勘のいいガキはデカパイハーレムの夢をあきらめない!   作:そとみち

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163 確率とか運とか……そういう小賢しい事と無関係の所に強者は存在する……!!

 

【side another】

 

 

「ネクスト?」

 

 ミニマム10万Gのブラックジャックゲームの台を仕切る男性ディーラーが、遊技する客に次のカードを引くかどうか尋ねる。

 21に満ちるまでの数を重ねるゲーム。しかし一歩でも限界を超えれば敗北となる、己の欲望とリスクを天秤にかけてどれだけ己の引きに賭けられるかがブラックジャックの肝である。

 どのプレイヤーもその縛りからは逃れられない。次に引くカードに全てを託して勝負をするしかない。運否天賦の駆け引きのはず。

 

 はずなのだが。

 

「ヒット」

 

 その女性だけは、確信をもってもう一枚のドローを選択した。

 極めて質のいいドレスを身に纏う絶世の美女。周囲の注目も自然と集めてしまう彼女がダブルダウンを行い賭けチップを倍にして、しかし重ねて零れた自信に満ち溢れたヒットの宣言に、他のプレイヤーが驚愕を覚えた。

 何故なら彼女の現在の持ち札は19。ここでスタンドを選択し勝負したとしても十分に勝利が見える数字である。

 この先に引くカードのうち、Aからキングまでの13種類の中からAか2を引かなければバーストだ。11/13でバーストして敗北となる様なそんな手札で。

 

 ディーラーが女性の望むままに新たなカードを配る。

 それを人差し指と中指で摘み、ふ、と微笑みを浮かべた女性がカードを捲る。

 2のダイヤ。

 ジャスト21に数字を満たした。

 

「ッ……ブラックジャック。ホールカード、オープン」

 

 その手を受けてディーラーが捲くった己の手札は、キングとクイーン。20という数字であった。

 先程のドローで2を引いていなければ、彼女は負けていた。

 

 イレヴン。

 最新型のアンドロイドが、ブラックジャックで勝利を重ねていた。

 

(……まさか、な)

 

 ディーラーは、まさかカウンティングが行われているのではないかと疑問に思い……しかし、その疑念を払拭する。

 カウンティング。カードを扱うゲームでプレイヤーが事実上行う事が出来て、咎めることのできないイカサマの一種だ。

 簡単な話で、使われたトランプの柄と数字を覚えて、残る山札のカードを推測し、勝利の可能性を高めるというもの。

 しかし言葉にすれば簡単だが、実際にやろうとすればそれは果てしない頭脳労働を強いることになる。

 

 通常のカジノで行われるブラックジャックならば、使用するトランプのデッキは4~6組といったところか。

 そのどこの山でどのカードが使われていたかを厳密に記憶する事すら無理難題だが、このカジノではさらに倍の10束を用いてディールしている。

 常人には不可能な記憶だ。

 勿論メモなども取っている様子はないし、何よりゲーム進行の中で記憶するような時間を使ってもいない。進行が非常に速く展開され、回転率がいいのもこのカジノの売りだったからだ。

 

 しかし相手が悪すぎた。

 相手は最新型アンドロイド。脳味噌などと言う有機物はその体内に存在しない。

 あるのは0と1で構成された純粋な科学の粋による思考回路のみで。

 当然にして人類よりも優れた記憶能力を持ち、10束に山が増えようとそれらのカードの使用状況を把握することは容易であった。

 

 実を言うと、このカジノは150年前はアンドロイドの遊戯を禁止していた。

 たとえ一号機(ワンシリーズ)であろうと、今のイレヴンと同じ事が出来てしまうからだ。

 故にカジノ内にマスターと共に入室は出来ても、ゲームをプレイすること自体は許されていなかった。

 

 しかしこの150年の間で、アンドロイドは絶滅して一人も新たな個体を見ることがなく……時が流れるうちにアンドロイドの存在は忘れられて行き、カジノルールからもいつしか消えてしまっていた。

