勘のいいガキはデカパイハーレムの夢をあきらめない! 作:そとみち
朝。
「ん……」
いつもの時間、早朝に目を覚ます。
知らない天井だ……なんて定型文が続いて脳裏に浮かんだけど寝起きにアレを呟けるの相当目が覚めてないと無理だと思うの俺だけ?
「ふわ……ん」
小さくあくびを零す。
知らない天井なのは当たり前だわな。俺たちは昨日はローティリッチのホテルで一泊したのだから。
さらに言えば俺は自室ではなくてヒルデガルドさんの部屋に夜這いをかまして存分にドスケベデカパイドラゴンを味わい尽くしたわけで。
いつもの所に重みを感じて首を向ければ、俺の腕枕ですやすやと眠っているヒルデガルドさんがいて。
ずいぶんとなんだか落ち着いた表情……に見える。
長生きしてることもあってみんなのお姉さん的ポジションに落ち着いてるヒルデガルドさんだが、情事を経て迎えた朝にこんな穏やかな顔を見ると何だか随分と幼い印象も受ける。
可愛いなこの人。なんか今だけはちゃんと三姉妹の末っ子って感じだ。
「……どうなんだろな」
手癖でヒルデガルドさんの頭をなでなでしながら、ふと考えるのはやはり三姉妹の事。
ニーズヘッグとサラマンダーさんとヒルデガルドさん、3人の数奇な運命。
父を殺し、妹二人を裏切ったニーズヘッグ……という認識でヒルデガルドさんはいたわけだが、しかしサラマンダーさんは初対面の俺と話しててもニーズヘッグに対する敵意は表には見えなかったように思える。
そして昨日フォルクルスから聞き出した、ニーズヘッグの裏切りの涙。
ここまで状況が揃ってれば……考えられるのは、魔王に脅されてニーズヘッグが汚名を被りその手を血に染めた、みたいなシナリオか。
だがニーズヘッグはその後も魔王軍の為に精力的に働いているという話だし、心底魔王ダブレスちゃんに傾倒しているという可能性もあるし。
うーん。わからん。
この件に関しちゃ、俺の勘はまだうんともすんとも答えてくれない。
ヒルデガルドさんもサラマンダーさんもいずれは俺に心底惚れて更なるハーレム拡大が見込まれるのでめちゃくちゃ気にかけている部分ではあるが……勘が答えを出してくれてないんじゃ何ともなぁ。
……ま、いいさ。
どうせ魔王軍と戦う運命にある俺らはいずれニーズヘッグとも顔を合わせるだろう。
そん時にニーズヘッグをボコして捕まえて、ついでにニーズヘッグの娘らしいジェミニとポルックスも捕まえて、ロック様強い! 敵いません! 好き! ってさせてサラマンダーさん所に連れてって、そこで3姉妹で本音で語り合えばいいさ。
その結果がどうなるかはわからないけど、その結果を導く所までは俺もマジで尽力したい。
もしそこに誤解とかやんごとなき事情とかあれば、それをヒルデガルドさんが知らないまま……ってのは気持ち悪いからな。俺が。
「さてと」
流石にここでヒルデガルドさんを起こすというのも申し訳ないので、俺は部屋を静かにおいとますることにした。
リンもだけど、ドラゴニュートって朝に弱いのかもしれんしね。
ヒルデガルドさんとはグランガッチからホエール山脈まで共に過ごして何度か朝を迎えてるけど大体リンと同じくらいの時間に起きてくるのを知ってる。
幸せそうな寝顔を無理に起こすのは悪いしね。気配も音も立てないようにおさらばしましょ。
「ほほいっと」
腕枕で幸せそうに眠るヒルデガルドさんの頭をできる限りソフトタッチに持ち上げて、その下にシュバッと枕を挟み込んでバトンタッチする。
ティオに腕枕した時の経験が活きてるな。気配を消すのはシーフの仕事だぜ。
代替わりした枕でも健やかに安眠を続けるヒルデガルドさんの横顔を見て問題ないと判断し、卓上に「朝食会場でまた」とメモ書きを置いて、音も立てずに部屋を後にした。
