勘のいいガキはデカパイハーレムの夢をあきらめない! 作:そとみち
さてアンドレ様に呼び出されてやってきました王城。
王城の転移陣は外の広間に設置されており、そこで俺達を待っていたのは。
「来たか……ロック。呼び立てて悪いな」
「すまないねロックくん。至急確認しなければならない事情が発生したものでな」
「ん。トゥレスおじさんにウィリアム様に……」
『みゃ……みゃっ!?』
先程ワンさんと一緒に王城に向かったトゥレスおじさんと、そして第一王子のウィリアム様がいて。
そしてその傍では。
「お許しください……お許しくださいワン様ぁ……!!」
「許すかってんですよこんにゃろー!! 人の旦那に色目使いやがってぇー!! オラッもっと腰しっかり支えろオラッ!! 歩け歩けー!!」
「ひぃぃ……!! いやぁぁ……っ!!」
「いい声で泣くじゃねーかよこのメス犬はよぉ!! けどなんか速度落ちてんなぁー? 手ぇ抜いてんのかオラッ!! お前は150年経っても反省しねぇなぁー!! またイルゼにぶった切られたくなけりゃ犬になれよ犬によぉー!!」
「うぅぅぅ~……!!」
四つん這いで地面を歩く幻魔将アイムと、その背中に乗って楽しそうにアイムのケツを引っぱたくワンさんが。
ええ……。(ドン引き)
「……あ、ロックくん来たー! やっほー。ロックくんも乗るー? 支配欲満たせますよー?」
「トゥレスおじさん。もしかして俺ワンさん起こす時に思考回路とかダメにしちゃった?」
「ワンは元からあんな感じだが」
「一児の母のやることですか? これが……」
「ワンさん面白ぇ女~」
『みゃあ……』
ホントにトゥレスおじさんおもしれー女を捕まえたんだな……って色々驚きと共にその光景を眺めている。
アイムは昨日俺に絶対服従になって、その中で「人類の敵になる行動をするな」「人類の命令を聞け」と命令して俺以外の人の命令も聞くようにしてたから、それを使って命令を聞かせているんだろう。
完全にアイムをおもちゃにしている様だけどその中でもちょっと気になる話がワンさんから零れていた。
「ワンさんって……確かあれだっけ。150年前の人魔大戦での最後、魔族領での戦争で魔王を倒したんでしたっけ。イルゼと一緒に……」
「そうですよー。当時のクソ無口なマスターとイルゼと一緒に最後は魔王ブッ殺してやったんですよー! なんせワンちゃんつよーいですから!! ……で、その途中でこのアイムも倒したんですよねー。当時のマスターが単独で奇襲かけて討伐してたから私の事コイツは知らなかったみたいだけど。まぁその程度のクソザコなんですよコイツはー! なんで復活してんだよオラーッ!!」
「ひぃぃ……!!」
「なんでお尻叩いてんの……」
「そりゃあもう私の愛する旦那を操ってロックくんを殺そうとした罰ですよ罰!! こういうしつけは早い時期にやった方がいいって育児の本に書いてありましたからね!! 赤ちゃんになれオラーッ!!」
「ひぃ~……!」
「楽しそうだなぁ」
『みゃあ』
そうだよなぁ……今目の前でおもしれー事してる人がかつて魔王を倒した伝説の冒険者の相棒だったんだよなぁ……。
よかった俺イレヴン見つけられて。(素の感想)
まぁデカパイがいじめられてるのは見てて楽しいからとりあえず今は意識を逸らそう。
ずっと眺めてたらおかしくなる気がする。勘がそう言ってる。
「……で。俺を呼んだのってどんな事情だったんです? アンドレ様はなんか急ぎだって話でしたけど……」
「ああ、すまないな。アンドレは何かとせっかちでね……そこまで緊急を要する事態が起きたわけではないんだ。ただ今後も見据えると早めに対応しておかなければならないと思ってね」
「アイムから情報を引き出しつつ、今後の事を打ち合わせていた。しかしその途中で……アイムにかかった絶対服従魔法が弱まった感じがしてな」
「えっ」
さてそんじゃ俺が呼ばれた理由を確認する。
ウィリアム様曰く大至急と言う話でもないとのことだが……そのまま二人の話を聞けば。
