勘のいいガキはデカパイハーレムの夢をあきらめない! 作:そとみち
五回戦の質問はこれにする。
「じゃあ聞くぜ」
「オウよ」
「
「……ほォ」
カリーナ。
コイツの部下である幹部級の魔族。かつて俺ら人類軍に捕えられていたデカパイ猫娘。
アイツは今、このカジノ内にはいない。フォルクルスも全く気にかけてる様子が無いので、そもそも来てるというわけでもなさそうだ。
だがアイツは策士だ。
フォルクルスに似て、策を練り暗躍するタイプの女。
かつてリンを攫い人類側に卸して当代ブラックドラゴンであるノワールさんの怒りを買おうとしたことを俺は忘れていない。
人さらいとして、奴隷商人に溶け込める程度の隠密術を用いる。
力押しで来る筋肉バカのバアルとか、アイム曰く頭が大変にお
そんなヤツがここに来ていないというのは……違和感がある。
フォルクルスが、将軍格がわざわざ人類領まで出向いてるのに幹部であるカリーナがついてきてないってのはおかしな話だ。
アイツもしかして裏で今頃何かやってるんじゃないか?
そんな読みも含めて聞いてみた。
この質問に、フォルクルスは口の端をニヤリと歪めて笑みを深めて、答えた。
「カリーナのヤツは
「お前さぁ……説明下手か? 何の説明にもなってねぇわ今お前が言ったような事なら俺でも言えるわ。ガキじゃねぇんだからちゃんと内容と理由までしっかり答えろや敗北者のくせによ」
「細かい事を気にしなさんなァ英雄サマはよォ」
「濁すなよ。今回は別の質問をしてるってワケでもないだろ……カリーナが今、何をしてんのか。悪だくみなんてお前ら常にやってることだろうが。具体的に言えよ。それとも言えない事だったか? 俺に知られるのが怖いのかな? んん??」
「煽り方下ッ手クソか。ったくよォ……まァでも確かに……少しは匂わせといてもいいかもなァ……」
そして零れてきた答えは薄めに薄めた味のしないクソアンサーで。
なんだそりゃ。流石に俺がどんなにアホでも今の答えはバカにされてるってわかるわ。そんなもんで納得するわけねぇだろ。
最初にした様子見の質問と違って今回の質問はシンプルに一つの内容を聞いている。カリーナが何してるのか。その答えとしちゃあんまりにも今のは無さ過ぎだ。
なんで煽りを入れてちゃんと答えるようにフォルクルスに促せば、意外と素直に答え始めた。
「……カリーナは今、オイラの命令で
「っ! 転移陣……ってのは、どことどこを結ぶモノを……」
「ハッ! そりゃあ5つ目の質問ってヤツだなァロックよォ! クク……嘘はついてねェぜ? アイツが今何をしてるのか。これほど明確な答えもねェだろ? 何度も言ってるよなァ? 後はそっちで考えろ、ってよォ。オイラ達魔族がこのクソ盤面をどうやってひっくり返そうとしてるか……頭をひねんのはテメェらの仕事だろ。オイラはこのゲームを楽しんで、答えたい内容を答えるだけだぜェ。ケケケ!」
「
その内容はなんとも肝が冷える内容で。
転移陣の準備。余りにも影響が大きすぎる。
魔族領から人類領のどこかに転移できるようなモノを開通しようとしているのか……毎回山脈超えてくるのは大変だろうからそれは考えられる。
もっと嫌な想像をするなら、人類側で利用してる転移陣に万が一繋げる様なヤツを開こうとしているならばヤバさはハネ上がる。
元々フォルクルスはそういう裏方の仕事を得意としている。
確かカリーナとアイムから聞き取った内容では、フォルクルスとその部下はそういう一回限りの転移陣を準備するのが得意だったはずだ。
かつて王都の闘技場に獣人を操って転移陣を開いたのも、王都に20万を超える軍勢を唐突に送り込んだのも、どちらもコイツが主で動いていたらしい。
策略家。
そんなコイツが匂わせたカリーナの動き……それがどこで、何のために行われているのか。
それを────次の勝負で
「もういいかァ? んじゃ次の勝負だ……6回戦。お前さんの先行だよ」
「ああ」
6回戦が始まった。
※ ※ ※
「んー……」
「……」
さっきから……勘がいい感じに叫び出し始めている。
勝負の終わりは近いな。
もちろん残る2回のゲームも俺の勝ちであることは疑いようはないのだけれど、その先にあるモノがもう間もなくだと感じ取っている。
