勘のいいガキはデカパイハーレムの夢をあきらめない! 作:そとみち
トゥレスおじさんたちとの挨拶も終えて、改めて闘技場にいるみんなと簡単に話す。
嫁さんたちは今からレベリングに参加する事、俺は今日はオールニートデーなので観客席でのんびり眺めさせてもらう事を伝えて。
「お兄ちゃんはどうせ明日以降もレベリングには参加しないでしょ?」
「まぁね」
ティオに鋭く指摘されたがまぁその通りで。
俺レベル12からずっと変わらんしね。俺が混ざってもカトルとティオは楽しめるかもしれないけど俺がまったく楽しくないし周りの足引っ張るマンになるから眺めるだけしかできんのだ。
流石の俺もここでみんなを闘技場に置いて一人でどっか遊びに行ったり図書館行ったりなんて考えるはずもなく。
勘に任せて動いてりゃ大きな問題はないと思うけど、それだって俺もみんなと一緒にいたいしさ。魔族に狙われてるのは事実だから心配もかけたくないしさ。
そんなわけで俺だけ完全に手持無沙汰になるのよね闘技場では。
王族からまた依頼受けてリンとノインさんと一緒に世界を回ったりするのかもしれないけど……その辺も俺いなくても全く問題なく回れるし。
俺いる???(条件反射)
「……ロック=イーリーアウス」
「ん、なんですヒルデガルドさん…………あ、いや! そうだった昨日お姉さんに会いましたよ! 色々あり過ぎて報告すっかり忘れてたわンモー!!」
「ああ、そんな事だろうと思ったよ」
しかしそんな俺に声をかけてくるヒルデガルドさん。
そわそわした様子で話しかけられたからなんや話す事あったっけ……って思い返したらそういや俺昨日ヒルデガルドさんのお姉さんのサラマンダーさんとお会いしてたっけね!!
完全に忘れてたわ! 夜からのイベントが濃密すぎて!
「昨日の件はティオから聞いた……全く。お前は常に誰かを救わないと生きていられない人間なのか?」
「いやァ……俺べつに大したことしてなくてェ……アイム捕まえたのはトゥレスおじさんが策を練って踏ん張ってくれたからだし、ワンさん目覚めさせたのはまぁ俺の指示もあったかもだけど、実際頑張ったのは色々魔法使ってくれたみんなだったり炉心提供してくれたイレヴンだったりでェ……」
「……全く嘘の匂いがしないな、お前は。私も長い事人間を見て来たが……お前ほど裏表のない人間は初めてだ。多少の自慢くらいはしてもいいのだぞ?」
「よくわかんないけど恐縮しちゃってェ……」
少なくとも闘技場にいるメンバーにはトゥレスおじさん絡みの昨日の件は共有されていたらしい。
言いふらしたのはティオだろうな。まったくもー。アイツゴシップ好きすぎるぜ。カトルもそうだよなぁ。なんかニュースあったら俺んちに飛び込んでくるしよ。
ヒルデガルドさんが昨日の件に触れて来たので恐縮してたらなんか呆れられてため息つかれた。なんでさ。
胸張って俺が誇れる過去の功績なんてイレヴン自力で見つけて目覚めさせた件くらいで……ほかに独力で偉業を成したって胸張れるのはリンを見つけた時くらいか?