オートロックシステムだから戸締りも問題ないしね。ごちそうさまでした。
※ ※ ※
さて、とはいえ情事の後である。
ヒルデガルドさんを気絶させてから俺が眠りにつくまでに頑張ってそれなりに処理はしたが色んな匂いはぬぐい切れていない。
このまま朝食会場まで過ごしてしまえば流石に女性陣から総スカンを食らうであろう。
つまり朝風呂である。
「……いいや。このまま行くか」
俺の手には当然だが普段使いのアイテムボックスがあるので着替えに困る事は無い。なので一度自分の部屋に戻らずにそのまま大浴場に行くことにした。
ミャウを拾っていこうかとも思ったが……アイツ朝は寝てるしな。
俺がいつも早起きでそれに付き合わせてるけど結局起きてもフードの中で二度寝かましてるし。無理に起こさんでもええやろ。
しかし朝風呂楽しみだな。
こういう大きなホテルの朝風呂っていいんだよね……特に早朝は人も少なくてさ。
でっかい風呂を独り占めする気分になれるの大好き。
ネレイスタウンのホテルでも存分にそれを味わったが、このローティリッチの大浴場はさらに2ランク上。超広いのだ。
サウナとかもあるしじっくり夜の疲れを流していきますかねっと。
さてしかし、そんな風にテンションを上げて大浴場に向かう廊下を歩いていた時だ。
「お。……はよーさん」
「ん……ロックか。おはよ」
でっかい窓から街が一望できるテラスのソファに座る見知った金髪。
カトルだ。
なんでここにいんのお前? こんな朝早くに。
「どしたん? こんな時間に……お前こんな朝早かったっけ?」
「お前こそ……つってもロックは早起きだったっけ。まぁちょっとな」
鼻が利く能力持ちでもないので普通に近づいて、なんでこんな朝に起きてるのか聞いてみた。
すると、胸の当たりをそっと撫でてから答えるカトル。
「前にさ……ほら、母さんの魔力炉心を俺が受け継いでて、それが母さんが目覚めたことで起動しただろ?」
「おー。そういや胸元光ってたな地下で」
「それ以降なんだよね。眠らなくても眠くないっつーか……いや、寝ることもできるっちゃできるんだけど。寝なくても問題なくなっちまってさ」
「何それ。超便利じゃんうらやまー!」
「……ふっ、ははっ。ロックならそう言うだろうなって思ったわ」
聞けばどうやらカトルの体に組み込まれてるお母さん譲りの魔力炉心のせいで生活スタイルが変わったという事で。
イレヴンと同じで眠らなくてもよくなって……アンドロイドの権能が目覚めたって事なんかな。なんか魔力もすごい調子良くなったって言ってたもんな。
眠らなくてもいいってのはまさしくイレヴンと同じだし、もしかすると変形できたりとか腕をドリルに出来るようになったりするんかな?
なんやすごい便利な体になったなお前。心の底から羨ましいわ。
「眠らなくていいってすげー便利じゃんマジで! いいなー……夜の時間全部自由に使えるって事だろ? うらやま!! 俺だったら絶対異世界転生チートさんの本読みまくるし嫁さんたちの部屋往復するわ! 便利な体になりよってンモー!!」
「乱れ過ぎだろお前の性生活。ヒルデガルドさんの部屋からの帰りでそこまで元気なのすげーなマジで……はぁ。……変わんねーな、お前は。色々周りの環境が変わっても根っこは全然変わんねぇわ」
「んー? ……そりゃあなぁ。俺はいつだってロック=イーリーアウスだし。お前がいつだってカトルなのとおんなじでさ……人間そう簡単に変われたら苦労しねーのよ」
「そっか……そりゃそうか。そうだよな」
って話をカトルにしてやったら、なんか呆れたような、ほっとしたような顔になって……最終的に納得感の伴う笑顔を見せた。
え、何。どしたんマジで?