もう時間を稼ぐ必要もないな。普通にやろう。
「んじゃ俺これ」
「フン……カードは残り2枚。悩む必要が殆どねェってのは分かるんだがなァ……こっちでいくかァ」
実質的にカードを選ぶのはこれが最後の勝負ということになる。
次の7回戦はお互いに手に残ってる札を選ぶだけだからな。
つまり、ここでのカードの選び方次第で次の勝負の勝敗も決まるという事で。俺の2連勝は揺るがないってわけだ。
残る2枚の手札からそっと1枚を選んで、テーブルに伏せる。
それに応じて、フォルクルスも大して悩まずに1枚伏せた。
「よし……開くか。オープン」
「オォ。ほっと……────チッ。クソァ!」
六回戦目のカードを捲る。
俺のカードは────5。
奴のカードは────3。
5対3。
俺の勝ちだ。
「マジかァー……いやァー……あったなァこれなァー……」
「って零したってことはお前の手にある残り一枚は5ってわけね。6未満の数しか持ってなかったもんねお前ね。せめて引き分けに出来るかもしれなかった2択外したねぇ!! お上手ですねぇ!!」
「るっせェな。ってことはお前さんの札は当然5よりでっけェわけだよなァ? ……クッ、ククッ。
「何のことかわかりませんがー! さぁそんじゃ質問タイムといきましょうかねぇ!!」
この瞬間に俺の次の勝負の勝利も確定している。
コイツは6未満の札しか持っていないはずだ。雑な読みで語った内容からすれば。まぁ勘で分かってんだけど。
そして俺の手札の残る1枚は6のカード。負けは無い。
最初の1敗で後の6勝を導いたのだ。完璧なカード選びだったと言えるだろう。
俺にカードゲームで挑もうとするからだぜー!! ルールを守って楽しくデュエル!!
「さてそんじゃ────」
そして俺が次の質問を雑に考えようとしたところで、しかし。
やはりというべきか、俺が真剣にゲームしてる時に毎回起きるイベントである……横やりという名の、
「────ロックくん」
「ん。ノインさん」
「アァん?」
ノインさんの声が、俺の肩を叩きながらかけられた。
※ ※ ※
【side another】
フォルクルスは機嫌を損ねた。
ロック=イーリーアウスとの勝負……シンプルなルールの、しかしそれ故にプレイヤーの能力が余りにもはっきりと表れるそれを愉しんでいる最中に、唐突に横槍が入れられたからだ。
先のヒルデガルドが間に入ってきたのは質問の内容に絡んでいたからだ。その時はヒルデガルドも話を聞くだけであったし、ニーズヘッグの境遇に顔色が万華鏡のように変化しているそれを楽しめたのもあって気に障ることはなかったが、しかし今回のこれは全く別だ。
今はロックが質問を考えている最中で。
そんなところに声をかけて来た女。
見過ごせるはずもない。
「……オイ。言ったよなァ? オイラはロックと勝負してんだ。余計な茶々は入れるんじゃねぇ。女共は黙って後ろで突っ立ってろってんだよォ」
「っ……」
「はーこのライオン丸はホントに器がちっちゃいんですからー! 女性には優しくするんだってママに教わらなかったんですかねぇ! 負けてるからってイライラするなんて小物丸出ししやがってよ!! 俺の嫁さんビビらせるんじゃねぇよボケ!!」
不機嫌を露わにして、
将軍格の放つ気の圧に小さく息を呑むノインだが、そんな圧など全く感じ取っていなさそうなロックが庇うように立ち上がった。
この男は、あらゆる意味で能天気の塊。
一度格下と感じた相手にはナメてかかるし、暴力が振るわれない場ならば遠慮はしない。
相手がどれほど強大な存在であるかをそもそも理解していないのだ。
将軍格の威厳と圧のある怒りにもバーカ! と正面切って返せるような少年であった。
これにはフォルクルスも一度苦笑いを零し、しかして介入を許すわけにもいかない。
ケッ、と喉を鳴らしてから、改めて言葉を紡ぐ。
「邪魔なンだよ。質問も何もかもロックがやってるからオイラも付き合ってやってんだ。そこのメガネのねーちゃんはお呼びじゃねェよ。下がりな」
「────ところがそうはいかねぇんだよなぁ」
「ア?」
重ねて咎めた言葉に、しかし何故かロックがしたり顔でフォルクルスに反論した。
