勘のいいガキはデカパイハーレムの夢をあきらめない! 作:そとみち
【side エイシス】
従業員に与えられたグランドホテル最上階の自室で。
「……決まりました。プットオン・ドリー。赤の1です」
狙い通りに玉は赤の1に転がり落ちる。
百発百中の珠玉の技量。己が手に宿した絶対の勝利を約束する選択権。
この磨き上げた腕と相手の考えを読む叡智を用いて、カジノに必勝を齎していた
それは今日、ものの見事に粉々に砕け散った。
「……まだかしら」
トップディーラーに君臨してから、初めて味わった心底からの敗北。
どう足掻いても勝てないと思わされた化物との遭遇。
それは
それを、果てしなく、はしたなく、どこまでも求めるようになってしまった。
「…………」
再度ウィールに玉を投げ入れる。
狙いは当然、
「……決まりました。プットオン・ドリー。黒の28です」
続けてルーレットに玉を放る。
赤の1。次は黒の28。その次は赤の21。
赤の14。黒の10。
黒の17。
そして。
「……決まりました。プットオン・ドリー。赤の32です」
ああ。
ああ……思えば、なんてはしたないことをしてしまったのでしょう。
仮初の勝利を味わい、股を濡らすほどの歓喜で脳を埋め尽くし、しかし同時に混乱が生まれて結果がひっくり返されたことで、
ディーラーが、出た目の結果に動揺する。
そんなことがあっていいはずがない。
たとえ己が狙って投げ入れた数字がズレていても、そこで動揺を見せてしまってはディーラー失格だ。
恥ずかしい。
そんな失態を、
己の敗北を確定させた結果が出たとしても、態度には出すべきではなかった。
この汚点を、いつか漱げるのだろうか。
漱がせて、もらえるだろうか。
「……ロック様」
ああ、待ち遠しい。
とても待ち遠しくて、妬ましくて、愛おしい。
愛くるしい微笑みに、異常の極致たる才覚を隠す貴方。
お願いです。
あの時の勝負の熱を、どうか
今一度、勝負を果たさせてください。
今宵まず体を捧げて、それを次回の勝負へのベットとさせてください。
男に閨を許すのは初めてではございますが、誠心誠意御奉仕させていただきます。
だから、次の勝負のお約束をさせてください。
でも英雄たる貴方に、遊び惚ける時間が無いことも
故に、貴方が世界を救うまではお待ちいたします。
当カジノは魔族も人類もなく平等ではございますが、貴方がいるのであれば魔族に勝利は訪れないでしょう。
あのフォルクルスという輩も、きっと魔王さえも、貴方は討ち果たしてしまわれるのでしょう。
そうして貴方が人類に平和を取り戻したのちでよいのです。
どうか、何卒。
少しだけでも、いいえ、一回限りだってよいのです。
今一度の、魂を交わすような真剣の勝負を、
「……まだかしら、ロック様……♡」
再び、赤の1を狙い球を投げ入れた。
狙い通りに玉が転がり落ちて、ロック様が
※ ※ ※
【side ロック】
「……やはりな。エイシスめ、随分とお前に御執心のようだな。ヤツにとって初めての名刺にこれを刻むとは」
「どゆことです?」
ひらひらと手の中でカードを遊ばせながら、ベッドに全裸で横たわるヒルデガルドさんが楽しそうににやりと笑ってそう言ったので、俺は服を脱ぎながらも首を傾げた。
そのせいで脱いでる途中の服に妙に頭が絡まって……グワーッ! へんな絡まり方してる! ぐえー!!
