勘のいいガキはデカパイハーレムの夢をあきらめない! 作:そとみち
「わたしもぼうけんいきたい!! ダンジョンいってみたい!!」
「ダメー!!」
「いーきーたーいー!!」
「危ないからダメでーす!!」
元気に口論を繰り広げる俺とリンが今朝の我が家の光景です。
横目にイレヴンがミャウを撫でながら俺らの様子を眺めている。頼むから加勢してくれよ。
さて何でこんなことになってるかって話だけど。
一先ずこないだの新ダンジョン攻略後、図書館など見たりして……その後しばらくは平和な日々が続いた。
魔力操作を使いこなすためにもイレヴンバイクに乗って時折近場の薬草採取依頼とかギルドで受けたりもしたけど、とくに大きなダンジョン攻略なんてのはせず。
ギルドで管を巻いたり、イレヴンがまた図書館に通ったり、リンも孤児院通いを平和にしていたのだが。
どこでそんな知識を得てきたのかは知らんが、なぜだかリンは冒険に興味を持ってしまったようなのだ。
なんだか昨日の夜そわそわしてたのはこれ言いだそうとしてたんかな。
ンモー! 子どもが冒険なんて危ないでしょー!
「カシムにおしえてもらったもん! ぎんきゅーは、だれでもいっしょにぼうけんにいけるんでしょ!!」
「カシムかよ情報源。あいつ冒険者に憧れてっからなぁ……ったく。いいかぁリン、確かに俺は銀級冒険者になれて監督権も持ってるよ? 冒険者登録してない人でも実力さえあれば俺の責任で協力者として同行させられるようにはなったさ……でもそれは誰でも同行させるって意味じゃないの。リン、俺はお前が心配なんだよ。子供に危ない橋を渡らせられるか」
「まだ子供のマスターがそれを言うのは少々説得力に欠けるのではないですか」
「だまらっしゃい」
「むー……! だいじょうぶだもん! わたし、ロックよりもつよいもん!!」
「そらぁね? 竜人だからねリンは。そこら辺の銅級冒険者なんか歯牙にもかからない強さだよ。最初の頃ガチケンカして俺も死にかけたからわかりみ深いよ」
「死にかけたんですねマスター」
「でもね、冒険ってのは危険がいっぱいなの! ただ魔獣倒してりゃいいわけじゃないの! 罠も不意打ちもあり得るし、何が起きるかわからないのがダンジョンなわけで! 大切なお前をそんなところに連れていけません!!」
「むー!!」
「むーじゃありません!」
「みゃあー!!」
「ミャウの真似しても許可は出しません!」
『みゃあ……』
聞いたところ、孤児院にいるカシム(8歳・女)が情報源だったようだ。余計な事吹き込みやがってあんにゃろ。
とにかく俺は何と言われようとリンを冒険に連れていくつもりはない。飯だって十分に用意するのが大変になるし、冒険中はとにかく危険がいっぱいだ。いやその危険を勘の一言でやり過ごしてく俺があんまり言えた義理じゃないけど、リンを守れなかったら俺は一生立ち上がれないほど絶望する自信がある。
将来大きくなったら俺の女になる予定のデカパイドラゴンがまだ小さいのに危険な目に会わせてたまるかよぉ! 蝶よ花よと育てて純粋培養にしてやるんじゃい!!
「……マスター、そう頭ごなしに否定しなくてもよいでしょう」
「イレヴン……いや、味方してくれよ俺の」
「リンを心配する気持ちはわかりますけどね」
ぐぬぬとお互いににらみ合っていたところで、しかしイレヴンはリンの肩を持つように仲裁に入って来た。
お前も賛成派なんかい。悲しくなるよ俺は。
「否定から入り過ぎている、という話ですよ。リンが冒険に行きたい……その理由をしっかり聞いてからでも判断は遅くないでしょう」
「む。……むむ、それは確かにそうな。確かに……そうだな、ごめんリン、俺も話を聞かずに否定しすぎた。リンが冒険に行きたい理由を聞いてなかったな……教えてくれ」
とまぁしかしそこでイレヴンは見事に俺の視野が狭まっていることを指摘してきた。
……確かに! 今の俺ただリンの気持ちを否定してるだけやんけ! その理由とか深い所まで聞いてないやんけ!!
これはあかん。俺がもっとガキの頃にシスターに毎日のように窘められていた時、どんなことがあってもシスターはまず理由と気持ちを聞いてから諭してくれていたのだ。
リンが心配過ぎて、しかしそれでリンの気持ちも聞かずに否定しちまったのだ。反省である。
「…………おとうさんが、どこにいるのかしりたいの」
「ヴッ」
「血を吐いて倒れた!?」
リンの余りにも純粋な想いに俺は吐血して倒れ伏した。
そうだよなぁ……!! 知りたいよな自分の両親の事!! 分かるよ俺もガキの頃そうだったもん!!
