勘のいいガキはデカパイハーレムの夢をあきらめない!   作:そとみち

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173 奥の手(他力本願)

 

【side ロック】

 

 

「────んの話だか、さっぱり分からねェなァ」

 

 フォルクルスが完全に豆鉄砲喰らったような顔で取り繕うように言葉を紡いだ。

 頬の表情筋が無限に緩んじまいますなァ!

 策略家がドツボにハマった瞬間を見るのって気持ちいいよね! グヘヘ!!

 

「あァ? こんな通信機で……オイラとロックの会話を盗み聞きしてた奴がいたとは知らなかったぜ。随分とコスい手を打つじゃねぇかロックよォ。エエッ? それによォ、オイラは策なんて一言も────」

 

『──ホエール山脈頂上より西北西に150km地点。それと、サンジェラミネーロ』

 

「……ッッ!!」

『この2か所を繋ぐ転移陣は潰した。サンジェラミネーロの周囲の街も被害はゼロだ。討伐した魔族の数は捕えたカリーナを除いて17体。これで全て殺したはずだな』

「──何モンだ、テメェ」

『どうやら図星か。声の響きに余裕がないな。将軍とはいえやはりこの程度か』

「何モンだっつってんだろォがッ!! オイラと話したけりゃまず名を名乗れッ!!」

『俺は──()()()()。そこにいるロックに返しきれぬ借りがある、ただの冒険者だ』

「なんだァ……!? 聞いた事ねェぞテメぇの名前なんざ!!」

 

 そう、通信魔道具から響く声はトゥレスおじさんのものだ。

 王都率いる人類軍で、俺が最も頼れる存在。チートの体現者。

 そんな人が味方にいるのだから頼らない理由はない。

 俺の方からノインさんにお願いして、トゥレスおじさんにフォルクルスと出会ったことを伝えてもらうようにお願いしていたのだ。

 

 しかし相対するはフォルクルス。

 魔王軍でも頭のキレは随一だ。そこにも俺は心底の信頼を置いている。

 俺と出会ってから……僅かでも、俺がノインさんにそのことを伝えようとした時点でフォルクルスはそれを察し、妨害するような作戦を考えたことだろう。

 恐らくはこんなゲームを持ちかけてくることもなかったはずだ。

 このカジノがスキルも戦闘も出来ない閉鎖空間で、俺という個人が誰にも頼る様なそぶりを見せていなかったからこそゲームを持ち掛けてきたのは間違いなくて。

 

 だからこそ俺は、()()()()()()()()()()()()()()ノインさんに伝言を送った。

 その瞬間に勘がバリっと叫んだのだ。

 最善の結果に至るために、絶対にトゥレスおじさんにこの遭遇を伝えなければならないと勘は言っていた。

 だから俺はフォルクルスを()()()()()()()手で口元を隠し、誰の耳にも届かないほどの小声で勘が導く通りのお願いの内容を呟いた。

 

 『ノインさんに伝言。通信魔道具を大至急トゥレスおじさんに繋いで。フォルクルスを見つけた、あと多分王都の北側のほうの街がきな臭い、って伝えてください』────と。

 

 だがそれは蚊の鳴くようなか細い声。

 シーフの俺の耳にも残らないような、音も生まないほどの小声だ。

 万が一にもフォルクルスに聞かれてはならなかったので、それ以上の声が出せなかったのだ。

 俺のまわりに集まっていた嫁さんたちやケンタウリスのメンバーでも、同じくシーフのシミレさんでも聞き取れないほどの声だっただろう。

 そもそもルーレット勝負の勝ち負けでめちゃくちゃざわついてたしな。

 

 だがあの場には()()()()()()()がいてくれた。

 

 親交を深める中で彼女から聞いた、生まれ持っての超感覚。

 盲目として生まれ、しかしヴァリスタさんと同じく才覚に溢れた血統を持つ彼女は、聴覚が尋常ではない発達を遂げていた。

 音の震えだけで周囲の物の形を感じ取ってしまうほどの地獄耳。

 彼女ならば、この小さな声でも聴き遂げてくれるだろうと信じて呟いた。

 

