勘のいいガキはデカパイハーレムの夢をあきらめない!   作:そとみち

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121 あーダメダメ!! 駄目だって!! マスコットな立ち位置のペットが急に人間形態になってハーレムの一員になるのは!! 諸刃の刃だって!! そのままがいいんだって!!!!

 

【side イレヴン】

 

 

『……本当の姿を見せたいの、貴女に。体を戻しても?』

「動くな。少しでもおかしな動きをすれば殺すと言いました」

『抵抗はしないわよ。私と貴女の仲でしょう? 誠意として見せておきたいのだけれど』

「舐めるな。霧化する能力が貴女に在ることは知っている。逃げるつもりならば……」

『首にかける貴女の手がドリルブラスターに変形すれば、私が霧に変化する前に喉を貫ける。それが分かっているから貴女もすぐに殺さないのでしょう? ……私の言葉も聞いてほしいわ。リンちゃんとご主人様が口論していた時に貴女、言ってたじゃない。『理由をしっかり聞いてからでも判断は遅くない』って』

「……知った口を……」

『知っているもの。ずっと……ご主人様を見ていたもの。……戻すわね』

 

 私が首に手をかける中で、了解の意を返す前に、ミャウが……否、ベルベッドがその肉体を猫の状態から人間形態に変化する。

 ぼんやりと光が生まれ、首を掴む肉体の体積が膨らんでいく。猫から人に変化していく。

 首に密着させる手の圧力は緩めぬままに少しずつ手の中で膨らんでいくその細首は、しかしすっかりと人型に変化し終えた後でも、軽くへし折れるであろう細さを保っていた。

 

「はい、これが私の本当の姿。……尤もこれは、ご主人様に()()()見せるつもりは欠片もないのだけれど。……それにしても苦しいわ。もう少し優しくしてくれないの?」

「すると思いますか?」

「いいえ、まったく。……ベッドの上で女に優しくできないタイプなのね、貴女」

「死にたいならそうしますが?」

「冗談よ。抵抗はしないって言ったじゃない」

 

 私のベッドの上に、真っ白な女が脱力して横たわる。

 もとより白猫であったミャウの、しかしその白さをさらに透明にしたような。

 純白の長髪と純白の肌に、純白の薄布を身に包んだそれは、あらゆる男を蕩けさせてしまうと考えてしまいそうなほどに艶めかしかった。

 マスターが見ればいつものように発狂してしまうだろう。女としての魅力も、胸と尻と太ももに存分に備えていて。

 

 そんな彼女の瞳の色は赤。

 リンの深紅の瞳とも、サザンカの鎧の唐紅色とも違う。

 まるで酸化した血の色のような、深蘇芳(ふかきすおう)の暗い紅色をした瞳が────私の瞳を見つめ返していた。

 

 これが吸血姫ベルベッドの本体。

 猫の身で正体を隠していた時とは違う……エルフを誘い、洗脳し、人類と争わせた元凶。

 人の世に乱世を齎す傾国の姫。

 

「……」

「……」

 

 ベルベッドを押し倒すような形で、私がその体を拘束している。

 手にかける首からも、抑えている腕からも、脚を挟み込んだ太ももからも……抵抗の気配は一切感じられなかった。

 確かに述べるとおりに、抵抗する気はないようだ。

 

 だが。

 この女は魔族の長、六大将軍の一人。

 隙は見せられない。

 たとえマスターに恨まれるようなことになっても、ここで─────

 

「……私の話を聞いてくれる?」

「……」

 

 ───その重い決断を下す前に、ベルベッドの口から身の上話が零れ始めた。

 

 

 

※    ※    ※

 

 

 

【side ベルベッド】

 

 

 そうね。どこから話そうかしら。

 まずは───私の生まれから、かしらね。

 

 私はベルベッド。

 魔族領に生息する亜人族『ヴァンパイア』の……まぁ、亡国の姫、といった所かしら。

 

 ───そんな種族は聞いたことがない?

 当然よ。とっくの昔に滅びたのだから。

 滅ぼしたのは魔王ダブレス。

 滅ぼされたのは、私のせいね。

 まぁ落ち着いてちょうだい。ちゃんと全部話すから。

 

 話した通り、私はヴァンパイアという種族を率いていた一族……王家といってもいいかもしれないわね。

 その第一王女として生まれたわ。

 第一、と言ってもその後に妹や弟はいなかったけれどね。

 王は一人の子を設け、その子に次代の王権を継ぐ仕組みだったから。

 

 ヴァンパイアという種族について簡単に説明しておくわ。

 私たちは夜の闇に溶け、他の生物の精を主食として生きる存在なの。

 

 ───サキュバスに似ている?

 そうね、彼女たちと同じような性質を持っているかもしれないわ。

 いわゆる肉や野菜……血肉を食べて得る栄養素だけでは生きていけないからね。

 

 けれど、劣等種であるサキュバスと比べて、私達ヴァンパイアの権能は一線を画す能力よ。

 知っての通り、サキュバス……またはインキュバス。これらは異性の性欲……性的な行為を以て精を吸う。

 それはご存じの所だろうけれど。

 手間なのよね、結局。

 魅了して、同衾して。

 若しくは淫夢を見せて、夢の中で精を吸って……なんて。

 非効率の極みだと思わない?