リンはまだ子供だ。竜人……ドラゴニュートであれば、ドラゴンの父親か母親、または人間の父親か母親がいるはずなのだ。無から生まれるなんてことはない。
ただ、リンは親がどこにいるのか知らない。覚えているのは、黒い大きな竜がいる渓谷で育っていたらしい……ということだけ。
その場所もわからないらしい。物心がついたのが割と最近で、それで渓谷を散歩してたらたまたま運悪くそこで悪徳奴隷商人に隷属の首輪をつけられて意識を失い、気が付いたら馬車の中。
そして俺に助けられるまでにまた結構時間が経ってたということで。自分がどこから来たのかわからないのだ。
奴隷商人も直接リンを捕まえた人間ではなく、巡り巡って売買の結果手元にいただけでどこから転がり込んできたのか知らなかった……という尋問結果を俺は聞いている。
「おかあさんもどこかにいるかもしれないし……そういう、えっと、じょうほう? あつめたいの……こじいんと、ロックのおうちじゃ、そんなのわからないし……いろんなひとから、いろんなはなしをきいてみたいの!! ロックについていって、おはなしききたい……!!」
「……リン、それは冒険というよりも……」
「お出かけ、でしょうかね。ダンジョンに潜って魔獣を倒したいとか宝物を探したいとか、そういう話ではないようで」
そして話を聞いて、俺は新たに一つリンの想いに理解を深めた。
朝起きて食事をして、孤児院に行き、社会常識を勉強して、帰ってきて、眠る。
それだけの日常では得られない情報……人の社会を知りたいと。そこで、黒い竜の済む渓谷の噂でも得られれば、と思ったのだ。子供ながらに。
しかし育ての親の俺が大体外出する理由が冒険であったために、それについていく、という表現になったのだ。
「んんー………………」
あかん……その理由を聞いただけで俺の決意がかなり揺れてる!
確かにここ最近リンは言葉をいっぱい覚えてよく話せるようになった。イレヴンが来てからさらに顕著に学習し始めたと言えるだろう。そうして人と話す中で、自分の望みについても零せるようになってきたのだ。
その成長を喜ばしく思うとともに……同時にやはり心配もある。
黒い竜のいる渓谷の場所がもし分かっちまえば、今度はそこに行きたいと言い出しかねないし……その時こそ実力が伴っていなければ危険と隣り合わせになる。わがままでは済まなくなるだろう。
でもなぁ。リンに初めて芽生えたこの感情を育ての親の俺が否定するってのも……違う気がしてきた。
……社会勉強の一環か。
少しずつ、少しずつリンも成長して、大人になろうとしているんだ。
であるならば、ダンジョン攻略はともかく……俺と一緒に出掛けたいというリンの気持ちを俺が否定しちゃダメな気がしてきた。
大きくなったときに嫌われたくないしな!! 結局甘いんだよな俺はクソー!
「……わかったよ。それじゃしばらくは俺と一緒に行動しようか、リン」
「おお!! やったー!! ロックだいすきー!!」
「良かったですね、リン」
『みゃあ!』
「うん!!」
「たっだーーーーし!! 一人にはならない!! そして危ない事には首を突っ込まない!! ギルドに行って簡単な依頼とかそういうのは受けるかもしれないけど俺の言うことはしっかり聞くこと!! それが守れなければ帰るからね!!」
「えー!? わたしよりもよわいくせに!!」
「強さで言うなら俺より強い冒険者ばっかりじゃい!! それでも中には油断して死んじゃう人もいるんだからこれだけは譲れないからな!!」
「ここはマスターの言う通りですよ、リン。世の中には色々と危険な誘いも多い……リンもそれにやられて奴隷商人に捕まってしまったのでしょう?」
「む。……たしかに。しかたない、わかりました。ロックのいうとおりにする」
「えらいぞ。……俺もお前を心配する気持ちはマジだからさ。分かってくれて嬉しいぞ」
「うん」
俺とリンは無事にお互いの想いを理解しあい、納得のもとで一緒にいることを選んだ。
一先ず孤児院にしばらく俺と過ごすことになることを報告して、その後はギルドに行って情報を集めますかね。
※ ※ ※
さてやってきましたギルド本部。孤児院には途中で寄って経緯伝えてきました。
午前中なんでこれからダンジョンに行くぞって感じの冒険者組がちらほら見えますね。
「あ。ごはんさんだ! ごはんさーん!!」
「ノックス! ノックスな! 決してメシ奢りお兄さんじゃねぇからなリンちゃん!! ……で、今日はどしたいロック、イレヴン。リンちゃんこの時間はいつも孤児院じゃなかったか?」