 そして、カプチーノさんは俺の声を聞き届けてくれて、俺の望みはノインさんに繋がれた。

 俺が指示しなくてもノインさんなら王都のギルドとか王族とかに通信を繋いだかもしれないけど……最速最優先でトゥレスおじさんに繋いでもらう必要があったのだ。

 何となくだけど、トゥレスおじさんならこちらの状況を音だけでも聞けていれば、勝手に最適解を選んでくれると思ったから。

 そう勘が叫んでいたから。

 

 そんな布石をフォルクルスが話しかけてくる前に打っておいて、その後は何気ない顔でルーレットでアホライオンの有り金をエイシスさんに巻き上げてもらって、ご機嫌取りして美味しくスパークリングオレンジを飲んで、ゲームなんて持ち掛けて来たもんだからさらに時間稼ぎができて。

 途中で質問をする機会も生まれたから、俺が聞き出した情報がトゥレスおじさんの動きの一助になってたら嬉しいな、などと考えつつ。

 続くトゥレスおじさんとフォルクルスの話を余裕の表情で眺めることにした。

 

「……オイラはロックとの会話の中で大した情報は零してねェ。どこからその情報を……いや……()()()()。やっぱりロックにやられてたかァあの(アマ)ァ……」

『アイム? ()()()()。俺は貴様とロックの会話の内容で察して動いたぞ。迅速にな』

「なんだとォ?」

『貴様はロックと共に飲み物を注文し……スパークリングオレンジを選んだな。その時に口にしていた……甘いものが好きだと。グランガッチのチャイもよかったと。そして……()()のスパークリングオレンジよりも甘いと』

「……? ……ッ、マジか……!!」

「えっどゆこと?」

『魔族領には甘い飲み物は殆ど流通していない。あそこは瘦せた土地だからな。となれば貴様がかつて好んだ甘い飲み物は人類領で飲んだことがある物に限る。そしてスパークリングオレンジは人類領では限られた国でしか販売されていない飲み物だ。全ての国の飲食物を販売する王都とローティリッチ……他は原産地の近くでしか販売はしていない。だが貴様は本場の味を知っていると(のたま)った』

「…………」

『新鮮であればあるほどオレンジは酸味が増し、甘みが薄れる。つまり貴様は150年前の人魔大戦の頃に人類領のオレンジの原産国に足を運んだ経験があるという事だ。オレンジが特産品の街は王都南方にあるバーラトと王都北方にあるサンジェラミネーロが有名だ。しかし王都の北西、ホエール山脈のさらに向こうの魔族領から足を延ばすとすればバーラトはそぐわない。あの街が戦火に巻き込まれたという歴史も存在しない。ならばかつて150年前に魔族との騒動があったと歴史書にも記されていたサンジェラミネーロが貴様が足を運んだ土地だと推理できる。貴様はあの国の周囲の地理を把握していたはずだ』

「……随分詳しいなァ。地理博士かァ?」

「ヤバイめっちゃ聞いてて面白いトゥレスおじさんの話」

『一度行ったことがある街ならば転移陣の仕組みを解明、流用し、魔族領とのバイパスを繋ぐ事くらい貴様なら容易いだろう。実際に王都から転移陣でそこに向かってみれば、かつて150年前に魔族が転移陣を開いていた痕跡が残っていた。魔族の使う術式は歴史書に記されているものは全て頭に入っているからな。発見するのは容易だった』

「……オイ、ロック。コイツはどんなバケモンだァ?」

「愛妻家の優しいおじさん」

『俺が転移陣にたどり着いた瞬間に、ちょうど転移陣が魔族領から魔力を通されて再起動(リブート)されていたからな。すぐに逆探知の術式を組み込んで、現れた魔族を殺して逆に魔族領に乗り込んだ。その先にいた獣人族の魔族も殺し、指揮を執っていたカリーナを捕らえた。無論だがサンジェラミネーロの周囲の街にも部隊を投入し、万が一の漏れを防いでいる』

