勘のいいガキはデカパイハーレムの夢をあきらめない!   作:そとみち

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167 約束通り喰ってやったぜあんたの嘘

 

【side 休憩スペース】

 

 

 エーリュシオン内のカジノに勤める一人のバニーガールが、異様な光景の広がる休憩スペースに近づいて行った。

 やむを得なかったのだ。カジノ内で勤務するバニーガールは客のサービスの為に存在する。

 その休憩スペースに座る二人の前のテーブルに飲み物が置かれていない以上、注文を取りに動かなければならない。

 たまたま二人が座ったタイミングで一番近くにいたバニーガールが自分であったため、己がその貧乏くじを引くことになった。既に今夜の愚痴呑みの一杯は彼女の中で決定していた。

 

「……おおっ! このソファフッカフカやんけ!」

「こんなに沈むと逆に腰やらかしそうだよなァ……姿勢落ち着かねェわ」

「それはお前が重すぎるからでは? 普段から安椅子に座りすぎなのでは?? 貧乏か???」

「うるッせ。お前知ってっか? ()()にゃこんな上等な椅子はないんだぜェ? どこもかしこも石造りのカッチカチの椅子でよォ……マジでこっちの文化は生活水準とか気にしてねェからなァ。アホだぜアイツら」

「ウケる」

「逆にてめェはどうなんだよロックさんよォ。そこまで言うからにゃあ普段から質のいい椅子座ってんのか、えェ? その貧乏ヅラでよ」

「先日王都の家具店でファミリー向けの超高級ソファを購入いたしましたわよ? いいバネ入ってて色んな用途に用いられますわよ?」

「はーうっぜェー!! うわムッカつくなァその顔!! ぶっ殺してェー!!」

「ハハハ! どうやら格の違いが如実に現れちまったようだな!!」

「ハッ、どのツラ」

「このツラ」

「むかつくゥー」

 

 最高級品のソファに向かい合って座っているのは、一人の少年と一人の獣人。

 もう、カジノ内でこの二人の顔を知らない者はいないだろう。

 

 つい先ほど、カジノで最も熱い勝負が謳われる青天井ルーレット台にて、伝説の単数字全部賭け7連勝を果たした赤毛の少年。

 その勝負に混ざる様に横やりを入れた、巨躯のライオン頭の獣人。

 少年はよく言えば飄々とした、悪く言えばスケベで幸薄そうな面構えをしているが、それに似合わぬ高級感あふれる礼服に身を包んでいた。

 対する獣人はその威厳溢れる風貌にベストマッチした紳士服をラフに着崩している。

 

 広がる会話は冗句(ジョーク)を交えつつも気安い雰囲気で交わされている様にも見えるが、しかしお互いの間に流れる空気は時折真剣を交えるかのような剣呑なそれも見受けられて。

 そして、さらに。

 

「──────」

 

 その周囲。

 10人を超える美女が、あまりにも緊迫感を伴った表情で二人を囲っていた。

 

 その誰もが言葉を発さずに、二人を……いや、大柄な獣人のほうを鋭い眼差しで睨みつけている。

 種族も多岐に分かれている。セントールに、ドラゴニュート。どちらも極めて希少な種族だ。

 少年の隣には、黒い髪に黒いドレス、黒い角と羽根と尻尾を携えたドラゴニュートが座っていて。

 そんな彼女たちが、赤毛の少年の周囲を護る様に近くに佇み、何があってもすぐに動けるようにと気を張り詰めているのが、飲み物の注文を取りに行こうとするバニーガールにも感じ取れた。

 

 このカジノでは、客同士の諍いは当然にして許可されていない。

 だが、今の時点では獣人の側も心底から気分を害している雰囲気ではない。どこか楽しんでいるフシさえ見える。

 戦闘行為はそもそも行えないし、スキルすらもカジノ内では使うことができないため、今この場においては、ギリギリで注意警告を果たす段には至っていなかった。

 この先、二人の間で口論でも始まろうものなら、周囲の客への影響などを鑑みてすぐにカジノ内に存在する警備員(バウンサー)が声をかけ、改善が無ければ退店を求めることになるだろう。

