勘のいいガキはデカパイハーレムの夢をあきらめない!   作:そとみち

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105 黒龍と日之圀最狂武士と対魔獣用決戦兵器

 

 ここに来るまでに所要した時間はおよそ3時間。

 イレヴンのトランスフォームによるバイクの最高速度の約5倍速、マッハを超える超高速飛行で王都に向けて飛来した次代のブラックドラゴンであるリンは、その全身に極限まで闇のマナを蓄えることに成功していた。

 走り抜けた約3000kmの空、そこに溢れた闇のマナを吸収しながら飛翔していたのだ。

 

『───みえた。まぞくのむれ、はんのうは20まんくらい。まだおうとはほろびてない』

 

 黒の竜の権能をすべて受け継いだリンの視界には、王都に群がる魔族の軍勢の全てが見えていた。

 それに抵抗する王都の人々の祈りも、願いも、絶望に抗う強い意志も、全て受け止めていた。

 生物の感情を受け止める能力。竜の特性であり、それゆえに彼女たちに嘘は通じない。

 真実を見通す紅い眼が、50m近い巨躯となった今も鋭く王都に群がる魔族を睨み、そして反撃の狼煙となる牙を突き立てんとす。

 

「うーっしゃ! ギリ間に合ったな! んじゃ打ち合わせした感じでみんなよろしく!!」

「了解です、マスター」

「御意」

「うむ」

 

 そんな彼女の背の上、超々高速飛行の中でもリンの魔力により風圧から守られていたメンバーのうち、リンにとって愛する(つがい)が声を上げる。

 王都に向かい飛翔する中で、大気中に広がってしまった闇のマナを管理人の権能で吸収しながら飛び続けたリンの体内には、限界を超えた膨大なる魔素がチャージされていた。

 見る見るうちに近づく王都の城壁、そこに黒い津波のように攻め込む魔族に対してのファーストアタックは黒龍の咆哮から始まる。

 

『不可侵協定を破った意味を分からせてやりなさい、リン!』

 

 紅備えの武者鎧の腰に番えられた黒の大太刀よりかけられる親の声に小さく頷く。

 そして同時に、体内に貯め込まれた闇のマナを全て逆鱗を通して火力に変換し、口元へ。

 ドラゴンは魔力を逆鱗に通すことで、規格外の出力を持つ火砲に変換できる。

 それによる攻撃がこれまでにリンやヒルデガルドが見せた咆哮(ブレスキャノン)であるのだが、その一撃が今回、限界まで蓄えた闇のマナを、ブラックドラゴンの権能を受け継いだリンの50mを超える巨躯から放たれる。

 それがどのような破壊をもたらすか、一瞬後に魔族はそれを味わうことになった。

 

『────ッコォォォォォーーーーーーー!!!』

 

 閃光。

 一筋の閃光が戦場を奔った。

 通常のワイバーンが放つような火炎放射ではなく、リンが通常放つような太い熱線でもなく、余りにも膨大な熱量から放たれたエネルギーは一筋のレーザーとなり、戦場の上空にたどり着いて一瞬で空中に停止したリンの竜の咢から地上に向けて放たれた。

 最前線で戦線を支えていたカトルとティオの部隊、その100mほど先の地点を、真っすぐ横に撫で切るようにか細い光の筋が地上を()()()

 誰も見たことがない竜のブレス。ひゅん、と軽さすら感じられる独特の裂帛音を奏でて魔族の軍勢の端から端までレーザーが撫で切った。

 そして数拍の後に。

 

 ──────爆裂。

 

 余りにも爆裂。

 まるで活火山が爆発したかのような凄まじい爆炎が地上から吹きあがる。

 伝説の黒竜が放つ闇の魔素をふんだんに注ぎ込んだ一撃は、先程レーザーがなぞった地表に核分裂を生むほどの熱量を注ぎ込み、なぞった道筋の通りに生まれた大爆発で魔王軍はものの見事に木っ端微塵となり、前線と後方が分断された。

 10万体を超える魔族が、この一撃でその身を光の塵へと還した。

 

「おっ、おぉッ!?」

「なに今のぉ!? この魔力、黒いドラゴン……まさかっ、リンちゃん!?」

 