「クソが……」

 

 トゥレスおじさんから随分と面白い話が聞けて俺もニッコニコである。

 俺が呑気にフォルクルスをゲームでボコしてる裏で、トゥレスおじさんが凄まじい読みの精度でピンポイントで魔族領と人類領を直通させる転移陣を潰してくれていたようだ。

 さすトゥレ!!(渾身)

 いやー俺の勘でもなんか王都の北の方がヤバい!! って感じてただけで具体的にどこがどうヤバいって伝えられてなかったところで、トゥレスおじさんは俺とフォルクルスの僅かな会話からヒントを得て、溢れる知識で推理して1点張りで魔族の企みを潰してくれたのだ。

 やだもートゥレスおじさん流石!! 若奥様殺し!!

 

 しかしふと俺は気付いた。

 

「……ん? あれ? トゥレスおじさん、俺がフォルクルスから聞き出した内容は?」

『ああ…………そうだな、いい時間稼ぎだった。もっと有効な質問は正直いくつも考えられたが……いや、いいんだ。すぐに俺に知らせてくれただけで十分だ。お前の真価はそこであって、それ以上は望まない』

「泣きそう」

 

 俺の質問ぜんっぜんヒントになってなかったみたいですね!!

 冴えないわねー! ンモー!

 確かにフォルクルスに何聞くかってのに勘がほとんど働いてなかったからなぁ。ゲームの勝敗の方でしか輝いてなかったところあります。

 結局俺はこの程度なのよ。俺以外のまわりのみんなが頑張ってるからなんかいい感じになってるだけで。他力本願の擬人化だと思ってくれ。

 

 あ、でも今ならこの質問はアリなんじゃね?

 ふと閃いたので、重ねて俺はフォルクルスに言葉をかけた。

 

「よォよォ作戦全部潰された負け犬フォルクルスさんよォ!! YO!!」

「サイコーに調子乗った顔むっかつくゥー。ったくよォ……テメェにこんな隠し玉があるなんてオイラ聞いてねェぞ」

「言ってなかったからねぇ! ……んで、だ。まだ俺の質問の権利が残ってたよな?」

「ア? ……そーいやんなモンあったなァ。オイラ大至急魔族領に帰りてェんだけど」

「勝負は最後までちゃんと付き合ってもらわないとなぁ! じゃあ聞かせてもらうぜフォルクルス!!」

 

 もうなんか俺の質問内容もトゥレスおじさんも重視してないっぽい事も分かったし、そもそもコイツは誰にも相談NGって言ってたし。雑に聞いちまおう。

 俺の質問できる札はあと2枚。そのうち1枚の質問はこれだ。

 

「……今の段階で、トゥレスおじさんが潰した策以外で、他に人類領に攻め込む様な策が進行してたりしない?」

 

 うん。かなりいい質問だったんじゃないだろうか。俺偉い。

 今の時点でトゥレスおじさんが策を一つ潰したわけだが、しかしフォルクルスの事だ。実は二の矢三の矢を準備してました、って言われても驚かない。

 だからこそここではっきりとコイツの口から現時点の裏工作は潰されたことを証明させられれば、かなり余裕ができる事になる。

 

「オー、してねェしてねェ」

「雑か。……リン?」

「うそはついてないよ」

「もう素寒貧だよこちとらァ! 金も巻き上げられてゲームも負けて裏で練ってた策もオジャンにされてよォ! 逃げ帰るしかなくなっちまったよォ!!」

「……まさか、逃げられると思っているのですか?」

 

 フォルクルスの答えは雑なものだったが、しかし確かに言質を取った。

 トゥレスおじさんが潰した策で今のところの悪だくみは終了ってことで。

 こりゃさらに魔王軍の旗色が悪くなったな。俺の勘はこのために響いてたんやなって。

 

