勘のいいガキはデカパイハーレムの夢をあきらめない!   作:そとみち

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119 誰も知らない知られちゃいけない

 

 

【scene 魔族領 円卓】

【side ???】

 

 

『───我が呼掛に応えよ。獣を統べる者。暴虐の権化。深淵たる泥泥より闇の呼掛に応えよ。()は百獣の王。()は餓狼の魂。()(ことわり)より生まれし六芒星の一柱─────甦れ、()()─────』

 

 ……あァ。

 随分と目覚ましの音にしちゃ仰々しい声色じゃァねェか?

 

「…………くァ~う……ったく、相変らず辛気臭ェ景色だなァ。ここはよォ」

()()()()()()。魔王様の御前ですよ、目覚めてすぐとはいえ態度は改めなさい」

「おおっほ。そいつァ失礼いたしました……魔王サマ、不甲斐ない配下である私めを蘇生いただきまして心より御礼申し上げます」

「よい」

 

 六芒星の魔法陣がいくつも描かれた円卓の上で、魔王サマに肉体を蘇生させられたオイラはあくびを一つかました。

 その後の呟きを魔王サマの隣にいたニーズヘッグに咎められてしまい、慌てて魔王サマに遜って仰々しく頭を下げる。

 それに一瞥も返さずに、彼女の己の席である円卓の傍の玉座に向かい、いつもの通りちょこんと座った。

 相変らず愛想のねェ女だこと。胸も腰もボリュームが足りねェよなァ魔王サマは。

 口が裂けても言葉にはしねェけどよ。

 

 ……多分、()()()も同じような感想を持つンだろうなァ。

 もし出会ってたらだけどよ。まぁそしたら死んでるだろうなアイツでも。

 

「……で、なんだァ……? どういう状況になってんだァ、こりゃあよ」

 

 円卓から降りて、そこでオイラもようやく将軍格の集う場である円卓が異常な状況になっていることに気付く。

 先程声をかけて来たニーズヘッグが己の席に座っているが……それ以外の4席が()()()()()()()()()()()

 

 明らかに異常な事態。

 魔王サマが将軍たるオイラを復活させる儀式を執り行うとすれば、現存する将軍は同席する。そういうしきたりになっている。

 だったら少なくとも第一席のベルゼビュートと第二席のアイムはいなきゃならねェし、オイラは第五席だから第四席のベルベッドだって魔王サマが先に復活させてたっておかしくねェ。

 それなのに、この場にいるのは円卓に座るニーズヘッグと、その配下のドラゴニュート偽種(レプリカント)の二人。

 そして第一席の空席の後ろに立つバアル。第二席の空席の後ろにヴィネア。

 たった5人しか召集されていなかった。

 

「……私が説明いたします。我ら魔王軍は、人類に……いや、()()()()()()に後塵を拝しました」

「ほォ? ────────()()()()?」

「そうです。フォルクルス、貴方を討伐したあの少年の力を……私たちは侮っていた。理解が及んでいなかった……」

 

 可愛い顔を苦虫を嚙み潰したように歪めるニーズヘッグが、こうなった全ての原因を語る。

 名前は出なくとも、オイラは強烈にその心当たりがあった。

 ロック=イーリーアウス。

 アイツは、アイツだけはオイラたち魔族の想像を軽く上回ってくることを、オイラが一番よく知っているから。

 

「貴方がロックら一行に討伐された後、貴方の部下のカリーナが捕らえられ……ブラックドラゴンの件が漏れた。そしてほぼ同時期に魔王様がお目覚めになられました。その後に私たちは人類軍への侵攻を開始して───────」

 

 ニーズヘッグがオイラが死んでからの経過を順序立てて説明してくれるので、ない頭を廻して良ォく咀嚼しながらそれを聞く。

 

 オイラがグランガッチ征服後に使おうとしていた隠し玉の下級中級魔族の軍勢20万と、それぞれの将軍が保有していた上級魔族の軍勢1万ずつを率いて、23万の大軍勢を魔王様の力で王都付近に転移させ、電撃戦を仕掛ける。