 

 そんな、緊張の糸が蜘蛛の巣のように何重にも引かれているようなこの場に、それでもカジノの従業員として己が使命を果たさねばなるまいと内心で気合を籠め直して、二人が座るテーブルに注文を取るために近づいて行くバニーガール。

 己の行動でどうかこの均衡が崩れるようなことがなく、無事に飲み物を提供して場を離れさせて……と儚い祈りを果たして、それでも動揺は表に出さずに笑顔を顔に張り付け、二人の会話の合間を見てから意を決して声をかけた。

 

「……お客様。お飲み物のご注文はいかがでございましょうか」

 

 その言葉で、少年と獣人が同時にバニーガールに首を向けた。

 そして。

 

「むっ!! ナイスデカパイッ!! 飲みますっ!!」

「おっほ、でっけぇケツ。オイラも注文頼むぜェ」

 

 二人から零れた余りにもアホらしい一言目に、バニーガールの脳内は色んな感情でぐちゃまぜになった。

 しかし、最早ルーチンとなって身に染みついている注文お伺いの言葉は自然と続けて零れていた。

 

「承知しました。それでは、ご注文は?」

「「スパークリンクオレンジ」」

 

 綺麗に二人の声が揃った。

 なんだお前ら仲良しかよ。

 心配すること何もなかったなとバニーガールは己が内の印象を更新し、二人にスパークリングオレンジを提供するためにドリンクバーへと離れていった。

 

 

 

※    ※    ※

 

 

 

【side ロック】

 

 

 むっ!! ナイスデカパイ!!

 と注文を取りに来てくれたデカパイバニーガールさんにデカパイ感謝を内心で申し上げつつ、聞かれた注文には当然にして俺の好物のそれを頼む。

 

「「スパークリンクオレンジ」」

 

 しかし目の前のライオン頭も同じ注文をしやがって、なんか声までハモっちゃったし。

 やだもー恥っず!! コイツと息が合うのだいぶキモいわ!!

 仲のいい兄弟みたいじゃん今の息の合い方ー!!

 バニーさんも眼が点になってるしさー! ンモー!!

 

「……ケケ。なんだァロック、お前さん炭酸好きかよ。ホンット何処までも気が合うなァお前さんとは」

「やっかましいわねー! お前こそなんだよその風貌でスパークリングオレンジ注文するって! そこは威厳たっぷりに酒を頼むんじゃねぇのかよ!?」

「オイラ酒はあんま好きじゃねェんだ。甘い飲みモンが大好きでなァ。グランガッチのチャイもよかったけどこのカジノのスパークリングオレンジは本場のモンと比べてだいぶ甘めでオイラの舌にめっちゃくちゃ合ってよォ。ハマっちまったぜ」

「ひっでぇギャップだ」

 

 向こうも無駄に俺にシンパシーを感じたようで、かけられた言葉に皮肉で返してやったらコイツこんなムキムキライオン丸な外見で甘いものが好きらしい。

 そういやグランガッチの地下室でもチャイ飲んでたな……あのクッソ甘いお茶。

 似合わなさすぎだろ。百獣の王の誇りはどこ行ったんだよ誇りは!

 まぁコイツがプライドとか気にするようなやつでも無いことは既に知ってるけどさ。

 

 フォルクルス。

 コイツは勝つためなら……自分の望みを満たすためなら恐らく何でもやるヤツだ。

 

「お待たせいたしました。スパークリングオレンジでございます」

「どもっす!」

「なァ……こういう時にバニーさんのケツ触ったら流石にキレると思うか? ちょっとやってみろよロック。お前さんがやって無事ならオイラも続くから」

「俺は無事でもお前のツラでやったら即お縄だよ諦めろ。……おねーさんちょっとだけ触らせてもらっていいです???」

「聞くのかよ男だなお前」

「ワンチャンあると思う」

「ふふ。従業員への直接的なセクハラは即退店となっておりまーす。どうぞごゆっくり」

「逃げられた……」

「まず触りに行く前に許可を取ろうとするお前さんが怖ェよ。どこをどう考えたらOK出ると思ってたんだよ」

 

 しかし俺はそんなアホ野郎が前に座っているせいでバニーさんのお尻にタッチするという一つの夢を叶えることができなかった。

 おのれ……目の前にライオン頭がいなければバニーさんももっとリラックスして俺に靡いてくれた可能性が僅かにでもあったかもしれないのに! ガキのやる事だって許してくれたかもしれないのに!!