 故に、イレヴンは勝った。確率の高い札が配られた時点で強く張り、負けを小さくして、徐々にチップを増やすことに成功していた。

 

 しかし。

 

「……あ゛~!! また負けた~!! マーチンゲーってるのになんで負けるの~!! 次に倍額張るチップがなくなっちゃいました~!!」

「またですかノイン。廻しますか?」

「ごめんなさいお願いします~!! 一回!! 一回勝てば原点に戻るから!!」

 

 隣でプレイしている、こちらもまた高貴なドレスを身に纏い、大きなイヤリングが目を奪う眼鏡をかけた女性……ノインが見事に負け続けているのだ。

 ディーラーもまた、誰か一人の客を食い物にするという采配を果たしているわけではない。勝ち続ける客がいれば気持ちよく勝たせるのもまたディーラーの役目である。

 しかしこの眼鏡の女性は余りにもツキがなかった。負けの倍額をかけ続けてはいたが、そろそろこの台でのマックスベットを超えそうだ。

 

「お客様。この台はマックスベットが100万Gまでとなっております。更なるベットを望まれる場合には、この先にある台にお移り下さい」

「げ~。そういえばそうだっけ……でもここで負け続けてるからそろそろ次は勝つはず! なのでマックスベットで勝負です~! 2回勝てばええんや~!!」

「やめた方がいいと思いますけどね。では……私も、マックスベットで」

「承知いたしました。他のお客様はいかがなさいますか」

 

 一人が勝ち、一人が負ける。

 最終的に差し引きほぼプラスマイナス0にして、ノインがふてくされて台を後にしたのだった。

 

 

 

※    ※    ※

 

 

 

 ふてくされていると言えば、こちらも同様だった。

 

「もー!! この台壊れてるんじゃないの!? さっきから全然当たらないんだけど!!」

「えー、そうかな? 結構揃うよアルトさん。7もBARもベルも。すごい連続で当たってるー」

「俺も割と調子いいっすね。台ごとに設定とかあるんじゃないすかこういうのって?」

「私いまトントン」

「…………オレは微マイナス」

「私は中々調子がいいな。アルトはしっかり図柄を狙っているのか?」

「狙ってますよ団長ー! でも全然揃わないんですー!! もー!!」

「…………」

「あれ? 副団長もしかして……当たってない?」

「五月蠅いですよソプラノ」

 

 スロットマシーンが並ぶフロアにて、ワンプレイ1万Gで遊ぶケンタウリスのメンバーとカトルがいた。

 今にも台パンをしそうなほどヒートアップしているのがアルトで、同じく全く当たらずに凹んでいるのがマルカート。

 今の所大きく凹んでいないソプラノとシミレがおり、他の3人は勝ち台に座れたようで気分よく大当たりを連発していた。

 スロットマシーンには設定と言う物が二種類存在する。台自体の出る、出ないを調整する台設定と、本人の運で当たりを引く人間設定だ。

 台の設定が入ってなければ当然確率収束すれば負けるし、人間設定を持っていなければ負けるのだ。

 

「うー……!! ……ねぇカトル? お姉さんと台を交換してみる気は……ない?」

「え。……いやまぁ別にいいっすけど」

「ホント!? やった! じゃあ交換しましょ交換!! 後で何か奢るわね!!」

「うわー。アルトが年下の美少年騙くらかしてるぅー」

「…………プライドはないのか」

「やかましいわねー!! 一回くらいは大当たりしないと絶対やめないからねこのスロット!! アタシも7をいっぱい揃えてやるのよ!!」

「あ、ペカった」

「って嘘ぉ!? ちょっとカトル!? それアタシがさっきまで育ててたんだけど!?」

「ンなこと言われても……アルトさんにお願いされたから交換しただけで……」

「見苦しいぞアルト。こんなものは己の運で当たりを引けばいいのだ……そら。私も当たりランプが光ったぞ」

「あ、私もまた連チャンだー! すごい、どんどんチップ増えてるー!」

「団長とティオとカトル様は何か特殊な権能でもお持ちなのでございますか? 両隣でペカペカ光らせないでいただきたいのですが??」

「…………マルカートがガチギレしてるのは珍しい」

「んもぉー!! なんで私は当たらないのよぉー!!」

 

