勘のいいガキはデカパイハーレムの夢をあきらめない!   作:そとみち

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132 Aさんはおいしいリンゴを一つ拾いました。大好きでした。食べたらなくなってしまいました。

 

 

 

【side 幻魔将アイム】

 

 

(─────勝った!!)

 

 確信した。

 

 私が選んだ贄……トゥレスは、私が誘導する思考のままにロック=イーリーアウスへの執念を募らせ、殺すための最適な手段を準備してくれていた。

 この王都で、ロック=イーリーアウスを誅殺するというのは本来、余りにもハードルが高い。

 なぜなら常にヤツは一人ではないからだ。

 アンドロイド、ブラックドラゴン……他にも人類でも特に秀でた戦力を持つ冒険者が、いつもヤツのまわりに存在するのだ。

 これを掻い潜って殺すのは、恐らくは私でも相当に厳しい道のりであっただろう。

 

 だが、このトゥレスという男は最適解を構築した。

 己の店に、ロックのまわりの者それぞれに対し特効となる罠を張り、その才覚を活かした各種魔法を操り、人質を取り、ロックをおびき寄せる作戦を考えていた。

 今日、街中でたまたま見つけたサザンカとか言うヒノクニの武芸者も、それ単体で魔王軍を滅ぼしかねないほどの圧倒的な実力を持っていたが……地の利と戦略で、無傷で捕縛した。

 そしてサザンカを偶然見つけたことで、今日という日にロックを誘い込む作戦を決行することになった。

 

 サザンカを殺さずに捕縛していれば、ロックが勘で探して店に立ち寄ってくるだろうという判断。

 店の地下室に意識を堕として隠されていたサザンカを、やはりロックは勘とやらで探し当ててここに来た。

 しかし少々誤算だったのは、それに複数人の付き人がついてきてしまっていたこと。

 だがそれすらも、室内に張り巡らされていた罠でアンドロイドとドラゴンを封じ、顔見知りである二人は隙をついて石化させた。

 

 後は一撃を入れるのみ……であったが、そこは流石にロック=イーリーアウスというべきか。

 このような状態になるのを理解していたかのような回避と捌き。

 ()わった瞳。

 危機に対し、即座に反応して最適解を選ぶというヤツの勘……それがどうやらギリギリで間に合ってしまったらしい。

 

 だが時すでに遅し。

 

(そう……トゥレスもここまでは読んでいた!! ロック=イーリーアウスがこれらの罠すら察知して食い破り、捌き斬りで反撃してくる可能性ッ!! だがその一瞬の隙を狙う! 私が狙うは()()()()()()()()()()()()()ッ!!)

 

 トゥレスの一撃に対してロック=イーリーアウスが捌き斬りを放った後が、私の必殺の瞬間だ。

 

 捌き斬りの性能については、我が部下ヴィネアより聞き及んでいる。

 話を理路整然とまとめる事を何よりも不得手とするアホからの聞き取りだったのでかなり骨を折ったが、しかしヴィネア自身が味わった捌き斬りの情報が何よりも今回の作戦の急所であった。

 

 爪による攻撃を捌き斬りで返された。

 体勢も武器の有無も関係なく返してくる。

 フェイントで放った閃光魔法すら拳で返された。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そこに答えがある。

 ヤツの捌き斬りは、返した直後に再び放つことができないのだ。

 

 ヴィネアの魔力砲を耐えたバリアーの存在もあるが、私は全ての攻撃に防御無視属性がついている。

 仮にバリアーを張られたとしても障害にはなり得ない。

 当てれば殺せる。

 

「──────ッ」

 

 トゥレスが放った刺突技を、ロック=イーリーアウスが捌き斬りで返した。

 間違いない。ロック=イーリーアウスの体に傷の一つもついていない。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 その反撃を受けた直後に己の意思で体から飛び出して……次の瞬間を与えずに仕掛ける。

 

「────ハアアアアアアッッ!!!」

 

 幻魔将たる己が放てる最大の連続技。

 魔力砲を連なる様に右手の五指より放ち、同時に左手の五指より幻惑系の魔法を放つ。

 状態異常耐性に優れるものは魔力砲で穿ち抜き、物理防御に優れるものは幻惑魔法で絡めとる。

 そしてこの10発を耐える様な……そちらの攻撃に気を取られた者は、口から放つ不可視の奥義にて絡めとる。

 

 奥義『絶対服従魔法(シュミテッド・ラヴァーズ)』。

 

 対象を完全に支配下に置く、幻魔将たる我が権能。

 魔法を掛けた者に対して命令に逆らわせない、必勝の服従魔法。

 