 

「バニーならわたしがあとでやってあげるから。ロック、いまは……」

「ん。そういやそうやな。よしフォルクルス、こっから先は真剣に……」

「いや待てよちょっと待てェ?? ドラゴニュートのお嬢ちゃん確か次代のブラックドラゴンだよなァ? 今バニーって……え? えっ……ロックお前……お前マジかァ!? ガキは犯罪だろォが流石にまずいだろォ!? こんな貧相なケツのガキによォ!?」

「五月蠅いわねー!! リンはもう立派な大人で俺の嫁なんですー!! 純愛じゃい!!」

 

 そこでリンが以前購入したバニー服の事を引っ張り出して後でやってくれるって言ってくれたもんだから真剣な雰囲気に戻そうとしてもフォルクルスが突っ込んできやがって。

 ンモー!! コイツと話してると締まらないわねー!!

 

 ちゃうねんて。こんなアホな話するためにむっさいライオン頭と向かい合ってるんじゃないねんて。

 こうして隣にリンがいるのにもそれぞれ理由がちゃんとあって。

 全てはコイツの企みを暴くためなのだ。

 

 なんで魔族の将軍たるコイツがこんなところにいるのか。

 どうして俺に接触してきたのか。

 人類に対抗するために、コイツが何を考えているのか。何を企んでいるのか。

 

 それを、会話の端々からなんとしても零させてやらなきゃいけないんだ。

 聞きたいことは山ほどある。

 現状は俺ら側……トゥレスおじさんが管理するアイムが魔王軍の情報を余すことなく伝えてはいるが、しかしそれは戦争前の、闇の魔素がストップする前の情報でしかない。

 追い詰められたネズミであるはずのこいつらが、猫を噛むためにどんな作戦を考えているのか。

 それを僅かでもこの会話で引きずり出さなきゃならない。

 

 フォルクルスが嘘をついている可能性もあり、その嘘を咎めさせるためにリンを隣に置いているのだ。フォルクルスが嘘を言った瞬間に咎めてくれるだろう。

 その役目はヒルデガルドさんでもいいけど……俺の中の信頼度ではリンの方が上回る。隣にいて安心できる。

 勿論周りにはイレヴンもサザンカさんも、ノインさんたちもケンタウリスのみんなもカトルもいてくれて。

 ヴァリスタさんはカノンさんとカプチーノさんを避難させてくれているが、人数的にはこちらが圧倒的に上で。

 

 しかし、そんな人数差はこのカジノ内では通じない。

 戦闘行動ができない場……つまり、会話こそがこの場においては最大の武器で。

 そうなれば、やはり適任は俺ということになるのだろう。

 このバカが一番口が軽くなりそうなの俺だしね。他の女性陣メンバーだと多分口説かれるし。許せん。

 

「────で、だ。フォルクルス……てめぇ何でここにいやがる? ここは紳士淑女の社交場だぜ? ケダモノが入ってきていい所じゃねぇだろ」

「ヘッ、んなこと言ったらお前さんだってケダモノだろうがよロックよォ。それにオイラほど紳士な男はそうそういないぜェ? 毎朝体臭ケアしてっからなァ」

「似合わねぇー。……答えろよ。少なくともなんかしら俺に用があって来たんだろ? 聞いてやるからよ」

「ケケ……その通り。()()()()()()()()()()()()()()

()()()()()()

「──────ッ!」

 

 早速カマかけてきやがったこのバカ。

 今の言葉にリンが反応したってことは……俺に用があってきてたわけじゃない、ってことか?

