勘のいいガキはデカパイハーレムの夢をあきらめない! 作:そとみち
ついたわよトゥレスおじさんのお店!
店の扉前には「closed」の看板が掛けられてたけど灯りは付いてたので中にはいる様子。
なので突撃。
「おっじゃまー!」
「おーっす。親父に相談あって来たわ」
「トゥレスおじさん、こんばんはー! 遅くにすみません!」
俺を先頭に鍵は締まってなかったのでそのままお邪魔した。
中を見れば……あれ? サザンカさんおらんな。
あれー? 俺の勘はここにいるよーって叫んでたのに。
店の奥、いつものカウンターの向こうにトゥレスおじさんがいて、その周りはいつもと変わらない。
展示用の武器がいくつか棚に飾ってあって、理路整然と整理された通路には埃一つ落ちていない。
掃除が終わったばっかりってところかな? 店じまいの後も色々やる事あるよね。お疲れ様です。
「サザンカはいませんね……?」
『みゃ……?』
「……? ……すんすん……?」
イレヴンが口に出して疑問を零すが俺も同意だ。
明らかにここなんだけどな……今もこの近くにいるって俺の勘は言っている。どういうこっちゃ。
さっきまでいたとかなのかな? わからん。
まぁトゥレスおじさんに聞けばええやろ。もしかして俺んちまでの道順を教えて帰したばかりかもしれないしね。
「……こんな時間に、ずいぶんと大所帯で来たな」
俺らの姿を見て、気だるげないつもの雰囲気でカウンター向こうで腰を上げるトゥレスおじさん。
急な来訪ごめんなさいね。
カトルとティオ以外は用事が済めば帰るんで。
「悪ぃな親父。ロック達は俺らとは別の探し物だとよ」
「私とカトルはレベルが限界突破して……装備の相談できないかって思って!」
「俺は嫁であるサザンカさんが迷子になったので探し回っているところでして。トゥレスおじさんはサザンカさん見てない?」
それぞれ求める物を聞く。
俺のサザンカさん見てませんか? と確認を問いかけて。
「そうか……いや、見てないな」
「
────────空気が凍った。
「…………え?」
「うそ、ついてる……!」
「リン?」
「トゥレス、うそついてるよ! ロック、きをつけて!!」
「え、リンちゃん……?」
『……ッみゃあ!? みゃっ……みゃ!!』
「えっ何? どした急に?」
唐突に騒がしくなるリンとミャウ。
嘘ついてるって……ああ、そういやドラゴンって人の嘘を見抜けるんだっけ。ヒルデガルドさんがそんな事言ってたな。
え、じゃあトゥレスおじさんがサザンカさん見てないってのは嘘ってこと?
どゆこと? 実は見てたけど、ここであえて見てないって答えたって事……? なんで……?
「……ふぅ。そうか、ドラゴニュートだったな……嘘を見抜ける権能を持つという古文書の記載は事実だったか」
しかしそんなあわただしい雰囲気の中でもトゥレスおじさんは余りにも冷静だった。
いつも通りの様子で、気だるげに小さくため息をついて……いや。
そんな様子でいることがむしろ異常だと感じてしまう。
「─────
緊迫した気配。
俺の勘にも響かずに、何かが起きてしまっているような。
後からそれに気づいたような、手遅れになりそうな予感がして。
そして、勘が。
この瞬間に至り、ようやく、
「ッ─────エクスア」
「すゥッ……」
「え───────」
「予想してたよりも人数が多い……ああ、面倒だ」
そして、イレヴンとリンが戦闘態勢になろうとした寸前に。
店内に仕掛けられていた無数の罠が作動した。
※ ※ ※
そんなバカな。
「なっ、拘束魔法罠!? くっ……がッ!? まさか、雷属性でこれほどのモノを……!?」
『みゃあ!? みゃッ……!!』
そんなことがあっていいのか?
