勘のいいガキはデカパイハーレムの夢をあきらめない! 作:そとみち
「ただいまー」
「おや、マスター。お帰りなさい、お疲れ様です」
俺とリンとノインさんは、王都から東に4,000km離れた遠方、最東端の港町アズマラクーンでノインさんが再起動してくれた転移陣から一度闘技場内の転移陣へと転移した。
今の時刻は……午後4時くらいかな。夕方というにはまだ早い時間。
「早かったですね? 夕飯の時刻までは回っているものかと思っていました」
「や、一旦休憩と報告で戻ろうかってノインさんから提案があってさ。この後もう一か所だけ回って今日は終わる予定なんよ」
「東端の町アズマラクーンまではルートを伸ばせたんですが~、あの町から北西に向かうと火山地帯の
「わたしとおとーさんいがいのほかのドラゴンでヒルデガルドのおねえちゃん! あってみたい!」
「成程。それでは……御帰宅は何時ごろになる予定でしょうか?」
「そんな時間かからないだろうし、夕飯までには戻るよ。サザンカさんのご飯も食べたいし……帰りは自宅に直帰するからご飯作って待っててくれる? そっちの訓練も夜遅くまではやらないでしょ?」
「ええ、日が暮れる前には終わる予定です」
事情を説明し、リンもドラゴン形態からドラゴニュート形態に戻って水分補給しながらイレヴンとこれからの予定について話した。
今日は大体東側に扇状の範囲にある町にそれぞれ転移陣を起動し、ギルドと王族に報告してすぐに連絡、連携ができるように外交を進める……といった流れで俺たちは動いていた。
だが流石に一日でバンバン転移陣を開きすぎても今度は外交側が追い付かなくなる。
途中でウィリアム様とも打ち合わせたが、今日はこれ以上町を回ってもすぐに連携ができないので混乱が起きる可能性があるため、後1か所で切り上げることにしたのだ。
リンという規格外の移動手段と、ノインさんという規格外の魔術師がいたからこそ出来た交通網の整備だな。
これで人類が王都中心に遠方への人的資源、物的資源の共有が出来るようになるからさらに戦力増強になるはずだ。
その辺の政治がらみの遣り取りは
「訓練の調子はどう? 誰か限界突破した?」
「ええ、私と組手をする中でカトルが最初にレベル200の壁を越えまして、続くようにティオも。今はあの二人も指導する側に回って、サザンカとヒルデガルドも混ざって1対1を4つ組んで訓練しています」
「おおー。やるやんアイツら」
イレヴンに訓練の成果を聞けばなんと俺の幼馴染の二人が既に限界突破を果たしたということで。流石だな。
まぁアイツら才能すげぇからな。伊達に最年少銀級昇格の超有望株の冒険者と言われてただけの事はあるわ。
まだ冒険者になってから1年と経ってないのにレベルもりもり上がり過ぎやろ……って思ってしまうのは俺がまだレベル12だからかもしれないですね。
俺いる?????(素の疑問)
「うし、んじゃまた回ってくるわ……サザンカさーん!! 夕飯はガッツリ目のものでお願いしていいですかー!!」
「畏まってござるー! 肉と魚であればどちらがよろしいでしょうかー!!」
「おにくーー!!!!」
「だそうで!! ヒノクニの肉料理とかあれば俺も食べてみたいでーす!!」
「承知いたしましたー!!」
少し離れた位置でヴァリスタさんとバッチバチに剣戟を果たしているサザンカさんに夕飯リクエスト。
返事を頂けたので夕飯を楽しみにしつつ、改めて俺たちは転移陣を使って最東端の港町へ向かった。
港町から火山の麓まではリンの速度で片道20分ちょっと。到着して転移陣起動してギルドから連絡入れさせて、その後火山を飛んで昇ってヒルデガルドさんのお姉さんにご挨拶してちょうど夕飯の時間になるだろう。
妹さんを俺にください!! って俺もご挨拶してこねぇとなァ!!!!(豹変)
既に肉体の契りは交わしてるからなァ……!! 次は心の契りなんだよなァ!!
なんなら長女のニーズヘッグがあんなドスケベデカパイドラゴニュートなんだからドラゴニュート形態になってくれれば次女ドラゴンさんもドスケベできるなしてえなァ!!