でもリンの件も結局はギルドに逃げ込んで他の冒険者に泣きついて助けてもらったからな。俺は一人じゃ大したことできねぇのよ。じーさんのゴブリンの件だってザコゴブリン倒しただけだし。
俺は周りにみんながいるから何とかいい感じになってるのだ。周りに誰もいなかったらただのガキでしかないなと最近強く思うようになってる。みんなへの感謝を忘れる男にはなりたくない。
だからこうして感謝を込めながらデカパイにお辞儀をするんですね。(結論)
「下姉上は……サラマンダーは、何か言っていたか?」
「あ、はい。色々お話しましたけど……ヒルデガルドさんと、あとニーズヘッグあてに伝言を預かってきてます」
「む」
「えーっと……確か……」
「いや……そうだな、ちょっと待てロック=イーリーアウス」
「えっなんで」
デカパイ感謝でへへぇ……と手を合わせてへこへこしつつ、そういやサラマンダーさんからヒルデガルドさんとニーズヘッグに当てた伝言を預かっていたのを思い出す。
これが男宛てのメッセージだったら多分昨日の事件で忘れちまってたと思うんだけどね。
俺が女性に当てた想いの籠った伝言を忘れるはずがないからね。
ヒルデガルドさんには『管理人の使命は私が護るから、貴女は貴女の征く道を』。
ニーズヘッグには『いつかまた、一度だけでもいいから顔を見せてほしい』。
一言一句間違えず覚えてますよ。
レッドドラゴン三姉妹丼をいただく夢があるからな俺には。恩は売りまくっておきたい。特売セール。
で、早速それを伝えようと思ったら急にヒルデガルドさんからストップをかけられた。
なんや。
「……下姉上からの伝言は急ぎ伝えねばならない事か?」
「ん。や、いや、そこまで急ぎってことはないすけど……でも別に一言で済む様なお話でしたよ?」
「そうか。なら……ここでそれを聞くのはやめておこう。後で私に伝えてくれ」
「なんで?」
「……はぁ……」
「謎のため息」
「……理由を作ってやろうと思ってな。ロック=イーリーアウス……サラマンダーからの伝言を、どんなことを話してきたのかを私に伝えるのは後日にしろ。私が王城にいる時に訪ねに来い……
「?????」
「お前の勘はこういう時に察しが悪いのか??」
ヒルデガルドさんが今は聞かない、後にしろと言って……わざわざ俺王城に行かなきゃで……なんで? マジで一言で終わる内容なのにそんな遠回しにナンデ!?
って無限に首傾げてたらまたしてもヒルデガルドさんがため息を一つ零して、そして。
「……ベッドの上で聞いてやる、と言っているのだ」
「!!! あっそういう……そう言う事ねー!! なんや月が綺麗ですね並みの遠回しな表現でしたかンモー!! ようやく理解しましたわそんじゃ夜にお伺いさせてもらいますわァ!!」
「すぐに調子に乗るなお前は。まったく……それで、いつ頃ならば来られそうなのだ?」
「あー……えと、その。申し訳ないんすけど順番的にまずは嫁さんたち優先したくてェ……今日明日で一先ずみんな愛を交わし合うと思うのでェ……明後日の夜、とかでどうですかね」
「承知した。いいさ、お前を心から愛する者を優先するのは当然のことだ。では明後日の夜だな、期待して待っている」
「ぬへへ……!!」
なるほどねそういうことねー!!
ごめんなさいねドスケベ回路の接続が悪くって!! いきなり味のある言い回しで誘われちったもんだからちょっと追いついてなかったですね!!
俺のほうから雰囲気作れないって思って自分から理由作ってくれるヒルデガルドさんすき!! 優しい!!
これはもうお返しにしっぽりとこのデカパイドスケベドラゴニュートを味わってやらねばいかんな。遺憾の意。
童貞を喪失し経験人数が増えることで俺の閨のレベルは急上昇中だ。イレヴンにも負けない成長速度だ。俺の才能が怖い。
戦う方のレベルアップが全くできない分えっちなほうでレベルアップしてみんなを悦ばせてやらねェとなァ!!(決意)
そんな感じでヒルデガルドさんとも逢瀬の約束を取り交わし、話も終えたので俺は観客席のほうに向かい、みんなのレベリング模擬戦を観戦するのであった。
※ ※ ※
「暇」
『みゃ』
そして30分後の俺がこれ。
暇すぎて眠くなってきた。なんもやることないからさ。
いやそりゃあまぁこの場にはデカパイがいっぱいだ。そんなデカパイが縦横無尽に動いて揺らしてるのを見るのに飽きることはないと断言できるのだが……それはそれとして暇なのだ。
今日一日は休むと決心したから混ざるなんて選択肢はないんだけど、よくよく考えたら俺ってなんだかんだ暇をつぶすのあんまり得意じゃねぇな? って自覚した。
そういやこれまでも暇な時間って殆どなかったし。
暇な時は常に図書館に行って異世界転生チートさんの作品読んでたし。
ここにそれらの作品があればそれを読んでいっくらでも暇は潰せるだろうけど。ルドルフさんにお願いすればすぐにでも準備してくれそうだけれども。
でもみんなが張り切って訓練してる隣で本を読むのもいかがなものか? って感じもするし。
いかん。暇である。
「……ミャウ、枕」
『みゃ。みゃっみゃ! ふみゃ~……』
暇つぶしにモフっていたミャウに枕になってもらい、観客席のベンチに横になったりもしてみるが……みんなが90度回転して横向きになっただけで退屈は変わらない。
休むと言った手前このまま昼寝に入っても怒られないだろうけど……でも嫁さんたちが頑張ってくれてるところで寝てるのもどうなん? それはどうなん??
