勘のいいガキはデカパイハーレムの夢をあきらめない! 作:そとみち
【side 王都】
魔王軍が王都オーディンに侵略戦争を開始し、戦いの火蓋が切られて1時間。
人類は迫りくる魔族の襲撃をよく堪えていたというべきであろう。
「奥義───『ベルンハルト・ドラッヘ』ッ!!」
「久遠の落涙となり魔を穿て神弓!! 『ティアドロップレイン』!!」
今もまた、ひたすら津波のように王都になだれ来る魔族の群れに向けて、王都最強の冒険者であるヴァリスタの奥義が閃き、直線に放たれた大渦の回転刺突が数十体の魔族を穿ち散らした。
同時に、その後ろから放たれた神弓ミストルテインによるスキルアタックが追撃をかける。
セントールであるメルセデスが空に向けて放った光の弓は、上空で数多に別たれ、光の雨となって空を飛ぶ魔族や地上でうち漏らした魔族を一撃のもとに貫いていく。
「ヤツらを勢いづかせるなッ!! 我ら魔装具使いの防衛線が抜かれたら王都は陥落する!! 護り抜くのだッ!!」
第一王子ウィリアムが最前線で指揮を執りながら、その手に持つ魔装具の直剣で迫る魔族を切り捨てていく。
その声に再び奮起し、他の冒険者たち……魔装具を装備するそれぞれが再び迫りくる魔族に対して必殺技を放ち、勢いを押しとどめた。
同時に、遠距離攻撃を主とする魔装具を持つ者たちは王都の城壁の上から魔法や弓による援護攻撃を果たし、魔族の侵略に何とか抵抗する。
500人余りの魔装具所有者の、命を懸けた防衛戦。
この青天の霹靂のような襲撃に冒険者たちは本当に奮戦していると称えるべきであろう。
上級魔族も混ざった魔族の大群。黒い泥のようにも見える悪意の侵攻から、一時間は王都を守り果たしているのだ。
それぞれが己の武器で、50体は魔族を討伐しただろうか。平均した数字だとしてもこれは快挙と言える。
それでも25000体の討伐。
魔王軍は、まだ20万以上の魔族を有していた。
「キリがないな……メルセデス殿! 魔力はまだ残っているだろうな!?」
「セントールの魔力を舐めないで頂きたいなヴァリスタ殿。まだ2時間は撃ち続けられるさ、その程度には調整している。魔力回復薬も適時服用している」
「それは重畳!こちらもまだまだやれる……が、先は長いな! しかし今の時点では十分な光明が見えているぞ、この戦!!」
「ああ。この戦いは決して敗北が約束されたものではない。勝ちの目を捨てずに行こう……あの二人がオフェンスを一手に担ってくれている」
この戦いの王都防衛の扇の要を務める王都でも最も優れた金級冒険者の二人、ヴァリスタとメルセデスがそれぞれ必殺技を放ち、周囲の魔族が一掃されたところで一息をついていた。
規格外の範囲攻撃を連発出来る二人は、しかしそのスキルを発動するための魔力を頻繁に魔力回復薬を飲むことで少しずつ回復し、持久戦に持ち込む構えを取っていた。
この二人を王都より広がる守護防壁の前、敵が攻め込む先端に配置し、前方の攻撃部隊を凌ぎ迫って来た魔族の軍勢を蹴散らしていた。
同時に城壁から遠距離専用の魔装具を持つ冒険者、および騎士団の援護もあり、現時点では守護防壁に取りついて砕こうとする魔族は完全に退けられていた。
そして、そんな二人が眺める先、魔王軍に突撃し数を減らし攪乱している部隊。
後方からの支援を受けながらも獅子奮迅の活躍を果たす二人が、今もまた新たな必殺技を魔族に叩き込んでいた。
「煌け暁剣!! 魔を焼き尽くす業火の大蛇!! 魔剣、絶技───『覇王灰燼砲』ッッ!!!」