 さて、しかし勝負を中座して逃げようとするフォルクルスに、イレヴンが咎めるように言葉をかけた。

 確かにな。このカジノの場、及びローティリッチの国全体では戦闘ができないが……一歩でも国を出れば、そこからは戦闘が可能となる。

 このままフォルクルスを追ってこの場にいるメンバー全員でフルボッコにすれば間違いなく勝てるだろう。

 グランガッチでも総力戦で軽く殺せた相手だ。あの時よりもさらにメンバーが充実している今、逃がさない理由はない。

 そのはずだったのだが。

 

『……やめておけ。今は追う必要はない』

「ん。……何故ですか、トゥレス」

『そもそもだが、ローティリッチは150年前の戦争の時から今に至るまで魔族と人類の区別をしない中立の街だ。以前の戦争後は魔族がそもそも不在だった故にその特色は薄れていたがな。そして、だからこそ戦闘行動ができないような術式が張られている。恐らくだが、まだ人類側で把握していない魔族領に繋がる転移陣が町のどこかにあるはずだ。それはこの後俺が向かって探して潰しておくが……』

「へー。そうなんだ」

「ケケケ……なンなんだコイツの知識量はマジでよォ」

『同時にフォルクルスはこの街から外に出て人類領に踏み込むことはできない。そこの守護結界はそういう性質を持っている。正規の手段で入国しない限り、正規の手段で出国ができないのだ。歴史書にそう書かれていた。尾行しても魔族が扱う転移陣はそう簡単には逆探知はできない。その前にフォルクルスは逃げるだろう』

「いやテメェつい今逆探知してカリーナ捕まえただろうがァ。オイラが組む転移陣はヒト様にゃあ使えねェ特別製なんだぜェ? 普通はよォ」

『今日は一つ魔族の企みを潰した……それだけで十分だ。後の調査はギルドと俺でやる。追う必要はない。その価値もない』

「人の話聞かねェ上に煽りやがんなァコイツもなァ!!」

 

 トゥレスおじさんから、追わなくていいという指示と、その事情を説明された。

 そうなんだ……いや、トゥレスおじさんがそういうのならばそうなんだろうなって感じだけど。

 でも確かに、この国がどんなに平和な国だからって、フォルクルスの事を誰も一人も知りません、ってのはないのかもしれない。

 それでも全く騎士団とかガードマンとか偉い人が出て来てたりしない……ってのは、魔族とも交易をしていた歴史とかそういうのもあるのかもな。

 まぁ俺としてはトゥレスおじさんが言うなら追うつもりもない。面倒だし。勘もそれでいいって言ってるし。

 

 けど。

 それでもまだ逃がすわけにはいかねぇんだよな。

 

「……座れよ、フォルクルス」

「アァ? 愛妻家のやさしいオジさんの話聞いてなかったのかァ? 悪いがオイラは逃げるぜ。興も冷めちまったし……まさかの失言拾われてショック抜けねェしよォ」

「ふざけんなアホ。()()()()()()()()()()()()

「ハァ? ……ほォ……ククク、そういやァそうだったなァ……あと1戦、残ってたなァ……そういやよォ!」

 

 立ち去ろうとするフォルクルスを呼び止めた。

 テーブルの上にあと一枚ずつ、まだ表になっていないカードがお互いにある以上、ゲームはまだ終わっていないから。

 それを受けて、フォルクルスもまた下らない勝負に付き合うことに口の端をニヤリと歪めて、ソファに座り直した。

 

『……ロック』

「やらせてよトゥレスおじさん。どうせ俺が勝つし……コイツとは、ゲームとはいえケリはつけておきたいんだよね」

「ケケケ!! ロックにそう言われちゃあなァ!! 仕方ねェからオイラも最後まで付き合ってやるぜェ!!」

『そうか。……ならば何も言うまい。任せる』

「うっす!」

 

 トゥレスおじさんにも了解を貰い、アクセサリを手に取りノインさんに渡して……再び俺はフォルクルスと相対する。

 お互いににやりと笑みを浮かべて。

 最後の手札を己が手に取って。

 

 ここ最近、どうにも中途半端にゲームが終わることが多かったからな。

 せめてコイツとはきっちり最後までやり遂げてやるさ。

 

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