勘のいいガキはデカパイハーレムの夢をあきらめない!   作:そとみち

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180 継ぐべきはエルフの血ではない!! エルフの魂だ!!!

 

【side ティオ】

 

 

 種族の仇。

 魔王軍将軍格の第四席、吸血姫ベルベッドが己に懺悔する話の内容を……全て、聞き(おお)せた。

 

「…………私が話したかったことはこれですべて語り終えたわ。後は……貴女が、どうするのか……決めてほしいのだけれど」

「────」

 

 そこでようやく地に伏せていた頭を上げたベルベットの表情は、申し訳なさと恐れで染まっていた。

 死を恐れるようになった亡国の王女の、運命に翻弄された生涯を聞いてしまった。

 

 魔王ダブレスの虐殺で、己が国の同胞(はらから)を全て失い。

 眼前で行われた凶行のせいで、異様なまでに死を恐れるようになり。

 死の恐怖から逃れるために力を蓄えた結果、魔王軍の第四席に籍を置くほどの力を持ち。

 魔王の命令で、エルフの集落を襲撃し、そこにいた全てのエルフを眷属にして闇に染めて。

 その勢力を、最終決戦で己が魔王の支配から逃れ生き延びるために使い捨てて。

 逃れようとした先、イーリーアウスの力により死にかけて、瀕死の状態で封印されて150年弱の時を恐怖と共に過ごして。

 何も知らないロック(お兄ちゃん)が、ベルベッドを封印から解放して。

 その直後に、お兄ちゃんに成長しないような魔法を掛けて。結果はイレヴンさんの異常なレベルアップという結果に転がったけれども、害を与えていたのは間違いなくて。

 イレヴンさんに正体がバレた後は、少し心を入れ替えたみたいだけれど……それでも、過去は消えなくて。

 すぐには殺されない、戦闘行動を許されないこのローティリッチで私に正体を明かす選択をして。

 

 私の種族の事も、知っていて。

 シスターの耳の事も、知っていて。

 

 その上で、ただの無害な猫のフリをして。

 私に向けても愛嬌を振りまいていた、この女の事情をすべて知って。

 

「…………」

 

 私は。

 私は。

 私は。

 

 私は────()()()()

 

「…………」

「…………」

 

 口を開かない私に、ベルベットも覚悟を決めた眼差しでじぃっ、とこちらを見つめ続ける。

 どうしようもない沈黙が広がる。

 言葉を告げられるほどの心の整理が、私の中に出来ていないから。

 

 同情した。

 同情するよ。

 同情しちゃうよ、そんな話聞かされたら。

 

 だって……結局のところ、私は。

 私は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 生まれてこのかた、迫害なんて受けたことはない。

 差別されたこともない。

 孤児院に捨てられた過去はあっても、シスター・ミルに育てられ、お兄ちゃんと共に育って、つつましくも幸せな、充実した人生を送って来た。

 自分がエルフだと知った時は……そりゃ、とっても動揺したけれど。

 でも、お兄ちゃんに慰められて、シスターに本当の事を教えてもらって、やっぱり私は幸せの内に育ったことを実感できて。

 ケンタウリスのみんなだって、イレヴンさんたちだって、私がエルフだと知っても付き合いが少しも変わることはなくって。

 

 私は、エルフとしての悲しみを味わっていないんだ。

 シスターが辛い半生を送って来たのに比べたら、私は恵まれすぎていて。

 勿論、義憤としてエルフを迫害した過去に抱える想いはあるけれど。

 

 でも────当時迫害した()()に、その気持ちは向けられるものなんじゃないの?

 

 エルフが魔族に操られてたのは、確かにこの目の前のベルベッドが、ひいては魔王が悪いんだけれど。

 そこで人類と戦わされて、殺されちゃったエルフたちにとっては、ベルベッドは仇なのだろうけれど。

 

 でも、じゃあ、シスターが受けた……150年前の戦争が終わってからエルフに向けられた迫害は、全部ベルベッドのせいなの?

