勘のいいガキはデカパイハーレムの夢をあきらめない! 作:そとみち
【side ???】
ローティリッチにある複合施設エーリュシオン。
そこにあるグランドホテルにて、夜の帳も降りた時間に異性の部屋を目指して歩く一人の少女の姿があった。
(お兄ちゃん、部屋にいるかな……)
ティオだ。
大浴場で体を清め、じっくりと温め、髪に気合を込めて櫛を通し、お風呂上がりのお肌のケアを済ませて、準備を万端にして最愛の
いや、表向きの理由は夜這いではない。
そんなはしたない女ではないと自分では思っていた。
(今日はフォルクルス相手に頑張ってたもんね、お兄ちゃん。きっと疲れてるだろうから褒めてあげないと……それに、二人きりになれれば私だって前の事謝りたいし……)
ティオの理論武装はそのようなものだった。
今日のフォルクルスとの遭遇で、誰よりも奮戦したのがロックであったことは、このホテルに同行したメンバー全員が一様に同意するだろう。
そんな兄に労わりの言葉をかけることを第一の目標として。
第二の目標としては、以前の戦争終結の夜に、酔いも手伝って想いを暴走させて同意のない性的暴行を果たしてしまった件を謝罪するために。
(でもお兄ちゃんだったら許してくれるかな……愛してくれる、って言ったもんね……調子良すぎかな……でも本気で嫌われたりしないよね……お兄ちゃんだもん……そのまま話の流れでヤりなおそうってなっちゃうかも……そしたら私、お兄ちゃんに愛されるのかな……前は無理矢理
手遅れであった。
あの兄にしてこの妹あり。
第三の目標がロックに許してもらう事。
第四の目標が改めて愛を重ねて嫁の一人にしてもらいたいという、いかんともしがたいハッピーピンクな思考に頭を染めながら、ティオの足取りは徐々に早足になっていった。
尤も、改めてその考えは甘いと言わざるを得ないだろう。
妹が何の約束もなく部屋に夜這いをかけている今の時分、既に兄貴分たるロックは別の女の部屋に夜這いをかけていたのだ。
部屋には既にロックはおらず。
しかしそんなことを知らないままに、ティオはとうとうロックの部屋の前にたどり着いた。
既に表情は今夜の情事を想像し、兄そっくりの欲望が存分に詰まった表情になっていた。
(……はっ。いけないいけない、労わるのと謝るのが一番の目的なんだから! 引き締めないと……!)
ギリギリで己の破廉恥に思い至り、表情を引き締め直して、小さく深呼吸をして、部屋番号が間違っていないことを確認して……小さく、ノックを果たす。
まだ寝てしまってはいないだろう。夜は早い孤児院育ちの二人だが、だからこそお互いの眠る時間は把握していた。
この時間ならばまだ起きているはずで。
「……お兄ちゃん? ティオだけど……起きてる?」
廊下に響かぬ程度の、しかしシーフである兄の耳には届くであろう声量でティオが呟く。
しかしその呟きに返事は返ってこなかった。
2秒、3秒……5秒…………10秒経っても、何の物音もしなくて。
あれ? とティオは首をひねり、再度ノックする。
「……お兄ちゃん?」
もう一度部屋番号を確認。ロックの部屋で間違いない。
となると……もう眠ってしまっているのか?
しかし寝るには早い時間である。
であれば他に部屋にいない可能性として…………誰か別の人の部屋に行ってる?
(ありえる)
ティオはそこでようやく、己が遅きに失したことを理解した。
それはそうだ。今の兄には何人もの嫁がいて。別の部屋で過ごしているはずで。
そこに兄が行ってはならない理由もルールも無い。
(イレヴンさんか、サザンカさんか、ノイン様か、リンちゃんか……誰かの部屋に行って、既に熱い夜を過ごしている可能性大────!! しまったぁ──!!)