 この五月雨の攻撃を捌き斬ったとして、その直後にこの不可視の魔法を捌き切れるはずがない。

 それで死ねばよし。

 死ななくとも『絶対服従魔法(シュミテッド・ラヴァーズ)』が当たれば完全な支配下に置ける。

 さらに、『絶対服従魔法(シュミテッド・ラヴァーズ)』は技の対象が範囲型のため、トゥレスも巻き込める。

 トゥレスが捌き斬りで死んでいなければ、再び洗脳して優秀な手駒とすることができる。

 なんなら魔族に落として次の幹部として、などとも考えていて。

 

 そして、私の正常(まとも)思考(じんせい)はこの瞬間が最期となった。

 

 

 

※    ※    ※

 

 

 

【side ロック】

 

 

 ()()だ。

 あと8発の攻撃なら、俺は『捌き斬り』で返すことが出来た。

 

 トゥレスおじさんが放った『ベルンハルト・ドラッヘ』を膝蹴りで返したのはそこに理由がある。

 両腕をフリーにしておきたかったのだ。

 両手を使い、グーの構えから放つ人差し指から小指までの計4本×2の8本のデコピン。これが間を与えずに捌き返せる限界の数字だった。

 

 結局のところ、咄嗟のタイミングをとらえる必要がある捌き斬りは、連続攻撃に弱い。

 俺が対複数のザコ戦を得意としていない理由がそれだ。

 守りの指輪によるバリアーでの捌き斬りなども覚えてはいるが、バリアーは複数展開するのに時間がかかる。

 ホエール山脈でやれたアレは、魔族側がタイミングを合わせず雑に五月雨式に攻撃を仕掛けて来たからバリアーでも間に合ったのだ。

 今この瞬間に、瞬きの間に放たれるような連続攻撃を返すには、バリアーではタイミングの精度が足りなかった。

 

「────ハアアアアアアッッ!!!」

 

 トゥレスおじさんの背中から飛び出してきた女魔族が、この瞬間を()()()好機と捉えたようで、両手から俺のデコピンと同じように連続攻撃を繰り出してきた。

 しかしその違いは親指まで使っているという事。

 さらに見えはしないが口からも何か放っている。

 合計で11発。

 

 この同時多発零距離攻撃に、俺が合わせられる捌き斬りは8つまで。

 どれか一つでも直撃すれば死ぬだろう。

 この零距離で放たれる技の内3つを膝蹴りをして崩れた姿勢で無理矢理回避しながら、8回捌き斬りを成功させる……なんて無茶な真似は俺にも出来なくて。

 

 だから答えは簡単だったんだ。

 

 

 俺が捌き斬りできないんなら、()()()()()()()()()()

 

 

「どらっしゃーーーーーーいっっ!!」

「───────ッッ!!!」

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ヒントはいくつも貰っていた。

 

 一度見ればそのスキルを使えると言ったトゥレスおじさん。

 『隼断』を使えるサザンカさんを襲撃して、無傷で恐らくは捌き斬りを用いて凌いだであろうトゥレスおじさん。

 やろうと思えば()()()であろう俺の仲間たちを、しかし一人も殺さずに自由を奪うだけに留めていたトゥレスおじさん。

 

 全てはこの瞬間の為だ。

 身体を犯す魔族に悟られぬように、しかしこの一瞬で俺が全て読み切って魔族を討てるように場を整えていたんだ。

 

 だからさっき放たれた『ベルンハルト・ドラッヘ』も、殆ど威力がなかった。

 レベル12の俺に対して推定200オーバーのトゥレスおじさんが放つ刺突技で、しかし仮に捌き斬りが失敗したとしても俺が死なない程度の威力に調整されていた。

 それを捌き斬りして返してもトゥレスおじさんもまた死ぬはずないダメージで。

 

 しかし、それでも女魔族が飛び出してきた。

 前にガス状の魔族に返した時は唐突な致死量のダメージで驚いて……って感じだったが、今回この女魔族は明らかに捌き斬り直後の俺の隙を狙って来ていた。

 前に一度俺がそれをやっているという情報も、トゥレスおじさんの記憶から盗み見ていたのだろう。

 だから自分の身に返るダメージの大小に関係なく飛び出した。

 本当はトゥレスおじさんにすらほとんどダメージが返っていないという事を認識しないままに飛び出してきたのだ。

 

 故に、トゥレスおじさんは動けた。

 

 迫る5つの魔力砲、5つの幻惑魔法、1つの不可視の魔法の内……トゥレスおじさんは眼に見えてタイミングの取りやすい魔力砲を全て剣閃で捌き返し。

 残る5つの無形の幻惑魔法と不可視の魔法のほうは、俺が勘でデコピンで捌き返してやった。

 

「えッ──────そん、な───」

「ハイ勝ちィ!! 正座しろォ!!!」

 

 5つの魔力砲と5つの幻惑魔法、そして隠して放たれた1発を返された女魔族が驚愕に目を染める。

 そりゃそうだろうな。どう考えても必殺だったよこのタイミングは。

 俺を殺すために速度を求めたのだろう、威力は大したことが無かったのか、それともトゥレスおじさんの捌き斬りが上手く入っていなかったのかはわからないが、一先ず返しただけでは死んではいなくて。

