勘のいいガキはデカパイハーレムの夢をあきらめない! 作:そとみち
【side ロック 1分前】
俺をこの場で殺すために魔族が取るであろう手段……捌き斬りを使う俺を殺すためには、攻撃せずにダメージを与えるのがベストである。
であれば闇のマナが噴火しているこの場面で、取るべき答えは俺をそこに投げ捨てる事だ。
そんな俺の勘の叫びに応えたのが唯一の男であるバアルだったのがマジでクソがよってなったが、まぁ結果的には俺の望む展開になった。
ここに堕ちれば俺は死んだと魔族どもが思うだろう。
そして、俺が死ねばあいつらはここから撤退していく。
そう勘が叫んでいた。
この襲撃は、俺が死ねば向こうは目的を果たして
だから相手にそう思わせるように突撃して、隙を見せて、狙われた。
落とされるまではよかった。
だが、ここで一つ誤算が生じた。
「あ、やべ」
護りの指輪による
もちろん俺だってこの闇のマナの噴火がとんでもない破壊力を秘めているのは分かっている。
魔族ではないレベルの低い俺の体が耐えきれないものだってのは分かってた。
さらに言えば、バリアーも堪える用途で使えば破られるのは分かってた。
単純に俺の体を包むように展開すれば、闇に侵され破られてしまうだろうと。
だから、俺はこの闇のマナの噴火に対して
この闇のマナははっきり俺の体に害を及ぼす。
つまり攻撃だ。
なら返せる。
これを噴出する噴火口の底がどうなってるかは分からないけど、そこに向けて噴火を返し続けながら落ちて、そのまま底までついてもずっと返していれば噴出を止められるだろうと。
それで命は永らえられるし、その後イレヴンなら助けに来るやろ! と相棒への信頼も込めて落ちることを選択したわけだが、ここでの誤算があった。
護りの指輪では継続して放たれる闇のマナの威力を返し続けることができず、耐久力を超えてしまうのだ。
バリアーが割れる。
これは誤算だった。一瞬の攻防なら捌き斬りでの威力返しに困らなかったが、継続して放たれ続けるこの闇のマナの噴火を返すには、バリアーでは耐久力が足りなかったのだ。
(バリアーが割れた! ってんならよぉ──────)
さあじゃあどうするかって話になって。
もちろん俺の体で捌き斬りしようとしてもすぐに体が燃え尽きる。
武器も防具も持たない俺が、この闇のマナの噴火に対抗できうるモノが─────あった。
ただ一つだけ、この世界で唯一不壊を約束されたモノ。
「──────これならどうだオラーッ!!」
咄嗟にアイテムボックスから俺の名前が刻まれたギルドカードを取り出し、真下に突き出すようにして俺は落ちてゆく。
デコピンだろうがバリアーだろうが捌き斬りに使えるのだ。
このギルドカードで人を突っつけば痛みを僅かでも与えられるんだから、それで捌き斬りができない理由がない。
そして読み通り、俺の手につままれたギルドカードは闇のマナの影響を受けず、その形を保ったまま噴火への捌き斬りという理外の用途に耐えきった。
俺の体へ害をなす闇のマナの噴出を押し返しながら自由落下していき………20秒か、30秒か。
その間にも俺の周囲に凄まじく濃い魔素が溢れてはいるが、俺の直下の闇のマナだけはギルドカードの先端が引き裂くように闇を返して。
そうして落ちていくうちに、俺はとうとうその底にたどり着いた。
「────ん、おぉんっ!? なんだこりゃ!?」
そこには────
……いや変な事言ってるけどホントに何もなかったんだよね。
こう、地面の底があったりとか、もしくは想像するマグマみたいに闇の魔素の塊とかがあったりとか、闇の魔素を放ってる特殊な鉱石とかがあるのかとか色々想像してたけど。
何もなかった。こう表現するしかない。
地面ではない。
そこには何もない透明な空間があり、でもそこには確かに地面が、壁があって。
まるで
で、透明なそこにたどり着いた俺は、着地による落下ダメージが来ると勘が叫んだので、その直前に落下ダメージも重ねて捌き斬りを返して透明な底に着地。
これまで闇の魔素を返し続けて来たギルドカードを、そのまま無の空間に突き刺すように叩きつけて─────すると、ギルドカードがその透明な地面に突き刺さっちまったのだ。
「お」
同時に、
水道の蛇口の元栓を締めたかのように、爆発的な噴出をしていた黒い濁流が止まっちまった。
上を向けば、俺が着地した透明な地面から、真っ黒のマナが徐々に晴れていく様子が見えた。
噴火口からだいぶ落ちて来たが、地上の方ではまだ噴出している闇のマナが上がって行って……もう少しすればその噴出も止まるのだろう。そんな気がする。
こりゃええ。したらイレヴンが飛んで助けに来てくれるはずだ。
「うし。とにかく生き延びたな……さて」
んじゃギルドカードを拾い直して、テレパシーでイレヴンに助けを呼んで……としゃがみ込んでカードを拾おうとして。
カードを掴んでぐっと引っ張って、ぐーっと引っ張って。
「……ん?」
えっ。
ギルドカードが抜けないんだけど??
透明な地面に突き刺さったカードに手をかけてぐぬぬーっと引っ張るが抜けない。
なんだこれ。ええ……ビクともしないんだけど? ついさっき刺しただけだよね? なんでぇ??