ヴァリスタの弟子であるカトルが、己が手に持つ魔剣イルゼに魔力を籠め、大きく振るった刃の先から獄炎の奔流を解き放つ。
それは炎の竜となり、意思を持つかのように有象無象の魔族を焼き殺し、悶え狂うようにその身を捩じらせながら地を這い、500体からの魔族を焼失させた。
「術式入力っ! 魔力吸収、索敵オート、優先対象レベル順、セット! 放て、アクト:オートサーチスプレッド───『ヴォーパルギガカノン』ッッ!!!」
そしてもう一人、先程までロックの訃報に落ち込んでいたティオが己を取り戻し、最前線で戦っていた。
種族特性である恵まれた魔力から繰り出される超強力な一撃に、さらに複雑な術式で命令を付与して放つ。
魔双剣から放たれた水流の大瀑布は、直撃した魔族から魔力を奪いとりながらもより強い魔族を求めて暴れまわり、こちらも500体近くの魔族の被害を出して辺り一面を蹴散らした。
ティオはもう泣くことをやめた。
泣いても
カトルが言ったように、お兄ちゃんならこんな時……笑いながら、泣きながら、愚痴をこぼしながら、それでも前を向くのだから。
『いやじゃーふざけんなクソ魔族がー!』とキレ散らかしながらも、きっとみんなを守り抜いてしまうから。
そんな心から誇れる兄の妹として、為すべきことを為さねばならないと、そうティオは考えた。
悲しくてぐずって泣いてて、みんなの危機に何も出来ませんでした─────なんて言ったらきっと怒られる。がっかりされる。
お兄ちゃんにがっかりされるのだけは嫌だ。
そんな想いで、涙を拭い、哀しみを胸の奥に仕舞って、少女は戦争の最前線を務めることを決めた。
「無理するんじゃないわよティオ!! アンタとカトルがやられちゃったら悲しむからねアイツが! 私が絶対守る……『ペインカバーシェル』!!」
「隙を潰すのはオレに任せろ……暗殺剣技・『無音絶影』!!」
最前線で大技を放つ二人を守護するように、ケンタウリスのタンクとアサシンであるアルトとシミレが護衛について回っていた。
アルトが仲間のダメージを肩代わりするスキルを発動し、カトルとティオが不意の一撃を受けても倒れないようにカバーする。
シミレもまた影を踏ませぬアサシンのスキルで素早く戦場を駆け回り、大技を放つティオとカトルに生まれる溜めの時間を魔族に狙われぬよう、新しく獲得した双剣の魔装具で梅雨払いを成していた。
最前線で大技を放ち敵軍をかく乱するカトル、ティオ。
それを守護するアルト、シミレ。
中衛より全体を見て範囲攻撃を放つヴァリスタ、メルセデス。
そのさらに後衛、守護結界に守られた城壁より王族ほか魔装具所有者たちの遠距離攻撃による面での制圧。
魔装具を持たない冒険者は、それぞれの部隊の防衛、支援、回復に専念。
人類側が築いた戦略はこのようなものだった。
王都に面するキュリオス平野から津波のようになだれ来る魔王軍に対し、この陣形は確かな防衛を齎し、魔王軍を押しとどめる事に成功していた。
下級の魔族が最前線を務めており、知能は低い。魔王軍には陣形や波状攻撃という概念はなく、ただひたすら前に前にと侵攻し続けるが、単純な圧による進軍は途切れぬ人類軍の防衛戦略に見事にその数を減らしていた。
絶望的な人数差は、しかし数多の英雄の奮戦により、徐々に魔王軍の数が削れていくという情勢を見せていた。
無論、人類側にも被害はある。
前線を務める兵士や冒険者の内、魔装具を持たないもの、レベルの低い者は魔族の攻撃で命を落としている者もある。