やらかした。
いや、約束をしなかった自分が悪い。
お人好しの、私の事を愛してくれているお兄ちゃんならば、事前にちゃんと夜に部屋に行くことを伝えていれば待ってくれてたかもしれないのに。
お風呂に入りながら唐突に思いついたこの夜這いを伝えるチャンスは確かになかったといえばそうなのだが、しかし共にホテルで夜を過ごすことが決定した時点でこの決断に至れていればよかったのに。
(あーぁ……いい機会だと思ったんだけどなぁ)
へにょ、とティオの耳が絞る様に動いた。
最近になって気付いた特技だ。
人のそれに近い形に形成されたティオのエルフ耳は、それでも人間よりも異様に可動域が広く、己の意志で自由にぐにぐにと動かせた。
先程は少々性欲が先走ったが、労わりたいと、謝りたいと思っていたのは本心なのだ。
ため息が無限に零れそうな気持ちをそのまま口から零し、明日の朝に出直そう、と考えてティオがロックの部屋の前から離れようとした、その時。
「──────」
「────え?」
扉が、開いた。
静かに、音を立てぬようにノブを廻して開かれたその扉の内から出てきたのは────
白い艶やかな髪と白い服を身に纏った、線の細さと瑞々しい肢体という矛盾を両立させる絶世の美女が顔を覗かせた。
「えっ? あ、っれぇ? ……えっ、あ、ご、ごめんなさい部屋間違え……えっ!?」
「…………」
ティオは全力で狼狽した。
まず最初に脳裏をよぎったのは、部屋を間違えたかもしれない、という懸念。
思わず謝罪の言葉が零れかけて、しかし横目に部屋番号を再度確認しても、やはり記憶するロックの部屋番号と一致して。
(あれ!? お兄ちゃんの部屋番号覚え間違えた!? いやそんなはず……ってかこの人誰ぇ!? 見たことない、絶対知らない! すっごい美人!! 胸デカッ!? もしかしてまたお兄ちゃん新しい女増やして…………いや……あ、れ?)
わたわたと慌てる心を諫めつつも、目の前の美女を観察する。
間違いなく見たことのない顔だ。余りにも美人で、女性である自分から見ても妙な気持ちを感じさせてしまうほどに蠱惑的な雰囲気を持つそれで。
こんな女がロックの部屋から出てきて……もしかして既に一戦終えた後か……などと思考は八方に暴走させつつも、しかし。
そこでティオは、ふと気づいた。
白い女の、その色。
透き通るような白の輝きに、見覚えがあって。
それはいつもロックの肩の上、フードに潜って昼寝をこいていた、彼のペットであり家族である、一匹の猫。
「…………もしかして、ミャウ……?」
まさか。
まさかではあるが、もしかすると、ロックが以前よりトチ狂った頭で述べていた、いつかミャウがデカパイ猫耳少女になって体で恩返ししてくれる、といったそれが現実になったのではないかとティオは閃き、その名を口にした。
するとその名の呼びかけに応じるように、白い女は首肯を一つティオに返す。
さらに驚愕に襲われるティオに向けて、ささめくように女が言の葉を零した。
「……外に、声が漏れるといけないわ。どうぞ中へ」
「……!」
その言葉の通り、部屋の中に誘うように白い女が腕を中に向けて、誘うように迎え入れる。
ティオはその言葉にある種の怖気を感じつつも……兄の部屋、何が起きているかわからないそこへ、万が一の可能性も考慮して、女に悟られぬように己が内で
ミャウか、と聞いて肯定したこの女。
本当にミャウであるならば……このような性格になるだろうか。あの人懐っこかった子猫が。
それに、お兄ちゃんはどうしたのか。
ミャウが女の人になったとして、それもまた兄が抱いていたとしても……この部屋の中にいたならば、絶対に『いい所だったのに邪魔しに来るんじゃないわよー! ンモー!!』と叫びながら応対してくれたはずで。
であれば、この部屋の中には。
「…………」
「…………」
先に踏み入れたティオに続くように、白い女が後ろ手に扉の鍵を閉めて続いて。
