勘のいいガキはデカパイハーレムの夢をあきらめない! 作:そとみち
【side イレヴン】
食後のお茶を用意して、リビングで一息をついていた。
「今日も色々あり過ぎましたね」
『みゃ』
「ですね~」
「本当に、主殿と共にいると毎日退屈せぬ。主に不甲斐なさを感じることが多いでござるが……」
この家にいる年長勢、ノインとサザンカもそれぞれテーブルについてお茶で喉を潤して食後の時間を過ごしていた。私の肩にはミャウもいる。
お風呂は今現在、マスターが利用中。
先程まではリンもリビングにいたが、お茶を飲んで腹ごなしが終わってから、マスターと一緒にお風呂に入ると言って着替えを取りに部屋に戻っていった。
まぁ、寵愛の順番としては今日は彼女だろう。マスターが疲れていなくて、リンにしっかり欲望を向けられるかは知らないが……自由でいいと思う、そこは。
私はマスターが求めてくれれば応えるまでだ。多分明日は私だと思う。
「……ところで~。イレヴンさんは体内にあった魔力炉心……増設したサブの炉心を摘出してしまったわけですが。体調とかは大丈夫なんですか~?」
「ええ、元々基本構造に無かった増設部位を再度取り外しただけなので。今は体内も増設前の状態に落ち着いています。レベルも下がっていませんし……その内マスターにお願いして再び増設する予定です」
「誠にアンドロイドという存在は不可思議なモノよなぁ……己の心の臓に当たる部位を増やしたかと思えば、それを摘出し同族に提供できるなど。正直、拙者には理解が及ばぬでござる」
「厳密に言えばただの機械ですからね、私たちは。それにしたって、魔力炉心を増設する機能が実装されたのは私……『Ⅺ』からですから私が世界初の存在でしょうし、それを一号機であるワンに移植して、しっかりと起動させた……なんて。本当に世界初の事態、いえ、事件でしょうね」
「ですよね~。テンまでのアンドロイドにそこまでの機能解放はなかったはずですし~、そもそもレベル上限が200を超えてから新しいスキルツリーが出てくるなんて、私の知識にもありません。………うん」
自然と零れるのは今日のこと。
ノインより心配の言葉を受けたが、私の体は全く問題なく稼働している。
マスターとルドルフの行った炉心摘出が極めて適切な処置として行われたからだろう。特段エラーを吐いたり魔力回路の破損などもなく、増設前の状態に戻っている。
これだってあり得ない事態なのだが、その上でマスターは私がさらに魔力炉心を増設できることと、
「……少々話しづらい内容ですが、ちょうどいい機会なので。ひとつ、話題提起をしていいでしょうか」
「ん~?」
「なにか?」
『みゃ』
「─────マスターの『勘』の事です」
小さく息を呑む音が聞こえた。
それぞれが色んな感じ方を、捉え方をしているだろう。
マスターの勘。
スキルとしては表されない、ただシンプルに勘がいいだけ、とマスターが言っているそれ。
近い概念のスキルに『直感』というものがあるが、あれは戦闘中に相手の攻撃を回避しやすくなるというだけのものだ。
マスターの勘とは全くの別物と考えられる。
あれは─────
「───異常です、明らかに。今日の一件でさらに確信は深まりました。マスター本人は『今ある情報からできるなって分かるやろがい! ヒントいっぱいあったやろがい!!』とか言ってましたが、どう考えてもワンを助けるための手順に理解が及ばない部分がいくつもある」
「……そうですね~。何かを探したりするときに自分から求めて発動する勘と、危機などに反応して急に響き出す勘の二通りのパターンがある、とは聞いたことがありますが~……」
「拙者の『隼断』の、放つ予兆すら読み取らせぬ一撃を難なく捌き返した時点で異常の極致とは感じ取っていたが……しかし確かに、今日のは格別に奇天烈でござったな」
『みゃあみゃあ』
そう、異常なのだ。
私達アンドロイドや、世界最強の剣士サザンカ、世界最高峰の魔術師ノインから見ても……マスターのやる事だけは、理解が及ばない。
ミャウも『理解るわ。とってもよく理解るのだけれど』といったふうに頷いている。魔王軍の元将軍ですら読めない何かをマスターは持っている。
思えば、私との出会いの時点からおかしな話だった。
私達アンドロイドが安置されている開発室に入るには、『Ⅰ』を除いて12桁のパスコードの入力が求められる。
マスターは適当に押したら開いたと言っていた。つまりパスコード自体は入力しているのだ。別口のどこかから入って来たわけではない。
それは、単純計算で1,000,000,000,000分の1の確率。
1兆分の1を一発でクリアしてしまっているのだ。