「ロック=イーリーアウス」
「はい」
なんてよこしまな考えを浮かべていたら訓練を中座してきたヒルデガルドさんに声をかけられた。
声の圧。(迫真)
「現在のレッドドラゴンである三姉妹の次女……サラマンダーは少々世間慣れしていない。頼むからファーストコンタクトは慎重にな。怒らせたら火のマナが暴走して麓の村がマグマに沈むぞ」
「アッハイ」
「……まぁ、世界の情勢は下姉上も把握されているだろう。私が息災であること、上姉上に出会ったこと……こっちのケジメは私がつける、と言っていたこと。伝えてほしい」
「……うっす。了解です!」
「私は訓練を終えたら王城にいるから、下姉上とどんな話をしたのかあとで聞かせに来てくれ。今日でなくともよいが、いつか……そう、夜の帳が降りた後にでも、な」
「っ!! 承知の助っすよォ!! しっかりご挨拶してきますからねェグフホヘ!!」
「ふ……お前らしいな。任せたぞ、待っている」
やる気出てきちまったなァ!!
人類代表挨拶の大任しっかり果たしてこようぜェ!! 爛焰山脈に出発ゥゥゥ!!!
※ ※ ※
【side イレヴン】
マスターらが再び転移陣で移動するのを見送ってから、もう少しだけ訓練に精を出した。
最終的に、今日一日で限界突破を果たしたのはカトルとティオの二名のみで終わった。
少なかったと嘆くよりかは、きちんと訓練による成果が出たことを喜ぶべきであろう。
人類未踏の域であるレベル200を超えるという奇跡に、しかし再現性があることが分かったのだから。
「明日以降はどのようなプランで考えていますか、ヒルデガルド」
「うむ、イレヴンと戦った二人が先に限界突破を果たしている……考えるに、お前も自身のレベルが上がっているのではないか? ホエール山脈の場で上限突破した我ら4人のうち、リンはノワールからの継承経験値が多かったから250を超えたが、それ以外はお前だけがレベルが高かった。経験値効率がお前だけ異様に高いのではないかと考えている」
「……まぁ、ええ、私はとある事情により他の人と比べても段違いの効率で経験値を得ることができます。最新型のアンドロイドなので」
「ふ、隠すなよ。それはお前自身の素質ではなくロック=イーリーアウスの素質に依る所だろう? 察するくらいはできる。限界突破して200を超えるのがゴールではなく、そこから先さらにレベルを上げて行くのが真のゴールだ。今後は限界突破した後の私やサザンカなどの相手もお前に担ってもらいたいところだ」
「なるほど。合理的な判断です。マスターとも相談しますが、その方向で考えておきましょう」
「頼むよ」
その日の訓練を終えて、ひと汗拭いながらヒルデガルドと今後の展望について話した。
レベル200の限界を超えようとするもの、超えてからもさらにレベルを上げようとするもの……もちろんそれぞれが強くならなければならないわけだが、その中でも私のレベリングは尋常ではない効率で進めることができる。
私の方がレベルが高いのにマスターがレベル12のままのお陰で、レベル差による獲得経験値上昇の恩恵を受けられるからだ。
実際、今日の訓練だけで私は5レベルほど上昇している。
サザンカもずっと訓練をしていたがレベルが上がったような様子は見せていなかったので、やはり200レベルを超えてからのレベリングはそれまで以上に大変なものなのだろう。
それらを手助けする意味でも……また、私が得た経験値はマスターに共有され、それがミャウの……ベルベッドの力で魔力に変換されて行くという点を加味しても、私自身はさらにレベリングに努めた方が良い。
明日以降もここでレベリングをすることが、何よりもマスターの為になると信じて。尽力していこう。
「では私達は帰りましょうか、サザンカ」
「そうでござるな。……ああ、転移陣での帰宅ではなく、一度中央通りを経由して帰ろうぞ。夕飯の食材を買い込んでいきたいでござる」
「そうですね、わかりました。……ミャウ、帰りますよ」
『みゃ!』
「今日はお疲れ様、イレヴンさん、サザンカさん!」
「またよろしくねー! 私もお兄ちゃんに負けないくらい、守れるくらい強くなりたいから!!」
「ええ、お疲れさまでした」
ミャウを肩に乗せ、その場にいるみんなに挨拶をしてから、私たちは闘技場を後にし、中央通りに向かった。