 同時にホエール山脈に存在するブラックドラゴン、ノワールに会いに向かっていたロックら一行の動きも掴んでいたため、魔王サマが直々に配下を連れてノワールとロックを同時に抹殺しようとした。

 それにより闇のマナを世界中に広げて、王都を、人類の要を押しつぶそうとした二面攻勢は──────しかし、ロック=イーリーアウスの生還により全てをひっくり返されてしまった。

 

 バアルが闇のマナの奔流に叩き落として確実に人類ならば死ぬであろうと思われたそれを、ロックは無傷で生き延びた。

 さらに、どのような手段を用いたかは現地を確認した今でも理解不能だが、闇の魔素の奔流の源泉すら止められてしまっていて。

 魔王サマに炉心を貫かれ息絶えようとしていたノワールも出鱈目な魔力放出で命を繋がれ、次代のブラックドラゴンが誕生してしまい。

 それが王都の戦争に間に合ってしまったため、闇の魔素が王都周辺に十分に広がり切ることができず、魔王サマや配下たちが戦場に転移できなくなって。

 果たして救世主となったロックら一行は、魔王サマとの戦いを生き延びたことでレベルをオイラたちよりも高めて、ブラックドラゴンとアンドロイドとヒノクニの武者により殲滅させられ。

 軍勢を指揮していたベルゼビュートはロックに討伐され。

 同時に、今この場に残っているロック討伐隊に参加した将軍格、および幹部級以外はその戦争で命を失った。

 

 

 ……なんとも、まぁ。

 

「はァー……あんにゃろう、やりやがるなァ!! 流石はオイラを殺したクソ野郎だぜェ!!」

「喜んでいる場合ですか! ベルゼビュートは討たれ、我らの力の源である闇の魔素も供給源が止まってしまった……!! 今はまだ噴火の際に撒き散らされた魔素が魔族領に色濃く残っているからいいものの、これを使い果たしてしまえば我ら魔族は皆滅びてしまうのですよ!?」

「おっと、こいつァ失敬。わァってるよォ……のっぴきならねェ状況だ、ってのはねェ」

 

 文字通りの英雄たる活躍を果たしているロックの、魔族にとっては忌ま忌ましい戦歴を並べられ、逆に笑いがこみあげてきてしまった。

 ホンットにやりやがるぜアイツ。

 

 まァなんつーか……わかってたけどな。

 アイツがなんかやらかしかねねェような野郎だ、ってのはよ。

 アイツは駄目だ。殺そうとしては、駄目だ。

 こちらから盤面を立てようとすれば、それを必ずひっくり返してくる。

 そういう運命にあるガキだ。

 

 だからアレをまっすぐ殺ろうとするのは悪手だ。

 ヤるなら…………いや、まぁその辺りはおいおい考えるか。

 今は一先ず、まだ解消されてねェ疑問を確認しておくべきだな。

 

「……しっかしよォ。魔王サマが目覚めて、将軍格なら魔王サマの魔力で復活させられるようになったんだろ? ベルゼビュートや第四席のベルベッドや第六席のアブソリュートはどうしたんでェ? それにアイムもだ。アイツもやられちまったのかァ?」

「既に試した」

「……っと。こりゃまた失礼」

 

 話を脳内で整理して、湧き出てくる疑問のうちいくつかを口にする。

 まず、そもそも今は魔王サマが目覚めている。

 オイラをこうして復活させた以上、将軍を再生させる力は使えるのは間違いない。

 だったら他の将軍も復活させりゃいいんだ。やれることが純粋に増えるんだからよ。

 ついでにさっきの話に出てなかった第二席、幻魔将アイムは何でここにいないんだ、って疑問もセットで零したが……しかしそこで無口な魔王サマから無機質な声が返って来た。

 

「……蘇生魔法には縛りがある。生きている者、寿命や病で自然死した者、及び()()()()()を蘇生させることはできない」

「ふむ? ……つまり、ってェと……」

「ベルゼビュートはロック=イーリーアウスのスキルにより崩壊魔力砲を返されたのだろう。己の技で己を貫いた。()()()()()()()()()()()。故に、奴を蘇生することは叶わぬ」