 内部的に大当たりの一部で連荘モードに入る遊戯性のこの台は、台設定よりも人間設定による運の有無が勝敗を分ける。

 アルトとカトルが台交換した途端に当たり始めるカトルを見て、うにゃー! とミャウのような奇声を上げながらアルトがレバーを叩く拳に熱を籠め始める。

 勿論力を籠めれば当たるというものではない。同じく運が地の底に落ちているマルカートと共に、チップをただただ台に入れるだけの養分と化していた。

 

「くぅぅぅ~……!! こうなったらもうレートを上げて一発逆転をするしかないわね!!」

「こら。それはやめておけアルト。恐らく負けるパターンだぞそのムーブは。素寒貧で終わる様なことはするなよ」

「そうは言っても団長!! 副団長は既に高レートの台に座ってますよ!?」

「なんで?」

「これは確率上正しい作戦なのです……ここまでわたくしは当たりを引いていない……つまり打ち続ける限り当たりに近づいていると言えます。間違いない。ここで当ててこれまでの負債を取り戻すのです」

「ダメみたいですね副団長」

「…………ギャンブルは、人の本質が(あらわ)れると聞くが……副団長が賭け事で熱くなるタイプだとは、思わなかった、な」

「マルカートさん……」

「なんか勝ってるのが申し訳なくなってきた。……師匠の所行こっかな」

「あ!! カトルがその台開けるなら私が座るわ!! さっきから調子良くなってるし!!」

「アルトさんも駄目そうだぁ……」

 

 潤うものと干からびる者。

 ギャンブルの縮図がこの姦しい美女集団の内で顕著に表れ、しかし勝ちも負けも等しくカジノの楽しみの一つである。

 愚痴をこぼしつつも同時に笑顔も零して、わいのわいのとスロットを楽しんでいた。

 

 

 

※    ※    ※

 

 

 

 そして視点は切り替わり、ここは客同士が勝負しあう台……否、卓。

 

「────ツモ。親の倍満で8000オールです」

「おお……純チャン三色にツモピンフドラ1、ですな」

「リーチをしておりませんでしたな。テンパイの気配が全く読み取れませんでした。危ない危ない」

「ほほほ。点は取られているのですから危ないも何もありませんわ」

 

 雀卓にて、カプチーノが己の才覚に目覚めていた。

 ここで行われているのは麻雀だ。今や全世界にブームが広がる遊戯で、なによりも盲目でも楽しむことができる。

 点棒を分かりやすいように丁寧に差し出され、それを微笑みながら受取り、指の腹で千点棒と五千点棒と万点棒を確認して点棒ケースに収納し、全自動卓の洗牌に牌を滑り落とした。

 

「はは……楽しんでいるね、カプチーノは。しかしまさかこんなに我が妹が麻雀が強かったとはな」

「カトル様も交えて時折邸内で遊んでいた頃も随分と上手でございましたが。打ち慣れた玄人の方々とも渡り合えるとはこのカノンも思っておりませんでした」

 

 新たに出て来た牌山から手牌を取り、指の腹でさっと牌の図柄が刻まれている面を撫でて配牌を確認するカプチーノ。

 同じ卓を囲む他の3人はこの場で初めて出会った人々だ。身なりもよく、富裕層なのだろう貫禄もあり、そして心にも財布にも余裕のある方々だった。

 カプチーノが盲目であると知れば、それに配慮して山割りを控え、大きな打音を出さぬよう丁寧に打ち進められる紳士淑女な方々で。

 