 そんなことあるか? 悲しい話だが俺は今や闇の魔素を止めて魔王軍を壊滅させた英雄だ。魔族からすりゃ俺を殺すことは至上の命題になっているだろう。

 この街の中にいる以上は殺されないとはいえ……王都から出たところを狙うならこれまでにもチャンスはあった……か?

 いや、そうでもないか。リンの飛翔で世界中を回ってた時は速度についてこれるはずもないし、普段は王都にいるから中々侵入はできないだろうし……そうなるとやっぱりこのローティリッチに来た時がチャンスだったのか?

 ……いや、それも違う。そもそも俺に用があってきたわけじゃないんだフォルクルスは。

 じゃあ何のために?

 

「ハハハハハ!! そうだよなァ!! ドラゴニュート原種(オリジン)は嘘が分かるもんなァ!! ウチのニーズヘッグもそうでよォ……アイツと話す時いっつも気ィ遣うんだよなァ。その分、慣れてるってわけだ。……なァロックさんよ、嘘を見抜けるような相手と話す時はどうすりゃいいかわかるかい?」

「……どうするっつんだよ」

「簡単な話だ。()()()()()()()()()()()()。ホントの事言って、ホントじゃなかったらウソだって言われて、でも嘘を見抜かれたからなんだってんだァ? その本心まで分かるってのかァ? 分かんねェよなァ! 何の損もしちゃいねェ。だから深読みはそっちでやりなァ……オイラはオイラが喋りたいことしか喋らねェぜ?」

「ちっ……」

「……いまのは、うそついてない」

 

 咄嗟に無い頭を廻して考えてたところで、得意げにフォルクルスが(のたま)い始める。

 厄介だ。コイツは軽い言動とは裏腹に、随分と頭が回るタイプだと俺の勘は言っている。

 実際、これまで俺が相対して来た魔族の奴らの中でも、一番策略を練ってきてるヤツだと言える。

 力押し一本じゃない。闘技場に刺客を送り込んだり、グランガッチの結界装置を弄ったり……策を弄することをためらわないタイプだし、実際にそれで苦汁をなめさせられている。

 今の言葉は嘘じゃないようだが、しかしどこまで真実が混ざってるかも怪しい。正しい言葉の中に裏を取ることくらいはしてくるかもしれない。

 いかん。このままじゃイニシアティブが取れない。

 どっかで流れを切り替える必要がある。

 

「……流れが悪いって顔してんなァ、ロックよォ」

「うるさいわねー」

 

 そう思ってたらフォルクルスにまんまそれを指摘された。

 何だよコイツ。顔見るだけで内心察されたら俺やれることなくなるんだけど!

 

「ケケ、そう邪険にすんなよ。オイラだって困ってんだ。オイラもお前さんから聞きてぇことは山ほどあるんだがよ……素直に聞いたって答えねェよな。嘘つかれてもオイラは分からねェし、お前さんは黙ってたっていいんだ。このままじゃあ建設的な話し合いにならねェよな。オイラはお前さんといっぱい話したいってのによ」

「……何が言いたいんだよ」

「ククク……」

 

 フォルクルスが続いて零した言葉は、俺にも聞きたいことが多いという話で。

 そりゃあ……そうだろうな。

 向こうは窮地。人類軍が何をどのように考えているのか、どのように魔族を滅ぼしにかかってるか、その作戦を知りたいというのは当然の望みだろう。

 まぁ俺全然その辺把握してないんだけどな!

 バーカ! 怯えろ!!

 

 そんな心の余裕を回復させたところで、しかし続けてフォルクルスから出てきた言葉はまたしても俺の想像を超える様なものだった。

 

「……ここはカジノだろォ? 腕っぷしもスキルも関係ねェ。カジノなら、カジノなりの語らい方ってのがあるだろォが」

「は?」

「だからよ、ロック。オイラとゲームで一勝負しようぜ。その結果でお互い質問に嘘偽りなく答えていこうじゃねェか」

「は???」

 

 マジで言ってる???

 想像以上のバカだったわコイツ!! 俺にゲームで挑むなんてよォ!!

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