュート、人類最強の冒険者を放置する手は普通に考えれば魔族にはありえない。

 

 はずだったが。

 

「─────殺すべき者は殺した。征くぞ」

 

 魔王の言葉が、その先の追撃を止めた。

 

「はっ。魔王様の仰せのままに」

「えぇ……? いえ勿論魔王様にそう言われれば従いますけど。生き残りは殺さなくてよろしいのですか?」

「口が過ぎますよヴィネア」

「人形は主を失った。ノワールも炉心を貫いた故に間もなく死ぬ。そこの娘も管理権を継承できない。今後の障壁にはなり得ない」

「ははーっ! 魔王様の思慮深さにこのヴィネアまったく感激しています!!」

「バカなのよねヴィネアは」

「愚かなのに強いから性質が悪い」

 

 鶴の一声で魔族たちも一斉に撤退する。

 余りにも唐突な戦闘の終了に……しかし、そこから追撃しようという気概はイレヴンたちにはなかった。

 主を失った衝撃と、不甲斐なさと、哀しみが、彼女たちに何もさせなかった。

 

「……どこへ行く。ニーズヘッグ、貴様は私を殺しに来たのだろう……!!」

 

 だが唯一、ロックとの縁がまだ深くなかったヒルデガルドが虚勢を張る。

 因縁の相手。己が姉であるニーズヘッグが自分を無視して退却するなど許せなかった。

 特にその娘である幹部の二人、ジェミニもボルックスも己を目の敵にしていたはずなのだ。過去の大戦でも何度も衝突した経験があり、そんな3人が魔王の命とはいえあっさりと下がることに疑問さえ覚えていた。

 

 そして、その疑問に意外にも答えが示される。

 

「情けない妹に付き合っている暇はありません。これより我ら魔王軍は人類への侵攻を始めるのですから……」

「なん、だと……!?」

「ちょうど今、フォルクルスが遺した軍勢が王都に差し向けられていることでしょう。20万からの大群に、さらに今ここで解放した闇のマナが世界に広がり強烈なバフがかかる。これがどうなるかは貴方にも分かるはず……」

「喋り過ぎだ、ニーズヘッグ」

「……は。失礼いたしました」

 

 更に重ねて衝撃的な情報が零れる。

 時を同じくして、王都が20万を超える魔族に襲撃されている。

 王都までは2000km以上ある。どれだけ急いでも間に合う距離ではない。

 さらに、闇のマナが世界に溢れ出し、空が暗く染まるほどのそれが放たれてしまっている。

 闇はここを中心に世界中に広がっており、それが王都に達する時が……王都が陥落する瞬間となるだろう。

 強化された魔族に抗うだけの戦力を、王都はまだ保持していないのだ。

 ヒルデガルドの顔にも絶望が浮かぶ。

 

 勝負は決したのだ。

 

 人類は─────敗北した。

 

「っ、待──────」

「さようなら、我が愛する妹。何も出来ない落ち零れのあなたは、そのままそこで萎びていなさい」

 

 我を取り戻したヒルデガルドが腕を伸ばすも、次の瞬間にはその場にいた魔族は全員転移魔法で姿を消してしまって。

 残されたのは、絶望の渦中の4人のみ。

 

 何も出来なかった、4人が。

 

 

「…………イレヴン殿。主殿は……」

「…………私と繋がっていた魔力パスが、途切れて、います……恐らくは、もう……」

「……そうか。…………くそッ!! 己が力の無さをこれほど恨んだことは無しッ!!」

 

 重い口をサザンカが開き、万が一の期待を込めてイレヴンにかけた言葉は、しかしロックの死亡を後押しするような内容で。

 その答えにサザンカは己を恥じ、がむしゃらに兜を投げ捨て、鎧を脱ぎ始める。

 武士が失態を犯し、主を失った。

 ならばやることは一つ。

 

「腹を切るッ!! 介錯は無用!! 辞世の句などどの面下げて遺せるものか……!!」

「……待て、サザンカ。気持ちは分かるが待て……」

「ヒルデガルド殿、止めてくれるな!! 拙者は己が許せぬ!! 魔族に後れを取ったばかりか、これほどに優しくしてくれた生涯の主を何も出来ずに失ったなどと……ッ!!」

 

 鎧を脱ぎ、しかしその際に鎧の下に装備していたネックレス……ロックから下賜された魔装具がちゃり、と音を立て、それをぎゅっと握りしめるサザンカ。

 己には過ぎた、優しい主であった。

 思い出すのは楽しい事ばかりで。周りの人を自然と笑顔にさせる様な少年で。

 そんな主を何も出来ずに失ったのだ。後を追う以外の選択肢はサザンカの脳裏には思い浮かばなかった。

 

 だが。

 

「落ち着け。……弔いもせずに死ぬのがヒノクニの礼儀ではあるまい」

「っ……!!」

「ロック=イーリーアウスの魂をせめて安らかに眠らせてやりたい。あの勢いで堕とされていればどこかに体が引っかかっているかもしれん……ギルドカードも噴火口まで昇ってこよう。遺留品を探すぞ。ドラゴニュートならばマナへの対抗力は高い、私が探してくる。その後は好きにしろ、私も止めん……」

「…………くっ……ぅ……!!」

 

 死者を弔わねば、と言われて、サザンカの手は止まった。

 ……そうだ。

 こんな高所に主殿の遺骸を放置してしまうのは、余りにも空寂しい。

 遺体と、それに付随するギルドカードだけでも探さねば。

 ギルドカードは冒険者が死亡した後、必ず回収できる所まで浮き上がってくる。海中に沈み溺死したとしても、海の上まで昇ってくるのだ。ここでも同じ効力が働くだろう。

 それを回収し、もし遺留品や遺体の一部でもあればそれも集め、孤児院まで運ばねば……切る腹も切れないと。

 