だがその被害は魔王軍側の損害に比べればごく軽微なものであり、この拮抗した状態を保ったまま魔王軍の人数が半分を切る程度まで堪え切れば魔王軍も撤退を視野に入れられるのではないか。
そんな希望が、僅かだが少しずつ見えていた。
だがそんな希望は唐突に壊されることになる。
※ ※ ※
「なっ──────!?」
ここは王都の外壁上部に急遽設営された人類軍の運営本部。
騎士団の軍師や調査系のスキルを所有している冒険者が集まり戦略を練っている他に、ギルド本部より持ち出した観測機器を用いて戦場全体の動きや人的被害などの把握に努めていた。
そして今、観測機器にて戦場全体の魔力密度を調査していたギルド職員の口から、息を呑むような悲鳴が零れた。
「どうした! 何があったか!」
「はっ、ディストール王!! 今、キュリオス平原より王都に向かって凄まじい密度の闇の魔素が広がっております!! 戦場に届くまでにあと数秒です!!」
「なんだと……!?」
観測された結果に、本部にて戦局を伺っていた国王ディストール=オーディンの表情が歪む。
報告を受けて平野向こうの空を見れば、そこには。
「空が暗い、闇の奔流か! なぜ今……くっ、まずい!! 部隊に通達せよ!! 守りを固めるのだ!!」
快晴であった青い空の向こうより、黒紫の闇が王都に向かい広がってくるのが見えて。
それはつい先日の闘技場の魔法陣から放たれたものに酷似していた。
グランガッチに遠征に出ていたアンドレ達より受けた報告にあった、守護結界を用いた闇のマナの奔流とも同様の物であった。
怖気すら感じる絶望的な闇色の広がり。
唐突なその事態。致命的な状況の変化が生まれてしまう。
「や、闇の魔素が戦場に満ちて……! 魔王軍が活性化しています!! 軍全体に数倍の魔力濃度上昇を感知!! 敵軍の勢いが……!!」
「ぬぅゥ……ッ!!」
小康状態を保ち、人類軍に有利だった戦況は一変した。
王都に攻め入る魔王軍、その20万を超える魔族の全てが闇の魔素を吸収し、暴力的な力の発露を見せる。
抑えていた軍勢の波がその勢いを増し、徐々に拮抗が崩れていく。
魔装具を持たぬ者、経験の浅いレベルの低い冒険者から順々に、魔族の凶刃に晒されその命を奪われて行く。
キュリオス平野に広がる魔王軍の軍勢が、王都を呑み込まんとその闇を広げていった。
「報告せよ! 主力部隊はどうなっている! 後衛は!!」
「最前線を務めるカトル、ティオ両名が主軸の部隊は前進を停止! 崩れぬように堪えていますが後方部隊との補給線が崩れかけています!! 中衛のメルセデス、ヴァリスタ両名も救援に向かえず、後方部隊からの支援攻撃に対しても魔族が堪えるようになり、敵軍の侵攻を食い止められません!!」
「く……!!」
最前線のカトル、ティオらの部隊はまもなく孤立。
中盤のメルセデス、ヴァリスタも迎撃で手一杯に。
後衛からの遠距離攻撃による支援も、防御力が高まった魔族に対し有効な迎撃手段ではなくなってしまい、完全に人類軍側の攻勢が食い止められてしまった。
「…………!!」
ディストールは幾筋も冷や汗を流し、そしてその脳裏に敗北の二文字がよぎる。
打つ手がないのだ。ここに至るまでに最善の手筋を踏み、そうして堪えていた状況が一変した。
これ以上何をしろというのか。何もできない。
自分が前線に出るか?
無駄だ。自分は少なくともヴァリスタなどの最上級の冒険者に比べれば弱い。数分も持たないだろう。それは最期の手段だ。
転移陣でグランガッチに避難させた民衆の、万が一の防衛の為に派遣したトゥレスやミルを呼び出すか?