「なぁに、お前相手に
「むごごーっ……っぷは! え、何の話です? エイシスさんから貰ったカードが何か?」
なんとかずぼーっと頭を引っこ抜いて、こちらも全裸になり準備OK。
随分恥ずかしい様子を見せちまったかなと思ったけどヒルデガルドさんは苦笑で済ませてくれていた。助かる。
ここに至るまでの話。
俺は風呂から上がって自室でミャウを乾かし終えてから、早速夜這いじゃい! とミャウを部屋に残してヒルデガルドさんの個室に夜這いに行った。
扉をノックしてから、事前に考えていた夜這いのキメ台詞である『君の瞳に完全敗北、略して完☆敗』という言葉を言おうとドアの前で待機してたら思いっきりドアを開けられて顔面がまな板になって。
アホかとため息つかれながら介抱されつつ部屋に招かれるという夜這いにあるまじきアホさを見せてお邪魔して、まぁヒルデガルドさん元々鱗で際どい部分隠す系の裸族の人なので服を身に纏ってないのもいつもの姿で。
でも今日は夜這いだからエッチな所の鱗剥がしてくださいね!! ってお願いして俺も早速これから始まる激しい交わりに備えて服を脱ぎ始めたところで、今日エイシスさんから貰った名刺が服のポケットからひらりと落ちて、それをヒルデガルドさんが拾い上げて、んでさっきのセリフに繋がるってわけ。
「この名刺はメンバーズカードとして使えるほかに、常連しか知らない裏の意味があるのだ」
「裏。えっ、なんかカッコよ! どんな意味があるんです?」
「元々はディーラーが客に心底敗北したと感じた時に、その勝利を称えて名刺を渡すのがルールだ。しかし……ほら、この名刺の裏を見ろ」
「ん? ……あ、エイシスさんのサイン入ってますね。気付かなかったや」
「くくく……名刺の裏にディーラーがサインを入れていた場合、裏の意味を持つ。これはな、誘い文句なのだよ。ラブレターのようなモノだ」
「ホエッ?」
「このサイン入りの名刺をホテルのエレベーターに翳すと、本来は客が立ち入りできない上層階へ行けるようになる。そこを出てガードマンに名刺を見せれば、ディーラーの部屋の前まで案内される。流石のお前もここまで言えばわかるだろう?」
「え……ええ!? マジすか!? ってことはエイシスさん……えっマジ!? ワンナイトラブ誘ってくれてたんスか俺に!?」
「そういうことだ」
「教えてよぉ!!」
ヒルデガルドさんが説明してくれた内容にドびっくりしてしまった。
あの美人ディーラーのエイシスさんが俺に閨のお誘いしてくれてたんだぜ!?
あのデカパイ褐色ドスケベアイシャドウぱっつんボブのお姉さんが!? 俺に抱かれたいって思ってたってコト!?
マジかよ俺の夢叶ってんじゃん……!! ロック様強い! 素敵! 抱いて! って言われるためにルーレット頑張ってたけど最後フォルクルスに横やり入れられてクソー! ってなってたのに実を結んでたのかよ!!
うわー……マジかすっごい嬉しいなコレ!? いやもちろん愛を交わし合った嫁さんもいっぱいいるし愛し合うっていう経験も果たした非童貞の俺だけどさ! 不意打ちダイレクトでアイラブユーされるのってある意味初めてでさぁ!!
やだもー……こういうのだよ俺が求めてたのは!! なんちゃって英雄になって知名度上がったのに誰もデカパイ美人が声かけてこないやんけ!! ってなってたけど報われる何かがあったんだなぁ……!!(感涙)
そして改めてその名刺がどれだけ貴重なものか理解する。
ヒルデガルドさん曰くエイシスさんが客に名刺渡すのって俺が初めてらしいし、しかもサイン入りで夜のゲートまでオープンしてたらもうコンセントレーション全開でスタートするっきゃねぇでしょ!! 体のシャッフル開始ィィィ!! 性欲ッ!!
