勘のいいガキはデカパイハーレムの夢をあきらめない! 作:そとみち
「アルトさん?」
「……アルト。貴女の感情を否定はしませんが、今回矢面に立ってフォルクルスと渡り合ったマスターに対してそれは……」
アルトが零した言葉に、ティオが怪訝な目を向けて、イレヴンが咎めるように続けた。
捉えようによってはロックを非難するようなその言葉の内容に、しかしアルトは慌てて己の発言の至らなさに気付き、首を横に振って否定した。
「あ、ごめん違うの! 違くて、ロックの事自体が怖いとか、距離感を感じるとかそういうのじゃなくて……!!」
「えー? 今の言い方はちょっとアレでしたよねぇ」
「…………言葉足らずだぞ、アルト」
「ごめんって! や、そりゃさ、アイツの勘はキモってなる事あるし、出会った頃はスケベなアイツにアレだった時はあったけど……前のネレイスタウンの遠征の時にいっぱい助けられちゃったし。今はアイツの事認めてて! 手間のかかる弟みたいなもんだとは思ってるけど……!」
「おや~? 意外とアルトさんはロックくんへの好感度高めですか~?」
「え!? いやっ、いえ!? そんな、違いまして! べ、別にアイツの事が好きってわけじゃ……ああいやノイン様の趣味が悪いとかそういう話ではなくて! アタシも嫌いとかってんじゃないんですけど! ノイン様たちの邪魔をするつもりは無くて!!」
「なんだ摂取するツンデレか~?」
「ははは……ノイン様、ケンタウリスは皆一様にロック少年へ好感を抱えています。以前の遠征で距離が縮まったこともありますが……彼は付き合いを深めるほどにその魅力を感じられる。軽薄な言動に反して、周囲の人々に対して実に面倒見が良く親身にあってくれる。ノイン様や他の皆が彼を見初めた理由もとてもよくわかります」
「やるべきことにはなんだかんだ言いながら前向きに取り組もうとしますものね。
「へ~そうだったんですね~」
「初対面の女性との距離感の過ち具合は確かに主殿らしいアレでござるな。拙者の時もそうでござった。拙者の場合は赤備えに怯えずに声をかけてくれた親切な少年という面もあり、大変に助けて頂けたでござるが」
「ロックはおんなのひとまえにするとあたまおかしくなるからね」
「ははは。私が人里に降りて来たリンとその主人の顔を見に来た時にも随分とまぁ頭が軽かったな、ロック=イーリーアウスは」
「……皆さんの証言と私が初対面だった時の反応が違ってて今すっごく不思議な感じなの。私の時はすごく丁寧に、大きな音を立てないように配慮しながら色々お話してくれたから……ねぇ、カノン?」
「あの時はヴァリスタ様もカトル様もいらっしゃいましたから……」
アルトが言葉足らずを謝罪し、ソプラノとシミレがそれに言及する中で、しかしやはりここは女の園、親しい者たちの集い。
会話の軸はすぐにズレていき、ロックへの評価や普段の言動がアレだよねー、でもいい所もあってー……と無限に話が広がろうとしたところで、そこはしっかりとイレヴンが軌道を修正した。
「話がだいぶズレましたが……アルトがマスターに疎外的な気持ちを抱えていないということが分かったので安心しました。ですが、そうであれば『怖い』という表現はどのような意図だったのですか?」
「あ、うん。えっとね……」
改めてアルトに先程の言葉の意味を問いただす。
一呼吸おいてから、アルトが己の感情を吐露し始める。
「……アイツの勘はさ。絶対に、何が何でも全ての答えを事前に分かる……ってモンじゃないでしょ? その時になって急に響くことだってあって、そっちの方がむしろ多いくらいで……ネレイスタウンの時だって、闘技場の件だって、今回だって、事態が起きる直前にようやく響いてる。そりゃ、今回そもそもカジノに何かあるって察したのはロックの勘による先読みだけど……何がどうなるのか、っていうのは本当にその時にならないと響かない……ように、アタシには見えたのよ」
「……成程」
「そうですね~。ロックくんの勘……急に響いたり、ロックくんが求める答えを導き出したりしてますけど~、今日のフォルクルスの真意を察せてなかった。全部が全部、何でも答えに至るというものではないようですね~」
「…………ロックの勘は確かに異様な先見性を持つが、同時に万能ではない……と、いう事だな」
「そこなのよ。こないだの第三次人魔大戦の時みたいに、ふとした時にアイツが死んじゃってもおかしくないんだって思っちゃって……」
感じた恐怖は、ロックが失われる可能性に対してのもの。
仲を深めた少年の、理不尽で常識外れな活躍を見せられるたびに、胸の内に同時に浮かぶ、喪失の恐怖。
余りにも、ロックという少年が危うく見えて。
「……さっきも言ったけど、アタシは今日初めて出会ったフォルクルスの強さにビビってた。でもそんなフォルクルスにも、ロックは一歩も引かずに相対して……ちょっと穿った見方しちゃうと、相手の強さに全然気づいてなかったようにも見えて。あの態度が、アタシには危ういな、って感じられたのよ。これから先、本当に危ない相手に対しても気づかずに突っ込んでいっちゃうんじゃないかって……その時にアタシは守り切れるのかなって……そう、思えちゃって……」
完全性のない異能と、向こう見ずで調子のよい性格。
それによって、本当に危険な相手に対しても臆さぬ強さを持ち、だがそれに対抗できるレベルにはないロックという少年が。
これから始まるだろう魔族との本格的な戦争において、いつ死んでもおかしく無くて、護り切れるのか……それが、怖いと。
その言葉を受けて、イレヴンは深く頷く。
内容は実に理解できるものであったからだ。
頼れるマスター。最適解を導き出す異能の極致たる勘を持ち得ていても、その存在は相変らずレベル12の少年であるという事は変わらなくて。
