勘のいいガキはデカパイハーレムの夢をあきらめない!   作:そとみち

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123 あらゆる場面で何も知らないロックくん

 

 光あれ。

 そう言ったのはどこの誰だったかしらね。

 暗闇の中で死を恐れ発狂と絶望を繰り返していた私の目に、光が生まれて。

 次の瞬間には……封印から解放されていたわ。

 

 あの時、ご主人様は何をしたのかしらね?

 私が封印されていた魔封瓶を見つけて封を開けた……のだと思うのだけれど。

 どうやって彼が私を見つけたのかとか、今でも疑問は絶えないのだけれど。

 けれど、ご主人様だからね。

 きっといつもの『勘』なのでしょうね。

 

 光に包まれた瞬間に、私は咄嗟に猫の姿に『変化』したの。

 そうでしょう?

 だって、私は太陽の光に弱いのだから。

 150年近くも体力ギリギリで過ごしていたのだから、もしも解放された時の事は考えていたもの。

 

 まず日の光から逃れる。

 全身を体毛で覆うタイプの変化なら太陽の光に対する抵抗力を得ることができるから。

 

 その上で、出来得る限り警戒されない姿を。

 さっき想像していた通りの推理が正鵠を射ていなくとも、この瓶を開ける人種は3パターンに分かれると思ったから。

 1つは、私を殺すために封を開けた場合。

 この場合は死ぬわね。何をしても無駄だもの。

 2つは、私の力を悪用しようとして……もしくは、私を救出するために魔族が開けたパターン。

 この場合は日の光さえ捌ければ命が確約されるわね。私の力を当てにしているのだから。

 3つは、何も知らずに開ける者がいた場合。

 この場合は色々考えられるけれど……私が魔族であると知られなければ十分に生き延びられるわ。

 だからこそ、警戒させない猫の姿で。

 その後、様子を見てどうするか……そう考えていたの。

 狂いそうな頭で咄嗟に猫になれたのはそのおかげね。

 

 さて、まばゆい光が世界を照らして、猫の姿で150年ぶりに封印から解かれた私は、周囲の状況を確認したのよね。

 山の中だったわ。

 昼間だったけれど、木々が日の光を陰ってくれていたから体へのダメージは少なかったわ。

 そして、目の前には少年がいたわ。

 ご主人様がね。

 

 ご主人様は、どうやら山奥まで入ってきて、そこで私の封印されていた瓶を見つけたらしくて、それを開けた……ようだったわね。

 封を開けた直後に光と煙と、そして唐突に猫が出て来たから驚いていたようよ。

 尤もあのご主人様だもの。

 私に対して、あんまり警戒しているふうじゃなかったの。

 まだ子供の頃で、ディセット老にも冒険者としての心構えを教えてもらっていなかったからね。

 純粋で、可愛らしい様子だったわ。

 今も可愛らしいのだけれど、今よりもずっとね。

 

 ……自慢してるのよ?

 貴女はあの頃のご主人様を知らないのでしょう?

 うふふ。ごめんなさいね。

 

 ご主人様は、瓶から出て来た私をそっと抱き上げて……そして、性別を確認されたわ。

 いきなりで私も本当に驚いたのだけれど。

 ご主人様が「やったぜメスだッ! なんか唐突に出て来た謎の猫だしワンチャンデカパイ猫耳少女になって俺のハーレムに加わるか!?」なんて言い出したからそれはもう驚いたのだけれど。

 けれど、この時点で私は己の命が即座に失われるような危機ではないことを察したの。

 殺意が、敵意がご主人様からは全く感じ取れなかったからね。

 

 だから私は───生き延びるために、ご主人様にスキルを使ったわ。

 

 私の体力と魔力が回復するまで。

 状況を把握し、私が安全だと確信出来て安全に逃れられるまで。

 目の前の少年を眷属にして、贄にしようと……そう、考えたの。

 

 ……やめて。

 手の力、緩めてほしいわ。

 聞きたかった事はここでしょう?

 すべて話すわ。

 ほら、抵抗もしていないでしょう?