ぞっとしてしまうほどの奇跡。
さらに確率の話だけで言えば、マスターの勘の異常性を秀逸に表した一つの過去を私は聞いている。
冒険者の指導に当たっていたディセット老が毎朝マスターに課していたという、宿泊権を賭けたコイントスの的中。
これをマスターは3年弱毎朝続けて、一度も外したことはないという。
ざっと数字を当てて、1000日連続で成功させていたとして、その確率は……約1/1.07150861×10^301……となる。
もう桁数を言葉に表せないほどの確率だ。文字通り人知を超えた数字。
他にもマスターは説明できない事態をいくつも捉え、乗り越えて来た。
ホエール山脈山頂での活躍が、それこそ異常なる勘の極致と言えよう。
あの場に世界中の他の誰がいても全滅必死、王都が滅びていただろう将来を……マスターは勘の一つで覆した。
「……記憶が新しいうちに少々ブレインストーミングをしたかったんです、今日のマスターの勘の件について。……まず、そもそもですがマスターの勘はあらゆる事を察しているわけではないようですね」
「サザンカさんの危機に気付かずに、トゥレスさんのお宅までみんなで行った結果の今、ですからね~。仲間の危機に何が何でも反応する……という感じでもないようです。それだったらサザンカさんが……いえ、トゥレスさんがアイムに操られてることをまず察知するはずですもんね~」
「拙者が闘技大会で魔族に心を侵された時にはその日の朝から危機的な何かを感じており申したが……確かに、今回拙者が不覚を取ったことには先んじて反応はしてなかったでござるな。いや自分のことながら悲しくて不甲斐ない話でござるが」
「トゥレスがあれ程強かったとは私達も知りませんでしたからね。ですが、トゥレスは幻魔将アイムの支配から逃れるのが目的で、私達を殺すつもりはなかった。そこまで読んだうえで、勘が先にそちらへ反応を示さなかった……と、言うのも何だか変な表現ですが」
「ん~…………これまでのロックくんの活躍を見てると、なんとなーくですけど、一つ思い当たることがあるんですよね」
『みゃ?』
「ノイン殿、それはどのような……?」
マスターの勘。これまで頼りっぱなしになってしまっており、これからも無視できない私達の行動指針の一つであるそれへの理解を深めるためにブレインストーミングを始めた。
各々が思ったことを話す。
やっぱアレやばいな、という大前提の共通認識があることを改めて確認して、その上でノインが一つ、思い付きの推論を出した。
「……遡ると、ロックくんが私と出会った瞬間から……いえ、孤児院にいた頃から変だったってティオちゃんもカトルくんも言ってるのでホントに生まれた時からなのだと思いますけれど~。こう……ロックくんの勘による最終的な結果って、あらゆる可能性を考慮しても最善のオチになっている感じがしませんか~?」
「……ふむ?」
「……なるほど?」
『みゃ……』
ノインに改めて言われて、これまでの活動を改めて振り返る。
私を見つけた時。
あれはたしか銀級昇格試験中だから、理想的な行動はノックスと共に普通に私に続く隠し通路をスルーして試験を続ける事だろう。だが私と出会い、魔獣の襲撃にも会ったが私がいることで突破して、結果オーライとなった。
偽バアルとの戦闘は……あれはマスターの捌き斬りで形勢逆転したが、カトルとティオと私で何とか出来た可能性もあるので除外して。
ネレイスタウン。
ヴィネアが攻めて来たタイミングを考えると、それ自体を勘がもっと早く察知出来ていてもおかしくないような気がする。
もっとしっかりと準備をしてヴィネアを迎え撃てていたならば、メルセデスの神弓で優勢に戦えていたかもしれない。
しかしその場合、私の本登録が済まされず、ティオの魔装具であるセントクレアの全力の魔装具鋳造もなされず、エルフであるという事実も零れなかったかもしれない。ケンタウリスのメンバーからマスターの事が高く買われることもなかっただろう。
メルセデスが重傷を負い、全滅しかけたという過程はあったものの……結果だけ見れば、全員の仲が深まり、戦力も増強され、お金も稼げて、マスターの株も上がった。
闘技大会。
サザンカと出会ったのはマスターのスケベ心からなのかもしれないが、その出会いがあるからこそ一番最初に操られたサザンカが狙うのがマスターの命となり、周囲への被害が減っている。
朝の時点でヤバい感じがする、と言っていたからこそ私も備えられたし、マスターも迅速に動いた。あそこで勘が働くのが遅れていれば、国民が本当に数千数万から死んでいてもおかしくなかっただろう。孤児院の子達にも被害が出たかもしれない。
