勘のいいガキはデカパイハーレムの夢をあきらめない! 作:そとみち
ノックスさんの言葉に、深く頷いて理解を示す。
心の中の整理がついたことで、俺のこのもやもやする気持ちの理由も、これから先どうするべきなのかも、なんとなくわかったからだ。
「……俺、偉くなりましたかね」
「お前さんの功績は、こんな状況じゃなけりゃ特別金級への昇格も待ったなしだよ。もっともギルドカードがねぇから金級登録も出来ねぇ状況だがな」
「……でも、今は何も出来てない」
「今はな。だが、お前さんは何かしようと、何かできないかと考えている。悩んでる。じゃあどうするかって話だろ」
「──為すべき時に、為すべき事をする」
「そういうこった。だからそれまでは溜めてろよ、ロック。お前さんの神髄は状況をひっくり返すワケわからん力だ。それを遺憾なく発揮できるように、安心して暴れられるように場を整えるのが俺らの仕事だ。お前さんはその時に頑張ればいい」
「……っすね。ありがとノックスさん、なんか落ち着いたよ」
「ただの世間話で英雄サマに感謝されるとはなぁ」
「やな言い方するじゃん」
そう。俺は焦っていた。
大切な、色んなものを抱えるようになった俺が、何かを果たさなければならないと、みんなの力にならなければならないと……焦っていたんだ。
俺が何とか出来るのかも、って思うようになっていた。
自覚ではない。自負に近い何か。
色んな修羅場を切り抜けてきたことで、何とかなるやろ、何とかしてやるわ、とがむしゃらに何とかしてきたことで、今回も俺が何とかしないと……って、僅かでも考えちまってたんだ。
んなこたないのにね。
俺には頼れる仲間がいっぱいいるんだから。
俺が出来ない事は、みんながやってくれるんだから。
だから俺は、俺が出来る時に、出来ることをやるだけなんだ。今までと変わらない。
俺の勘が叫んだときに、それに殉じて行動する。
勘が叫んでいない時にアホな俺の考えで動いても何にもならん。
そこにようやくたどり着いた。ノックスさんと話したことで、俯瞰して自分を見ることが出来た。
勘がいいだけのガキ? その通りだろ。
勘が無けりゃただのガキ?
だから俺は、その勘が働いた時にマックスを出せばいい。今はみんなの無事と活躍を信じて、待つときなんだ。
「……ぶへぇーーーーー!! すっきりしたわなんか!」
「マスター……」
「定まったでござるかな、心が」
『みゃ』
「うん、なんか焦ってたわ俺。勘が働いてないってことは大したことは起きないだろうし、勘が働いたらすぐ動く……っていうこれまでの俺でよかったんだって改めてわかった感じ。いつも通りみんなに任せて俺は女の子のお尻を追いかけてるだけでよかったなって」
「女のケツを追いかける必要はねぇけどな」
思いっきり息を吐いて、吸って、体の中の空気を入れ替えた。
うん! メンタルリセット! 俺は俺であればヨシ!
トゥレスおじさんやみんなが頑張ってんだから俺はそれを後方から応援して吉報を待ってればヨシッ!
誰もが心から信頼できる仲間たちじゃんね。絶対なんとかしてくれるって。
俺の勘が無くたって、成果を挙げて帰ってくるだろうさ。俺は待ってるだけでええ!
本気を出すのは決戦の時だけでええ!
「ロックがいつまでも暗い顔してっから、三つの月がぶつかっちまうかと思ったぜ。調子が戻ってきたようで何よりだぜ」
「なんか悪かったスねノックスさん。気にしてもらっちゃって」
「いいって事よ、お前さんよりちっとだけ長生きしてるオッサンの趣味みてぇなもんだ。お前さんが呑気にアホ面晒してる限り、人類の勝ちは確定してるようなもんだからな。これからもその調子で頼むぜ」
「バカにしてんな??」
ノックスさんにお礼言ったら切れ味だいぶ強く苦笑を零された。
なんやンモー。三つの月がぶつかるなんて慣用句まで使いよって。異世界転生チートさんの作品では『明日は雨が降るな』っていう言い回しで使われる奴ね。ありえんもの見たわって意味。
俺だってちょっとはナイーブな面あるんすよ。涙だって溢れちゃう。
でも心が強ぇヤツなのですぐに回復するのが俺のストロングポイントなのさ。
俺は常に前向きだ! 怯えろ魔族!