「情緒が育って今日は社会勉強。お父さんとお母さんの情報が知りたいんだってさ」
「そいつぁまた泣かせるじゃねぇか」
「これまでマスターもある程度気にしていたようですが、情報は芳しくなかったとは聞いていますね。竜の住む渓谷は何か所かあったかと思いますが、黒い竜の住むところとなると私のデータベースにも記憶にございません」
『みゃあ』
リンがそわそわ尻尾を振りながら周りを見渡していると、以前お世話になったノックスさんがいたのでぱたぱたと近寄ってって挨拶した。懐かれてんな。
食費の負担をノックスさんが分担してくれねぇかな。社会勉強の一環としてノックスさんにリンを預けるという案はいいかもしれん。この人面倒見よさそうだし。リンを泣かせるようなことはしなさそうだし。
「俺がいなくて孤児院にも行けない時はノックスさんを頼るんだぞリン」
「わかった!」
「ロックお前俺の事財布か何かだと思ってるだろ? なぁ?」
「苦労していますねノックス」
俺はリンに頼っていい大人の見極め術をレクチャーする。
ノックスさんは雑に頼っていい人だから……いつだって子供の事を想ってくれる優しい金級だから……。
さて、とはいえ俺も目的は忘れてない。
今日はリンが自分の両親の情報を集める日だ。ギルドと併設された酒場で聞いてみよう。もちろんリンが自分で聞いてみるのだ。俺とイレヴンはそれをフォローする。
リンが他人とお話しする練習にもなるしな。情報が出なくてもそれはそれで新しい学びになるからOKってやつ。
「お、お、おねーさん! おは、おはなしきいていいですか!?」
「あらー可愛い竜人さん。いいわよー、お姉さんに何聞きたいの?」
「俺が声かけた時と態度違いすぎん?」
「マスターの女性に声をかける時の態度が問題だと思いますよ私は」
そうしてリンがギルドで管巻いてる冒険者たちに声をかけて回っているが、可愛いリンが声をかければ老若男女問わずみんな素直に話を聞いてくれている。
なんで俺が声をかける時とあんなに態度が違うんだろうなぁ。特に女性。ゴキブリを見るような眼で見て返事すらされねぇのに俺。泣くぞ。
まぁしかし、とはいえやはり情報はそうそう出てこない。
ギルドの方で近隣地域の討伐依頼とかは取りまとめてるんだけどそもこの王都の近くに渓谷なんてないし。遠い所だと他の国のギルドが依頼を受けてるかもしれないけどそういうのは現地に行かないとわからないし。
そもそもその渓谷にいる黒いドラゴン……という話だって、特段近くに住む人間に害を与えてなけりゃ討伐依頼とか出ないしな。そういう天然のダンジョンを攻略するのは情報もないし難しい所がある。挑むやつもいるけどね。
「ロック……みんなしらないって…………」
「まぁ俺も普段から気にはしてたからな黒いドラゴンの噂は。すぐに答えが出てくるってもんでもないから……ドンマイだリン。いっぱい聞けて偉い」
「お疲れさまでした。少し休憩しましょうか」
「うん」
『みゃあ』
酒場のテーブルでリンがいろんな人からお話を拙く聞いてるのを見守ってた俺たちは、上手くいかずにずーんと沈んで尻尾をずるずる引きずりながら戻ってきたしょんぼリンを労わる。
椅子に座らせてミャウを抱かせてもふもふしてメンタル回復してもらいつつ、午前中ずっと頑張って聞いてたのでもうすぐ昼も近いから飯もいっぱい頼んでやることにしよう。まだ財布はあったけぇしな。
さて、しかし情報収集とは酒場に行って聞いてみて駄目でした、で終わるものではない。
図書館に行って黒い竜に関する話を探してみてもいいし。まぁそれは俺が既にやってて収穫なかったから今の時点では提案しないけど。
それにさっきも話した通り、この国に情報がないのならば他の国ならば……というケースもある。王都の近くの国なら回ってみてもいいかもしれない。
リンがこの国に流れつける程度の距離にあるってことはめちゃくちゃ遠方ってわけでもないだろうし。これも社会勉強の一環だな。危険の少ない所ならありかもしれん。
……と、山のような昼飯を掻っ込むリンを眺めながら考えていたところで事態は動いた。
「───あ、ロック! いた! イレヴンさんも!」
「んぉ? おー、ティオか。どったの」
「こんにちはティオ。ご無沙汰しています」
ギルドに飛び込んできて、どうやら俺を探してたらしいティオがずかずかと近づいてくる。
なんじゃい。今は食事中ですよ。
「ロックお願い! ケンタウリスで遠征に行くのについてきて!!」
「了解いたした」
「即答」
ケンタウリスの皆さまと旅ができるなら行くしかねぇよなぁ!!
女の園に突撃ッ!