勘のいいガキはデカパイハーレムの夢をあきらめない!   作:そとみち

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124 ゆ 許された

 

 

【side イレヴン】

 

 

 目の前の魔族……第四席『吸血姫』ベルベッドが語り終えた、彼女の過去。

 魔王に人生の全てを狂わされた憐れな女の、その身の上に……感じる憐憫はゼロとは言わない。

 

 この女は……そう、あまりにも、()()()()()()

 それを強く感じる。

 これが私やマスター……他、気高く己を貫ける強い精神の持ち主ならば。

 それを英雄と呼ぶか向こう見ずと呼ぶかは解釈が分かれるところだが、あえて表現するのであれば────()()()()()()()()()()()()()ならば。

 恐らくは魔王と面会し、同族を滅ぼされた時点で怒りに任せて魔王に抵抗し、命を落としていただろう。

 もしくは魔王軍に従事していた時にも、己の意思を介在させて滅ぼす対象を選んだかもしれない。

 

 しかし、ベルベッドという女はどこまでも一般的な感性の持ち主でしかなかった。

 王族に生まれながら、己の命が何よりも大切だという当たり前で甘えた感情を持ち、それを魔王に強く萌芽させられてしまった。

 だからこそ魔王の指示で敵軍を(りく)することに躊躇わなかった。

 

 それもまた、ある意味では当然のふるまいでしかない。

 ベルベッドだけが何かしらの原罪(つみ)を抱えているわけではない。

 人類を、人類軍を殺した数という話で言えば他の将軍格だって違いはないだろう。

 逆説的な話をすれば、人類だって魔族を殺している。魔王軍を、それはもう何の葛藤も躊躇いもなく殺している。

 それが戦争というものだ。

 

 エルフを陥れ洗脳し裏切らせた件だって、当事者たるミルやティオはそれに強い辟易を感じるのが当然だが、戦争中に相手の主力となりうる集団を排除したと考えるならばそこに悪辣なものを感じ取る義務はない。

 さらに言ってしまえば、エルフが裏切り者だという風評だって、戦後の人類側の勝手な誤解によるものと言えなくもないのだ。

 戦争とはそういうもので、既に敵軍に属していないこの女に、かつて魔王軍に従軍していたから、魔族領出身であるからという理由だけで、この細首を手にかける気は─────なくなっていた。

 

 ()()

 

「────自分勝手な、事を」

 

 それでも私の口から洩れたのは、強い糾弾の言葉だった。

 私の頭頂より垂れる銀糸の髪が、ベルベッドの顔を覆うようにシルクのカーテンとなり、その内には私と彼女の顔が間近で触れ合いそうなほどの距離で。

 私の怒りの表情に、ベルベッドが怯える様な表情を作ったのを至近距離で見咎めた。

 

「……やはり……許しては、くれない、のね」

「許すも何もありません。()()は魔族で、かつて人類軍と争い多数の人類を殺し……そして、罪もない亜人種であるエルフを洗脳し手駒にした。同族を奪われた貴女が()()をすることだけは道理が通らないでしょう」

「ッ…………」

「貴女の話にも、途中で零した言い訳にも、一分も道理がないとは言いません。確かにこれは戦争だ。私達人類だって魔族を殺している。魔族が人類を殺すことを罪とは言えない。魔王の命令に従っていただけと主張する貴女をここで感情に任せて処分する……それは私の矜持が許さない。貴女の身の上には多少の同情もあります」

 

 不幸であった。

 それは間違いのない事だろう。

 初めに出会った相手が魔王で、理由のない殺戮を目の当たりにして心のどこかが壊れてしまった。

 それが無ければきっと穏やかで平和な集落で過ごしていたであろう王女の憐れな人生。

 

 しかし、それでも私は糾弾する。

 何を咎める謂れがあるのか、それは。

 

「けれど、貴女は……()()()()()()

「え……?」

「生きるために魔王に逆らえなかった……そこまでは情状酌量の余地があります。ですがその先。マスターと出会い、絆され、心を入れ替えたと言いましたね。それなのにあなたは、己が生き延びるために踏みつぶしてきた者を顧みようとしなかった。それが150年前の出来事であっても、貴女が己の命を何よりも大切にしているのであれば、同じように命を大切にしてきた無辜の民を手にかけたことをもっと後悔し、恥じ、償うべきなのです」

「……それ、は」

「私が一番貴女を許せないのはそこです。ベルベッド、貴女が本当にご主人様の猫として……愛されたいと思うのならば。己の罪を漱ぎ、己に対して胸を張れる自分になった時に、初めてそれが許される。……いいえ、そうしなければ私が許さない」