そこからバカにされてむすーっとした顔でノックスさんを睨むと、肩を竦めて鼻で笑われ、ふぃーっと煙を吐き出した。
ンモー。この人マジで面倒見良すぎんだよないっつも。
早く俺みたいにいい女捕まえなさいよ。婚期逃してしまっているのではないかね??
「ふぅー……よし、一服休憩終わりだ。ロックよ、お前さん方が今何もすることがねぇなら。ギルドの業務手伝うか? 今なら仕事いっくらでも回せるぜ?」
「え、やだ。めんどい」
「そういう所ですよマスター」
「拙者らは構わぬのだが、主殿の意にそぐわぬようで……」
『みゃあ……』
「ハッハッハ、構わねぇ構わねぇ。いつお呼びがかかるか分からねぇしな、お前さん方は。言ってみただけだよ。ま、多少ご自慢の勘が錆びついてようが、お前さんならすぐなんとかするって俺も信じてるからよ。……頑張れや」
「うん。……あんがと」
しっかりお礼を言うのも照れ臭いので、そっぽ向きながら小声でぼそっと零してやった。
それを見たノックスさんは再び苦笑を零して、嫁さん二人はなんか顔赤くしてた。なんや。
さて、そうして俺のメンタルも回復して、みんなの帰還をこのまま待つか、そういやそろそろ夕方も近いから一旦家に帰って夕飯の支度で先にしちゃおうか……などと俺が考え始めた時だ。
「────いや、ノックス。どうやら、ロックの勘は全く錆付いていなかったようだ」
「え? ……ギルド長?」
「あ、ウォーレンさん」
立ち去ろうとしたノックスさんを呼び止めるように、ギルドマスターのウォーレンさんが羊皮紙を手にやってきた。
あれは報告書っぽいかな? 何か調査に進展があったのだろうか。
「流石としか言いようがないな。ロック、やはり君はディセットさんが見い出した稀代の英雄だ」
「え、急に褒められた怖い。えっ何? 何が起きたってんですか?」
「ああ、改めてギルドからも感謝を伝えよう。いつも本当にありがとう、ロック。既に成した奇蹟を君は理解しているだろう。さて、これから忙しくなるな……」
「いやちょっと待って会話のキャッチボールしてってねェ!? 肝心な所何も説明しないで匂わせぶりして去って行こうとしないでねェウォーレンさんねェ!?」
「変わらないですねこの方も」
「どうしてこの御仁はギルドの
『みゃ』
気になってその辺を確認してみれば、なんか謎の誉め言葉を頂いたうえで、凄く納得した風の頷きを見せてからさっと踵を返そうとし始めたので慌てて呼び止めた。
説明不足の鬼なんだよなぁこの人な!! 重要な事態であればあるほどめんどくせーぞこの人!!
「や、ギルド長……ロックが今回の件絡んでるのであれば説明してやりましょう。俺が説明しますから……」
「む、そうか……ではノックス、任せた。こちらにトゥレスからの報告をまとめた書面がある」
「トゥレスおじさんからの?」
ウォーレンさんがノックスさんに書類を渡し、ノックスさんがそれに目を通し始める。
読み進めるノックスさんが、時折俺の顔を見てものっすごい変な顔する。それどういう感情??