「どうやら……時間が経過すればするほど、コイツは自分にかかっている絶対服従魔法の支配から逃れている様だ」
「えっ。ヤバいじゃないっすか」
「ああ。今はまだこうして支配が及んでいるが、万が一にもロックくんが支配権を持っている絶対服従魔法の支配が切れてしまったら隷属の首輪をつけていてもそれを超えて逆襲をしてくる可能性もある。将軍格の魔族だからな、これでも」
「なぜ抵抗が出来るようになったのか理由を問い詰めたが、絶対服従魔法に重ねて隷属の首輪もつけている状態だというのに抵抗し始めてな。……正確には、抵抗できないフリをして嘘を答えていた。その嘘を見咎めることでより俺が効果が薄れていることの確信を深められたわけだが」
「わぁー……ん、嘘が分かるんすかトゥレスおじさん?」
「昨晩、あれだけリンが見せてくれていただろう。あれを模倣しただけだ」
「チートか?」
「……だが、嘘と真実を混ぜた回答の中でも……直接の命令権を持つお前の命令にはまだ従うようだったからな。なのでこうしてワンが身体的拘束を果たしたうえで、お前を呼んで改めて聞き出してほしかったのだ。絶対服従魔法の効果がどれほど及ぶのかをな」
「なるほど」
とりあえず話は分かった。
なんかアイムが俺に支配されてる状態が時間経過と共に薄れてる? ようで、このままだと絶対服従魔法から逃れる恐れがあると。
隷属の首輪もつけてるけどこれだって将軍格なら破って逃れる可能性がある。
コイツ自身の危険性もあるから俺やトゥレスおじさんがいない場でまた誰かの精神に忍び込み出したら逃亡も容易だろう。
俺がいる限り転移魔法で逃げない限りは勘で見つけてやるからそんな事にはさせないけど、それはそれとして可能性を潰しておくのは大切だわな。
「了解っす。それじゃあ……アイム!!」
「は、はいっ! 何でしょうかロック様!!」
「とりあえずその場で腕立て伏せ100回だオラッ!! もちろんワンさん乗せたままでなァ!! 変に手ぇ抜いて落とすんじゃねぇぞオラッ!!」
「ロック」
「ロックくん」
「畏まりましたぁぁ……!!」
「あっはっはー! ロックくん分かってますねぇ! 私を落としたらわかってんよなぁこの売女がよぉー!! 魔族は滅びてしかるべきなんだよなー!! 人間様に逆らうんじゃねぇぞこのやろー!! 人間様がこの世界で最強なんだからなぁー!!」
「私達アンドロイドの矜持を捨てないでワン」
「ロックくんと同じタイプのスタンドか~」
『みゃぁ……みゃぁぁぁ……』
一先ず俺はアイムに命令し、その場で腕立て伏せを100回させることにした。
これによりまずデカパイが地面に何度もどたぷんってするから俺の魔力が急速に満タンになる。腕立て伏せの疲労でアイムも弱体化させられる。筋トレに集中して余計な考えを持たせないことができる。ワンさんが楽しそうで嬉しい。
一石四鳥。これを即座に思いついた俺は偉いぜ。ちなみにクソ真面目です。
命令の通りに必死に腕立て伏せするアイムとその背中の上で楽しそうにはしゃぐワンさんに近づき、続いて命令を下す。
「……で、だ。アイム、俺が捌き斬りで返したお前の魔法……命令権を持つ俺に絶対にお前は服従するはずだよな?」
「はいっ……! それはっ、間違いっ、ありませんっ……!」
「そうか。だが昨日俺は『人類の命令を聞け』って命令したはずだ。この国にいる人の命令を全て聞かなきゃならないはずだよな、お前は?」
「そのっ、通りでっ、ございまっ、すぅっ……!!」
「そうだよな。────ここから先の質問に嘘をつくなよ。美人は殺したくない」
「ッ……!!」
勘によれば、俺が今した質問に対してこいつはまだ嘘をついていない。
だが隙があれば……凌ごうと。どこか僅かでも緩んでいればそこから逃れようとするような狡猾さを感じている。
俺の命令に服従する、という魔法……じゃあ命令じゃなくてお願いだったら聞かなくていいのか? 質問に答えるのは?