 これを最も間近で見たのが、戦場の最前線で魔族の猛攻をしのいでいたカトルとティオだ。

 急に闇の魔素が大気中に広がり、猛烈な勢いで攻め込んできた魔王軍に対して、意地でも通してやるものかと獅子奮迅の働きを見せていた二人。

 しかし相手の数が多すぎた。魔力も徐々に尽き始め、ジリ貧を感じつつも……友との、兄との誓いを果たさんと数分にわたり魔族の戦線を押し上げさせなかった彼らの功績は称えるべきであろう。

 この二人が魔王軍の攻勢を押し留めていなければ、既に王都に魔族が侵入するほどの被害を生んでいた筈なのだから。

 

 しかしそんな二人が新たに戦場に現れた乱入者を見て、その竜の色を見て、放った攻撃が魔王軍に向いたのを見て────確信する。

 あれはリンちゃんだ。

 ロックが拾ってきた、ドラゴニュートの少女。愛くるしくもその身に力を宿す、彼の大切な女性の一人。

 そんな彼女が自分の親を探していたことは知っているし、親の情報が分かってロックと共にグランガッチからホエール山脈に向かったことも知っている。

 しかし数日とかかっていないこの短時間でこの変わりよう。

 ロックの死亡通知。

 何かあった────そう、なにか、アイツ(ロック)らしいとんでもないことがあったことは容易に察することができて。

 

 そして、そんな彼女の巨体を見上げる二人の目に。

 竜の背から地上に向けて()()()()、3つの影が映る。

 飛び降りるという表現は適切ではなかった。明らかに大地へ向けて加速していた。

 放たれたうちの一つは大きな紅の竜翼を広げてこちらに向かって来て。

 そして、残る二つは。

 

 

※    ※    ※

 

 

 

 空気を切り裂く音と共に、大質量の赤い塊が地上に着弾した。

 ブラックドラゴンが放った崩壊咆哮(ブレス・カタストロフ)により戦場は完全に分断され、王都に近い側に残った僅かな魔族と、爆発跡を超えた向こうに未だ残る10万の魔王軍。

 唐突な破壊の光による蹂躙で混乱が生じている魔王軍の左翼に、一機の戦略兵器が投下された。

 

「────姓を鬼龍、名を山茶花。人の世を乱す魔の者共よ、いざ参るッ!!」

 

 紅備の武者鎧に身を包んだサザンカが、大太刀を鞘から抜き放った。

 着地の衝撃で周囲の魔族は吹き飛ばされたが、無論の事さらにその周りには地平線すら見渡せないほどの魔族の群れに囲まれている。

 10万の大群の左翼に唐突に飛び込んできた人間。

 先程のドラゴンの一撃による混乱の中で、しかし、周囲の魔族はいかにしてこの闖入者を排除するべきか思考を巡らせる─────程の猶予すら許されなかった。

 

「────チェェェェストォォォォッッッ!!!」

 

 その鎧武者が振るう大太刀の一閃に、悉く首を刎ねられたからだ。

 

 サザンカの卓越な技量のうち、これまで特に活躍した技は『隼断』であっただろう。

 0フレームで敵の首を刈り取るという絶技。放てば必中のこの技の威力をだれも疑う所ではない。

 1対1であれば完全有利。バアルの頸こそ魔装具でない大太刀によるものだったため縊り切れなかったが、ロック以外は当たるまで捌くことすらできていなかった。

 

 だが勘違いしてはいけない。

 彼女の本質、真の実力が発揮される場は1対1の尋常の勝負ではなく、対複数戦闘の戦場なのだ。

 ヒノクニの時代、何時如何なる場でも襲撃され、それを凌いできたサザンカの真の能力は複数に囲まれたときに発揮される。

 

「シィィィッッ!!」

 

 一呼吸五振。

 一般人であれば持つことさえ難しそうな重量のある大太刀を、小枝のように軽く振るい、神速の斬撃を周囲にまき散らす。

 さらにその一振り一振りの威力が凄まじく、僅かに乗せた魔力で斬撃の空裂刃を生み、周囲100mに真空の刃の嵐が吹き荒れた。

 新調した魔装具、魔刀【黒鴉(くろがらす)】の対魔族性能も加味して、瞬く間に1000体、2000体、3000体と殺戮数を重ねていく。

 魔族の僅かな反撃も、紅備えの武者鎧が悉くはじき返し、状態異常はすべて無効化。

 

 命の遣り取りを許可された集団戦こそがサザンカの真骨頂。

 かつて闘技大会の予選で見せた一振りによる地割の一撃を、1秒間に5発ずつ、無呼吸で放つことができるのだ。

 