 違う。

 違うって、私は思ってた。

 

 お兄ちゃんの前では、シスターの前では口に出せなかったけれど。

 今後も、出すつもりはないけれど。

 でも、実は前から思ってた。

 

 人間だって、何の抵抗も害も与えなかったはずのエルフを、偏見で差別してたんだって。

 それは、当時の人類が本当は償わなきゃならない原罪(つみ)なんじゃないかって……思ってた。

 

 色んな気持ちがあって、考えが上手くまとまらない。

 

 ベルベッドの一生には、正直な所同情の気持ちが、憐憫の感情が強くて。

 だけど、この女が、魔王がエルフを操り、闇に堕としたのは……戦争だって分かってても、感情の部分でやっぱり許せなくて。

 それでも、戦争後のエルフの迫害は、魔族のせいだけじゃなくて、当時何も考えずに迫害に加担した人間にも罪があって。

 そんなエルフの血まみれの歴史に、迫害の歴史に……私は、組み込まれていなくって。

 私というエルフは、何も辛さを味わっていないのに。

 ここで私の感情で、この女を断罪できるはずが、ない……って。

 

 そう思ったから。

 私の気持ちと、私なりの答えを、ベルベッドに叩きつけることを決意した。

 

「────ベルベッド」

「っ……、はい」

 

 意を決した私の声に、小さく頷いて怯えた目を見せるベルベッド。

 そんな顔を私がさせているという事実に、申し訳なさすら感じてしまう。

 本当は、怒りに任せて怒鳴り散らすのが正しい感情なのだろうか。

 

 どうしても、それはできない。

 そんな風に、私はシスターに育てられてない。

 そんな風に、私はお兄ちゃんの背中から学んでいない。

 

 優しく在れるようにって。

 そう、育ててもらえたから。

 

「……私には、貴女を咎めることはできないよ」

「…………どう、して?」

「だって、私はエルフであることで何の迫害も受けてないもん。貴女が……過去にエルフの集落を襲って、眷属にして、人類と争わせたっていう事実には、一冒険者として、人類側の一人として、恨みがないとは言わないけれど。でも、私がエルフだから貴女を許さない……って言いきることはできないの。それくらい、私はシスターに幸せに育ててもらえたから」

「…………」

「だから……()()、咎めない。その権利がない……って、私は感じてる」

 

 甘すぎるかも、って自分でも思ってる。

 怒ってもいい場面だ。かつてエルフを滅ぼしたこの女に、恨みをぶつける理由はありすぎて。

 でも……これは私の甘い部分だ。

 甘えの部分で、弱い部分なのかもしれないけれど。

 それでも、出来なかった。

 

 縋る様に懺悔した相手に、たとえ己の種族がまさしく当事者だとしても、その罪を深く糾弾することは私にはできなかった。

 そんな風に、育てられてないんだと思う。

 ここで咎める気持ちが己の内に強く萌芽しないことが、答えなんだと思う。

 

 だから、私は咎めない。

 この女を咎める権利を持つのは……きっと、私じゃない。

 実害を受けなかった私じゃなくて。

 実際にその被害に遭った、あの人だと思うから。

 

「だから、咎める権利がある人に会って、同じ話をしてほしいの」

「えっ……あ、ううん……読解(わか)るわ、ティオの言いたい事は。()()に裁きを求めろと言いたいのでしょう?」

「うん。私の知る限りで、一番エルフの迫害で被害を受けたのはシスターだから。貴女は私じゃなくて、シスターに告解を果たすべきだと思うんだ。だから……シスターへの懺悔の場を私が作ってあげる。嘘偽りがないようにリンちゃんも呼んで、事情も知ってて何が起きても対処できるイレヴンさんにもお願いして、シスターを交えて……そこで、改めて貴女はシスターに対して赦しを乞うてほしい。……私の望みは、それかな」

「………分かったわ。必ず、そうさせてもらいます」

 

 シスターに、全てを伝えるべきだ。

 私じゃあ、浮ついた気持ちで裁くことになる。

 エルフとして生まれたからって、何の迫害も被っていないのに、歴史だけを見て、上辺だけの気持ちで怒っても、それはきっと本質じゃないと思うから。

 本当の納得を、なによりもベルベッドが得られないと思うから。

 

 だから、シスターに任せる。

 勿論、万が一の裏切りや逃走が無いようにイレヴンさんも呼んで。

 お互いに嘘偽りがないように、リンちゃんにも事情を説明して同席してもらって。

 そこで、ベルベッドには本当の意味での懺悔を果たしてもらう。

 