確信は持てない。何故なら俺らが扱う魔法ではないからだ。
しかしアイムこそこの服従魔法の効能を、性質を誰よりも理解しているだろう。
油断はできない。腕立て伏せしながらも首を持ち上げ此方を見るアイムに、ゆるみを見せちゃあまずい。
「
「ッ……、わかり、ました」
はっきりと命令するという形で、自分からこの魔法の効能を語らせる。
その中に僅かでも嘘があれば……。
「……」
「…………」
「んー?」
少しだけ振り返り、トゥレスおじさんの顔を見て目線で意志をやり取りする。トゥレスおじさんも頷いてくれた。
嘘があれば、その瞬間に殺す。
その見解で俺とトゥレスおじさんの間で腑に落とした。
アイムの上に乗ってるワンさんが呑気な声を上げるが、それなりに今俺マジなんすよ。
デカパイドスケベ将軍とは言ってもここで油断して逃がしてひっくり返されたら最悪だからな。
少なくともコイツは反逆を諦めてねぇし。
「……ロック様に返されたこの魔法は『
「やはりか……」
「また、効果時間も制限がございます。命令権を持つ者から命令がなく
「……昨日、俺の家でアイムの魔法を返したのが20時間ほど前か。ギリギリだったな……」
「命令はあらゆる命令を強制することができますが、自殺だけはさせられません。また、物理的に不可能な命令や対象者の能力を超える様な命令は有効となりません。……おおよそは、これで説明させていただきました」
そして語られた『
24時間と言う時間の縛りがあるとは思わなかった。今日ここで俺が連れてこられて命令を重ねがけしてなかったら自由を取り戻してたって事か。怖いな。
そして昨日俺が命令した内容も、20時間が経過した今、アイムが抵抗できるようになっていたってことで。
これトゥレスおじさんが尋問で嘘を読み取ってなかったらマジでヤバかったかもな。24時間従順になってた振りをして逃げられてたかも。あっぶね。
「……とりあえず聞ける情報は聞けたけど。どうします、これ?」
「そうだな……」
「24時間の縛りがあったとはな……難しい条件ではないが、油断はできないな。牢に入れっぱなしと言うわけにはいかないか……」
「んー?????」
一先ず聞けた情報を元にトゥレスおじさんとウィリアム様に指示を仰ぐ。
ワンさんは相変らず頭の上にクエスチョンマークを浮かべまくってた。この人可愛いな。
しかし……24時間の間を開けずに、しかも一度した命令も継続させるためには定期的に命令をしなきゃならない、ってのは……それなりに使い勝手が悪いぞこの魔法。
少なくとも王城に置きっぱなしってのは危険性が高い。今回はまだギリギリで被害が出ていないが、それは……多分、この縛りを知らなかった俺が24時間以内に再び命令をかけないことを狙って、従順な振りをしていたからだ。そうすりゃ『
この情報を知られた以上、アイムが次に考えるのは俺がかけた命令に抵抗が出来るくらいの時間が経過した時点で、人類に牙を向き誰かの精神を乗っ取って逃げる事だろう。
そうならないように定期的な命令を俺がしなきゃならんのだが、しかしそれは正直めんどい。俺だって家族がいるしやる事あるし。
嫁さんたちとのベッドインをこいつに邪魔されるの頭来るし!