 聞き終えてから……判断してほしいのだけれど。

 

 ……こほ。続けるわね。

 

 私がご主人様にかけたスキルは、持続的に魔力を吸収できるスキルよ。

 レベルを吸って魔力に変換できる権能があることは説明したわね?

 それの応用。

 ご主人様が手に入れる経験値は、成長に……レベルアップに使われず、全て魔力に変換されるようにしたのよ。

 その上で、私がいつでもそれを吸えるようにした。

 

 何故そうしたかって?

 これが一番、かけたのに気づかれない魔法だったからよ。

 目の前の猫にねこぱんちされた程度にしかご主人様は思っていなかったでしょうけれどね。

 この魔法を掛けたことで、私はご主人様からいつでも魔力を吸う事が出来る。

 それで魔力を少しでも回復させつつ、体力の回復も待って……状況も把握して、時が来れば、ってね。

 その時はそう考えていた。

 

 けれどね。

 まず、はっきりと先に口にしてしまうのだけれど。

 

 ────私は、ご主人様に(ほだ)されたの。

 

 彼を好ましく思うようになってしまった。

 彼の傍にいるのが一番私にとっての安全だと。

 生き延びることができると、そう感じてしまったのよ。

 

 ……なぜ、って?

 

 ……だって。

 だって、ね。

 

 ご主人様の手、温かかったのよ。

 

 封印が解けた瞬間の私は相当に衰弱していたの。

 猫の体でもボロボロに映ったのでしょうね、ご主人様の目には。

 性別を確認された直後から、それに気づいてくれて……大丈夫か、って介抱してくれたのよ。

 そっと抱きかかえて、山小屋まで運ばれて、温かいミルクなんてもらって。

 ディセット老には最初はいい顔はされなかったけれど、それにも反論して飼うことを決めて。

 それで、しばらくずっと、つきっきりで世話をしてくれたのよ。

 目の前で、命を贄とするようなスキルをかけた、魔族の将軍格たるこの私を。

 猫の姿をしていたから、というのももちろん理由の一つだとは思うわ。

 私だって、そうやって心配されることも画策してこの姿を取ったのだから、ある意味では作戦通りと言えなくもない状況なのだけれど。

 

 けれどね。

 私、誰かに優しくされるのって、初めてだったから。

 

 ヴァンパイアの王族として生まれた時点で、それなりに厳しく躾けをされて、私を褒めてくれるような……頭を撫でてくれるような人はいなかったわ。

 魔王軍でも当然にして私は誰にも甘えられなかった。

 弱みを見せる事すらできなかった。

 死にたくない、その一念で己を追い込み続けていた。

 人類にとってははた迷惑だったと思うのだけれど……とにかく私って、その瞬間に至るまで、誰かに甘えたことが無かったのよ。

 

 でもご主人様は、そんな私に初めて優しくしてくれた人間だった。

 頭を撫でてくれたの。

 毛づくろいもしてくれて……微温湯(ぬるまゆ)を張った水桶で体を洗ってくれて。

 夜は、容体を診るために一緒に眠ってくれて。

 ご主人様に抱かれながら、彼の体温を感じながら眠ることができて。

 あれ程安心しながら眠りに就けたのは何年ぶりだったか……いえ、きっと初めてだったのだと思うわ。

 他人の体温がこんなにも温かいものだなんて知らなくて。

 ご主人様って……いえ、貴女もそれはもうわかっていると思うのだけれど。

 優しいのよね、底抜けに。

 軽口や普段の言動とは裏腹に、誰に対しても優しいのよね、心の芯の部分で。

 そういう風に育ったのでしょうね。

 孤児院で、一番年上の兄であったから……いえ、育ての親の教えがよかったのかしらね。

 その優しさに、私は絆された。

 

 それに、ご主人様って眠ってる時に癖があるのだけれど……ずっと頭を撫でてくれるのよね。

 この癖は多分、孤児院でティオとか小さい子どもたちとよく寝てたからなのでしょうね。

 貴女はまだ知らないでしょう?

