勘のいいガキはデカパイハーレムの夢をあきらめない! 作:そとみち
「ぐえー……んん?」
「おぉ……すまないねぇ、助かったよ坊や」
スライディングした俺の腹の上に落ちて来た老人男性。
結構な高齢だな。完全にお爺ちゃんだ。
なんでお爺ちゃんがこんな早朝に家の屋根の上にいたんや……って疑問もあるけど、それよりも俺の体の方が不思議だ。
「……痛くない?」
ついさっき、俺は勘が導くままにダッシュして、バリアーを張る間もなくダイレクトにお爺ちゃんの体を必死こいて受け止めたわけだが。
そうなればレベルの低い俺のみぞおちにも相当なダメージが入ってしかるべきなのだが、しかし何故か俺に殆どダメージはない。
お爺ちゃんの方も無事なようだ。骨折とかが無くて何よりだが……あれ? と思っていると。
『……パパったら、無茶しすぎ♡』
「お。ネェちゃん、なんかしてくれた?」
『落ちて来た人を受け止めるダメージを捌き斬りするわけにもいかないでしょ? だから私の方で二人とも護ってあげたの♡ 褒めていいよ♡』
「有能っ! 偉いぞネェちゃん!」
『えへへー♡』
なんと、ネェちゃんが自動でガードしてくれていたらしくて。
なんやこの護りの指輪便利やん! ちゃんと俺が捌き斬りできないシーンであることを理解して、俺がお爺ちゃん助けたいって意図まで読んで護ってくれるとか。ナイスすぎる。
おかげさまで俺もお爺ちゃんも殆どノーダメージ。スライディングしたせいでズボンがちょっとほつれた程度で済んだわ。後でリーゼに行って補修してもらお。
「大丈夫ですかマスター。ご老人も……何故こんな時間に、屋根の上に?」
「俺は無事。じーちゃんもどしたんマジで? この家の人?」
「すまないねぇ。ここはワシの家じゃよ。実は前から雨漏りがあってのぅ、朝の内に様子でも見て、日中に倅たちが仕事に出ている間に直しておこうか、などと考えていたんじゃが……まさか足を踏み外すとは思わなんだ。元々ワシは職人でな、こういう家屋の修繕も慣れていたんじゃが……いやはや、老猿は木から落ちるものじゃな」
「危ないわねー! 年齢考えなさいなー! お宅の人が心配しちゃうでしょー! ンモー!」
「坊やの言う通りじゃ。失敗失敗、ほほ……」
『みゃあ……』
イレヴンもミャウもやってきて、お爺ちゃんから話を聞けば雨漏りの修理をしようとしていたとのことで。
危ねぁなぁもう。歳とったら能力は落ちるんだから若い頃のようにはいかないのよ。ディセットのじーさんもそれで見誤ってゴブリンごときに苦戦したりしたのよ。
ともあれ無事でよかった……とお爺ちゃんの腕を取って体を起こしてやっていると、騒ぎを家の中から聞きつけたのか、玄関が開いてまた知らん人が出て来た。
「騒がしいな……親父、何が────って、ロック様にイレヴン様!?」
「ん。おっさん俺の事ご存じなんすか? どちらさま?」
「この国でマスターの事を知らない人の方が少ないと思いますが」
『みゃ』
「そ、それは勿論! 私はケルク、国営の業務に携わるものでございます。救国の英雄のお名前は勿論存じており、闘技大会も観戦しておりました。ロック様とは初対面ですので、私の事はご存じないでしょうが……ええと、これはどういう状況でしょうか!? なぜ父とロック様が……!?」
おっさん……40~50代くらいの身形の良い男性が家から出てきて、俺がお爺ちゃんを起こしてやってる様子に首を傾げて、しかし俺の赤毛を見て名前を呼んできた。
どうやら俺の事知ってるらしい。一先ず経過を説明する。
親方! 空からお爺ちゃんが! となって俺が受け止めて事なきを得たことまで説明すると、その息子らしいおっさんが慌てて頭を下げて来た。
「あ、有難うございましたロック様!! 父の命をお助けいただきまして!! ぜひ御礼を……」
「そんな大した事でもないですわよー! 俺がいなくてもケガくらいで済んだかもしれないし、俺もお爺ちゃんもケガしてないし! 無事でよかったね気をつけようねで終わる話だから! お礼とかもいらんからね気を揉むからね俺がね!! ハイハイ!! この話おしまい!!」
「そ、そこまでおっしゃられますか……! なんて出来たお人柄なのだ……!」
「かかか……本当に助かったのぅ、坊や」
「ええねんて。お爺ちゃんもあんま無茶したら駄目だぜ、長生きしなよ」
「……マスターの勘が囁いていたのはご老人の命の危機を感じ取ったのでしょうか。珍しくまっとうな勘の響き方をしましたね」
『みゃ!』
仰々しくお礼を言われたがそういうのくすぐったいしめんどくさいからいいから! 大したこともしてねぇし! お爺ちゃんが長生きできてよかったねで終わる話だし!