じゃあ魔族の事とかこれからの事とか真剣に考えて……ってのもなぁ。
トゥレスおじさんにその辺お任せしちゃったし。なんなら俺の方から変に頭回さないでおじさんたちに任せた方が最終的にいい結果になるって勘が囁いてるし。
暇である。
「……あ、ノインさんが限界突破した。早いな」
『みゃ?』
だらけながら眺めてたらどうやらノインさんが限界突破したみたいだな。早いね。始めてから30分くらいしかまだ経ってないのに。
模擬戦に参加する時にノインさんが身に着けた装備のお陰なのかな。
『経験値効率アップの装備なんですよ~昔は全部課金アイテムだったんだけど時が流れて市場に流通してるのマジで激熱ですよね~これもっと整えて今後の訓練でみんなで使いまわしましょうね~パーティレベリングの基本ですね~』とかワケわからんこと言ってたけどな。まぁ流石ですわノインさん。
デカパイなうえに叡智もある。デカパイ叡智…………ふわぁ。
「ダメだマジに眠い」
『みゃ……』
大きなあくびなんて零してしまって。誰かデカパイを隣に置かないと俺はこのまま眠りについてしまうかもしれん。
でもなぁ……訓練に真剣なみんなを差し置いて昼寝はなぁ……なんて、思考のループに陥りそうになっていると。
しかし、そこで。
「……ん?」
足音が聞こえた。
舞台を眺める俺の背後から……かつッ、かつッ、と芯のある足音が聞こえてくる。
歩き方がサマになってる、って言えばいいのかな。しかしこの足音には聞き覚えはない。
シーフなんで知り合いなら足音で判別くらいはできるのだが、この足音は少なくとも親しい仲の人ではない。
ただし敵意は感じない。当たり前の話だけどな、闘技場内だし。
誰だろ。
俺はのっそりと寝返りを打って近づいてくるその人が誰かを確認して。
そして……それが見覚えのある顔で、でも闘技場で見るとは思わなくて驚いた。
「……
「ごきげんよう、ロック=イーリーアウス」
第六王女、マリア様だ。
この人と俺は二度ほどお顔を合わせている。
一度目は勿論、先日の王城でのノインさんを俺にください事件があった褒賞授与。あの時に王族一同で俺に頭を下げてくれた時にいた一人だ。
そして二度目はつい昨日。俺たちがワンさんを再起動させたのち、アイムを王城に運んだ際にたまたま王城にいたので応対してくれたのだ。
その時はめちゃくちゃびっくりしてたけど……ただ、その二回のどちらも俺は直接話していない。
一度目は当然話す機会なんてなくて、二度目もノインさんが衛兵も交えて対応してくれて、アイムを押し付けてすぐに俺ら帰ったからな。
凛とした声を聞くのもこれが初めてだ。透き通るような美しいお声でしたわね。
しかしマリア様は王族である。
王族の王女様に共通するナイスなデカパイを携えて、お顔はノインさんや他の王女様たちと比べてもツリ目気味でキツめの印象を受ける人だが、当然にして失礼があっちゃまずいだろう。
慌てて体を起こしてベンチから立ち上がり、マリア様に正対する。
なんやなんや。俺に何か? アイムの件か?
「……随分と貴方はお優しいのね。周りの者がこうしで汗を流しているのに、ペットの猫と優雅に横になっているなんて」
「アッなんかごめんなさい。ちゃうんです俺レベリングでは力になれなくてェ……」
なんかめっちゃ悪役令嬢っぽいムーブで遠回しに責められてるぅ!!
でも仰ってることは一分の隙も無くそうだね×1な内容だから言い返せないわ!! 俺だけ暇してるの申し訳ないなーってさっきまで俺も思ってたもん!!