「なんてこってェ……」

「フォルクルス、貴方はロックの捌き斬りではない攻撃で斃されたのでしょう。だから魔王様の蘇生が効いたのです。ベルゼビュートは不幸というほかありません……彼の殲滅力は破壊将の名の通りに群を抜いていた。彼がいれば再びの電撃侵攻なども戦略に組めたというのに……」

 

 恐るべき事実が語られる。

 確かに、魔王サマが使う蘇生魔法も、150年前に命在る者が使ってた蘇生魔法も、理屈は一緒だ。

 その属性が闇か光か、魔王サマのは亡骸無しでも円卓に呼び出せるって違いがあるだけで。

 そして、蘇生魔法は当然ながら何でもかんでも無条件で復活させられるモンじゃない。

 基本的に戦いの中で命を落とした者が対象であり、寿命で死んだヤツや、自殺した者までは蘇生させられない。

 

 そしてロックの『捌き斬り』は、相手の攻撃を相手に返すスキルだ。

 それにより殺された者は蘇生魔法の対象外になる……ってェことか。

 マジでなんなんだよアイツ。バグってんじゃねェのかアイツだけ。

 

「ベルベッドもアブソリュートも蘇生を試したが応じない。生きているのか、自殺したのか、ロック=イーリーアウスにやられたかは知らないが……今残っている将軍は3人となった」

「ん、3人。ってェことはアイムはまだ生きてるんッスね?」

「ええ。アイムは部下であるヴィネアを戦力としてこちらに残し、現在は単独で王都に忍び込んでいます。戦争の際の混乱に乗じて」

「頑張るねェアイツも」

 

 これまでにも姿を現さなかったベルベッドとアブソリュートは魔王サマの蘇生魔法にも応じなかったようで。

 つーことは……どうだろな。

 ベルベッドは自殺するようなヤツじゃねェし、なによりグンバツの美女だ。ロックが直接手にかけるとは思えない。

 復活してなけりゃ蘇生が効くはずだから、生きてはいるが魔王軍に合流できない事情がある……と見た方がいいなァ。封印とかされてんのかもなどっかで。

 アブソリュートだけはイマイチ何考えてっかわからねェヤツだったから……あっちも魔王軍に帰りたくないような事情でもあんのかもな。知らねェけど。

 

 そしてこの場にいない現存する将軍であるアイムはどうやらまだお仕事中らしい。王都に忍び込んでるって話で。

 オイラがやったように洗脳して匿ってもらってるか……いや、守護結界の中に入るのだって中々に一苦労するモンだ。グランガッチも相当慎重にやってようやくオイラとカリーナが入れたくらいなんだ。

 もしかするとアイツの得意なスキルを使ってんのかもな。

 

 ……()()()()ってところか。

 ()()()()()()()()()()、な。

 

 OK。とりあえず()()()()()()()()()()()()は解消した。

 とにかく魔王軍マジでやべェ~って事は理解した。オイラも忙しくなるなこりゃ。

 

「……っし、とりま状況は理解したぜェ。オイラはカリーナがまだ生きてりゃ転移魔法で呼び戻して、そっからまたセコセコ策を練っておくとするかァ……魔王サマから何か指示はありやすか?」

「アイムの働き次第だが、次の手を考えている。他に良き案が出ればそれを共有せよ。無駄に闇の魔素は使うな」

「了解ッス。そんじゃオイラはこれで」

 

 円卓は正直景色が陰鬱で好きな場所じゃねェ。

 状況を把握したオイラはアイムの作戦の詳細と、魔王サマの考える次の手とやらの指示がいずれ来ることと、他にパっと思いつく数多の策を練り上げるために、この場を後にすることにした。

 オイラは昔っからいっつもこんな感じだからな。ニーズヘッグもそれを咎めることはせず、目で追ってくるだけだった。

 

 しかし、退席する最後にオイラはちらりと目にした。

 ロック=イーリーアウスを殺し損ねた男……バアルの表情を。

 