「……ふむ! 斬るたびに魔力を吸うのか、ノワール殿は! これは面白い!」

『ブラックドラゴンは闇の魔素の管理者。相手が魔族であれば魔力吸収効果が発揮されます。存分に振るいなさいサザンカ』

 

 さらに魔装具の追加効果で敵を屠れば屠るほど魔力を吸収し、魔力切れの心配がなくなる。

 サザンカの振るう黒刀。先代ブラックドラゴンのノワールが鋳造した魔装具たる其れは、切れ味は元の名刀のままに、魔装具としての質は最高級の銘を打ち、そして闇の竜の意思が籠るそれには新たな権能が獲得されていた。

 

 それは一つの戦略兵器。

 

 無数の斬撃。

 無敵の防御。

 無限の体力。

 無極の魔力。

 

 そして、渺々たる殺意。

 

「────あははははははははは!!」

 

 血飛沫の雨をまき散らしながら、赤カブトが魔王軍を蹂躙する。

 

 

※    ※    ※

 

 

 僅かに時間は巻き戻り、魔王軍後衛のもう片翼。

 サザンカという戦略兵器が投下された左翼の反対方向である右翼側にも、兵器が投下されていた。

 それは純粋に魔に破壊をもたらすもの。魔族を殺す者────否、()

 

「エクスカスタム『ツインドライヴインフィニティ(1∞1)』─────!!」

 

 対魔獣用決戦兵器汎用人型アンドロイド『(イレヴン)』。

 魔族を鏖殺するためだけに生み出されたその兵器が、落下中の空中で新しく開放したスキルの名を高らかに叫ぶ。

 

 つい先ほどまで超えられなかった、レベル200の壁。レベル上限と言われる現在の人類が超えられなかったその壁を、彼女たちは突破した。

 魔王との戦闘による経験値がそれを成して、同時にレベル200を超えたことでイレヴンの開放可能スキルの中に、極めて特異なそれがアンロックされたのだ。

 

 ───魔力炉心の増築。

 

 恒常的に、イレヴンの体内にもう一つの魔力炉心を生み出すと言うそのスキル。

 当初より搭載されていた魔力炉心の出力に比べれば追加の炉心は50%ほどの出力であったが、二つの炉心が両胸に搭載されたことにより、イレヴンの出力は劇的に向上した。

 ツインドライブインフィニティのスキルにより、10分間は全てのスキルの能力、性能を10倍まで引き上げることができる。

 同時に魔力切れもない。あらゆるスキルをすさまじい高出力で連発することが可能となった。

 

「エクスアームズ11『エクスキューショニング』、強化対象『カーニバルミサイル』、強化率限界突破───」

 

 それを、かつて獣皇フォルクルスにトドメを刺した際のコンボに使う。

 当時でさえ一斉発射の凄まじい威力で将軍を討伐したその威力が、10倍の性能と破壊力を携えた大量破壊兵器。

 

「敵性反応ロックオン開始。ロック数最大拡張。10^4乗───10000体ロック完了─────Fire!!」

 

 空中を落下する間にイレヴンの全身からミサイルキャリアーが展開。展開された箱状のそこからさらに10倍のキャリアーが展開され、それを4度繰り返して余りにも大量のミサイルキャリアーが空中に傘のように展開される。

 射出の命令と共に放たれた一万発のミサイルは、ロックした先の魔族に超高速の誘導を伴って飛来し、空中にいくつもの噴出煙を描いて地上に着弾した。

 文字通りのミサイルの雨により、クラスター爆弾の比ではない広範囲火力支援絨毯爆撃が地上に群れる魔王軍に見舞われる。

 ミサイルの威力は当然にしてイレヴンのレベルに比例。エクスキューショニングによる威力増大も重ねて、一発のミサイルが着弾後周囲5mを破壊する爆発を起こす。

 それが一万。

 ミサイル効果範囲に存在した魔族は、欠片も残らず木っ端微塵に吹き飛ばされた。

 

「──着地に成功。戦闘行動開始!」

 

 そして爆心地にイレヴンが着地する。

 ダイブブースターで落下の勢いを殺し降り立ったその周囲には既に魔族の姿はなく、光の塵へと消えていた。残るは大量の爆発により地表が根こそぎ削り取られた茶褐色の土が広がるばかり。

