勘のいいガキはデカパイハーレムの夢をあきらめない!   作:そとみち

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206 久しぶりに来たわね冒険者ギルド

 

「ほんげぇー」

「主殿の口から随分と可愛いため息が」

「沈んでいますねマスター。テーブルにつけたほっぺが餅のようにぷにょりと……」

『みゃあ』

 

 ほんげぇー、ともう一度鳴き声を漏らして、俺はギルド本部のテーブルにさらにほっぺたを押し付けた。

 やる事がないのよ。

 みんながわっせわっせと働いている中で、どこにも行くな何もするな、というトゥレスおじさんからの指示に従ってギルドの中で走り回る冒険者のみんなを見てるけど……なんか……なんだろうね。しょんもり。

 

 

 こうなった経過を思い返そう。

 今朝方、王城の会議室でトゥレスおじさんから告げられた魔王軍の動き……魔王ダブレス城が空を飛んでどっか行っちまった、という話を受けて。

 俺の勘は、その場ではダブレス城の位置を察することが出来なかった。全く勘が反応していなかった。

 何の力にもなれなかったのだ。

 その後にトゥレスおじさんが俺が今日までにやってきたことを嫁さん達から詳細に聞き取って、俺の行動に絡みそうな場所全てを推理して、それを急ぎ全部調査することになった。

 そして、当然ながらダブレス城が今世界のどこにいるかの調査も同時並行で行われることになった。

 ギルドにも既に情報は通っており、動ける冒険者たちはほぼ全員、転移陣を使ったり馬車を使ったりワイバーン便を使ったり自分たちの脚を使ったりして、世界各国、その道中も含めて空に何か見えないかの調査に動くよう、ギルドマスターであるウォーレンさんから指示を受けたらしい。

 なので今もギルドの中はてんやわんやだ。みんな忙しそうにしてらぁね。

 

 んで、勿論だけど普段闘技場でバリバリ特訓してたいつメンのみんなも調査に入っている。

 ケンタウリスの皆さまもヴァリスタさんもカトルも、それぞれが指示を受けて世界各国の空を確認し、魔素の流れがおかしくなっていないかを調査してて。

 当然だわな。ダブレス城が空に浮かんでて、もしも王都のすぐ傍まで来てて、また戦争に……なんてなったら寝耳に水どころの話じゃない。絶対にダブレス城を見つけ出す必要がある。

 

 だからこそ、俺らロック一家も調査に協力することを申し出た。

 ウチには魔族に対抗する手段を備えたメンバーしかいない。

 特に、リンとノワールさんが切り札だ。

 二人は闇の魔素に極上の適性を兼ね備えた闇のドラゴン。リンは超高速で空を飛びまわれるわけで、魔族領の上空の調査にうってつけ。そちらの調査に二人で赴くことになった。

 ダブレス城がまだ魔族領の空を漂ってる可能性だって捨てきれないからな。ついでに魔族領に残っている闇の魔素を回収して、ノワールさんもそれで自分の顕現時間を延ばすことが出来るって話だったし。

 ノインさんだって世界中の転移陣を開いた人だ。世界の地理には異様に明るい。力になるだろう。

 俺だって、もしダブレス城が近くにくれば勘も響くかもしれないし、調査手伝いますよ……ってトゥレスおじさんに進言したんだけどね。

 

「──リン、ノワール、及びノイン様には調査に協力してもらう。だがロック、お前は駄目だ」

「どうして」

 

 トゥレスおじさんからハブられましてね。

 理由を聞けば、俺という存在は万が一にも命を失うようなことがあってはならないってことで。

 俺が死んだらホエール山脈の闇のマナの噴火口に突き刺してあるギルドカードが消えちゃうかもだしね。俺の命が世界の命運に直結してるのすっかり忘れてたよ俺は。

 ダブレス城がどこにあるか不明な現状で、万が一にも俺が最初に城を発見してしまって、魔族から総攻撃なんて受けてしまったら……と考えると、確かにトゥレスおじさんの判断に頷けるところもある。

 そして同時に、俺と命を直結させているイレヴンについても同様の配慮が取られて。

 俺とイレヴンの力を前線で発揮するのは、魔王軍との決戦の時までお預けという事になって。

 ついでに俺が一緒にいないとどこをどう迷うか分かったもんじゃないという理由でサザンカさんも調査には参加させられなくて。

 そんなわけで俺とイレヴンとサザンカさんは、みんながせわしなく働く中で、こうしてギルドのテーブルの一つに座って管をぐるぐる巻きにしてダラダラしているわけである。

 