これが女の子でデカパイ美女だったらお礼にデートでもしてもらう所だけどね!! お爺ちゃんにお礼言われても別に何も嬉しくないんだからねっ!
さて、そうして話も終わって、おっさんがお爺ちゃんを家の中に入れて、別れの挨拶でもして俺たちも家に帰るかなってなったところで。
おっさんが俺の方を見て、衝撃の事実を明かしてきた。
「今日は本当にありがとうございました、ロック様。危機的状況に駆けつけ、事も無げに助けてしまう……我が家族にとって、ロック様は本当に英雄です。娘が惚れこむお人柄なのもわかります。実は娘がロック様の大ファンでして……」
「ちょっと詳しく聞いても?? え、娘さん俺のファン?? 何歳くらい???」
「おいマスター。一般市民にまで手を伸ばすと収集つかなくなりますよ」
『みゃぁ……』
なんとこのおっさんの娘さんが俺の熱烈なファンという事で。
この年齢の娘ならお年頃というやつではないか?
お爺ちゃんもおっさんも割と顔は整ってる寄りだし美人のデカパイな娘を隠しているのではないか??
「私の娘は王城勤めの騎士団に所属しています。今年で十九になりまして、最近は口を開けばロック様とお話したことを自慢してばかりいますよ」
「え。俺と話したことある騎士団の人……って……あ! もしかして城門に立ってるフルプレートの女騎士の人っすか!?」
聞けば俺と話をしたことのある騎士団の人ってことで。
騎士団の人と話した事ってそんなにないから、すぐに特定できた。門番の人だ。あのすっごい気が利く人。
確かにあの人とは何度か話してるな。王城に行くたびに見掛ければ挨拶するくらいの関係にはなっている。
「ええ、立派に育ってくれて、騎士団でも位の高い城門の警邏の仕事をしています。アンネと言いまして……普段は騎士団の駐屯所で暮らしているので、この家に戻ってくるのはたまにですが」
「お名前初耳っ! あの人かぁ……この辺りに元々住んでたのかぁ。実はまだプレートの下のお顔を拝見できてねぇんすよね。俺も世話になった人だし、いつかお茶でも飲みたいなぁ! 平和になったころにでもお誘いしてもいいもんですかねお父さん?」
「もちろん! ロック様がそうおっしゃっていたことを今度娘に伝えますよ。きっと飛び跳ねて喜ぶことでしょう」
「よっし! そんじゃ魔王倒して平和になったらぜひ!」
「マスターの勘が急に働いた理由が完全に察せてしまいました」
『みゃ』
父親公認ならデートの一つや二つはしても損はねぇよなぁ!!
