勘のいいガキはデカパイハーレムの夢をあきらめない!   作:そとみち

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133 Bさんはとてもおいしいリンゴを一つ拾いました。食べても食べても無くなりません。Aさんはそれを眺めていました。

 

 交錯は一瞬。

 

「……なっ!?」

「親父ッ!?」

 

 俺の首を狙い背後から放たれたトゥレスおじさんの剣閃。

 音もなく構えもなく、ただ俺の命を刈り取らんと振るわれたそれに────俺の対処が間に合った。

 

「……魔法防壁(バリアー)、か。護りの指輪が出せる出力じゃないな」

「物騒だぜ、おじさん」

 

 瞬時に張った、護りの指輪によるバリアーが俺を護る。

 この襲撃を勘で読んでいた俺は指輪の意志に事前に呼び掛け、剣戟から守り抜くように指示していた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 まだその時ではないからだ。

 

 振り返り、改めて相対する。

 幻魔将アイムの支配から逃れ、自由意思を取り戻し、その上で俺を狙ったトゥレスおじさんを正面から見据える。

 

「なんで!? トゥレスおじさん、魔族の支配からまだ逃れてないのっ!?」

「逃れたさ」

 

 いつでも剣を振るえる間合いに、いつでも捌き斬りで返せる体勢で向き合う俺たちにティオから疑問の言葉が叫ばれる。

 それに応えるトゥレスおじさん。

 その眼差しは真っすぐ俺に向けられていた。

 

「……逃れたさ。ロックのお陰でそこの魔族を俺の体から排除できた。さらに自由意思までロックが奪った。俺が求めていた最高の状況が()()()()()()()。今……この魔族はロックの言葉に逆らうことはできない……」

「トゥレス、貴方は何を……!!」

「ここでロックを殺せば隷属魔法の命令権は消えちまうだろう。だから殺す前に俺が命令権を奪えばいい……ロックが死ぬ前に命令権を移して、俺がこの魔族を操る。使役する。さらに俺が求める存在もここにいる……出来る。とうとうやれる……そう、やれる……」

「親父!? 何言ってんだよ親父!?」

「……うそは、ついてない……っ!」

『みゃ……!』

 

 本気だ。

 リンも言う通り、嘘偽りない本心の言葉なのだろう。

 トゥレスおじさんは今、本気で俺を殺そうとしている。

 殺せば……自分の求めるモノが、揃うと信じている。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

 本気だからこそ、安易に次の攻撃を放ってきていない。

 俺には捌き斬りがあるからだ。全ての攻撃を捌き斬りで返せば俺に負けはない。

 隙を伺っているのだ。俺が捌き斬りを安易に放てないような隙を。

 もしくはそうなる様な状況を作ろうと思考している。

 

 ただ……俺もトゥレスおじさんを殺すことはできない。

 そのつもりはない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 何度でも言おう。

 俺は今キレている。

 

「アイム」

「はっ……!!」

 

 隙は見せずに、声だけで正座し続けているアイムに語り掛ける。

 コイツがある意味では今の状況のカギだ。

 どうせ言葉足らずのトゥレスおじさんの事だ。

 どう問いかけたって、今の状況に繋がる理由をこの人の口からは語られないだろう。

 

 だから、トゥレスおじさんに憑依して記憶を読んだアイムから語らせる。

 

「トゥレスおじさんがこうなっちまってる理由はわかるよな?」

「はい! その者の内に潜んでいた時に、記憶をすべて読みました故!」

「お前の責任でもあるよな?」

「仰る通りでございます……!! 大変申し訳ありませんロック様!!」

「トゥレスおじさんの過去から今の状況まで全部話して」

「畏まりました!!」

 

 俺とトゥレスおじさんがお互いの隙を逃すまいと睨み合い千日手を生む中で、アイムの口から全てが語られる。

 

「その者は─────」

 

 

 それは、後悔の物語。

 

 

 

※    ※    ※

 

 

 

 かつて、神童と呼ばれた少年がいた。

 

 トンビが鷹を生む、などという表現では表せないほどの傑物。

 王都のなんでもない家系の長男として生まれたその少年は、余りにも秀でていた。

 教えることは全て理解し、レベルも他人とは比較にならない速度で上昇する。

 間違いなく将来は英雄と称されるであろう、他を圧倒する才気煥発の素質を持っていた。

 