 前に一撃で死んだベルゼビュートとかいう将軍よりは骨があるな。

 

 でも残念。

 俺の勘が唐突に叫んだんで。

 どうやら俺はこの女の生殺与奪を奪ったらしいので。

 

「正座だ正座ァ!! 正座したら動くな!! 逆らうなァ!!」

「は、はいっ!! 失礼しましたロック様ぁ!!」

 

「マスター!! その女は第二席、幻魔将アイムです!! 気を付け……いえ。これは……催眠系の魔法にかかっている……?」

「何だ!? ロックにかけようとしてたのがそのまま返されたってことか!?」

「どーなってんの!? お兄ちゃんが勝ったの!? トゥレスおじさんもっ……!!」

「……ロック、そいつにじょうほうしゃべらせて! うそだったらわかるから!」

「任せろい!!」

 

 俺が捌き返した幻惑魔法……いや、違うか。口から放ってた不可視のアレか。

 見えないから返すのダルってなったけどそもそも俺目を閉じてても捌き返せるし。

 これがトゥレスおじさんだけだと厳しかっただろうな。

 だからこそトゥレスおじさんもこの場を整えたって所なのだろう。

 

 まぁ返した。どうやら俺の命令にこの女魔族は逆らえないらしい。

 慌てて正座して背筋を正して俺の方を向いてきた。

 成程おもしれ。

 俺もこんな状況じゃなけりゃもっとテンション上げるんだけどなー。

 

 ……()()()()()()()()()

 

「正座のまま動くんじゃねぇぞ!! 俺が許すまで何もすんな!! この場にいる全員に逆らうなよ! 人類に牙を向くの禁止な!!」

「はい、畏まりました……!」

「お前は幻魔将アイムだな!? 俺の命令に逆らえないってことで間違いないか!?」

「はい、私は魔王軍の第二席、幻魔将アイムでございます! ロック様のご命令に逆らうことはありません!!」

「うそついてないよロック、まちがいないみたい!」

「よっしゃそんじゃまず俺に心底惚れろッッ!! さらにスリーサイズと好みの男のタイプを教えろオラッ!! プライバシーはないと思えオラッ!!」

「絶対聞くと思った」

「お兄ちゃんサイテー」

「マスターのいつものが出てきてようやく安堵が追い付いてきましたよ私は」

「はいっ、お慕いいたしますロック様!! スリーサイズは100:60:102で、好みのタイプは己の意志(わがまま)を貫き通せる強いオスでございます!! まさしくロック様のような……!!」

「いい趣味してやがんなグヘヒホ!!」

『みゃあ……みゃふぇぇ……?』

「いちおーうそはついてない」

 

 とりあえずいつもの如く調子に乗った()()()()()、この女がアイムであることを確認した。

 ついでに抜けない楔も打っておいて、今この場でコイツの危険性を除いておく。

 何があってもこれでアイムは動けない。

 

「……すまんな。ロック、助かった」

「ん。いいんすよトゥレスおじさん。いやまぁ俺の女たちを襲撃したのは後できちんとワビ入れてもらいたいすけど! 操られちまってたんなら仕方ないっすからね!」

「ああ、勿論心から詫びは入れさせてもらう。サザンカも無事だ……気を失わせてはいるが、別室で横にしてある」

「手ェ出してませんよね???」

「操られてたって親父がンなことするわけねぇだろアホロック……」

 

 捌き斬りの共演を見せたトゥレスおじさんも、ようやく体を犯していた魔族が抜け出たことで、微笑みを()()()謝礼の言葉をかけてくる。

 それに俺もあわせて肩の力を抜いて。

 事態を終えて、室内に安堵の空気が広がって。

 

「安心しろ、他人の女には興味ない。……悪かった、本当に」

「いいんスよー。それより早くみんなを解放してもろて。トゥレスおじさんのことだから石化解く魔法も使えるでしょ?」

「ああ、そうだな。すぐにやる。その後に事情を説明させてもらいたい」

「そう……ですね。いえ、ここまでくれば私達もおおよその事態は理解はしましたが」

「幻魔将アイムに操られちゃってたんだねトゥレスおじさん……でも、お兄ちゃんならなんとかできるって信じて、裏をかいて……すごいよー!」

「俺は情けねぇよ……クソ親父がこんな周りに迷惑かけてよ……」

『みゃ!! みゃあみゃあ!!』

 

 肩を竦めて、俺はみんなを……特に俺の罠開錠で解放できるであろうイレヴンの方を向いて、トゥレスおじさんに背を向けた。

 トゥレスおじさんも、みんなを解放するために俺の背後からついてきて。

 

 

「……悪いな」

 

 

 凶刃が俺の首に向けて放たれた。

 

 

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