否。トゥレスもミルも論ずるまでもなく最優の冒険者だが、その二人を呼び寄せたところでこの危機を乗り越える力にはなるまい。
彼の息子であるカトル、彼女の義娘であるティオ。この二人があれ程に苦戦している状況なのだ。
守護結界すら破られかねないこの状況で、逐一の戦力投入は愚策。そもそもこの闇の魔素の広がりがグランガッチにも及んでいる可能性が高い。いつ向こうにも魔族が現れるかもわからない。避難した民にさえ危機が及ぼうとしている。
答えの出ない思考。
拳を握り締め、奥歯が折れるかと思うほどに歯を食いしばり、国王ディストール=オーディンの出した答えは─────撤退だった。
人類は敗北した。
この闇の空の元においては、20万の魔族に勝利する手段がない。
出来ることは、僅かでも民を逃がして生き延びさせ、グランガッチに避難させ、その上で転移陣を破壊して逃げることくらいしか─────
「……っ、魔力の奔流を感知!!」
「何だと!?」
「これは……最前線からです! カトルとティオの両名が、まだ前線を維持しています!! 雪崩れ込む魔族を抑えて……!!」
その報告を受けて城壁の上より戦場を見下ろせば、人類軍の最前線で炎と水の魔力砲が魔族の群れを吹き飛ばしているのが見えて。
そこにいる二人がまだ希望を捨てていない事を如実に表すかのように、光り輝く二つの魔力の奔流が戦場に煌いた。
諦めていない。
この国を守る冒険者たちは、まだ諦めていないのだ。
「くっ……その働きに応えたいが、しかし……!!」
ディストール=オーディンは己の不甲斐なさに歯噛みする。
たとえ二人の英雄がどれほどの奮迅を果たしても、この盤面を返すことは能わぬであろう。
何故なら魔王軍の軍勢のその最後方に上級魔族と、さらには六大将軍と思われるすさまじい魔力を持った魔族が存在することを観測機器で確認している。
魔王軍の前線にいる下級から中級の魔族が、この闇の魔素で強化されていても、それらを討ち果たすのにあの二人ならば苦労はしないのだろう。
だがそれもいつまでも続かない。人類には限界がある。
足掻くしかないが、足掻いた結果を全滅にしてはならない。
「……撤退だ!! 遺憾ながら王都を放棄する!! 英雄をこの戦場で死なせてはならぬ!! 転移陣を用いて出来る限り民をグランガッチに避難させよ!! 私が殿で出る!!」
この場ではこれ以上の戦力消耗は避けなければならない。
残酷なる命令をディストール=オーディンは口にして、この敗戦の責任を取るために己は殿を務めるために前線に出ようとして、しかし。
そこで、さらなる状況の変化の報告が入った。
「……!? お待ちください!! 更なる反応が……な、これは!?」
「何だ! これ以上に何が起きたというのか!?」
その報告は、余りにも信じられない内容で。
「や、闇のマナが広がる平野の向こうから……超々高速で飛来する超巨大魔獣の反応!? これほどの速度で飛翔する魔獣は人類史上観測されておりません!!」
「なんと!?」
史上最速の速度で、王都に迫ってくる、それは。
「凄まじい闇の魔力を纏っています!! 観測レベルが……なっ、に、251……!?」
「馬鹿な!? 我ら人類の最大レベルがノルンの200だぞ!? それが限界だとノルンも言っていた筈だ!! 魔王軍にすらそれほどのレベルの魔族はいなかったはずだ!!」
「さらにその巨大生物に付随する複数の反応アリ!! 観測レベル212! 208! 203! 200ッ……ん、12? ッいえ、一つを除き驚異的なレベルの何かがこの戦場に向かってきますッ!!」
それは。
「……姿を観測しました!!
まるで。
「黒いドラゴンが、闇を引き裂きながらこちらに迫っていますッッ!!!」
人類にとっての、希望のような。