その動きにさらに警戒心を強めながら、ティオが見渡した一人用のスイートルームの中は、やはりロックの姿はどこにも無かった。
「……お兄ちゃんは?」
警戒心をあらわにしながら、ティオが振り返り白い女に問いかける。
これが……誤解であったならば、いい。
本当にこの女がミャウであって、お兄ちゃんは他のお嫁さんの所に夜這いに出かけてて、ミャウも私に怯えていたという事であれば……謝ればいい。
だが、兄の部屋に兄がいないというその事実と、知らない女が部屋にいたという現実を見て、警戒をしないメンバーは今このホテルにはいない。
そう考えて、対峙する見知らぬ女との会話。
「……ご主人様は……ロックは、ヒルデガルドの部屋に夜這いに行っているわ。以前から約束していたようだったのよね、あの竜人と」
「ヒルデガルドさんの……ところ? え。なんで?」
「以前にホエール山脈の頂上で、戦争を何とか出来たら一晩好きにしていい、って約束をしたらしいわよ? ご主人様。その約束を果たすのが今日だったというわけね。今日はカジノでも一人にされて、夜の時間も一人にされて、私もとても寂しいのだけれど……ご主人様の夜会の邪魔はできないものね。我慢しているわ」
「…………貴女は、本当にミャウなの?」
「ええ。いつもご主人様の肩に乗っている白猫よ。ティオがこれまでもよく撫でてくれたのも覚えているわ。孤児院でいつもカシムに捕まれて遊ばれているのも、今日のプールで何度も水没させられたのも、ね。……水を嫌わない猫といっても、限度はあるのよ? ウォータースライダーはとても怖かったわ……」
「う。それは……その、ごめん……」
「いいのよ。貴女には何をされても私は異を唱えられないくらい、犯した罪があるのだから」
「……え?」
話の中で、女の口から語られるロックの様子に、普段のそれを見ていなければ零れてこない気安い内容に、少しだけティオの警戒心が解かれた。
ロックしか知らないはずの内容を知っていることもあるし、今日のプールの件も、これまで孤児院で見られていた猫好きのカシムがミャウを捕まえて遊んでいたことも知っていた。
そこまで知っていれば、どうやらこの女は本当にミャウが擬人化した姿なのだ、とティオもようやく飲み込むことが出来て。
しかし、不意にミャウの口から零れたそれに、ティオは再び驚きを覚えた。
貴女には、と口にしたミャウの意図が読めなかったからだ。
彼女がご主人様であるロックに恩を感じているならばわかる。
だが、自分との関係は……そりゃその辺の見知らぬ人に比べれば深いだろうけど。
ロックが拾ってきたころから知っている猫だけれど。
でも、そんな私にミャウが犯した罪……と、言われても。
何も思いつかなくて、ティオは混乱した。
「えっと、何の話? 私、何かされたっけ……?」
「……ごめんなさいね」
「え? えっ……?」
「この場で……
「えっ??」
「そして、どうか────」
ティオが混乱を重ねる間にも、ミャウの言葉は紡がれて。
更にそのまま、美女の姿に変わったミャウが、ティオの前で驚くべき行動をとった。
床に直接膝をつけ、跪いて。
掌をさらに続けるように床に置き。
白い髪を乱しながらも、深く額を床に押し付けて。
土下座の姿勢を、ティオに向けて見せつけた。
「ええ!? な、んでっ!?」
「────どうか、聞いてちょうだい。私の懺悔を。私の話を……全て、聞き届けてほしいの。どうか、お願いします」
「いやミャウちょっと!? なんでそんな謝って……話はもちろん聞くけどね!? 頭は上げていいから、ね!?」
もはやティオの頭は混乱の極みで。
慌ててしゃがみ込み、土下座の姿勢から頭を挙げようとしないミャウを抱き起そうとして。
しかし。
その動きは、ミャウから零れて来た思わぬ一言に、凍り付いたかのように止められてしまった。
「──────私の正体は、魔王軍の第四将軍『ベルベッド』」
「ッ────!?」
「……150年前に、貴女たちエルフという種族を誑かし、惑わし、操り、滅ぼした……張本人よ」