お前にしてはあんまり見ない雰囲気じゃない?
「……あれ。もしかしてなんか悩んでたりした?」
「いや……悩んでた気もするけど忘れちまった。お前のアホなツラ見てたらよ」
「なんじゃいその言い草ー! 折角兄貴分が心配してやったのによー!」
「いつからお前兄貴分になったんだよ俺の」
「俺は今16歳! お前は今15歳! つまり俺のほうがお兄ちゃんやろがい!!」
「来月には年齢並ぶ上にお前ガチの誕生日知らねぇじゃねぇか」
「悲しくなるからこの話やめんか?」
「あはは。悪ぃ悪ぃ」
だもんで心配して声かけたらバカにされた上に割とラインを攻めた茶化ししてきやがったもんだからふんがー! と憤慨した。
なんだよモー! ホントに珍しく俺が男の心配したのに!
心配しがいの無いヤローですわねホントにコイツは!
ガキの頃はあんなになよなよしてたのに逞しくなっちまったよなぁ。ホントに女の子みたいだったからなガキの頃。まぁ性別も分かってたし俺も遠慮なくバカ男子として付き合っててその内こんなふうになっちまったけど。
今も外見は女みたいだけどなぁ。なんで女じゃないんだお前マジで。(真顔)
「はーまったくもー。心配して損したわンモー!」
「はは、余計な世話かけちまって悪かったな」
「ホントですわよー! ……んで俺これから朝風呂キメてくるんだけど。来るか?」
「お。いいね、行くか。一人で風呂行ってもなんだかなーって思ってたんだよね」
「なんや寂しがり屋か? いいもんだぞーこういうデカいホテルの朝風呂は。貸し切り感味わえてのんびりできて……ネレイスタウンの大浴場もよかったけどここの風呂もいいよなー。高台からの露天風呂最高に開放感あってさァ……」
「確かに、こんな立派な風呂は王都じゃ見ねぇもんな、あっち土地使われすぎてこんなデカい建物ないし。……んじゃ行こうぜ」
「おー」
無駄な時間を過ごしたついでに朝風呂に誘ってみたら割と乗り気だったので二人で朝風呂をキメてくることにした。
※ ※ ※
カポーン。
「何の音なんだろうなコレ」
「わからん」
謎の擬音が生まれる大浴場の露天風呂で日の出をのんびり眺めながら風呂に入ってるのが俺とカトルです。
いい……夜の運動を経て乳酸が溜まった体にじんわり源泉がしみ込むこの感じマジでいい。客が他にマジで誰もいないのがいい。完全に貸し切りです。
お互いにへへぇ……って感じのリラックスした溜息を零しつつ、しかしふと思った。
何気にあれだ。コイツと二人でのんびりするのって珍しいな。
ガキの頃は必ずと言っていいほどここにティオが混ざってたし、孤児院卒院して俺とカトルでギルドに冒険者研修制度を申し込みに行った後も結局別の研修先に行ってそこでそれぞれ生活してたし。
冒険者になってからもよく家に突撃しには来てたけどやっぱりティオがいて……昨日だってヴァリスタさんがいたし。二人きりって珍しいわ。
なら逆に二人きりじゃないと話せないような事を話すのもいいのかもしれん。
なに話そっかな。最近できた話題といえば……カトルのお母さんの話かな。
「なぁカトルよ」
「ん?」
「ワンさんとはどんな感じなん? ほら、こないだ目覚めてさ……トゥレスおじさんともワンさんとも俺も話したけど、そういやお前が話にあんま絡まなかったなって思ってよ」
「あー……いやまぁ、仲は悪くないよ。顔合わせれば普通に話すけど……まぁでも、ロックだけにちょっと本音零すと、距離感がいまいち掴み切れてない感じある」
「あー。なんか分かるわ。いやおもしれー人だしめっちゃいい人なのも分かるしトゥレスおじさんが見初めるのも分かるなーって思うんだけどさ。すごいなんかこう……強いよな。色々」