「みんなの事も心配だしよぉー……戦力外通告されてる気がしてぇー……なんかなぁー……」

「……マスターらしくない発言ですね。その、失礼ながら、マスターは女性が絡まない仕事にあまり積極的ではないと思っていましたが」

「いやぁー……俺も今日まではそうだと思ってたんだけどねぇー……こうさァ…………トゥレスおじさんってすごいじゃん?」

「どうしました急に」

「確かにあの御仁、あらゆる面で秀でておられますが……」

「そう、凄いのよあの人。俺とティオにとってはホントに親身な大人の人でさ。んで、そんな人にさ……事情はあっても『お前の力は今はいらん』って言われると……割と凹んだって言うか……なんかいい感じに成り上がれた気がしてた俺なんだけど、やっぱ本質は大したことないガキなんだなって今更ながらに思ったって言うか……はぁ……ほんげぇー……」

「あれ、これ割とマジでマスター凹んでますね?」

悲観的(ネガティブ)な主殿を見ることがあろうとは」

『みゃあ……』

 

 そしてこの状況に自分でも予想外に凹んでいるのが今の俺なのです。

 なんかね。不思議とね。凹みまして。

 トゥレスおじさんが俺の勘を信頼してくれて、だからこそ城の位置も俺に聞こうとしてくれてたのに、俺なーんも出来てなくて。

 いつもはさ、勘が叫んだぜーこれで間違いないぜーって言ってみんなを巻き込むくらいしかしてなかった俺だけど、ホントにそれくらいしか出来てねぇな……ってなって。

 トゥレスおじさんの期待に応えられなかったうえに過保護なまでに守られてるこの現状が辛い……!!(号泣)

 

 俺も俺なりになんかやれることやりたいよぉ! 勘はうんともすんとも言ってねぇけど! みんながマジのガチで王都の為に頑張ってる中で何もしないのイヤーッ!

 闘技場でも殆ど何にもしてねぇしそれで罪悪感感じることもないし! 求められないと自分から仕事とかしないタイプの人間だと思ってたんですけどね自分でもね!!

 でもなんか……こう、俺がお世話になった人の期待に応えられないのって……なんか……うごご……!! イヤーッ!! グワーッ!!

 

「……マスター。マスターがこれまでに何度も命を張って頑張って来たから、今の王都があるんですよ。マスターはいつも軽い言動と裏腹に一生懸命頑張っていました。みんなが心配してくれているのも、その活躍があってこそですから……落ち込むことはないですよ。マスターの凄さは私が保障します。誰もマスターの事を頼りないなどと考えてはいませんよ」

「然り。主殿の勘が今回たまたま早急な解決に結ばない程度で、皆からの信頼が落ちることはありませぬ。肝心な時には必ず皆の力になってくれるであろう。主殿自身が何も出来ずに落ち込んでいる事こそがその証左でござる。拙者はどんな時でも主殿を信じておりますよ」

『みゃ! みゃ!』

 

 そんな感情を抱えて机に突っ伏してたら、俺の両手を嫁さんたちがそっと優しく柔らかい手で包み込んで慰めてくれる。

 ミャウも俺の頭の上に乗って、肉球でぽむぽむして、元気だそーぜ! と慰めてくれる。

 ありがと。うれしい。

 でもね。

 

「大好きな二人と一匹に慰められても……なんか何しても慰めてくれちゃいそうで……意外とメンタルの回復量が微々たるものでェ……」

「なんだコイツめんどくさいな」

「冷静な自己分析は出来ているのでござるな……」

『みゃあ……』

 

 なかなか響かないのよねぇ俺の心にねぇ!!

 ホントごめん……二人とも、いや嫁さんみんな全員心から大好きだし、俺の事も愛してもらえてるという確信も抱えられた今だからこそ、いつでも慰めてくれるよな……って俺の中のめんどくせぇひねくれた部分がこれでもかと見えてきてェ……!!

 なんか俺今日もうだめかもしれん。もう寝るしかないのでは?

