勘のいいガキはデカパイハーレムの夢をあきらめない! 作:そとみち
【side ベルゼビュート】
「────なんたる有様かァッッ!!」
六大将軍の第一席、破壊将ベルゼビュートはその眼に写る光景に焦燥の籠った叫びをあげた。
魔王軍にとって必勝が確約された戦争。その総指揮を執っていたのは六大将軍の中でも最強と称される彼であった。
軍の最後方に位置し、全体の流れを俯瞰していた。前に出るまでもなかったのだ。数で勝っている以上、数で圧す事こそがこの戦の正着打。
実際に、戦線の最前線に配置した下級魔族から中級魔族で相当に人類軍の勢いは削げていた。時間稼ぎは成功していた。
「魔王様に与えられた
この戦争を仕掛ける1日前に意識を取り戻した魔王ダブレスと、ベルゼビュートら将軍たちで打ち合わせした必勝の作戦はこうだ。
まず、フォルクルスが死ぬ前に集めていた魔族の軍勢20万と、それぞれの将軍が率いる魔族5万を合流させ、ベルゼビュートが指揮を執り王都に差し向ける。
魔族を王都付近の平野に召喚する術式はフォルクルスが遺していた。それを用いて、電撃戦による殲滅戦を展開した。
さらに同時作戦で、魔王および己が配下バアル、他第三席の竜帝ニーズヘッグとその部下、幻魔将アイムの部下のヴィネアをホエール山脈の闇の魔素が濃い所へワープし、厄介なブラックドラゴンの息の根を止める。
これにより、世界中に闇の魔素が溢れる事になる。王都に攻め込んでいる魔王軍がさらに活性化される。これを打ち破れるほどの命無き者はこの世界に存在しない。
そうして王都付近にも闇の魔素が十分に広がれば、魔王様らホエール山脈に攻め込んでいたメンバーも王都に転移できるようになり、チェックメイト。
魔族が人類を滅ぼし、世界を支配する。
故に、ベルゼビュートはこの戦争での命題として、闇の魔素が広がるまでの時間稼ぎに徹した。
かくして数時間ほど人類軍が粘ったのちに、予定通りに闇の魔素がホエール山脈の方角から世界に広がって。
魔王軍全体が数倍に強化されて、人類軍を呑み込もうとして。
魔装具を用いる冒険者の数も想像以上に少なく、このままならば魔王様がこちらに転移するのを待たずに王都城門を突破できそうなほどの優勢を見せていた────────はずなのに。
「すべてはあの闇の竜……!! 何者だ!? 闇の魔素が一度広がった以上、ノワールは絶命を果たしたはず!! カリーナの報告にあったノワールの子か……しかしなぜ!?」
飛来した次代のブラックドラゴンが、魔王軍の作戦を全て粉砕した。
魔族にとって甘露となる闇のマナの、その元締めの管理人。ヤツがこの戦場に凄まじい速度で飛来し、魔素をすべて吸収してしまったのだ。きわめてまずい事態となった。
同時に魔王軍の魔族たちもその力を奪われた。戦争がはじまったころよりも周囲の空間の闇の魔素は薄まっており、満足に力を生み出せていない。人類軍が押し返している。
ドラゴンの口から放たれた規格外のブレスで魔王軍は既に半壊。
さらに追撃として、己に近い後衛の右翼左翼にそれぞれ戦略兵器が投下されている。
見る見るうちに魔族が滅ぼされて行く。既に全滅と言っていいほどの被害が出てしまっている。
─────だが。
「なれば……あの黒龍を弑するまでッ!!」
ここに存在するのは第一席の破壊将である。
闇の魔素が薄れたこの空間で、圧倒的な火力を有するブラックドラゴンや他の冒険者らがいる状況であっても、盤面をひっくり返せるほどの強さがベルゼビュートにはあった。
魔王軍の中では魔王に次ぐ実力者。
未だ空に浮かぶブラックドラゴンの腹に大穴を開けることなど造作もない。確信がある。
破壊将の名は伊達ではないのだ。
彼の奥義たる一撃は、威力では魔王の放つ魔力砲すら上回る。
絶対の死を確約する破壊魔法。即死を付与する弑殺の概念兵装。
その一撃で黒龍を穿ち、さらに今現在己の近くにいる2つの戦略兵器……アンドロイドと、赤備えの鎧武者。これを塵へと変える。
この3つが人類軍の扇の要だ。ここさえ滅ぼせば再び天秤は魔王軍に傾く。
何より、ブラックドラゴンを打ち滅ぼしさえすれば、あれの身の内にたまっているはずの闇の魔素も再び拡散するであろう。残りの魔族が力を取り戻し、攻勢に出ることが可能。
闇の魔素が広がれば今度こそ魔王様も仲間を引き連れて転移できる。故に、ブラックドラゴンさえ殺せば再び人類の滅びが始まるのだ。
「カァァァァ………ッ!!!」
外に漏らさぬよう、己が魔力を高め、究極の一撃を繰り出さんとベルゼビュートが構えた。
薄ぼんやりとその身に闇の光が纏う。しかし感づかれてはいけないため、僅かたりとも魔力を外に漏らさない。
貯めて放つは両腕からの崩壊魔力砲。それに触れる事は死を意味する。
接触対象に分子崩壊を強要し、状態異常耐性も関係なく必殺するという凄まじい特性を持つ一撃。
それを両腕に纏わせ、空中で今再びブレスを吐かんとしているブラックドラゴンに向けた。