「…………ふぅー。ロック、お前さんやっぱおかしいわ」
「この謂れなき言われよう」
「どのような報告が上がってきたのですか、ノックス」
「おおよ。簡単に説明するとな────」
ノックスさんがトゥレスおじさんからの報告を簡潔にまとめて教えてくれた。
ダブレス城が存在する空域が発見された。
王都から最も離れた北方の海上、そこに浮いている可能性が極めて高いと。
発見できた理由が、海に面する漁村『ヴォニート』にて、平常時以上の満ち潮が観測されたため。
満ち潮という現象が起きるのは、月が空に浮かんでいることで重力がなんたらどうたらして潮が満ちたり引いたりするためだ。
漁村の長老が長年海を見守り続けた人であり、その人が僅かな違和感を察した。
トゥレスおじさんが精査したところ、確かに満潮の上昇が確認できた。
それはすなわち、月以外の何か巨大な物体が空に浮かんでいることによるものだという事で。
「魔王の居城が海上に浮かんでいるが故の潮の変化、という事でござるな」
「流石やなトゥレスおじさん! そんなところに気付くなんて……」
「まだ話に続きがあるぞ」
さて、しかしそうしておおよそ海の上を見渡したが、何故か城が目視できない。
周囲の魔獣の動きや潮の動きを見る限り、海上にある事は間違いないが、見えない。
恐らくは、イレヴンの『スティルステルス』に近い、目くらましのような魔法が城全体にかけられているのではないか、というトゥレスおじさんの推理があり。
だが、おおよその存在場所が分かれば、潮の満ち引きや風の流れの計算で、より詳しく城の位置は今後も計算できるであろうという事で。
これからはギルドの人員を使い、ダブレス城の観測の為にあらゆる気候条件、魔獣の動きを調査していくことになると。
トゥレスおじさんの現時点での計算による読みでは、王都まで一週間弱で辿り着く、ということで。
「ほーん…………
「ッ! ロック……そりゃ、お前さんの勘か?」
「うん。
「マスター……!」
「……限られた情報から計算できる答えに結ぶのが『万極』のトゥレス殿でござるが、我が主は計算を飛ばして答えに至る。どちらもあな恐ろしや……」
『みゃぁぁぁ……』
「サンキュー、この後さらにお前さんの意見もギルド、王族ともに共有させてもらうぜ。そうこなくっちゃあな……さて、あとはトゥレスさんがついでに報告して来たお前さんの勘の話だが……」
んで、オマケの話。
トゥレスおじさんが、なぜ王都の北の方のヴォニートに向かい、ダブレス城発見の手がかりを掴めたのか。
それには、王都の国務部門の一つ、交易部門に勤めているケルク補佐官という人が絡んでいるという話で。
「ケルク……誰や?」
「マスター、今朝ご老人を助けた件ですよ。あのご老人のご子息の名前がケルクだったと記憶しています」
「あー……あのオッサンか。そういやそうだったかも?」
「おう。ケルク補佐官の家族をお前さん、なんか朝の散歩ついでに助けたらしいな? それでご家族に不幸が起きなかったことで、ケルク補佐官が通常通り業務を行えるようになって、今日ヴォニートに交易に出かける予定だった。そこでたまたま村長と潮の満ち引きがおかしいって話をして、その場にトゥレスさんが間に合って、詳しく話を聞いて……って事らしい」
「……主殿がたまたまご老人を助けていなければ、そのケルクという方が交易に向かえなかったか、交易遠征の時間がズレて……何の手がかりも掴めぬまま、不可視の城がいずれ王都に来ていたという事でござろうか?」
「そういう事だわな。鶏が先か卵が先かみてぇな話だが、ロックはそもそも既に下拵えを終えていたって話だ。トゥレスさんがそれを見つけて親子丼を作ったと。…………いや、怖ぇよ。お前さんの勘も、結果を結び付けたトゥレスさんも」
どうやら、俺は既に答えに結び付く勘を果たしていたらしい。
今朝のいきなり急に来た勘はそういう事だったのだ。
あの時に俺がお爺ちゃんを助けたことで、風が吹き始めた。そこからはトゥレスおじさんが桶屋を儲けさせるところまで結び付けた。
そんな話を聞いて、俺の事を怖いというトゥレスおじさんの顔を見て、俺は────
「やっぱなー!! 俺の勘はいつだって答えが分かっちゃうんだよなぁー!! かーっ!! 既に答えは出てたんだよなーっ!! つれぇわーっ!! この圧倒的な才能を持ってる俺の偉さがつれぇわーっ!! 更にハーレム拡大しちゃうなーっ!! かーっ!!!」
「マスターがめっちゃ調子に乗り始めました」
「ヘコんでた分を取り戻さんと言わんばかりでござる」
『みゃあ』
「お前さんが最高にお前さんらしくてなによりだよ」
めっちゃ嬉しくてテンション爆上がりだよね!!
なんや俺の勘ちゃんと仕事してるやんけ!! 役に立ってるやんけ!!
落ち込んでたの損したわ!! ンモーそういう嬉しい報告は早く言ってよね!!
ヤッター嬉し―! トゥレスおじさんありがとーっ!!
いや普通に城の位置を勘で見つけろよとか言うのは禁止な!!!!