 そう思い直し、切腹するのを後回しにする。

 その代わりに落ち着きを取り戻し、主の死に向き合ってしまったサザンカの瞳からぽろりと涙がこぼれた。

 

「……イレヴン。ロック=イーリーアウスの位置は分からぬか。そのようなスキルがあったと……」

「ヒルデ……わたしが、ロックをさがしてくる……」

「む、リン……いや、私が探してくる。私は何も出来なかった、せめて……」

「なにもできなかったのは、わたしもいっしょ。……おとうさんも、ロックもまもれなくて……ひとりぼっちになっちゃった。だからね、まいそうがおわったら、わたしもおとうさんとロックといっしょに……」

「リン……」

 

 ヒルデガルドは茫然自失に立ちすくむイレヴンに声をかけるが、返事は期待していなかった。

 アンドロイドにとってマスターの存在は絶対だ。それをヒルデガルドは知っていた。

 150年前、アンドロイドが多数存在した時代に、主が3ヶ月ほど戻らずに絶望に狂うアンドロイドたちを何人も見て来た。

 命在る者によく見られる現象だった。なぜか彼らは3ヶ月強居場所をくらまして、その後何事もなかったかのように戻ってくることが多かった。

 しかし、その間に絶望して心を変調をきたすアンドロイドも多かった。

 イレヴンもそうなってしまうのだろうか。

 いや、もうどうにもなるまい。

 

 目の前の、濁った眼を浮かべるリンもまた壊れてしまっている。

 彼女にとっては、生みの親であるノワールと育ての親であるロックの存在は余りにも大きかったのだろう。

 その二つが唐突に奪われて……前を向けるほど、この子はまだ心が育っていなかった。

 かつての自分とは違う。かつて、親と姉を失ってもなお生き延びようとした自分とは違う。

 だがそれを止める気力もない。

 私たちは破れた。

 私たちは疲れた。

 

 しかし、埋葬しなければならないのはノワールも同じ。

 身体に大穴を開けられ、もはや周囲が池のようになってしまうほどの血を流したノワールもまた命を落としているだろう。

 遺骸をこのままにしておくのは余りにも寒い土地だ。

 居場所の分からないロックの遺体を探すより先に、ノワールの埋葬をしようとして─────

 

 

「───────ッ!? 待て!! ノワールはまだ死んでいないぞ!!!」

「えっ!? ……おとうさんっ!!」

 

 その、か細い呼吸音に気が付いた。

 先程、戦闘中にリンが駆け寄った時には聞こえなかった呼吸音が、ノワールの口元から聞こえていた。

 マナの大爆発の轟音と、戦闘音でかき消えていたのか。

 だがまだ命は紡いでいた。

 

 それに気づいたヒルデガルドの叫びに、リンの瞳の色が戻り、慌てて駆け寄って……全身全霊を籠めて、回復魔法を紡ぐ。

 孤児院でシスター・ミルに教わった回復魔法。

 闇のマナを蓄えるブラックドラゴンが本来は使いこなせないその魔法を、ミルの熱心な指導によってリンは身に着けていた。

 

「おとうさん!? おとーさんっ……!!」

「く……だがこれほどの傷……ッ!」

 

 泣き叫びながら50mを超える巨体に回復魔法を掛け続けるリン。

 しかし望みは薄いであろう。僅かに命を繋いだノワールは、その口元から再びごぼりと蠕動による吐血をしたが……喋れるようになるほどの回復はない。

 ヒルデガルドも厳しいと判断を下さざるを得なかった。

 いくらドラゴンが生命力に溢れた存在だとしても、体の2/5がえぐり取られてしまえば絶命するに足る理由になる。

 

 そして、そんな様子を見るでもなく眺めていたのがイレヴンだ。

 マスターが死んだ。

 そのショックは、目の前で必死に命を紡ごうとするリンの姿を見てもなお己を取り戻すには至らず。

 何もする気が起きなかった。

 

 魔族を滅ぼすと。

 魔王を倒すと。

 必ず守ると。

 

 そう、マスターには言い続けて来たのに。

 そのためにレベルも最大値に近い所まで上げてもらえていたのに。

 

 結局私は、何も守れなくて。

 マスターとの魔力パスも、途切れてしまって。

 

 そんな失意の中で────彼女が行ったのは、スキルの使用だった。

 なんということはない。気まぐれだ。

 先程のヒルデガルドの話は耳には入っていた。

 マスターを、ロックを弔わなければならないというそれ。

 

(マスターを、探さないと)

 

 マスターとの魔力パスは途切れていても、残存魔力でスキルは使用できる。

 かつて闘技大会の観客席を回っていた時に開放したスキル……マスター登録した者の居場所が分かるスキルを使おうとして。

 使おうとして、苦笑を零した。

 

(なにを? もうマスターはいないのに)

 

 死んでしまったのだ。

 私の愛するマスターは、命を失った。私が不甲斐ないせいで。

 

 ふ、と己への失望から漏れる笑みを零して、スキルを発動。

 ()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────────え?」

 

 

 位置、停止中。

 相対距離、1000m程度。

 

 

 

 

 

 

 

 ロック=イーリーアウスの生体反応──────あり。

 

 

 

 そして。

 

 イレヴンがそれを感知したのと同時に。

 

 

 ────闇の魔素の奔流が、ピタリと止まった。

 

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