この一撃で再び形勢逆転。
勝つのは魔王軍だ。
滅びるのは人類だ。
「父の元に召されるがよい、ノワールの忘れ形見よッ!!!」
その一撃は────確かに、次代のブラックドラゴンであるリンを貫き崩壊させるほどの威力を持っていただろう。
それが放たれていれば、人類は再び滅びの運命をなぞることになったであろう。
盤面はひっくり返されていたであろう。
だがベルゼビュートはただ一つ、部下からの報告で正しく認識できていない事があった。
それを災厄と認識できていない、知識の欠落があった。
「ッッハァ────」
「────おっじゃまァ!」
ベルゼビュートが
視界の全てが、逆さになった赤毛の少年のニヤけたツラで埋まっていた。
※ ※ ※
【10秒前】
【side
「うひょほほほほー」
『みゃぁぁぁぁぁ!!』
はい。
本日二度目の自由落下中なのが今の俺です。
「落ちる感覚も慣れて来たなぁ……」
『みゃあ!! みゃああああああ!?!?!?!』
なんで落ちてるんだって?
そりゃあ勘に従って最後の一手を埋めるためにリンの背中から飛び降りたからに決まってるやろがい。
でっかいドラゴンになったリンの背中に乗って、闇の魔素を回収しながら王都にぶっ飛んでいって、そしてようやく到着して。
少なくない被害が出ちまってはいたけど、まだ王都は健在。カトルとティオも、炎と水の柱がブチ上がっていたことから生存が確認できて。
完全に間に合ったとまでは言えないけど、手遅れにはならなかった。
ここからひっくり返してやるぜオラッ!! って感じで戦場に到着した俺たち。
つってもまぁ俺が出来ることはほとんどない。
さっきのダブレスちゃんとか数人程度なら全方位捌き斬りマンになれるけど、流石に数万の大軍を相手にはできない。基本的に俺はタイマン専用なのだ。
なのでリンには空中でとどまってブレスで魔王軍を掃き掃除してもらうことにして、機動力に富むヒルデガルドさんにはカトルやティオのいるあたり、最前線で戦ってる人類軍の支援に回ってもらって。
んで対多数戦闘を得意とするイレヴンとサザンカさんには鉄砲玉になってもらって敵軍ど真ん中に突撃してもらって。
まぁ……俺の想像以上の被害が魔王軍に出ているようだが……(恐怖)。
「イレヴンもサザンカさんも怖かったな。怒らせないようにしようなミャウ」
『みゃああああああ…………!!!』
頭から真っ逆さまに地表に向けて流れ星になりながら、フードにしがみつくミャウに語り掛ける。
なんかおもしれー鳴き声出してんなコイツ。大丈夫だって俺がいるからなんとかなるから。着地の瞬間だけ気を付けてくれればいいから。
さて、そんなわけで殲滅と防衛はみんなに任せて、俺はリンの背中の上でみんなを応援するという最重要使命を果たしていたわけなのだが、つい先ほど唐突に俺の勘が急に叫び出したのだ。
こんな勝ち確の状態なのに、リンが死にそうだという予感がして。
んでヤバい! ってなって速攻でその原因がいる方向に向けて飛び降りたってわけ。
落下しながら地表の、ほぼ壊滅状態の魔王軍を見れば……その原因が分かった。
最後方、俺が目指して落ちてっている先に明らかになんか格の高い魔族がいて、そいつがなんかやりそうな雰囲気を出してたのだ。
俺の勘は
落下しながら気配を消して、少々体勢を整えたり腕をバタバタして空中遊泳を試みたりして……落下速度を調整する。
この捌き斬りをミスったら色々終わることが分かっているので、入念に体の動きを勘に任せた。
着地するタイミングと捌き斬りのタイミングを一致させる。
「……3……2……………」
『み………』
脳内カウントダウン開始。フードのミャウは気絶。
寸分の狂いもないタイミング。クソ魔族がその両腕をリンに向けたがそちらに集中しすぎて気配を消した俺には気付いていない。
今。
「ッッハァ────」
「────おっじゃまァ!」
唐突なエントリーを果たした俺は、両腕を振るって片手でクソ魔族の一撃を捌き斬りで返し、同時に着地の衝撃も捌き斬りで弾いた。
両方の捌き斬りが成功し、地面にはヒビが入ったが俺もミャウも無事着地。
そして攻撃をブチ返してやった魔族は、驚愕にその表情を歪めて、次の瞬間に。
「なッ…………─────」
「えっ死ぬの早」
死んだ。
あっけなく死んだわ。断末魔を残すこともなく胸元がまず物理的に粉々になって、それからしっかりと光の粒子になって魔族が死ぬ時のエフェクトが生じて死んだわ。
えっ弱。
これまで相対した魔族……バアルとかヴィネアとかカリーナとか、将軍格で言うとフォルクルスとかニーズヘッグちゃんとかだって捌き斬りの一撃では倒せなかったのに。死んだわコイツ。
え、紙耐久だった説ある? もしくはよっぽどの一撃だったのかな。でもそんなになんかすげーって感じの攻撃じゃなかったようにも見えたけど……まあええ!! ブッ殺した!!