勿論お顔とデカパイ確認もするけど、どんなレベルでもお茶を飲んできゃいきゃいされるのはかまへんやろ。
騎士団の上の方まで上がる実力って事はレベルも相当だろうし、レベルが高いってことは美人ってことだ。実際冒険者でも高レベルになればなるほど美形が増える傾向にある。
魔王倒した後の楽しみがまた一つ増えちまったぜ。何としても生き延びねばならんな。
ま、とはいえこれ以上ここで長話する理由もない。
すっかり俺の勘は落ち着いている。アンネさんという例のフルプレートの女騎士の話が聞けたのは棚からぼたもちだったが、ぼたもちじゃなくてお爺ちゃんが落ちてきたのを助けるためにどうやら勘は叫んでいたようだ。
お爺ちゃんを無事に受け止めた時点でそれ以上勘がうんともすんともしてねぇしな。
たまには平和的な活躍をするじゃないか俺の勘。えらい。俺もホントによくわかんない能力だけど偉いぞ勘。
「そんじゃまた。お爺ちゃんによろしくー」
「ええ。重ね重ね、有難うございました」
家主のおっさんに別れを告げて、イレヴンと共に朝の散歩に戻るのだった。
※ ※ ※
「────そんなことがありました。大したことではなかったです」
「お~。ロックくんの勘ってまともな人助けで働くことあるんだ~」
「老翁を救出……主殿がその場に間に合わなくとも大事には至らなかったかもしれませぬが、それでも成したことは立派な人助けでござる。胸を張ってくだされ」
「ロック、えらい! あさごはんはうまい!」
『ロック=イーリーアウスから感じ取れる意志は常に闇の絡まぬ純粋な光。善性に強い欲望が絡み合った不思議な男ですね、あなたは』
「大事にならなくて何よりでしたよ。付き添っていた私が事が落ち着くまでどれだけヒヤヒヤしたことか」
『みゃ……フガフガ』
散歩から帰ってきて、朝食をたっぷり準備して、みんなを起こして食卓を囲んで今朝の出来事を報告する。
結局その後も完全に俺の勘は沈黙してるのでお爺ちゃんの命を助けた……ってことでよかったんかな。助けられる範囲の命には反応するのかね俺の勘って。
嫁さん達それぞれから褒められたり呆れられたりしたが、まぁサザンカさんが言ってくれた通り、誰も困ってないしあのお爺ちゃんが助かった。それだけで十分な話だね。
なので後はのんびり今日も一日を過ごしましょう。ノワールさん分も追加してサザンカさんが作ってくれた朝食を存分に頂こう。美味。
「ごちそーさまでした! んじゃ後片付けは俺がしちゃうのでみんな身支度をしてきてもろて。そしたら今日一日の予定をまた決めましょ」
「ごちそうさまでした~。それじゃあ支度してきちゃいますね~」
「すまぬな、主殿」
「おとーさん、わたしがかみをゆってあげる! シスターにおそわったからおしゃれにできるよ!」
『ふむ……御洒落。毛髪を独特な形状に纏めることで為すものと知識はありますね。楽しみです』
「マスター、私も後片付けを手伝います。散歩から帰ってきた時に軽く私は身支度を整えてますので」
「ん。そか、んじゃ頼むわ。皿全部台所に持ってきて」
『ふみゃ……みゅわぁ……』
そんなわけで朝食も食べ終えて、俺とイレヴンは後片付け、他の女性陣は身支度を整えに化粧台へ。
ミャウは俺のフードの中に潜り込んで二度寝の構えだ。気にせずちゃっちゃと食器を洗い、みんなの分のコーヒーを淹れて、嫁さんたちの身支度を待つ。
みんながリビングに再度揃うのを待ちつつコーヒーを飲んでいたのだが、しかしそこで今日はまたしてもちょっとした変化。
コンコン、と玄関がノックされたのだ。
その気配に俺たちは心当たりがあった。
「ん。ルドルフさんだな? どーぞー!」
「ほほ。お邪魔いたします」
「どうしました、ルドルフ? 今日は何か?」
玄関で出迎えて、リビングでルドルフさんの分のコーヒーも入れつつ、今朝はどうしたのか話を聞く。
ルドルフさんは普段はあまり俺んちに直接顔を出さない人だ。ノインさんとは通信魔法でやり取りしており、王族が色々やってる内容とか俺宛てのメッセージとかを伝えてくれてて共有してくれてるけど、おおよそはそれ以上はロック家に踏み込まない。節度ある距離感を保つ人で。
そんな人が俺の家に来る理由は一つ。何か急ぎで重要な報告がある時だ。
「ええ、散歩に向かわれたロック様と早朝にお会いしましたが、そのすぐ後に王族より通達がございました。大変重大な事態が発生したとの報告が魔族領を調査しているトゥレス殿より入りまして、そちらの検討会議にぜひロック様もご参加いただきたいとのお話です」
「おおぅ……トゥレスおじさんからの重大な報告かぁ。ヤバそうな雰囲気」
「詳細は王族より承ってくださいませ。大変恐縮ではございますが、奥様方の支度が整い次第、速やかに王城に向かってくださいますよう。私めも同行いたしまする」
「承知の助」
なんやモー! 朝一番で変な勘が働いたと思ったらまたなんかめんどくさそうな雰囲気じゃんねー!
まぁでも呼ばれちゃったら仕方ないね。急いで向かいましょ。