かつて自分もその恐れを絶望に変えて味わったことがある。
魔王との遭遇戦で、マスターが死んだと思った時にそれを感じた。
しかし、だからこそイレヴンはその問題についての答えを既に得ていた。
「……アルトの悩みを簡単にまとめさせていただきますね」
「え? あ、うん?」
「マスターは凄まじい勘を持つがレベルは低く、いつやられてしまうかわからない。それなのに前線にいることが多いから守らなければならないが、自分が護り切れるかわからない。それで失うことが怖い。……という事ですね?」
「あ……うん、そうね。簡単に言えばそういうこと」
「じゃあやることは簡単ですね」
問題点を整理したうえで、その問題を解決すればいい。
「マスターが簡単にやられないように、盾は多ければ多いほどいい。だから
「……! そう……ね。それしかないもんね……」
「そして失うことが怖いという事ですが、それはまだ甘いですね」
「え?」
「失ったら生きていけないというくらいまで深い関係になればその悩みは解決します」
「は?」
「アルトもマスターに抱かれてみますか?」
「なんて?」
「抱かれてより深い関係になって、死んでも護ると己に誓えば悩みはなくなりますよ。より失う怖さを強めることで己への誓いを強くするのです」
「ちょっと待って!? え、どうしたのイレヴン!? 壊れてないわよね!?」
「失礼な」
イレヴンの類稀なる高性能AIが出した答えにアルトは狼狽した。
理知的なアンドロイドから零れてくる言葉とは思えなかったからだ。一気にアルトの中のイレヴンの評価がおかしな女という評価に更新された。
「いいものですよ? マスターは閨の女の扱いが大変に素晴らしいですから。アルトも気に入ると思いますが」
「そこじゃないわよ!? いやそこも……えっ!? アイツ上手いの!?」
「それはもう~。ものっすごく上手ですよ~?」
「ノイン様まで!? ええ!?」
「…………上手いのか。あんな童貞臭いアホ面で……」
「え……あれ、もしかしてみんなもう……その、食べられちゃってますか?」
「うむ。寵愛を存分に。たまらぬ初夜でござった」
「ロック、きもちいいところごりごりするのすごくじょうずて……にがしたくてもにがしてくれないの。ずーっときもちよくなっちゃって、あたまぱちぱちしてまっしろになった」
「リンちゃんの口から聞くの凄い妙な気持ちになるなぁ!」
「そんなにすごいのか……意外だったな。ロック=イーリーアウスはもっとヘタれるモノかと思っていたぞ」
「……お兄ちゃん上手だったんだぁ……ええ……じゃあ私の時って……ボソボソ」
「ティオが茫然とした顔で小声で呟いておりますね」
「聞こえちゃったなぁ……」
「ロック少年がまさか女の扱いが巧いとはな……いや、だが私とカフェに行った時時などもそこまで変な雰囲気にもならなかったな。女慣れしていないということもないし、意外とハーレムの主としての適性はあったのだな。ふむ、味わえないのが残念だ」
「いえ、マスターのならばメルセデスでも十分堪能できるかと」
「冗談だろう? ……本当か?」
「えっ……えええ……!? アイツあんな顔なのにデカいの!? 嘘でしょ!?」
「うそじゃないよ。えーっと…………これくらいかな」
「デッッ……!」
「あの顔で……嘘だろう……? イケるのか……?」
「団長……?」
「解釈違いでございます。ロック様はもっとヘタれ受けだと信じており申したのに。大変ショックを受けております」
「カノンは可愛い男の子好きだもんね……」
「カプチーノお嬢様にそう見られていたことにもショックを受けております」
「ははは……」
話の舵が一度そちらに向いてしまえば、後は無限に話が広がってしまうのみ。
ロックという身近な少年が意外にも閨が上手だという事実が零れて、あまりに興味津々になってしまうケンタウリスのメンバーと、こちらも意外にもそんな話を楽しめるカプチーノと、ショタに逸物は解釈違いのカノンと、今夜の事を想像して期待を膨らませるヒルデガルドと、まさか己の馬体にもサイズが合いかねない事実に動揺を隠せないメルセデスと、そんな団長の様子を見て狼狽するマルカートと……実に姦しい話は広がりを見せ続けて。
そして、そんな中で、イレヴンがアルトに対して耳打ちした。
「……マスターは、きっとこういう景色を求めていると思うのです」
「え? いやそりゃ女風呂なんてアイツが求めそうな……」
「そういう意味ではなく。……なんでも笑い話に出来る様な、なんでもない日々を。深刻な話を真剣に考えるのがマスターは苦手ですから。だからこそこんなふうに下らない話で笑い合える日常を得るためにマスターは頑張っています。それにアルト達も力を貸してくれたら、きっとマスターも喜びます」
「……」
ロックという少年が求める光景。
勘という異常性を抱えていても、何時死ぬかわからない脆弱性を抱えていても……それでも、ロック=イーリーアウスという少年はとにかく優しいのだから。
身近な女性たちが、いつも笑顔になれる様な光景を、きっと求めているから。
だからこそ、みんなでそれを助けてあげたいと。
イレヴンが穏やかな笑顔を浮かべてアルトにそう語りかけて、神妙な顔でそれを受けたアルトは答えを返した。
「……話が変な方向に広がっちゃったのをいい感じの雰囲気にして誤魔化そうとしてない?」
「バレましたか」
最近このアンドロイドご主人様に似て来たな。
ロックという一人の男の影響力が強すぎる事を察したアルトは、未だにわいのわいのとロックの事で盛り上がる中で独り嘆息を零した。
失う事へ感じた一時の恐怖は、いつの間にか雰囲気に流されて霧散してしまっていた。