「んぎゃっ!? いったぁ……ん、ふ、にゅ? ちからが、ぬける……っ、?」
俺の勘が捕らえられていなかった。
イレヴンに向けて放たれた、床下から罠の要領で飛び出した拘束魔法。
リンに向けて放たれた、棚の裏に隠されたバネ仕掛けから飛び出した各種武器。
それらが、最強のアンドロイドと最強のドラゴンを拘束することに成功してしまった。
俺の勘は一歩遅れてそれがどんなものか理解。
イレヴンが拘束された魔法、バインドとも呼ばれる網上に魔法を編む魔法だが……雷属性が付与されている。
雷属性の魔法は光属性の次にレアな属性で、使い手は少ない。
そしてアンドロイドに共通する弱点属性となっている。
そこまでの知識と、魔法の腕と、罠の知識があって初めて成せるアンドロイドの捕獲。
リンに向けて放たれた数多の武器が、腕や足、羽根や尻尾を床に縫い付けてしまった。
だがドラゴニュートとしての肉体はそれで大きく傷ついたりはしない。
長剣が刺さってもなお出血すらしていない。リン自身の防御力が極まっているのもあるのだろう。
しかしそれでも動けない。それはなぜか。
答えは────リンに刺さった武器全てに、竜種特効が付与されているからだ。
これほどの特攻武器。集めるだけでもどれだけ時間がかかったのか。
「なっ、親父!? なんでッ────」
「リンちゃん!? イレヴンさん!? トゥレスおじさん、どうし────」
そんな唐突な惨劇に混乱する二人。
自分の父親が、親友の父親が、唐突な惨劇を巻き起こしたのだ……と、理解がすぐに及ばなかったのだ。
実戦経験の浅さとも言えるかもしれない。子供のころからお世話になって来た親しい大人が急に凶刃を向けたことに、体が反応できなかったのかもしれない。
それを咎められようもない。
慌ててお互いに魔剣を抜くが、その動作こそがカトルとティオを晒した最大の隙となった。
「『
「親父ッ!? くッ……、っそ!! 何してんだよ親父ぃ!!」
「きゃあっ!? え、うそ、こんな精度の魔法!? そんな……」
神速の石化魔法。
二人の気が動転した隙を穿ちぬいたその魔法は、剣を抜くための動作で防御魔法を唱える暇すら作らせず、二人の意識をそのままに、体を石へと変えて動けぬようにした。
石になってしまった二人の両手から喋る剣が零れ、そのまま床に突き刺さって。
10秒にも満たない惨劇。
そんな中で、俺は───────
「────お前は、避けるか」
罠も魔法も、全て回避していた。
「大したものだ。やはり……ロック、お前の勘だけは何をしでかすか分からんな」
ギリギリ間に合った……と、言えるのか。
いや、間に合っていない。
俺は気付けなかったのだ。
こんな事態になっているなんて、トゥレスおじさんが凶行に及んだなんて。
未だに勘が全力で叫び続けている。
まるで
何故俺がサザンカさんの危機を読み取れなかったのか。
何故俺がこの店に仕掛けられた罠の危険性に気付けなかったのか。
何故トゥレスおじさんが俺らに襲撃して来たのか。
「だが動くなよロック。人質は済んだ。俺の目的はお前の命だ……大人しくしていれば痛みを与えずに静かに殺してやる」
理由を、根拠を、その先に至る俺の求める事態の解決を探り……無限に勘が叫び続けて。
そして。
そうか。
──────
「……魔族に操られてるな、トゥレスおじさん」
「何のことだ」
「サザンカさんの時と同じ……いや、あん時よりも闇の気配の消し方が上手い。憑依した魔族が体を動かすタイプじゃなくて意思そのものを操るタイプっぽいな。なるほど、俺を殺すつもりでこの罠を仕掛けて来たか……サザンカさんも襲ったな?」
「……俺は。お前を……殺す。心の底から、殺したくて仕方がない」
答えに結ぶ推理を口から零す。
この場を、誰も傷つけることなく切り抜けるための一手として、まずタネを明かした。
トゥレスおじさんは今、魔族に操られている。
それを零すことが、俺が求める解の一問目。
そして返されるトゥレスおじさんの言葉には、俺も少なからずショックを受けている。
魔族に操られた状態とは言え、ガキの頃から親しくして来た大人に、本気の殺意を向けられるのがこんなにつらいなんて。
「ッ……うそ、ついてない……!!」
「マスター!! 気を付けて!! くそっ、こんな拘束魔法ごときで私を止められるとでも……」
『みゃ!! みゃあみゃあ!!』
「石化魔法の解除は自分じゃできねぇ……ティオ!! なんとかできねぇか!?」
「いくら私でも自分が固まってちゃ……お兄ちゃん!!