そしてその騒動があったからこそ、最後がサバイバル戦になってマスターが勝利して、国中に顔が売れて……サザンカも、マスターに助けられたことで、ここでこうして嫁の一人になっている。
マスターとしては最高の結果と言えるだろう。
グランガッチ。
これはもう王宮でフォルクルスの場所を見つけたこと、これに尽きるだろう。
あそこでフォルクルスの存在を察知できていなければ、他のメンバーと共に謁見の間に移動し、そこで正気を失った向こうの王族と戦闘になり……死ぬことはないだろうが、まちがいなくグランガッチと王都オーディンで戦争が起きる引き金になっていた。
それに追従してフォルクルスら魔王軍が王都に侵攻していれば、やはり国は滅びていたであろう。
そして、ホエール山脈山頂の件と戦争の件。
確かに取れる選択肢は多かったように考えられる。
ホエール山脈は、そもそも襲撃の危機を感じ取って向かわないか、急いで前日に登山するかをしていれば魔王軍と邂逅していなかった可能性もある。
だがたまたまノワールと出会った瞬間が魔王が攻め込んでくるタイミングで、そこでマスターが己の命すら欺く材料に使って機転を利かせた結果、闇の魔素は絶たれ、ノワールの意識は刀に残り、メンバーの全員が魔王との遭遇戦を生き延びたことで限界突破し、リンが管理権を継承して戦争に間に合い、死者をゼロとすることができている。
未来を見えていてもこの結果に紡ぐのは難しいのでは、と思えるほどの……最良の結末を迎えている。
今回のトゥレスの件もそうだ。
では仮に、トゥレスの危機を感じ取ってサザンカが襲われる前に助けに行ったとしよう。
マスターの勘がどう動くかという要素はあるにせよ、恐らく事前に家の中もヤバいと感じた上で、私達高レベルなメンバーが全員本気でトゥレスに挑めば、流石のトゥレスも旗色が悪かっただろうと思われる。
そしてその中にいたアイムであっても、あの場では特攻武器を食らったリンと私が動けず、サザンカも既に捕らえられていたからこそマスターとトゥレスの二人を狙ったが、全員で戦ったら多分無力化できる。状態異常耐性を3人が持っているからだ。
だがその場合、アイムも逃走を考えるだろう。逃がしていたか、逃がしていなければ討伐したか……しかし、討伐していては今の結果はない。情報をいくらでも引き出して、さらに言えばマスターから見て新しい女が増えたという嬉しい事態にはなっていない。
アイムの自由意思をマスターが奪い完全隷属の状態に出来たからこそ、アイムの口からトゥレスの過去が零され、それを聞いたマスターがワンを助ける手段を思いついた。
ふむ。
確かに、これまでマスターの勘が異常に働いていた時は、最終的に最良の結果になっているように思える。
恐らくだが、ディセット老との出会いも、ミャウを……ベルベッドを見つけた時も、リンとの出会いも。
勘による理不尽な選択肢を紡いで、最善の結果を辿ったが故の縁なのだろうと確信してしまうほどに。
「つまり~……あー……なんて言うかな~。わかるかな? こう……例えばこの世界が神様によって作られているとして~」
「なんて?」
『みゃ?』
「今何と申したノイン殿?」
「あっクソ~これでも駄目か~。えーっとぉ……とりあえず、神様がいるとするじゃないですか?」
「ふむ。まぁメルセデスも神に造られたとされる弓を扱ってますしね」
「神……ヒノクニにも土着神という考え方が在り申す。精霊とも同一視されることが多いが……ノイン殿が言いたいことは分かるでござる」
「うんうん。それで、神様が『こうやったら最終的にこうなります』みたいな答えを知ってて~、それをロックくんが何だかこう、勘という名の神託みたいな感じで受け取ってる……ような~? そんな風に私には思えるんです~。だって、そうでも思わないと~────」
「───────
ノインのその言葉には、全員が無言を返事とした。
きっと、図星だったからだ。
これまでも、なんだそれヤバ……マスターおかしいわ……と感じていた所は多かった。しかし今日のそれは……何と言うか、一段違う恐ろしさというか。
己の
多分、サザンカも同様の事は感じている。きっと隼断を返された瞬間に、それを彼女は感じている。
あらゆる現象に勘の一言で最適解を紡ぐ理不尽の塊。
マスターの勘に感じた恐れ。もしかすると私は、今日それをせめてみんなと共有することで己の心を慰めようとしたのかもしれない。
ノインの勘に対する解釈自体は、それも一つの考え方かな、という所で腑に落としたが……勘の異常性については、答えの出ない迷宮のようだった。
けれど。