「ぐぬぬぬ!! ……駄目だ抜けねぇー!! イレヴン!! イレヴン早く来てー!!」
落下の衝撃で叩き込んだカードが俺の力では抜けないという可能性もあるのでここは相棒に頼るしかあるまい。
俺の勘では地上では既に戦闘は終わっているはず。呼べばすぐ来るだろう。
(イレヴン、聞こえるか? 捌き斬りして落ちたんで俺生きてるから助けに来てくれない? あ、闇のマナの噴火はすぐ止まると思うから……ん、あれ? イレヴン? もしもーし?? 聞こえてる???)
しかしテレパシーをかけるために目を閉じて脳内でイレヴンを呼び掛けてもすぐに返事が来ない。
え、なんで? いつもこうやればこっちからでも発信できたよね?
いつものなんか……イレヴンと繋がってる感覚が一切しないんだけど? え、何が起きてんの??
その後も何度か続けたがイレヴンにテレパシーが伝わってる感じがしない。
距離を離しすぎると聞こえなくなるのかな?
え、まずい。
バアルに捕まるあたりではとにかく時間が惜しいしみんなヤバかったし相手に聞かれてもまずかったんでイレヴンたちに何も説明してない。
完全にここでのテレパシー頼りで落ちて来たからここで繋がらないとなると俺が生きてることがイレヴンたちに伝わらなくない?
……あ、いやイレヴンのマスター探すスキルを闘技大会の時に開いてたっけ。アレがあれば大丈夫か。
それにイレヴンは俺と魔力回路のパスがなんたらで繋がってるって言ってたし。多分その内気付いてやってきてくれるやろ。
「……あー疲れたぁ……ってまだ落ち着いちゃダメじゃん!!」
そこで俺が出来る事もうねぇなと思ってこの透明の床の上で横になってのんびりしようとしたところで、俺はふと思い出した。
ノワールさんがヤバいやろがい!!
魔王ダブレスちゃんの一撃を食らって虫の息だったはずだ。
俺の勘はあの場にいた女たち全員が死なない道筋を探って行動していたわけで、まだ俺の勘にも頂上でノワールさんが死んでしまって……って感じもないからまだ何とかなる! はず!!
じゃあとにかく急いでこの穴から出て行かないと……と思っていると、落ちて来た大穴に響く風切り音。
間違いない、この聞き慣れたブースト音は───
「──────マスタぁーーーーーっ!!!!」
イレヴンだ。
俺の相棒が来てくれた。
「待ってたぞイレヴン! 上のほうはみんな無事か!?」
「マスタ―……!! 生きてたっ、生きて……っ!!」
ブースト音が次第に近づいてきて、見上げれば綺麗な銀髪をなびかせてダイブブースターを吹かしてイレヴンが俺に迫ってくる。
その顔を見れば相当心配かけちまったようだ。ごめんな時間なくて説明できなくて。
でも助かった。これでイレヴンに捕まって俺もこの大穴から脱出できる。
そうしたらノワールさんを回復させるために……と考えていると、俺のすぐ横にイレヴンがズドンと着地して、その直後。
「助かっ、んむっ……!?」
「────────」
俺を抱きしめたイレヴンに、思いっきり唇を奪われる。
恥じらいとか色気とかのない、ただひたすらに必死さを感じられるヴェーゼを受けて俺の思考が停止する。
唇と唇が触れあって。
「ん、む、ちゅ……むむ!?」
「ぷぁ……んっ、ちゅ、ちゅっ……♡」
舌入れられた。
ええ。(放心)
「んーっ!? ちゅ、ぷはっ! イレ、んむっ!?」
「んっ……くちゅ、ちゅっ、ちゅむ♡ れろ……んっ、ふぅー……ちゅっ♡」
一回息継ぎで唇離した後にさらに唇重ねられてめっちゃディープキスされてる今俺!!
なになに!? なんなのぉ!?
なんで急に発情し始めたの俺の相棒はぁ!?
【────Approved】
【Anti-Monster Combat Androids『Ⅺ』】
【Full activation Re:boot】
【Re:boot】
【Re:boot】
【Re:boot】
「……ちゅ、ぷはぁ……♡ ……はぁ……っ、失礼、しました、マスター」
「あ、はい、うん……ど、どした? 心配かけたな?」
体感時間一分くらい、でも多分十数秒も経ってないだろう時間ずっと唇を奪われ続けていた俺は、ようやくその唇を解放された。
蕩けた眼差しを見せるイレヴンの、しかしその眼もとには涙も見えて。
……心配かけたよなそりゃな。悪かった。
「いえ……今、マスター登録をやり直させていただきました。恐らくは濃い闇の魔素の影響でマスターとのつながりが一時的に絶たれてしまって……死んでしまったかと思いました……」
「ごめんな。あん時マジで説明する暇なかったし……でも何となくこうすりゃみんな生き延びられるって勘が言ってたから……ってかそうだ、ノワールさんは!? まだ死んでない!?」
聞けばどうやら俺のマスター登録は一度外れてしまってたらしい。
だからテレパシーが通じなかったのか。でもダイブブースターも使えてたとなるとスキルは一時的には使えてたみたいで……ってか今はそれどころじゃない。
ノワールさんだ。あの人が重傷を負っているはずだ。
「ええ、リンが必死に回復魔法をかけています。しかしあれ程の大きな傷を受けてしまっていたので芳しくはありません」
「だろうな!! うっしゃすぐ戻るぞイレヴン!! ついでに回復系のスキル開放だ!! 一番強い出力の奴開けてくれ!!」
「っ、了解です! マスター、捕まって!!」
キスの感触を反芻する暇もない。
俺はイレヴンが抱き留めやすいように正面からその腰を抱きしめるようにしがみつく。
スキル解放の魔力回路の励起線をお互いの体に生みながら、ダイブブースターで噴火口の先にある頂上を目指して飛びあがった。