「では第一打は(ペー)から」

「ふむ。私は一筒(イーピン)で」

(チュン)です」

「おばさま、それポンですわ」

「あらあら。今度は早く動くのね? ではこちらをどうぞ、お嬢さん」

 

 当然にして捨牌の読み上げも自主的に行ってくれており、カプチーノは優しい大人の面々と、普段は打つことができない人たちと真剣勝負ができる事を心から楽しんでいた。

 勿論勝ちたい。勝ちに真剣に打つのだが……しかし、そんな真剣な中だからこそ、深まる絆と言うのもある。

 

「發もポンです。捨牌は六萬(ローワン)

「ほぅ……ふむ。中々に匂い立つ副露(フーロ)ですなぁ」

「このお嬢さんはいいヒキとツキを持っていらっしゃる。今度こそ油断はできませんぞ」

「おほほ……高い手を凌いでこそ麻雀の醍醐味でしょう? 遠慮はしませんわよ……立直(リーチ)ですわ。發です」

「あらやだ、おばさま……後悔することになるかもしれませんよ?」

「それもまた麻雀の醍醐味よ。さぁ、かかっていらっしゃい」

「うふふ。ならば……行きます! 七筒(チーピン)!」

「おほほ。通しです」

「おお……無筋の中張牌(チュンチャンパイ)とは痺れますな……!」

「これはもう兜を脱ぐしかありますまいな。私は安牌でオリる事に致しましょう。一筒(イーピン)です」

 

 実に楽しそうに麻雀を打つカプチーノを、他の人の手牌が見えない位置で椅子に座りながら満面の笑みで眺めるヴァリスタとカノン。

 盲目と言うハンデ故に、中々交友が広がらなかったカプチーノであるが……カトルと、その幼馴染であるロックと知り合ってから、どんどん交友が広がり、こうしてカジノで遊べるまでになっていて。

 そこにヴァリスタは無限の感謝を覚えていた。

 これまで妹を気遣い守る様に生きて来たが、己が過保護過ぎたのではないか、と考えてしまう。

 こうして元気に初対面の人とコミュニケーションを取れている妹を見ると、その考えはより深まっていった。

 勿論カノンはカプチーノの生活には必要であろう。

 しかし、これから先もし自分がいなくても、カプチーノは己の人生を自分の意志で歩んでいけるのではないかと。

 そう、想えるくらいに……今日のカプチーノは、生き生きとしていた。

 

「……っ、ツモ!! 大三元、字一色! やった!」

「おお!? まさか手の内が字牌で染まっていたとは!!」

「親のダブル役満、32000オールで全員トビですな! いやはや……これはいい物を見させてもらいました」

「引き負けましたか……お見事よ、お嬢さん。ご祝儀も気持ちよく弾ませていただきましょう」

「ありがとう、おばさま! おじさまたちも!」

 

 しかし引きが強いな我が妹は。

 ご祝儀を含めてあまりにも大勝してしまったカプチーノにヴァリスタが内心で冷や汗をかきつつも、同卓頂いた紳士淑女へお礼と、今後も関係を作っておこうとして、終卓したところに声を掛けに行こうとした。

 そこで、しかし、唐突に。

 

『────ワアアアアアアァッッ!!!!』

 

「きゃっ……!?」

「おお……凄まじい歓声だ」

「驚かれてしまいましたな。大丈夫ですよお嬢さん……どうやら中央の青天井ルーレットが大盛り上がりしているようです」

「ふむ。チャレンジャーは…………()()()()()ね」

 

 同卓していた淑女が映写魔法投影板を見て、そこに映る一人の少年の姿を見た。

 述べられた特徴は、カプチーノもヴァリスタもカノンも、猛烈に心当たりがあって。

 

「……もしかして? お兄様?」

「ああ、どうやらそのようだよカプチーノ。……ロックくんがまた何かやらかしているらしいな」

 

 勘のいい少年、ロック。

 映写魔法投影板に映る彼が、にやけた面をカジノの客全員に見せつけていた。

 

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