※ ※ ※
──────────油断。
「しまった……!!」
そう、油断と言えるだろう。
間違いなく私の失態だ。
高性能アンドロイドたる私が、マスターの相棒たる私が、こんな失態を犯してしまうなんて。
────いや、
その可能性は常に考慮していた。
そんな事態が起きる可能性があるかも、ということはこの状態になった時点で常に頭の片隅に置いておかなければならなかったのだ。
油断した。
注意という名の灯篭に、しかし注ぐ
僅か一瞬のそれとはいえ、灯りが消えてしまった。
探る事すら難しくなってしまって。
頭を抱えて、私は嘆く。
「────────サザンカが迷子になってしまった……!!!」
サザンカが方向音痴であったことを忘れていた。
マジでなんであんなに方向音痴なんですか彼女。(呆然)
つい、先ほどまで。
つい先ほどまで、普通に肩を並べて歩いていた。
はずなのだ。
はずなのに。
中央通りに到着し、露天に並べられている食材をミャウとサザンカとも共に眺めて。
その中でたまたま使われていた冷凍魔導ガラスケースに入った高級な肉を見つけて、そもそも露店でこれほどの設備は珍しい……と思って横目に追い、少し足を止めて。
「サザンカ、このお肉は美味しそうではないでしょうか。量もありますし……」
『みゃ』
「……サザンカ?」
『みゃ!?』
その瞬間にいなくなった。
そうとしか考えられなかったほどに、音もなくあの赤カブトは姿を消してしまったのだ。
背も大きくて目立つだろうに……しかし、辺りを見渡してもどこにも赤カブトの姿は見えなくて。
マスターと肩を並べられるくらいの隠密スキルじゃないですかこれ???
「えぇー? ……ミャウ、サザンカがどこに行ったか見ていませんでしたか?」
『……ごめんなさいね。本気で私も感じ取れなかったの。いえ、ずっと注意していたわけでもないのだけれど。余りにもびっくりしてしまったわ』
「でしょうね。私もですよ……マスターの感知ならともかく、戦闘態勢にないサザンカの気配を探すスキルは今の私にはありません。ミャウの方で感じ取れませんか?」
『申し訳ないのだけれども、私も無理よ。元の姿に戻って、霧化して……この通り全域に体を広げて薄めれば……とも思うのだけれど。でも、流石にそこまでやるような事態ではないわよね。魔王軍の元将軍がいると万が一にもバレるのは嫌だし』
「そうですね……仕方ない、聞き込みをして探しましょう。ダイブブースターで飛んで探すというのも……目立ちすぎますし」
『普段はご主人様がどれだけ迷わないように気を張ってくれていたのかわかったわね』
私の肩に鎮座するミャウに、周りに聞き取られないような小声で話しかける。
私と二人きりで、周りに声が聞こえないと確信できる時には、こうして意思疎通ができるようになっていた。
今朝がた、カリーナの失踪事件についての所見を述べたのもミャウからの情報提供があってのものだ。
わずかずつではあるが。
マスターの為に、人類の為にやれることをやり始めた彼女を、否定するつもりはない。
こちらこそ本気で油断はできないが、咎めもしない。情報は頼りにさせてもらおう。
まぁしかし、話を戻して現状である。
食材の目利きは私は得意ではない。サザンカに全て任せていた。
勝手に買って帰ってもアレだし……そもそも、私と一度はぐれたサザンカがマスターの家までたどり着けるかも怪しいものだ。
思えば……サザンカと出会ってからこの方、いつもマスターがサザンカを勘で探しては一緒に寄り添い、彼女がさらに迷わぬようにと気を付けていたものだ。
グランガッチの時でもホエール山脈の時でも、常にマスターとサザンカは一緒にいて目を離さなかった。だから迷子にならずに済んでいた。
その事実を、マスターがいない一日でまざまざと思わされてしまう。
やっぱり私達には貴方が必要です、マスター。
「あれ程の体躯なのだから、遠目に見てもわかるはずなのですが……」
『でも中央通りには少なくともいなさそう。そうなると入り組んだ路地がこの辺りは広がっているから……厳しいかもしれないわね』
「夕飯時までに見つからなければ先に家に戻ってマスターに事情を説明しましょうか」