「…………」

 

 そう、この女は償おうとしなかった。

 それが己の正体がバレる、死の可能性が出てくるようなそれであっても。

 マスターに第二の生を与えられ、魔王との距離が離れた後でも……何もしようとしなかった。

 そこがどうしても癇に障ってしまうのだ。

 真の安寧も求めるのならば、それを甘受できるよう己の罪を償ってからにしてほしい。

 

「ここで貴女を殺すのはたやすい。先ほどの話を聞く限り……貴女の『吸血』スキルは状態異常耐性を持っていれば無効化できる。最新型のアンドロイドであり全状態異常耐性を持つ私ならなおさらでしょう。血液も流れていません。霧化して逃れるにしても常時変化していられるものではないとすれば……殺そうと思えば、殺せる」

「……それは、そうでしょうね。150年前の当時でも人形(アンドロイド)の相手をするときだけは、正面から戦っていたもの」

「ですが、抵抗する気のない、魔族に与することはないと述べている者を有無を言わせずに殺してしまえば、()()()()()()()()()()()()。それだけは看過できない」

「……それも、そうね。……やっぱり優しいのね、ご主人様の相棒は」

「媚びなくても結構です。もし私がマスターに出会っていなければ問答無用であったとも思いますから」

「くす。またご主人様に命を助けてもらっちゃったわね、私」

「彼は周りに影響を与えすぎるのです。望む望まないにかかわらず。……はぁ」

 

 そして述べた通り、ここでベルベッドを殺してしまえば私は魔王と同じレベルまで堕ちることになる。

 それは許せない。なので、首筋(いのち)を握っていた手を緩めて、ベルベッドの体を解放する。

 ため息を一つついてから……重ねて、溢れる文句を叩きつけておく。

 

「そもそもですが、先程の貴女の話には根拠がない。嘘をついていない証拠がない。ここにリンがいれば嘘を見抜くドラゴン特有のスキルでそれも看破出来たのかと思いますが……私は看破魔法を覚えていない。だから全てを信じたわけでもないことは覚えておいて下さい」

「ええ」

「貴女がマスターにかけたというスキルも……結果だけ見れば確かに無限の魔力の源とも思えますが、それがマスターの生命に直結していないという証明はできない。貴女の命と道連れに……などという万が一がないモノと信じたいです」

「それは誓うわ。私もご主人様の命は守りたいもの。悪魔の証明はできないのだけれど」

「……マスターに……いえ、マスターの周囲の者たちに……人類に害をなすような行動が僅かでも貴女にあれば、その時こそ私が殺します。そして、私はそうなりたくないと思っている。貴女を私に信じさせてほしい」

「……」

「償いの方法を探り、そしていつかはマスターに胸を張れる様な事を為しなさい。それまで私がずっと……貴女を、見ています」

「……ありがとう。頑張って、みるわね? 貴女が私を見てくれていれば、私もお尻を叩かれて……勇気が、出せるかもしれないから」

「期待しています」

 

 話は終わった。

 自分でも、第四席の将軍が目の前にいるのに殺す気にならなかったのは意外ではあった。

 魔族を滅ぼす為だけに作られた存在である私がこんな判断をするとは思っていなかったら。

 

 けれど。

 そんな自分が嫌いではない自分がいる。

 なぜなら、この判断を下した私を、マスターはきっと褒めてくれるだろうから。

 

「……ねぇ」

「なんですか」

「今夜は、私はこの部屋で寝るのよね」

「ノインと褥を共にするマスターの元に今から行くつもりですか貴女」

「ああ、違うのよ。……その、ね。ご主人様に見つけてもらってから、一人で寝る事ってなくて……その、誰かの体温を感じていないと、眠れないのだけれど……」

「…………」

「……一緒に、寝てくれない?」

 

 先程までの緊張した空気は弛緩して、お互いに一つのベッドに身を投げうつ中で、しおらしい表情を見せてベルベッドがそんな懇願を零してきた。

 すぐ横にあるベルベッドの恥じらう雌の表情を、じろりと睨む。

 ……こんな顔をマスターに見せようものなら、すぐにでも暴走してしまいそうなほどに性欲を刺激させる表情。

 サキュバスの上位種というのは伊達ではないようだ。私にはまったく効かないが。

 