『とんでもないことになったわね……インテリジェンスソードは魔剣使いが振るわないと何の力も出せないわ。早くティオを助けてあげてねロック!!』
『……トゥレス、まさか貴方…………?』
全身の力が抜けたリン、拘束具から抜け出そうとすると電撃が流れて動きを阻害されるイレヴン、石化した二人とその魔剣がそれぞれ呟くが……今は駄目だ。
今俺が誰かを助けに行こうとした瞬間にトゥレスおじさんは俺の命を狙うだろう。
お互いに超軽装で。しかしトゥレスおじさんの方がレベルが高い。
素の速度差がはっきりとしすぎている。
この先、俺が一瞬でも隙を晒せば均衡は崩れるだろう。
トゥレスおじさんが凶刃を振るい、全ては終わる。
詰将棋をしているんだ。
こんな許せない事態を引き起こした原因を止め、救うために。
この先は一手も間違えられない。
今この瞬間に、俺以外の誰か一人でも
こんな街中で広範囲攻撃主体のイレヴンやリンが暴れちまったら店どころから周辺のお宅までぶっ壊しちまうかもだし。
カトルも狭い店内で大剣を振り回すスペースに苦慮するし、ティオだってその辺を配慮しながら戦うには優しすぎる。
俺しかいない。
「みんな……悪い、もう少しそのまま我慢しててくれ。俺がちゃんと、トゥレスおじさん助けるからさ」
「マスター!!」
「ロック……!! くっ、情けねぇ……!!」
『みゃっ……みゃ……!』
レベル200を超える最強の冒険者たちの自由を一瞬で奪ったトゥレスおじさんの手腕。
前々からやべー人だとは分かってたけどこれほどだったとはな……多分、おじさんも限界突破してんな、この様子だと。
サザンカさんが襲われている。その戦いの中だけで超えたか。
ああ────キレそうだ。
こんな惨状を生んだトゥレスおじさんにも、気付けなかった俺にも、無限に怒りが湧いてくる。
ただ、それに至る
だから、それをこれから証明する。
過程式を、俺とトゥレスおじさんで紡ぎ出す。
「こいよ、おじさん」
「────────」
俺は隙を晒さないように、トゥレスおじさんの真正面に相対したままで挑発する。
お互いの距離は家の中のため3m程度。
俺のまわりにはリンとイレヴンが床に倒れ、幼馴染二人が石化して固まっていて、飛び跳ね回るには障害物が多すぎる。
正面から飛び込んでくるトゥレスおじさんを迎撃するしかないのだが、間違いなく凄まじい速度での攻撃が仕掛けられるだろう。
しかしその速度はかつて操られてたサザンカさんの『隼断』を超える速度には至らない。
ならば為せる。
この先の詰将棋を間違えないために、俺はトゥレスおじさんのそれを捌き斬る。
「……本気でやってやろう。お前がこれを『捌き斬り』で返せば俺は死ぬ……そんな一撃でな」
「…………」
トゥレスおじさんが腕だけを伸ばし、棚に置いてあった細身の長剣を手に取った。
重ねて、挑発の言葉を返してくる。
その瞳の色は、普段のそれよりも暗く、闇に満ちたそれで。
零す言葉は己の命すら俺への人質とでもするように。
ああ、なるほど。
考えている。
トゥレスおじさんも、この状況を打開する一手を探していた。
中にいる魔族が狙う通りに場を進めている、と見せかけてその裏を取る様に。
流石だ。やっぱりトゥレスおじさんは天才だ。
それに俺も応えよう。
「……な、あの構えは……!?」
「ヴァリスタ師匠の技!? 親父、いつの間に……!?」
トゥレスおじさんが剣を以て見せたその立ち姿は、ヴァリスタさんの使う奥義『ベルンハルト・ドラッヘ』の構えだ。
寸分も違わず模倣されたその構え。飛んでくる
『隼断』に敗れた光景が記憶に新しいその技だが、しかし単純な貫通力、取り回しの良さで言えばむしろ上回るその奥義。
死ぬな、当たれば。
「……どんな技も、
「すげぇぜおじさん。でも、俺もその技は何度か見てるんでね」
「やってみろ。俺が死んでもいいならな」
「いいわけねぇだろ」
重ねてトゥレスおじさんが俺にヒントを零してくれるが……大丈夫、もうわかってる。
この後に起きることも既に勘が捕ら
ッ
来
思考
隙間─────
「────だッらァいッ!!!!」
捌き斬り成功。
返した。
間違いなく返した。
放つ気配を極限まで消された『ベルンハルト・ドラッヘ』に、しかし勘で合わせた。
その瞬間に膝蹴りを放つ程度の間はあった。
『隼断』よりはまだ返しやすい。
完全に威力を
サザンカさんの体を乗っ取られてたときに出来たことを、ここで出来ない理由はない。
「──────ッ」
出た。
瞬間的に俺との間合いがゼロになったトゥレスおじさんの、その背中から這い出るように飛び出してくるクソ魔族。
前に出て来たガス状の形態とは違って、今度は人型。
それもグンバツの美女だったが……しかしこの一瞬こそが
ここで0.1秒後の対応をミスれば、全滅する。