『そうね。ご主人様ならすぐに見つけてくれるでしょうね』
はぁーーーー、と女っ気がない時のマスターのような大きなため息をつきながら、赤カブトを探して聞き込みを開始した。
※ ※ ※
【side another】
「ふむ……おかしい。大通りにはこの道で出られるはずなのでござるが……ふむ……」
イレヴンとはぐれたサザンカは、現在絶賛迷子中であった。
路地裏に一度足が向いて、元の大通りに戻ろうとして、5差路のもっとも複雑に遠回りする道を選び抜いてためらいもなく歩み、さらにその先で頓珍漢な方向へ歩き。
イレヴンが中央通りを探し始めるころには既に町はずれの遠方の方まで足を向けてしまっていた。
「……妙でござる。太陽を右に見て、王城の鐘楼が左に見えている方角。間違えていないはずでござる……うむ……」
間違えまくりである。
時間を考慮しない太陽の位置と、国のどこからでも見える鐘楼を目印に全て動く上に、その目印も碌なタイミングで確認しないものだから、彼女の向かう先はどんなAI思考ルーチンでも導き出せないほどの難解なルートを辿り続けていた。
これを探し当てることができるのは、それこそ理外の勘の持ち主である彼女の主たるロック=イーリーアウスしかいなかっただろう。
ヒノクニにいたころ、余りにも無秩序な移動を続けた結果、どこにいるか分からない最上級の武芸者として、見つけたらその日は幸運であるとまで称されていたサザンカの方向音痴が、久しぶりに遺憾なく発揮されることとなってしまっていた。
「ううむ……いかんいかん。このままでは主殿にもリン殿にも美味い料理を振舞えなくなってしまう……」
道中、たまに出会う王都の民に道を聞いたりもしながら、しかしその直後に別の道を選択して歩き抜けるサザンカも、これはまずいか? とようやく思い至るが、その足は止めない。方向音痴とはそういうものだ。止まることを知らないのだ。
自分の考えるままに歩いて行けばいずれは正解の道に出るだろうという謎の確信を持ち続けるのがそういった才能ある者の考えなのだ。誰も彼女を止める者はない。
はずだった。
「むぅ、まずい。空が夕刻の色を超え……ッ。────────」
サザンカの脚が一瞬、止まる。
そして千鳥足のように彷徨いながら歩いていた進路が、確信をもって一つの方角へと向かい始めた。
それは広い通りではなく、狭い路地裏へ向けて。
誰も周りに人がいないであろう人気のない方向へ。
そこにサザンカが向かう理由は一つだ。
勿論、方向音痴による迷子のそれではない。
「────────
殺気を、感じ取ってのものだ。
背後より漏れ出た己に向けた殺気。
それを、迷子中の日常の最中と言えども常在戦場を謳うサザンカが敏感に感じ取った。
周囲に迷惑をかけることなくそれを迎え撃てる場を選び、路地裏を選択し、そちらに向かったのだ。
広場での大立ち回りは主殿も望むまい。
王都の民に被害があってはならず、しかし迎え撃たぬ択もない。
素より祖国では日常茶飯事のように襲撃を受けていた身。
その頃よりも随分と暮らしは変われども、心の内に飼う獣は牙を研ぎ澄まし続けている。
迎撃する。
その結果、相手より目的を聞き出せればよし。
己の身が現在の王都で狙われる理由が余り思いつかないが、闘技大会や昨今の戦争で名の売れた自分を金銭目的か、はたまた体が目的かで襲い掛かる様な愚者が相手であれば、伊達にして返すもよし。
もしも平和を取り戻した王都に魔に族する者の闇手が紛れ込んでいようとも……腰には黒刀『黒鴉』を佩いている。もはや魔族に遅れは取らぬ。
そう考えて選んだ、人気のない路地裏。
大太刀を振り回すには少々手狭なそこではあるが、そんな場でも十二分に襲撃者を迎え撃てる技量を持つサザンカにとっては障害にもならない。
壁を背に振り返り、己の後ろをついてきた不届き者が姿を現すのを待った。
果たしてそこには、暗殺者がいた。
もう間もなく夕暮れを迎え、闇が広がろうとする王都。
黒いマントで全身を覆うように、音も立てず、まるでその場に唐突に現れたかのような気配の絶ち方を見せるその男。
深く被るフードから赤カブトを鋭く睨むその目を、顔を見て、サザンカは。
「─────見覚えのない顔でござるな。貴様、何者だ?」
その者の顔に、全く心当たりがなかった。