「それな。いやさ、勿論俺の実の母さんだから……俺も色々話したいことがいっぱいあるし、母さんもそうなんだろうけど。向こうからめっちゃ距離詰めて来てくれて、それは有難いんだけど押しが強いって言うか……いやホントにそれが嫌とかそういうんじゃないんだけど、いつの間にか空気に呑まれるっていうか……」
「ははは。想像できるわー」
「だろ? それにほら、俺はマジで母さんとは初対面だからさ。変な話、お互いを分かりあって距離を詰めていくのってこれからいっくらでもできるわけじゃん? 落ち着いたころでもいいかな、なんて思ったりして。実は今もヴァリスタ師匠の家に泊まらせてもらってるんだよね」
「ん。そーなん?」
「ああ。俺が今母さんといっぱい話すよりも……なんかな、親父が
「ふーん。……なんとなくわかるわ」
「うん」
カトルが零す想いを聞いた。
なるほどなー……まぁカトルは元々親離れしてる感じが強かったしな。
親父さんとの距離感も思春期の男子くらいのそれで、12歳で家を出てからはホントにたまにしか家に帰ってなかったし……そんな父親であるトゥレスおじさんとの関係性にあんだけ味の濃いお母さんが出てきたらそりゃ戸惑うというものだろう。
ワンさんの方は息子さん大好きーな感じが強かったから……ま、その内なんかいい感じになるだろ多分。
「それに……あれだ。ホントにこれもロックくらいにしか零せねぇんだけど」
「ん?」
「正直ガキの頃から結構な時間孤児院で過ごしてたじゃん俺。尋常教育もロック達と一緒に受けたしさ」
「せやな。日中ほとんど孤児院に預けられてたわねお前」
「だからなんつーか……現時点だと、正直ミルさんのほうがお母さんって感じ強くて……」
「シスターは万物万象のママだからその感想もやむなしやな。でもワンさんにそれ聞かせたらまたすごい事になりそう」
「はは……かもな。子離れできんのかな母さん」
そしてやはりカトルもまたシスターにママあじを感じる男の一人であった。
トゥレスおじさんが仕事してる時によーく預けられて一緒に勉強したり飯食べたりしてたしな。孤児院に泊まってくこともよーくあったし。
全てはシスターが母性の塊であるのが悪いんや。そりゃワンさんも浮気を疑うというものです。
「親父もまぁ、今にして思うと俺の面倒よく見てくれてたなって思うよ……色々とさ」
「あ、わかるー。頑張ってお父さんしようとしてたなトゥレスおじさん。カトルがシスターが作る飯の方が美味いって言ったら翌日にはめっちゃうまい料理作って孤児院に持ってきたりした事あったよなー」
「懐っつ。あったなー……いや確かに美味かったんだけどさ。そうじゃねぇんだよなってのがすごかったなアレ。ミルさんにも怒られてたな親父」
「何でもできるのに不器用な感じすごいよなトゥレスおじさん」
「ほんそれ。コミュ力が足りねぇんだよマジで。ロックと母さん見習えって話」
「でも夏の日は遊びに行ったらいつもアイス準備してくれてたからそこはマジで感謝だわ」
「あー……アレなぁ。ロックとティオがあんまりにも喜んだもんだから、翌日には冷凍魔導器準備していつでも配れるようにしてたんだぜアレ。当時はロック達には言うなって言われてたけど」
「マジ?」
「マジマジ。しかも多分自作だな。大人になってそういう店見てもあんな形の冷凍魔導器見たことないもん。ホントになんか……ズレてたな親父」
「後でシスターにアイス食べさせまくってたのがバレてまた怒られてたもんな……」
「恥ずかしい思い出だぜマジで……」
その後は自然と、お互いに昔の事を語り始めて。
結局のところ、お互いに気のおけない幼馴染っていう事実はどう足掻いても変わらなくて。
随分と気を抜きながら、二人で朝日を浴びながらの朝風呂を満喫したって話。