 そしてそんな才能に誰よりも最初に気付いたのは、当然にして本人その人であった。

 少年は、己の才を周囲に悟られることを恐れた。

 人間には己よりも優れた他人を排斥する習性がある事を知っていたからだ。

 初めて言葉を発したときに余りにも流暢に言葉を習得しすぎてしまい、父親が恐れを抱く表情を見せたのも影響したのかもしれない。

 その少年は、才能を周囲に見せぬように気を配って生きることを決めた。

 

 天才は孤独であった。

 王都の子供が受ける義務教育である尋常教育を受ける中で、その先にあるあらゆる知識を先んじて書籍で学びながらも、強い退屈を覚えていた。

 同年代の少年少女に対し、どうやっても話が合わない。

 心の底から通じ合えるような共感を得られない。

 一目見れば覚えられるような事に対して、何カ月も勉強してようやく身に着くような、そんな存在達と心の底からわかりあって話すことが、どうしてもその少年にはできなかった。

 友人と呼べる存在はいなかった。

 

 父親は息子に覚えた得体のしれない恐怖が拭えず、逃げるように離婚。

 母は女手一つで甲斐甲斐しく息子の世話をしていたが、ある日生業にしていた運送業の傍らに王都の外で魔獣に襲われて死亡。

 両親を早くに失った少年は、しかし、親を失ったことに対しても強い感情の動きを覚えることはなかった。

 人はいつか死ぬからだ。

 

 父親が離婚をした理由がたとえ己にあるとしても、それは人間が持ち得る可能性のある感情の、機微の一つに過ぎなかったからだ。

 母親が魔獣に襲われた件については数は少ないが王都周辺でも他の国でも比較的聞く話。運が悪かった。それだけの話で。

 そして、両親がいなくとも自分は生きていける力がある。

 普通の人間が考える先の、その先の先まで推量できる才能に溢れた少年は、生きる意味を見い出すことが難しかった。

 精神が悟りの境地に至るのも早かった。全ての生きとし生けるものが生きる理由がわからなかった。

 何でもできるからこそ、何もかも無意味に思えていた。

 

 そんな少年が尋常教育を終え、冒険者の道を選んだのは、ひとえに保身のためであった。

 冒険者ならば、才を見せつけようとも疎まれることはない。

 その他の仕事に比べれば少なくとも、強い事が存在の証明になり、尊ばれる職業である。

 そう考えて選択した冒険者という職業。

 12歳になり派遣された研修先の金級冒険者を、たった3日で実力で上回り、1週間で知識を上回り、特別にギルドの認可を得て銅級から冒険者を開始。

 冒険者を始めて1年で金級に昇格してもおかしくない実績を上げるが、当時の昇級試験には年齢制限があったため、15歳になるまでは最強の銅級冒険者として名を馳せていた。

 この天才が存在したことで制度の見直しが行われ、昇級試験に年齢制限がなくなり、後の世で彼の息子とその幼馴染が最年少の銀級昇格と謳われることになる。

 

 冒険者になった彼は、それでも日々の冒険に心が躍ることはなかった。

 戦えば勝つ。

 強敵にも、装備を整えて挑めば勝つ。

 ダンジョンも、適切に道具を整えて挑めば踏破する。

 そこに感情の高ぶりはなかった。

 彼にとっては全てが1だった。

 1+1が2になる事を繰り返す。

 そこに何の感動も生まれなかった。

 当たり前に彼は魔獣を狩り続けた。

 

 目標が欲しい。

 生き甲斐が欲しい。

 いつしか少年はそう願うようになった。

 心の奥底からの強い思いでなくとも、退屈を潰すような特異な何か。

 それを、冒険の中で見つけたいと考えるようになった。

 

 パーティを組んだ男がいた。

 還暦に近い、白髭を生やしたその男は、日々の全てを楽しんで生きていた。

 前向き、というのともまた違う。

 あらゆる出来事を受け入れ、享受し、楽しみ、事を為すような。

 将来は王族の世話役兼執事として働く男は、潤いを失った天才の眼を見て、それと共に冒険をすることを楽しんでいた。

 「いつかトゥレス殿にも、己の全てを賭けてもいいような何かが見つかるとよいですな」。

 それが彼の口癖だった。

 世話焼きな男だった。

 お節介なおじ様がいつしか隣にいるようになった。

 