いつかこいつもベッドの上であへあへにはしてやりたいけどコイツだけってのは違うじゃん!!
「……殺してしまいませんか?」
「何?」
「イレヴン?」
少し悩んでいたところで、イレヴンが話に混ざって解決策の一つを提案する。
ここでアイムを殺してしまう事。
確かにそれは単純な解決策の一つだ。逃げられる憂いが無くなる。
「聞く限りでは、時間が経過すればするほどこの女を逃がしてしまう可能性が増えます。今の時点で引き出せるだけ情報を引き出してから殺してしまえば後顧の憂いを断てる。今の私なら一撃でチリへと変えられます。
「……っ!!」
「おー、イレヴンも私と同じ結論ですねぇ!! ブッ殺しちゃえばいいんですよ魔族なんて!! アンドロイドってのは魔族を滅ぼすために造られた存在なんですからね!! ブッ殺すならお手伝いしますよー!! ワンちゃんドリルでぎゅいんぎゅいーんですよー!!」
「コワーイ」
イレヴンもそれに追従するワンさんも殺意たっか!! 流石のアンドロイドですわよ。
その言葉にアイムの肩がびくっと震えて……ちょっとだけ気の毒に思う所もあるけど。
しかしまぁコイツはトゥレスおじさんを操ろうとした大罪人だからな。
流石に俺もここで俺の希望だけでデカパイ無罪で殺さないで―、とは主張できない。
惜しいデカパイだけど既に俺の元には大量のデカパイが集っているからな。
デカパイを選べるほどの立場になったか俺も。感慨深い。
だが、そこでトゥレスおじさんが首を横に振り否定の意を伝えて来た。
「……それは俺も考えた。だが逆にこの場で殺すリスクも存在するため、その手段はとれない」
「ん、なんで……」
「……いえ、私も可能性としては考慮していたのです。トゥレス、貴方が危惧するのは……フォルクルスと同様に、
「そうだ。先ほどフォルクルスの件をアイムに聞いた時に、魔王による復活魔法の存在を確認している。殺したら逆に向こうに戻られる可能性がある。そしてロックと俺という存在を知った以上、この女が次に人類軍に牙を向いた時に相当厄介な事になるだろう」
「あーそっか! そうだよなぁ……ぶっちゃけコイツの能力って初見だと俺くらいしか対処できないっすもんね」
将軍格を魔王が復活させられるという縛り。それを忘れていた。
そういやそうだわフォルクルス復活してたわ! それがアイムにもあり得るって事か!
そりゃまずいわ……いやフォルクルスはまだ力押しで何とかなるタイプだけどアイムは違う。コイツの能力は余りにも策謀に長けている。
今回はマジでたまたま俺が最初に狙われてたから何とかなったわけで、例えば他の国の偉い人操ったりこの国の一般市民から毒を撒くように闇を広げれば俺らにはどうしようもない所まで引っ掻き回されるかもしれないし。
あかんあかん。殺すのはアカン。誓って殺しはやってません。(定型文)
しかしとなればどうするか。
ここは覚悟を決めて俺がコイツの面倒見るか……デカパイだし多少我慢すりゃあな……などと考えていた時だ。
「……仕方ないな。ロック、頼みがある」
「ん。……まぁそうなりますよね」
俺から提案する前にトゥレスおじさんから切り出してくれた。
仕方ない。トゥレスおじさんもきっとここで俺から言い出すよりは国の命令としてやってもらうほうが……って考えてくれたのかも。
仕方ないね。デカパイに最後まで責任持つくらいなら頑張るよ俺は。
なんて思ってたら、トゥレスおじさんから放たれた言葉は俺の想像を超えるお願いだった。
「───命令権を俺に移してくれ。俺がこの女と常に同行して管理する」
「NTRやんけぇぇーーーーーーーー!!!」
ワンさんの叫び声が木霊した。