 そこには己への叱咤があり。

 そこには己への反省があり。

 

 そして、そこには確かな喜色があった。

 

(───ケッ。こいつ()イカれちまったか? ったくよォ、お前は男も(たら)すのかよロックさんよォ)

 

 宿敵と認めたのだろう。

 それこそ、確実に仕留めたと確信できるような場にあっても、それすら乗り越えて全ての盤面をひっくり返したロックを英雄と認めたのだろう。

 気持ちは分からなくもねェぜ。オイラにもその気がゼロっつったら嘘になるからなァ。

 

 だがよ、バアル。

 お前らは盲信してるから気付いてねェかもしれねェけどよ。

 オイラは今しがた急に状況を聞いたから、逆に感じちまったことがあるんだぜ。

 

(──────()()()()()()()()()()()()()()

 

 そう。

 魔王サマの様子が、判断が、明らかにおかしくなっている。

 

 ノワールを殺す。人類への二面攻勢。

 そりゃいいさ。そこまではいい。全然いい。悪くない。

 

 だがよ。

 わざわざロック=イーリーアウスがホエール山脈に向かうのに時を合わせる必要があったか?

 あと1日でいい。あと1日だけ前か後にズラしておきゃ、ノワールだけブッ殺すことが出来ただろうが。

 ガキのドラゴン……リン、っつってたかロックの野郎は。

 アレがあの場にいなけりゃ、今回の事態はそもそも起きてねぇ。

 仮に一日後にしたことで管理権の継承が済んじまってたとしても、リンと抜け殻になったノワールを一緒にブッ殺せただろうしよ魔王サマなら。

 ロックがいなけりゃ何とでもなったんだ。

 

 それにホエール山脈での戦闘だっておかしい。

 撤退の判断、ちっと雑がすぎらァな。

 

 ロックの生死確認は100歩譲って仕方ねェって話にしてやるよ。

 どう考えても死ぬ場面だっただろうしなァ。アイツ殺しても死にそうにないってのは置いといてよォ。

 しかしよ、ノワールを瀕死にしてトドメを刺さなかったのはどういう了見だァ?

 確実に死ぬダメージを与えた? だったらそのまま殺しとくだろ普通。

 オイラだったらそうするぜ。

 

 ロックの取り巻きだってよォ……その場の闇の魔素が濃いからニーズヘッグたちも優勢に戦えてたが、オイラが殺されるほどの実力者だったんだぞ? 普通その場で全員始末するだろうが。

 撤退の判断は魔王サマが下したんだってなァ?

 ()()()()()()()()()()()()

 

(戦争だってよ……死んでたからって勝手にオイラがコツコツ集めた軍勢使いやがって。それはまぁいいとしたって、もっとやりようもタイミングもあっただろうがァ……)

 

 そりゃあな。

 オイラが今考えてるのは『後からならいくらでも言える』ってヤツさ。

 その場にいなかったのは100%殺されちまったオイラの失態だし、こうなっちまった原因を紐解けば戦犯は初動の闘技大会への襲撃ミスったオイラだよ。

 そこは反省してるよ。オイラが直接行くべきだったよ。グランガッチの支配を完全にして結界装置まで仕込んでたオイラの石橋叩きまくる癖は悪癖だってよくベルゼビュートに言われたよ。

 

 ……だがなぁ。

 

(オイラはこのままここで、人類と争ってていいのかァ……?)

 

 胸に浮かぶ疑問。己の所属する集団の綻び。

 純粋に力勝負で負けそうだってんならオイラだってない頭を廻して策を練るがね。

 そもそも王様の頭がおかしいかも、ってんじゃあなァ……?

 

(……ま、ロックに与するってわけにも当然いかねェからな。アイツは俺の手でブッ殺してェしよ。この想いだけは嘘じゃねェぜ、ロックよォ)

 

 下らない思考を、ケッ、と唾吐くことで床に吐き捨てて。

 尻尾をぶるんと振るい、(たてがみ)をガリガリと掻いてオイラはカリーナを呼び寄せる転移魔法を使うために魔力を練り上げ始めた。

 

 

 

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