「混ざれとは言っていないわ。貴方の特異性は私も聞いている……貴方の為した数々の功績も。責めているつもりではないの。ここ数日の貴方の働きの疲れもあるでしょう、座っていなさい」
「アッハイ」
『みゃ』
「疲れを癒すために横になるのもよいでしょう。けれど、そこで惰眠を貪る事を良しとせずに訓練する皆を見守るために起きていた貴方を褒めたいだけなのよ。随分と部下想いの……いいえ、奥方想いの男のようね、貴方は?」
「ンーンン……?」
「それにしても昨日は本当に困ったわ。夜も更けたころに将軍格の一人を捕えて王城に来るなど常識外れにも程がある。その後の処理がどれだけ大変になるのか想像しなかったのかしら?」
「あー……そこはごめんなさい……?」
「謝らないで。責めているわけではないのだから。けれども、そうね。私も少々寝不足なのは認めるわ。将軍格と相対したことなどあるはずもなく、心臓の早鐘が中々収まらず……それを貴方のせいと咎めるのは筋違いかしら? いえ、分かっているわ。貴方はこの国を守るために、かつての英雄の妻、友人の母を救うために尽力した。それを褒めたいという気持ちはあれども、多少の文句くらいは言っても許されるのかしら?」
「まぁ……はい……?」
「頷かないで頂戴、冗談なのだから。……昨日はよくぞ王都の危機を救ってくれました。父ディストールに代わり感謝を申し伝えます、ロック=イーリーアウス」
「アッハイ」
『みゃあ?』
で、ここに来た理由とか色々マリア様と話していく中で……俺の勘というか、なんだろう、なんとなく感じ始めたマリア様の性格。
この人見た目がすっごい悪役令嬢って感じで言葉もキツい単語使う癖があるから勘違いされるかもだけど……中身これかなり優しい人だな!?
だって文字通り受け取ったら普通の会話だもんコレ!!
横になっても寝ないでちゃんとみんなを見守ってた俺偉いって褒めてくれて昨日はいきなりで驚いたけどよくやってくれましたって話だもんな!?
やだこの人おもしれー女。
最近おもしれー女と知り合うことが増えたな!
これは逆に肩ひじを張らずに付き合った方がいいな?
よしOK。ノリ軽めで対戦よろしくお願いします。
「……それで。退屈をしているのかしら、ロック=イーリーアウス」
「あー、まぁそうなんすよね……マリア様の仰る通りで、レベリングは混ざれないけどみんなをほっといて何かするってのもアレだなーって思って。でも眺めてるだけでなんかなぁ……って感じで」
「律儀なことね。……そういう所が末妹のノルンが気に入ったところなのかしらね。あの子はうまくやれているかしら? 人付き合いが苦手な子だから。奥方を複数持つ貴方の家族と仲良くできているの?」
「あ、そこは大丈夫だと思いますよ。俺の嫁さんたちみんな仲良くしてくれてるし……リンの面倒とかも結構見てくれますしね。今朝はリンの髪をノインさんが整えてくれたりして」
「そう。それはよかったわ。もしも貴方やその家族とノルンが上手くいっていないようだったらどうしようかと考えていたの。私達王族にとってあの子は可愛い末妹なのだから。あの子が不幸になるような事が万が一にでもあれば……分かっているわよね、貴方の勘なら?」
「コワーイ」
『みゃ』
「悪いわね、あの子の夫たる貴方にこのような話をするのはよろしくないとも分かっているのだけれど。心配なのよ。気を揉んでしまうのもわかってくれるでしょう。私と貴方は一昨日が初対面で、話したこともなかったのだから。どんな相手がノルンの夫なのか、私も知りたくなるという気持ちは察してくれるかしら?」
「ああ……そりゃそうっすよね。うん、わかります」
「よろしい。では貴方の退屈を潰しつつ、私達がよりお互いを分かりあうために────」
やっぱり話しててもこれはトゲではなく性格なんだなってマリア様への理解を急激に深めつつ。
話はノインさんが嫁いだ俺というガキがどんな奴なのか知りたいわって言う当たり前の流れになり、そして俺を良く知りたいという話になって、そして。
「────チェスを一局。いかがかしら?」
お手持ちのアイテムボックスからチェス盤を取り出した。
ええ……。(真顔)