 パーティを組んだ女がいた。

 130年近い時を生きる、滅んだとされる種族『エルフ』の生き残りの女だった。

 村からの噂話を受けて調査に向かった彼が見つけたその女は、自分や隣の男の倍以上も長生きしているはずなのに、怯えた眼をしていた。

 彼は全くその女の種族に興味がなかった。

 敵意もなかった。差別もなかった。

 今の王都はエルフに対して今もなお根深い差別が残っているわけではなかった。

 それなのに、恐怖という感情を今もなお捨てられないほどの、深い重い暗い感情というものはどれほどのものなのか。

 そこだけに興味があった。

 この女が、今の王都を見てどんな気持ちになるのか。どんな感情の動きを見せるのか。

 それを見るためにパーティに誘った。

 仲介はお節介なおじ様がやってくれた。

 エルフという種族への差別を一切しない彼に、エルフの女は興味を持った。

 100年以上も関わらなかった人の世が今どうなっているのか、見てみたいと思った。

 その少年は余りにも無口だったので会話は殆ど生まれなかったが、その分お節介なおじ様がその間を取り持った。

 

 天才少年と、お節介なおじ様と、耳を隠すエルフ。

 不思議なパーティが王都で活躍していた。

 飛びぬけた実力を持つ3人は、いつしかその知名度を上げ、王都トップの成績を果たしていた。

 

 『万極』のトゥレス。

 『万通』のルドルフ。

 『万聖』のミル。

 

 そう呼ばれた彼らパーティは、『三傑』と呼ばれ、高難易度な魔獣討伐等を依頼されることが増え、ギルドからも国からも頼りにされる存在になっていた。

 10年おきに開催される闘技大会でも、ルドルフに勝手に出場登録されたトゥレスが優勝した。

 目立つことを嫌ったトゥレスが優勝後のトロフィー授与を拒否し、前国王と現国王に面白い男と逆に買われる形となった。

 ミルも少しずつ、少しずつ王都の人々の営みに触れ、かつて抱いていた人間への恐怖を漱ぎ始めることができていた。

 トゥレスが17歳になるころには3人とも金級の称号を獲得し、ギルドからの依頼を受けて働く立場となっていた。

 少しずつ変化が生まれる中で、しかし、彼らはとある探検依頼を受けて、それが大きな転機となった。

 

 150年ぶりに復活した、王都より少し離れた位置に存在する洞窟型ダンジョン。

 中級者向けとして歴史書に知られていたそこに、危険度の調査の為にトゥレスら一行が探検調査の依頼を受け、向かった。

 ダンジョンの攻略自体は簡単なものだった。

 前評判の通りの、中級者向けのダンジョン。

 このダンジョンをそつなく攻略できるようであれば、銀級の実力に足りるだろうと思われる程度のそんなダンジョンで。

 

 しかし、最深部に近づいたところでトゥレスがある仕掛けに気付く。

 それは通常ダンジョンに存在する罠と変わらぬ仕掛けで、通常のシーフであれば察知できるであろう罠で、勿論の事トゥレス達もそれに気づき、身の安全を確保したうえで解除を試みる。

 だがその中で、明らかな二択となる罠の操作があった。

 奇妙な仕掛けだった。どちらを選んでも罠の解除は問題なく進むが、なぜかやり方が二通り。

 トゥレスは特段考えず、一つを選択した。

 そして開く最深部への階段に続く扉……と、それとは別にもう一つ扉が開いた。

 最深部である地下に潜る方向への道ではなかった。

 奇妙な通路に、調査の為にトゥレスら一行はそちらへ進む道をたどることにした。

 

 果たしてその先には、奇妙な光景が広がっていた。

 無数に並べられたガラス状のカプセル。

 人ひとりが収まりそうなサイズのそれに、しかしほとんどのカプセルは空になっていて。

 まるで謎の実験でも行われていたかのようなそこに、トゥレス達は調査を開始した。

 魔獣の気配はない。魔素も特別に溜まっている様ではない。

 並んでいるカプセルが広がる広大な空間……その最奥に、それは存在した。

 

 唯一稼働するカプセル。

 その中に満ちる液体に浮かぶ、一人の少女。

 カプセルの手前には、しゃがみ込んだまま朽ちた冒険者の躯。

 躯が背を預けていた、床に突き立っている一本の魔剣。

 

 その魔剣の名を『イルゼ』と言った。

 

 カプセルの中にいる少女は、『ワン』と名乗った。

 

 

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