 そして、シスターがこの話を聞いて、出した答えを私は肯定したい。

 私()の育ての親がどんな答えを出すのかは……想像ができないと言ったら嘘になるけれど。

 でも、私はそれを肯定したい。

 きっと、お兄ちゃんも……何も知らないお気楽脳天気なお兄ちゃんも、きっと肯定してくれるだろうから。

 

「ねぇ、ベルベッド」

「……何かしら」

「貴女は、ズルいよね」

「……そうね。こんな、ローティリッチという即座に殺されない場で罪を告白するような女なのだから。ごめんなさいね。どうしても私は死ぬのが怖くて……」

「あ、違うの。そこじゃなくて。いやそこもなんだけど」

「え?」

「……貴女を見つけたのがお兄ちゃんだったことが、ズルいなーって。物凄い剛運だと思うんだよね、そこって。何もない山の中で、誰からも忘れられていたところを、お兄ちゃんが勘で見つけてくれたんでしょ?」

「あ……ええ、そうね。きっとそう。ご主人様と初めて出会った所は、本当に山の中の何もない所だったから……」

「きっとそれって、お兄ちゃんじゃないと見つけられなかったと思うし……見つけたのがお兄ちゃんじゃなかったら、今みたいな状況にもなってないと思うし。……ベルベッドも、お兄ちゃんには感謝してるんでしょ? だからこうして私にも謝ろうと思ってる。イレヴンさんに言われたのもきっかけだと思うけどさ」

「ええ。ご主人様には……ロックには、私は返しきれない恩があるわ。そのためなら……ご主人様の為だと思えるなら、死の恐怖も少しは薄れるの。あの子の為なら、私は私の命を使っても……いいって、思えるの。今はそうしたいのよ。……ただ、やっぱり正体を明かすのだけはしたくないけれど、ね。自分でもズルいって思うのだけれど、姿を見せたらきっとご主人様は許してくれて、庇ってくれるだろうから。この体に目がなくなってしまって……でも、それだけはきっと違うから。だから切羽が詰まる様な状況にならない限りは、私の正体だけは明かしたくないのよ」

「うん、それもわかってる! だから私も貴女を許せたの。お兄ちゃんに少しでも害意があれば、きっと許せなかったと思うんだ。でも、貴女がお兄ちゃんの味方になるっていうのなら……これからの最終決戦で、お兄ちゃんが生き残れる確率が上がる。お兄ちゃんのために働いてほしい、とも思ってるよ」

「ええ。それは誓うわ。どのような形になるかはわからないけれど……少なくとも、魔王軍の力になる事は無い。ご主人様を、その周りのみんなを……人類を護るために私は何かをしたい。そっちのほうが、生き残れそうだしね……?」

「ならよーし! 細かい事は気にしないっ!! 許す!!」

 

 その後、色々話した。

 猫になるのってどんな気持ちなのかとか、エルフを勾引(かどわ)かさなければならなかった魔王の命令ってどんなものだったのかとか、魔王軍ってどんなところだったのかとか。

 好きなモノ、嫌いなモノ、男の趣味、今の体で出来る事、150年前の戦争の様子、昔のエルフってどんな風に生活してたのか、とか。

 先日の私のお兄ちゃん逆レ事件の時にバッチリ見られてた事とか。

 

 色々なことを話して、色々な知識を得て、色々な考え方を知って。

 お互いの腹を探り合って……私は、今夜の時点では一先ずベルベッドと和解した。

 

 この後、彼女にとっては大一番であるシスター・ミルへの告解が残っている。

 シスターが選ぶ答えが、応報になるのか、神罰になるのか、大赦になるのか。

 それはまだわからないけれど……その時までは、これまで通り仲よくしたい。

 

 平和ボケしてるかも、って自分でもちょっと思うけど。

 でも、私はどこまでいってもお兄ちゃんの妹なんだもん。

 罪を罪だとはわかってるけどさ。

 人の罪を咎めるのとか、好きじゃないんだ。

 

 

 

「……すぅ……」

『フミャミピピー……ピョミミプナァ……』

 

 

 結局その後、一人だと眠れないというベルベッドの……ミャウのお願いを聞いて、お兄ちゃんのベッドの上で眠りについた。

 夜這いは失敗しちゃったけど、部屋に戻って来たお兄ちゃんを驚かせられるならまぁいいかな。

 

 おやすみ、ミャウ。

 話してくれてありがとう。

 

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