ブッ殺したなら続いて俺がやることはただ一つッ!!
「……イレヴン助けてェーー!!! サザンカさぁーーーん!!! 護りの指輪よ俺を護れぇぇぇッッ!!!」
『みゃふ!? ……みゃ』
助けを求める事だよなぁ!?
魔王軍の軍勢の一番後ろでまだまだ魔族が健在な所に飛び込んじまったからさぁ! このままだと死ぬんだよね俺ね!!
10体そこらならまだギリなんとかなるけど100体にも囲まれたら護りの指輪のバリアー捌き斬りでも間に合わなくなるしよ!
勢いで飛び込んだけど死ぬかなぁ俺なぁ!? 早く助けに来てくれ俺の女たちーーっ!!
と全力で叫んだところで、しかし救援は実に早くやって来た。
俺が殺した魔族の死になぜかおびえた様子の周囲の魔族が息を呑んでいた僅かな時間で、次の瞬間にその魔族どもが見覚えのある
ドリルのように回転して飛んできたロケットパンチ。
間違いない。ドリルスティンガーキャノンだ。
さらに同時に俺の周囲を回るようにガードビットも展開される。手厚い支援助かるわ。
「……マスター!! 無事ですかっ!?」
「おーイレヴン!! 助かる!! 全然無事だぜピンピンしてらぁ!」
『みゃあ!』
流石に炉心増設して性能向上させただけはある。ドリルスティンガーキャノンの威力もすさまじい事になっており、周囲3mほどを引き裂いて俺の周囲をぐるぐる回って露払いしてくれた。
そしてダイブブースターで高速で俺に向かって飛び込んできたイレヴン。ガードビットもバッチリ護ってくれてるしこれで一安心だぜ!
「よかった……急にマスターの反応がリンから落ちて来たから何事かと思いました。しかし流石ですねマスター。まさか一撃で滅ぼしてしまうとは」
「え、何の話?」
「先ほどマスターが倒した魔族です。あれは六大将軍第一席の破壊将ベルゼビュート。私やサザンカ、リンでも相当な苦戦を強いられるだろう強敵でした」
「えっマジ?」
「マジマジ。マスターがあっけなく倒してくれたので、これでこの戦争の勝利は間違いありません。後は残党狩りだけですね」
んでなんか褒めてくれたんで詳しく話を聞けば、先ほど俺が殺したのはフォルクルスやニーズヘッグと同じ将軍格の一人だったということで。
ええ。あっさりしすぎてない? 前二人に比べて噛み合う会話もしてねぇしデカパイもねぇし……何の感慨も沸かなかったわ。
まぁいいか。イレヴンが察してた戦力が本当なら、アイツ一人に苦戦させられた可能性だってあったわけで。俺の女たちが殺されないようにできたんなら言うことなし!!
んじゃあとはほぼほぼ壊滅状態の魔王軍を出来る限り滅ぼすだけやな!
「まあ俺は全く力になれないのでイレヴンとサザンカさんと、あと人類軍のみんなに頑張ってもらうしかあるまい」
『みゃあ』
「ええ、マスターは既に十分にご活躍されました。いったん王都軍のほうまで撤退しましょう。安全な場所まで私のバイクで道を切り開きますので」
「頼れるゥ!」
戦争の終わりが近づいてきて、俺のやれることは恐らくもうほとんどないだろう。
邪魔しちゃ悪いし、カトルやティオ……みんなが無事なことも確かめたいし、言われた通りに後退しよう。
今の俺の周囲は既にドリルスティンガーキャノンによって掃討されて安全になった。
サザンカさんの方はなんか竜巻みたいに今もバリバリ魔族を殺しまくってるし、リンも高度を落として散発式のブレスを魔王軍の方に放って爆発を起こしてるし。
しかしまぁここに来るまでに見た魔王軍は凄まじい数だった。
これだけボッコボコにしても残党は出来ちまうかもしれないな。出来る限り殲滅したいけど王都周辺に魔族が逃げたとなると今後問題に……などと考えていると。
「……おや? これは!?」
「おおん!? なんだぁ!?」
『みゃあ!?』
王都を護るように展開されている守護結界。
その光のドームが急激かつ莫大に広がり、戦場全域を包み込んだ。