思わぬ反撃にフォルクルスも思わず呆けた声が漏れてしまう。
フォルクルスとしては……このゲームに参加したロックもその軽口とは裏腹に、自分とのタイマンにそれなりに真剣に取り組んでいるものと感じていた。
無論、お互いに腹の底までは見せてない。
自分にも色々な考えがあってこの勝負を持ちかけたことは間違いない。
ロックだって、ただ何も考えずにこの勝負を受けたというわけではないだろう。
コイツはバカでアホでデカパイ派で気が合うヤツだが、しかし考え無しのただのガキではない。
かつて自分の策を食い破った経験もある、何としてもブチ殺したい最上の獲物。
そんな相手とやるゲームは敗北を重ねながらも存分に退屈を潰せるようなそれであったのだが。
しかし、そんなロックが女の介入を良しとしている。
すなわちそれは、この女の声かけ自体が、ロックが意図していたものであったということに他ならない。
(だが……何でだァ? オイラがロックを見つけてルーレット台で声かけてからはずっとオイラが隣にいて、女共とは話してなかったはずだ。相談してたそぶりもねェ。このカジノ内じゃスキルは使えねェから、そういう通話系のスキルがあったとしても使えねェはずだ……何だ?
フォルクルスが瞬時に思考したのはそれだ。
己がルーレット台でバカ勝ちしているロックを見つけて近づき、ロックが己を見つけて驚愕の顔を見せてから……その先、このゲームに至るまでにロックは仲間の女共と何かしら相談してたりはしていなかった。
だが今、明らかにロックの考えに沿う形で女が声をかけて来た。
どうなってる。いつの間にそんな策を練っていたのか。
そして、練った策はどのようなものなのか。
それをフォルクルスは驚愕と共に味わうことになる。
「ノインさん、首尾は?」
「ばっちり~。……ん、っと……はい。フォルクルスに
「りょっす」
「ア? ……ん、だとォ?」
フォルクルスの目の前、ロックが座る後ろでノインが己の耳元に手を伸ばし、大きなイヤリングを外してロックに渡した。
さらに続く言葉にフォルクルスはものの見事にあっけにとられ……同時に、一瞬で推測が進む。
(今この女はなんつった? 『声を聞かせるように』っつったか? オイラに? ってェことはそのイヤリング……通信魔道具かァ!? 嘘だろォ!? こんなサイズで作れるようになってんのか今の人類はよォ!? ってかカジノ内で魔道具って……いやッ! 通話は通じるのか! 映写魔法投影板がルーレット台を映してた、ってことは通信系の魔道具は生きてる証拠!! 武器や杖のような攻撃スキルの発動は無理でも通信機なら繋がる!! 無論のこと通信魔道具はイカサマの温床だからボディチェックで弾かれるはず……だがこのサイズ!! チェックを回避しててもおかしくねェ!!)
フォルクルスが生きていた150年前の時代には、このサイズの通信魔道具は発明されていなかった。ギルドに設置されている大型の通信魔道具しか存在せず、あとは命在る物が権能として有している通信魔法のみ。
だが150年以上の時を経た今、通信魔道具の小型化に成功しており、使用者に大いなる魔力消費を強いる欠陥はあれど、それさえクリアできれば人が持ち運べるサイズ……否、アクセサリとして身に着けられるほどのサイズまでまとまっていた。
(だがロックはこのイヤリングをつけてねェ! 魔力を籠める様なそぶりも無かった!! ロックのほうは通信魔法をつかったわけじゃねェ……いつこの女に指示しやがった!? それに通信してたってのは……オイラとロックの会話が全部どっかに筒抜けだったってことかァ!?)
しかしこのイヤリング、当然にして通信魔道具であれば発信側と受信側が必要であって、ロックがそれを使っていたそぶりは無かった。
であれば果たしてどのように指示を……とフォルクルスが驚愕の表情を浮かべ、さらに頭を廻していたところで。
ロックとフォルクルスの間のテーブルに置かれたイヤリング型の通信魔道具から、男性の静かな声が響いた。
『────フォルクルスだな』
「……誰だァ? てめェ……」
『────
「な」
フォルクルスは、二の句を続けることができなかった。