「……せめて猫に戻りなさい。女と抱きしめあって眠る趣味はありません」

「あ、そうね、ごめんなさいね。戻るわ……自分の身の振り方を思いつくまでは、これまで通り猫の姿でいるわね」

「それがいいでしょうね。いきなりこの体をマスターに見せつけては今度こそ性欲が爆発してしまうかもしれませんので。徐々に女に慣らしていかなければ」

「うん、そうね……それじゃあ──────『みゃあ』

 

 そして見る見るうちに体が変化し、猫に戻るベルベッド。

 見慣れた姿……ミャウの姿に戻り、ベッドの上をてとてとと歩いて私の胸の上にいそいそと身を横たえた。

 そこかよ。

 

「……言っておきますが、私はマスターのように頭を撫でるなんてしませんよ」

『みゃ!?』

「撫でられたければ態度で示してください。随分と夜も更けてしまいました……おやすみなさい、()()()

『みゃみゃ』

 

 胸元に猫の体温を感じながらも、私は眼を閉じる。

 眠ることはないけれど、考えを整理するためにも、夜を味わうためにも、こうして横になることが私の夜のルーティーンでもあった。

 一つの懸念が無くなり、さらに増えた懸念を今後どうしていくかを考えながら、静かな夜を過ごすのだった。

 

 

 

 

『……フニャルピシュー……プピピニャー……』

「いびきうるさいな」

 

 

 訂正。

 静かな夜にはならなかった。

 

 

 

※    ※    ※

 

 

 

【side ロック】 

 

 

「ん……ん?」

 

 ゆっくりと目が覚める。

 天井は見慣れた柄だが、ベッドのスプリングは俺のベッドよりも随分とふわふわしていて。

 そして普段のミャウのそれより数倍の重みと体温が俺の腕と胴に絡まっている感覚。

 

「ふふ。起きちゃった~。おはようございます、ロックくん」

「あ……おはようさんです」

 

 んで腕の重みの方に顔を向ければ、そこには生まれたままの姿のノインさんがいて。

 彼女に腕枕をした状態で、いつもティオにそうしていた癖で頭を撫でるような形で眠りについていたらしい。

 勿論俺も生まれたままの姿だ。ノインさんのふわふわのボブカットの髪が腕に触れてくすぐったいし、布団の中では無限の柔らかさが俺の横っ腹に押し付けられている。

 なんという温かさと柔らかさ。

 そうか……とうとう童貞喪失したんだなぁ……!!!(渾身)

 

「すっ…………っごく、よく眠れちゃいました~。いっぱい気持ちよくしてもらえたのもそうだし……ロックくんの腕枕、ちょうどよくって。頭をずっと撫でてもらえてて~……終わっちゃうのが寂しいくらいです~」

「あー……ガキの頃からティオとかミャウとかとずっと一緒に寝てたんで。癖になっちゃっててェ……」

「ふふ、こっちが癖になっちゃいそうです~」

 

 ベッドの上で最高の女性とモーニングトークする未来が俺にあったなんて誰が予見しただろうか。

 すごい……頭撫でても嫌がられないしミャウみたいにすりすり頭を寄せてくるノインさん超可愛いッ……!!

 昨日の夜は興奮しすぎて気持ち良すぎて何が何だかわからないままでただただ最高だったという記憶しかないが……起きてからも幸せ過ぎてヤバイ。

 この幸せを永遠に味わっていてぇよなぁ!?

 じゃあ世界をとっとと平和にしなきゃならねぇよなァ!?

 

「倒しちまうな俺……魔王……」

「急にどうした~?」

 

 最終的にダブレスちゃんを倒せば平和になるっぽいのでいずれはあの子もあへあへにして俺の女にしちゃるわい!

 と妄想を広げてアホな事言ってたら至近距離でツッコまれた。いつもの空気助かる。

 

 いやでも……この最高の体を昨日の夜は好きにしちまったんだよな……。

 ウェディングドレスのままで前から後ろから色々……デカパイをふわふわ揉んで……ノインさんと……。

 

「……ん、あら……うふふ」

「あっアッこれは違くてェ……!」

 

 なんて昨日を振り返っていたら俺の分身も見事に起床を果たしてしまう。

 しょうがないんや……!! 御姫様は知らないかもしれないけど朝はみんなこうなるんや……!!

 

「……ロックくん。こうなっちゃったら、収まりつかないでしょ?」

「あ、えと、その」

「……スッキリしてから降りよっか♡」

「あッホアッ」

 

 その後女神のオーラル的な何かで見事に分身を鎮めてもらってから身の回りを清浄魔法で綺麗にしてもらって、サザンカさんの作る料理の匂いにつられてリビングに降りて行った。

 

 

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