 同性には効かないし、魅了だって抵抗の高い相手には通じないことも多いのだし。

 人間は欲が多いからまだ引っかかりやすい方で、理性の無い獣には通じないのだし。

 

 でも、私達の吸精は違う。

 ()()()()()()()()()()()のよ。

 

 簡単でしょう?

 ケガをさせれば一気に精が吸えるのだから。

 僅かな出血でいい。

 相手の血が流れていればそこに独自の魔力回路を通し、精を吸う事が出来る。

 人間種の若い女に限れば、月一で無条件で精を吸える。

 ……まぁ、精液とか愛液からでも摂取は出来るのだけれど。

 非効率的ではあるわね。

 

 精を吸う。

 具体的には()()()()()()()()

 その速度は個人差があるけれど……王族はその力が強くてね。

 私が全盛期、将軍だった頃は100レベルくらいなら1分で吸えたかしら。

 レベルを吸うだけじゃないわ。

 吸血を介して、他者を操る事も出来る。

 眷属化というスキルね。

 これもヴァンパイア独自のスキルよ。

 

 ……そんな顔をしないでほしいわ。

 ただ、過去の所業を説明をしているだけなのだから。

 ご主人様のレベルについても、ちゃんと説明するわ。

 ベッドの上だというのに色気のない事だけれど、これは私にとって懺悔であり、命乞いなのだから。

 最後まで聞いてちょうだい。

 

 助かるわ。

 続けるわね。

 

 さて、そんな特殊な権能(スキル)を持つ私達だけれど、そんな私達が魔族領で覇を握ることはなかったわ。

 何故だかわかる?

 血が出れば相手を殺せるような種族だというのに。

 

 ───あら、それは伝わっているのね。

 そう、その通り。

 私がそうであるように、私達ヴァンパイアという種族には弱点が多いのよ。

 

 ご主人様に見つけてもらった後の私みたいに、変化スキルで猫に擬態して皮膚を隠していれば兎も角……今みたいに亜人としての、人の形態でいる時は……日差しに弱いの。

 太陽の元に身を投げたりなんてしたら全身の力が抜けて衰弱して、弱い者はそのまま死に至ってしまう。

 それだけじゃあないわ。

 銀製の武器に弱いし、光属性の祝福が乗った武器なんかは触れるだけで火傷するし。

 ただの木の杭だって特攻が乗るし……川や海だって見てるだけで調子が悪くなるの。

 猫の身になってお風呂の素晴らしさは初めて覚えたけれどね。

 ご主人様に初めてお風呂に叩き込まれたときは死ぬかと思ったけれど、温かいお湯っていいものなのね。

 

 ……話が逸れたわ。

 つまりヴァンパイアは、その強大な権能と引き換えに弱点が多すぎるのよ。

 そこを責めれば簡単に殺されてしまうの。

 か弱い生き物なのよ、私たちは。

 

 それだけじゃあないわ。

 私達ヴァンパイアはね……とても、温厚な種族なのよ。

 一族みんな争いを好まなかった。

 もちろん私を含めてね。

 平和で穏やかな……そんな生活を求めるような種族なのよ。

 魔族が、魔獣が血を血で洗う魔族領に於いて、僻地に隠れ住む様な種族。

 それがヴァンパイアなの。

 

 ───ならなぜ私が将軍になったか、って?

 そうね、なぜかしらね?

 

 ……ああ、やめて。

 冗談よ、悪かったわ。

 お願い、力を籠めないで……結構今も辛いのよ?

 貴女、全身が光属性の魔力で動いているのだから。

 この体では、首に火傷の痕が残ってしまいそうよ。

 だから許して。

 やるならすべての話を聞いて、判断してからにしてほしいのだけれど。

 

 ……こほっ。

 助かったわ、続けるわね。

 

 ……私がもっと……そう、そうね。

 もっと、勇気のある女だったら。

 何か違ったのかもしれないのだけれど。

 

 事件が起きたのは、私が20歳を超えて、王権を受け継ぎ、300人ほどのヴァンパイアの集落を治めていたころね。

 今から160年くらい前かしら。

 人類と魔王軍が本格的な戦争を始める10年くらい前の頃よ。

 

 平和だったわ。

 集落の中で生活に必要なものは整っていたし、吸精もレベルの低い集落の周囲の魔物で賄えていたから。

 贅沢もないけれど危険もない、質素で平和な生活を続けていたわ。

 エルフみたいなものなのかもね、人間領で言うところの。

 周りに干渉せず、独自の文化で生きる希少種。

 似ているところは多いのかも。

 

 ……そう、考えると。

 彼女たちの血を吸い、眷属化し、魔族の奴隷に身を堕とした私の所業は許されるものではないわね。

 ご主人様のしとね親であるシスターミル、妹のようなティオ……あの子達は、私の事を許さないでしょうね。

 だからこそ、私も正体を明かすつもりはないのだけれど。

 

 ……怒らないでほしいわ。

 まだ、私の話は終わっていないのだけれど。

 怖いわ、本当に。

 余りの恐怖で漏らすわよ?