 癖になるわよ、アレは。

 蕩けてしまいそうになるわよ。

 

 ……ごめんなさい。

 語りに熱が入ってしまったわ。

 

 とにかく、私はご主人様から与えられた優しさと温かさに感動した。

 凍っていた心が動いたのよ。

 猫の姿で、食べ物なんかは猫用のものを与えられたりもあったけれど……そもそもヴァンパイアは基本的に経口摂取をしないからそこまで忌避感はなかったの。

 ご主人様のフードの中で日中は日の光から身を隠しつつ、眠って体力の温存に務める日々を過ごす中で……私は少しずつ、考えを改めたわ。

 死にたくない。

 その私の芯はブレなくて、でも、ご主人様の命を奪うようなことはするまいと考えたの。

 むしろその逆ね。

 ご主人様の力になれれば、それでご主人様も私も無事平穏に過ごせれば……なんて、考えるようになったのよ。

 

 だから私は、ご主人様にかけて来た仮の眷属化の魔法を解こうと考えていたの。

 普通に成長して、冒険者になって、私が護れる範囲で守れれば、ってね。

 

 けれど、やめたわ。

 今もなお、私のスキルはご主人様にかかったままよ。

 今にして思えば、この判断が大正解だったわけだけれど。

 

 ……そうよ。

 イレヴン。

 アンドロイドの貴女がこんなにも急激にレベルを上げられたのは、私のスキルがたまたまいい方向に作用したからよ。

 ご主人様自身は、どれだけ強い相手と戦い経験値を得たとしても、レベルが上がることはない。

 けれど、それと同等の経験値を得られる貴女は、ご主人様がレベル差からくる経験値を享受できて、見る見るうちにレベルが上がっていったわよね。

 あれ、私のお陰と言ってもいいのだけれど。

 ぐえ。

 ……冗談よ、許して。

 

 私がご主人様への吸血の応用スキルをかけ続けている理由は、他にもあるわ。

 まず、ご主人様の戦い方……戦いのスタイルが、己のレベルに全く左右されなかった点。

 当時でもレベル100に近かったカトルやティオとの毎朝の組手の中で、私と出会った時点のレベル12のままのご主人様が渡り合えていたのだもの。

 勘で攻撃を読んで、避けて、逃げる。

 そんなこと常人にはできない。

 レベルが高くても出来るものは少ない。

 けれどご主人様はそれを果たしていた。

 

 それに、ご主人様が教えを乞うていたのがイーリーアウスだったのも拍車をかけたわ。

 私を一撃のもとに瀕死にさせたイーリーアウスの技、捌き斬り。

 あれが最高の威力を果たす条件は、この私が一番知っているのだもの。

 レベルの低い状態で、一切装備をつけていない時にカウンターを成功させることが一番の威力上昇につながる。

 それを察した私は、ご主人様のレベルをこのままで維持することに決めたわ。

 レベル1に戻してもよかったのかもしれないけれど、流石に生まれたての赤子と同じレベルまで下がったら疑問を覚えられるかもしれないし。

 だからその分……カトルとティオと毎朝続けていた模擬戦と、ディセット老の指導と、各種冒険でレベルが上がるはずだった分の経験値は……全て魔力としてご主人様の体に蓄えられ続けていた。

 あ、ここは勿論私も少し手を貸したわ。

 莫大な魔力量だったからね。

 魔力貯蔵の限界が無いようにくらいはできるもの。

 

 ん?

 ああ、ええ、そうよ?

 私がやったのは()()()()

 

 レベルが上がらないようにして。

 その分の経験値は魔力に変換されるようにして。

 それを無制限にご主人様の身に蓄えられるようにしただけよ。

 

 だからね、他の事は全てご主人様の『勘』によるものよ。

 シーフとしての気配遮断は、あれは人の注意が集まらない立ち位置を勘で捉えているだけ。

 罠や宝箱の開錠も、足音を立てない移動も、勘だけでやっている。

 すばしっこく見える攻撃の回避は、勿論何も装備していない敏捷性の上昇もあるけれど、相対する相手の意識の虚を勘で読んで動いているだけで……それを見る人は気持ち悪く感じるのでしょうね。

 

 護りの指輪の件?