勘の恐ろしさは、マスターそのものを恐れる理由にはならないのだ。
「……怖さは、否定はしません。けれど同時に、私はそんなマスターに見つけてもらえて幸運だったとも思っています。愛している。この感情は嘘ではありません」
「そうでござるな……拙者もイレヴン殿に近い心持にござる。主殿の勘は、あなや阿修羅か御仏の加護か、はたまた魑魅魍魎の悪魔の御業かとも思われる恐ろしさを持つが……だが、拙者が主殿に惚れたのは、あの勘による捌き斬りの所業だけではござらん。きっかけはそれでも、惚れこんだ理由は他の部分にある」
「あは。勿論ですよ~、私だってそうです~。確かにやってることヤバ~コワ~の極みなんですけど、そんなことはぶっちゃけどうてもよくて~。ロックくんは私が願ったとおりに、私を
「「「───優しいから」」」
『みゃ!』
そう、私は……私たちは、マスターの人柄に、優しさに惚れている。
女好きで、スケベで、すぐ調子に乗って、まだまだ子供で、おバカなマスターだけれども。
でも、彼は───────とにかく、優しい。
3人ともその答えに至り、くすりと笑みをこぼしてしまう。
孤児院の子供たちから懐かれている理由があって。
ミルとティオを掬った理由があって。
メルセデスやヴァリスタ、その周りの女性たちからも認められる理由があって。
その他、王族からも冒険者たちからも街の人たちからも……なんだかんだ、認められている、その理由はただ一つ。
優しいのだ。
底抜けに。
目の前で誰かが困ってたら、助けたくなる人だから。
穏やかな死を迎えようとする老人に、最期の時まで寄り添える人だから。
たとえ男が相手だとしたって、なんだかんだ文句を言いながら助けてしまう人だから。
本人が聞けば「んなこたないやろー! ドスケベな女の人ならそりゃ助けるけど見知らぬイケメンならほっとくわよ俺ンモー!」とか言い出しそうだけれども。
けど、多分助けてしまう。
文句を垂れて渋々ながらでも、助けない、見捨てるという選択はできない人だから。
これまでのマスターの歩みがそれを証明している。
付き合えば付き合うほど、誰かを助ける場面で真剣になるマスターの良さに気付いてしまう。
真剣なときの横顔が、抱きしめてしまいたいと思えるほどに味わい深いから。
だから私たちは、マスターについていく。
愛されるために真剣だ。
「……マスターの勘と、マスターについての共通見解が得られて何よりでした。今日はとりあえずこれくらいにしておきましょうか」
「ですね~。私たちみんな奇妙な縁でロックくんのお嫁さんですけど~……なんか、ロックくんの前で愛憎でケンカしたり私が一番~ってならないんですよね~。なんていうかな、逆に共通財産? みたいな~」
「はは……拙者は主殿に一生を捧げた身。ヒノクニでは一夫多妻など珍しいものではござらぬし、嫁同士仲良くしましょうぞ」
『みゃぁ……みゃっみゃっ』
ブレインストーミングの議題は少々逸れてしまったが、元よりこの場で答えを出さなければならないものでも無し、答えが出る様なものでも無し。
みんな、優しくて恐ろしいマスターが大好きである、という気持ちを共有できたので、得るものはあった。
仲よくしよう。私達が愛憎や感情の相違で喧嘩なんてしてしまっては、マスターが落ち込むだろうから。
※ ※ ※
さてその後。
「お風呂あがったよー」
「あがった、よぉ……」
「ああ、了解です。では次はノインから……どうぞ……?」
「……ん? リンちゃんの様子が~……おっとぉ~? なるほどな~?」
「主殿。……ああ、いえ。何でもありません」
「なんじゃい。……あ、そうだ。ノインさん例の魔法お願いしていいですか?」
「は~い。
「どもっす! そんじゃ俺らもうお部屋に戻るからあとはよろしくな!」
「よろしくぅ……」
お風呂から上がったマスターと、マスターに髪を整えてもらったのだろう、艶のある黒髪を揺らしてリンがリビングに顔を出したのだが。
しかしどう見てもリンの顔が風呂上がりというそれだけでは説明できぬ紅の色に染まり、表情が……こう、
やったなコイツ。
「……ノイン。もしかしてマスターって上手なんですか?」
「ん~? ……それはもう、すごいですよ? でもあんまり言うとお二人の初めてに申し訳ないから、あとは自分の体で確かめてみてくれ~、なんつって。お風呂先にいただきますね~。
「…………凄いのでござるか、主殿……」
しっとりとした雰囲気で部屋に戻っていくマスター達を見送って、ノインにそれとなく聞いてみたらノインも昨晩の情事を思い出したようで、蠱惑的な表情を作って答えた。
……明日、楽しみにしておこう。