 寝て明日になればリセットされてるやろ。大体の悩みは腹いっぱい食べてぐっすり寝れば何とかなるしさぁ……。

 

「……なんだ、今日は随分とらしくねぇテンションじゃねぇか、ロック」

「んぁ?」

 

 そんな風に無限に机に突っ伏してたら、男の声がかけられた。

 この声は知っている。顔を上げれば、そこには。

 

「……ノックスさん? 仕事はどしたの?」

「ちっと休憩だ。一服するくらいはギルド長もお目こぼししてくれるだろ。タバコ一本吸うが……いいかね、ご婦人方」

「拙者は構わぬ」

「私も構いませんよ。流石に忙しそうですね、冒険者を管理する側は」

「そりゃあなぁ。今日だけと言わず、ここ数日まーぁ忙しいぜ。魔素が活性化されて世界中のダンジョンや魔獣の動きも活発化しててよ、冒険者は大忙しさ。稼ぎ時とも言えるがね」

「ほえー」

 

 ノックスさんがいて、俺らが座ってるテーブルの対面に座り、疲れた様子で煙草を取り出して火をつけた。

 なんか老け込んでんな記憶の顔よりも。マジで大変そうだ。

 聞けば俺らが魔王対策でレベリングしてる間もめっちゃ働いていたという事で……なんかさらに申し訳なさが募ります。

 

『みゃっ……ふみゃっ……プニャーッシュ!』

「おっと、ミャウちゃんに煙はよくねぇわな。悪い悪い、こっちに煙流してっと……ふうーっ。沁みるぜ……」

「……タバコってそんなに旨いもんなんすかね」

「お前さんは覚えなくていい。キスするときに女に嫌な顔されたくねぇだろ?」

「それはそう」

「はっ。……んで、どうしたい。一服する間だけ話聞かせろよ、ロック。凹んでるお前さんを見る機会なんて中々ねぇからよ」

「野次馬根性やん……」

 

 顔を背けながら煙を吐くノックスさんが楽しそうにへにょってる俺を見て話を聞きに来た。

 完全に楽しんでるオッサンの顔やんけ。なんやコノー……とも思うが、俺の口から自然と事情が零れてしまうのだった。

 なんだろね。弱音を零すのと涙を零すのは俺の得意技みたいなところあるからね。

 ノックスさんにはギルドでも特にお世話になってる大人だし……少なくとも、弱さをさらけ出すのを躊躇う事はなかった。

 

「────ってなわけでェ……なんか説明しづらいんすけど……俺って勘が無けりゃホントにただのガキなのでは? とか思っちゃってェ……」

「ほーん。……くくっ。まったくもってらしくねぇな、お前さん」

「自分でもそう思ってんすよォ! 頼りない俺が許せなくてェ……!」

「あー……違う違う。今のは誉め言葉だ」

「えっ?」

 

 そんなわけで経緯から零したわけだけど、それを聞いてくれたノックスさんが肩を竦めて、紫煙と共に苦笑を零して、俺を真っすぐ見つめてくる。

 やだキモ。男に真剣な顔で見つめられるの最近のフォルクルスの件でトラウマになってるからちょっとキモいです。口には出さない。

 

「……成長したな、って思ってよ」

「なんだそりゃ」

「そうだろうよ。お前さん、言っちゃなんだが……バカじゃねぇか」

「なんで急に言葉のナイフ?」

「まぁ聞けよ。お前はバカだ。バカでエロガキで向こう見ずで、エロがそこにありそうとなれば全力で突っ込む様なおもしれーガキだった……少なくとも、俺と一緒に銀級昇格試験でダンジョン潜ってる頃は、お前さんは何も抱えるモンはなかったわけだ」

「……」

「当時からリンちゃんはいたけどよ、それだって孤児院に預けてたし……お前さんは自分の命だけ抱えてればよかった。だからバカで向こう見ずでいられた。責任なんてなーんも感じてなかっただろ、あの頃は?」

「まぁ……そうすね。言われればそう」

「でも今は違うだろ?」

「…………」

 

 ノックスさんの言葉に頷く。

 俺がノックスさんにギルドで世話になり始めて、リンを見つけた頃……冒険者を始めたての頃。

 あの頃の俺は、なーんも抱えてなかった。

 リンは預かってたけど、言われた通りで殆どシスターに預けっぱなしで勉強させてたし、もしも俺に万が一があったとしても、シスターが何とかしてくれるやろ、って考えもあったことは否定しない。

 俺は……あの頃、ただの俺だけでしかなかった。

 だから全てにおいて前向きに動いていた。

 

 しかし。

 

「お前さんは大切なモンをいっぱい見つけて、出会って、抱えてるんだ」

 

 今は違う。

 

「それは全部、お前さんが自分で選んで見つけたモンだろう?」

 

 抱えたい想いが、大切なものがいっぱいある。

 

 ああ、そっか。

 だからこそ、か。

 

「だからこそ……お前さんは自分の責任を果たしたいと考えるようになって、それが果たせねぇからヘコんでんだろ? ずいぶん偉くなったじゃねぇか」

 

 ノックスさんの言葉で、俺の謎の感情の正体がはっきりした。

 

 これ、責任感ってやつか。

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