「ふん」
「むげっし!!」
そんなわけでヒルデガルドさんの手にあるエイシスさんの名刺を取り戻そうと飛び込んだところで、ひょいっと取り上げられてしまった上に俺の体をそのまま片手で受け止めて勢いをいなされて、ヒルデガルドさんの腕の中に納まる様にそのままベッドに横になった。
なして。
「……今夜は私だろう?」
「アッハイ」
「約束したのは私の方が先だ。エイシスにはくれてやらんよ。このカードは次にカジノに来た時に使えばいい……そ・う・だ・な?」
「仰る通りデス」
下あごあたりをヒルデガルドさんのデカパイ北半球に埋めつつ、見上げれば咎めるように俺を見下ろすお美しい顔が見えた。
そういえばそうでした。余りにも粋な誘い文句としての名刺を頂いてテンション上げてしまったけど今日はヒルデガルドさんを抱きに来たのでした。
まぁ体を許すっていう意味でここにいることが許可されてることもあるし、ヒルデガルドさんが俺にベタ惚れとかそういう話でないことは俺も理解しているんだけど。
それはそれとして夜這いに応じてくれた女の部屋に入ったところで別の女の元に重ね夜這いして来ますなんて言えるはずもなく。
このデカパイを好きにできるのだから何も文句はありません。はい。
「……えっと、じゃ……んむっ────」
「────っぷは……風情など無用だ。今日は雑に性欲を発散したい気分なんだ……お前の好きに抱いてくれていい」
「ん。……それじゃ、僭越ながら」
「……んっ、……」
さてそれじゃこの零距離密着からどうしたものか、と悩み始めたところで、俺の背に廻された腕に力を籠めて引き寄せられ、ヒルデガルドさんから唇を重ねるだけのキスが見舞われて。
お互いの唇に銀糸が引かない程度の口づけを果たしたのち、そのように言われて……俺は、ヒルデガルドさんの体を味わい始めた。
※ ※ ※
「……ッ! ……っは、ぁぅ……成程、確かに……上手いな」
「ふぅッ……!」
「…………なぁ、ロック=イーリーアウス」
「ん。なんです?」
穏やかな一戦目を終えて、繋がり合った状態でお互い息を整える中で、ヒルデガルドさんから声を掛けられた。
それに応じて、デカパイに埋めた状態の顔を上げて、至近距離で見つめ合う。
「……エイシスの名刺の件で忘れていた。夜這いに来る時に聞くと約束していたな」
「あー……サラマンダーさんの伝言ですね」
「ああ。……下姉上は、なんと言っていた?」
話題は、色々あってスルーしてしまっていたお姉さんの伝言の件で。
部屋に入る瞬間からなんか俺がアホ晒し続けていたせいで流されてしまっていたが、そういえば夜這いに来る口実に姉からの伝言を聞くことを話していたんだった。
既に一戦果たしてしまっていたが……もちろん俺もそれを伝える約束をサラマンダーさんにしていたわけで、言わない理由がない。
つながり合ったままで、しかし一度俺は体を起こして、見下ろす形で脱力するヒルデガルドさんに伝言を果たす。
「……ヒルデガルドさんには『管理人の使命は私が護るから、貴女は貴女の征く道を』。ニーズヘッグには『いつかまた、一度だけでもいいから顔を見せてほしい』」
「っ……」
「そう……サラマンダーさんは言ってました。俺は、いつかニーズヘッグにも必ずこれを伝えるつもりです」
そう。サラマンダーさんからの伝言は、妹であるヒルデガルドさんへだけのものではなく、ニーズヘッグへのものも預かっている。
こうしてヒルデガルドさんにも伝えたのは、それをきっとヒルデガルドさんも知るべきだ、と俺の勘が判断したからだ。
「…………ロック=イーリーアウス」
「はい?」
「お前は今日、フォルクルスへの質問の中で、ニーズヘッグのことも聞いてくれたな」
「あ、はい。なんつーか……やっぱりこんな伝言を聞いてた中で、ニーズヘッグってどんな境遇なんだろ、って俺も気になってたところがあって……や、もしかして迷惑でしたか?」
「いや、いいんだ。迷惑という事は無い。むしろ感謝を述べたいところだ。私も……上姉上の、ニーズヘッグがしでかした裏切りが……本当に、裏切りであったのか。そう、考え直す切欠になったからな」
「…………」
更に重ねられたヒルデガルドさんの言葉に、今日フォルクルスから聞き出したニーズヘッグが魔王軍に
ヒルデガルドさんと、ニーズヘッグと、サラマンダーさんの過去にまつわる話。
俺はその過去を知らないから。
今はまだ、何も言う事が出来なくて。
しかし、そんな口を噤んだ俺の顔を見て、ヒルデガルドさんがふっ、と微笑を零して。
俺が何を考えているのか丸わかりだぞ、とでもいうように見せたその微笑みに、重ねて言葉を続けた。
「……聞いてくれるか? たまには私も、誰かに過去を零したい気分になることもある……今日だけ、特別だぞ。誰にも言うなよ」
「…………ええ。聞かせてくれるなら聞きたいです」
「そうか。では……」
ヒルデガルドさんが、己の過去について語り始めた。