 しかし、ミサイル範囲のさらに遠方にはまだ魔族が生存していた。爆心地の中心に降り立ったイレヴンに恐怖し、浮足立っているのが見える。

 右翼側はこれでほぼ壊滅。しかし左翼に逃げようとしても向こうでは殺人竜巻(サザンカ)が荒れ狂っている。

 前線はブラックドラゴンのブレスで完全に分断されており、最早有象無象の魔族たちにとっては後方に逃げるしか手段がなくなっていた。

 先程魔王軍全体に降り注いだ恵みの闇のマナも、ブラックドラゴンが周囲の魔素を吸収してしまったため、戦争が始まる時よりも軍全体の士気は落ちてしまっている。

 

 無論、それを逃がすイレヴンではない。

 

「エクスアームズ09『ファントムレーザー』!!」

 

 両の掌より、ツインドライヴで出力が上昇したファントムレーザーを放つ。

 左右に大きく開いた腕の先、横一文字に極太の光属性のレーザーが放たれ、それに触れる魔族を見る見るうちに光の塵へと変えていく。

 そのまま自分の体を軸にぐるりと一回転。周囲にいた魔族の最前列を綺麗に浄化させる。

 

 しかし、イレヴンが求めた威力はまだ出ていなかった。

 後衛にいた魔族はどうやら中級から上級の魔族が多いようで、弱体化した今でも一体一体を貫通するほどの威力は片手から放つファントムレーザーでは得られなかった。

 このまま何度も回転すれば表面を削ぎ落すように魔族の数は減らせるだろうが、それでは効率が悪い。

 ならばレーザーの出力を上げて貫通属性をつけてから、振り回せばいい。

 

「───トランスフォーム流用、砲口生成! ツインファントムレーザー起動!」

 

 ファントムレーザーを放ち続ける両手を胸の前に突き出し、両手を変形させる。

 二つの掌がそれぞれ砲身へと変形し、ファントムレーザーを収束させて二筋のレーザーが重なるようにその密度を高め、己の目の前に放つそれが魔族を貫くための出力向上を見せる。

 放たれている光の帯は収束し、熱量を上げていく。先ほどリンの口から放たれた超高密度の熱線ほどではないが、同様の理屈で貫通力が高まるレーザー。

 その貫通力が最大まで高まり、容易く魔族を貫くほどの出力まで達した瞬間に、それを()()()()()

 

「エクスレーザー……アラウンドスラッシュッ!!」

 

 両腕、手首から先を砲身へと変えたそれを、まるで平泳ぎでもするかのように周囲を薙ぎ払うように胸先から背中まで振るった。

 出力が高まったレーザーがイレヴンを中心にぐるりと周囲を薙ぎ、貫通力が高まったそれが周囲500mの魔族を悉く上半身と下半身に分離させる。

 魔王軍の後衛右翼は、この一撃を以て壊滅した。

 

「ふぅ……」

 

 直近で己に振りかかりかねない危険が無くなったことを確認し、イレヴンが周囲をセンサーで精査する。

 

「……サザンカは毎秒500体のペースで殲滅中。リンは空中より再度咆哮射出の為のクールタイム中。ヒルデガルドは王都軍の前衛のカトル、ティオらと無事に合流、戦線を立て直している。少なくない被害は出てしまっていますが……」

 

 リンのブレスが魔王軍を襲ってからおよそ1分。

 この間に魔王軍は殆ど壊滅状態に陥ったと言っていいだろう。

 ブレスによる断絶によって王軍の最前列から100m、1万体ほどはまだ王都側に残っているが、それは今しがた増援に駆け付けたヒルデガルドとカトル、ティオらが順調に殲滅してくれている。

 闇のマナもこの空間からリンが吸収してしまっているので魔族の動きはすこぶる悪い。人類軍の反撃の瞬間となるだろう。

 人類側にもかなりの損害が出てしまっていることは間違いない。死者も複数名出てしまっており……それでも、陥落は至らせなかった。

 後はマスターたるロックの勘の通りに進めば……とセンサーによる精査中にイレヴンが考えていたところで。

 

「……ん、これは……」

 

 発見する。

 ほぼほぼ壊滅状態にある魔王軍の後衛、その最後方に今回の戦争の指揮官である将軍クラスの魔族が存在した。

 一瞬の惨劇に辛酸を舐めたような表情を浮かべているその六大将軍の名は。

 

「────第一席、破壊将ベルゼビュート……!!」

 

 あれさえ討てば、この戦争は終わる。

 そのように、彼女の(マスター)の勘は言っていた。

 

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