 今ここで。

 貴女のベッドの上で。

 

 …………冗談よ。

 

 話を戻すわね。

 村を治めていた私の元に、一人の魔族が唐突に訪ねて来たわ。

 魔王ダブレス。

 齢15歳にして先代の魔王に勝利し魔族領を治めた新たな魔王。

 圧倒的な力の持ち主。

 それが私達ヴァンパイアの噂を聞き、集落を訪れた。

 

 ───理由?

 分かるでしょう? スカウトに来たのよ。

 この私を。

 私達、ヴァンパイアを。

 新たな魔王軍を作るための、()()する者として。

 

 狙う理由は分かるわね。

 私達の特殊な権能。それを求めて彼女はやってきた。

 これから先、人間領を侵攻するための尖兵として。

 

 その話を受けた私は────断ったわ。

 

 言ったでしょう?

 私達ヴァンパイアは、争いを好まない種族なの。

 

 貴女の敵には決してなることはありません。

 けれど、同胞(はらから)が争いに巻き込まれ、失われる選択肢を私は選べない。

 故に、私は、私たちヴァンパイアは魔族に、魔王軍に与することはできません。

 どうかお引き取りを。

 

 そう、伝えたの。

 決して魔王軍の敵になるつもりはない。

 けれど、争いに一族を参加させることはできない。

 

 私達にも……いえ、私にも誇りがあった。

 先代の王より継いだ使命を。

 一族を、ヴァンパイアを護る使命を果たさなければならなかった。

 

 その答えを聞いた魔王様……いいえ、ダブレスは。

 彼女は、なるほどと呟いて静かに頷いたわ。

 それを見て、私は微笑んだわ。

 分かってくれたのだと思って。

 この、少女のようにも見える魔王にも、きちんと情けがあったのだって。

 そう思っていたのよ。

 

 ……バカよね。

 

 次の瞬間には、私以外の全てのヴァンパイアが殺されてしまったのだから。

 

 

 

 ───ごめん、なさいね。

 自分でも、この震えは止められないのよ。

 あの時を少しでも思い出そうとすると、全身が震えるの。

 でもね。

 

 この震えが、どんな感情によるものかわかる?

 

 一族を喪った事に対する絶望?

 一族を唐突に奪われたダブレスへの怒り?

 

 違う。

 違うわ。

 違うのよ。

 

 

 ─────私はね、死ぬのが怖かったのよ。

 

 

 自分が死ぬのが、ね。

 怖かった。

 ついさっき、同胞を奪った目の前の暴の化身が、その矛先が、私に向くのが怖かったの。

 死にたくなかったのよ。

 

 ねぇ、笑って?

 目の前で、何よりも大切に想っていた同胞を奪われて、守るべき大切なものを喪って、それを奪ったダブレスに対して、私は命乞いしたの。

 恐怖で全身から出せる液体全部垂れ流して、泣き喚いて、跪いて……土下座して、靴を舐めて、命乞いしたわ。

 どうか殺さないで。

 私だけは救けて。

 貴女の言う通りにしますから、って…………ね。

 

 ………………少し、だけね。

 ごめんなさいね、深呼吸させて頂戴。

 

 ……すぅ。

 ふぅ。

 ……すぅ。

 ふぅ。

 

 ……何度も、本当に申し訳がないわ。

 でも、その時に私はダブレスに傅くことになった。

 彼女は、私の力さえあればよいと。

 そう思っていたみたいなの。

 だから力を借りるのを断る理由に私が同胞の事を持ち出したから、彼女はそれを消した。

 従わない理由が無くなれば、従うと思ったのでしょうね。

 今にして思えばとても幼くて浅はかな、思慮の無い行動で間違いないのだけれど。

 

 それでも、私の心には抜けない楔が穿たれたわ。

 死を恐れる心が。

 同胞全ての命を奪った魔の王の力に、私は服従した。

 魔王軍に迎え入れられて……必死だったわ。

 だって、弱かったらダブレスに見限られる。

 殺される。

 死にたくない。

 だから……魔獣からも、魔族からも、時には人間領にも出向き、私は血を吸い続けた。

 己を高める事に、戦争が始まるまでの10年間を使ったわ。

 

 死にたくなかったから。

 反抗しようなんて、考えにも浮かばなかった。

 死にたくないだけだった。

 私は死にたくないの。

 生きていたいの。

 ただそれだけの為に、魔王の元についていたのよ。

 

 そうしているうちに、私は力をつけた。

 ヴァンパイア種の過去の誰もが到達しえなかった高みに私はいた。

 いつの間にか私は将軍格になっていたわ。

 

 第四将軍『吸血姫』ベルベッド……そう、貴女たちが良く知っている、その名にね。

 

 

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