 ああ、それも基本的にはご主人様が自発的にやったことよ。

 ご主人様の膨大な魔力を注ぎ込まれて魔道具としての器が壊れて精霊が生まれてしまっただけよ。

 普通の人なら上限突破して、レベル200を超えて何千何万と上がっていたでしょう経験値を最大効率で魔力に変換し続けて、ご主人様が抱える魔力はそれこそ人知を超えた量になっていたから。

 ええ、セントクレアがティオの双剣を鋳造したのと同じことを自前の魔力でやっただけ。

 湖に溜まっていた魔素の量よりも濃密な魔力がご主人様の体には詰まっているのだから。

 護りの指輪の性質から、守りに特化した魔装具になったようだけれども。

 精霊の意思が絶対に外させないようにしている様だし、他の装備にも魔力を籠めさせないようにしているみたいね。

 

 ん?

 性欲とリンクして……なんてことはないのだけれど。

 性欲はただのご主人様の生まれつきのそれで、扱う魔力量とは特に相関性はないわ。

 いつも性欲ッて叫んでるけど、別に叫ばなくても魔力を扱えていたでしょう?

 ブラックドラゴンを治した時も、ノインが使う蘇生魔法に魔力を受け渡した時も、ご主人様が自分の意思で魔力を廻したというそれだけよ。

 それほど経験値を溜めていたということで、それほど格上との戦いを繰り返し続けていたというだけのこと。

 

 ……この未来を、ご主人様はわかっていたのかしらね。

 私を拾って、絆されて、でも吸血スキルを解除しなかったから……貴女を見つけた後に、レベリングが上手くいって、闘技大会で勝ち進めて、サザンカも仲間に出来て、その後の魔族との本格的な争いも……。

 ……それが全て、ご主人様の『勘』によるものだとするのならば。

 私や貴女……いえ、魔王ダブレスなんかよりも、この世界のどんなものよりも理解し難い存在だとは感じているわね。

 

 まぁ、私はそんなご主人様が大好きなのだけれど。

 

 

 

 

 …………ごめんなさいね、長々と語ってしまって。

 結局、私は死にたくない。

 魔王の事は大嫌いだし、魔王軍に思い入れもないし、今は人類軍がかなり優勢だし。

 ご主人様のこと大好きだし、これからも彼のペットで在りたいと思うし、この関係を壊したくないし。

 私が過去に人類軍に成した所業は……まぁ、反省はしているのだけれど。

 けれど、戦争とはそういうもので、お互い様の部分もあるとは私は感じている。

 私がエルフを惑わして戦わせ殺したのは魔王の命令によるもの。

 貴方たち人類軍は対抗して魔族を鏖殺したと思うのだけれど、それは咎められたりしたのかしら。

 

 ……いえ、ごめんなさいね。

 ミルとティオには、何かしら……そうね、機会があれば、その、詫びたいとは思っているのだけれど。

 けど、それで殺されたくも無くて……いえ、ごめんなさい、言い訳が多くなってしまって。

 

 望めるならば、これまで通りにご主人様の猫で在り続けたいのだけれど。

 正体を明かさず、ただの猫として愛されたい。

 

 勿論……自分の命に危険が及ぶような事態になったら、私も成り振りを構わなくなると思うわ。

 けれど、きっとそれはご主人様を裏切るという形ではなくて。

 ご主人様を護るという形で、本当の姿と真の力を振るう。

 そんな覚悟も出来ているのだけれど。

 

 

 

 ……ええ。

 私が話したいことはすべて話したわ。

 

 

 だから、あとは貴女が判断してほしいわ。

 決めてほしい。

 私を、どうするのかを。

 

 ご主人様が選んだ貴女に殺されるのならば。

 悔しいけれど、納得はできるだろうから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「────自分勝手な、事を」

 

 

 

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