勘のいいガキはデカパイハーレムの夢をあきらめない! 作:そとみち
その事実がヒルデガルドさんの口から語られて、俺たちは皆一様に目を丸くした。
「2~3か所、私自身がダンジョンを廻って確認したから間違いはない。このタイミングで世界中でスタンピードが起きようとしているのは……魔王軍の手引きがあったと考えるべきなのだろうな。私はこれからギルドに報告してくるが……」
かなり焦燥した様子でヒルデガルドさんが言葉を続けるのを見て、メルセデスさんが口を開く。
その声色は、多分に心配の色を含んでいて。
「いや、ヒルデガルド殿?」
「なんだ、メルセデス」
「その……」
躊躇いがちに言葉を選んでメルセデスさんが放った言葉は。
「……世界中でのスタンピード発生は、先日の打ち合わせで話があった件ですよね?」
「え?」
「確か、ノイン様の推測にトゥレス殿も同様の考えを示して、高確率で発生するだろうという事で、対策も進められていたと思いますが」
「ええ??」
そう。スタンピードの発生については既に会議で話題に上がっていた事だ。
ノインさんが150年前の冒険者飽和時代の事が記された書物を調べて、魔王軍との本格的な戦争は過去に3回あったが、そのどれもが王都付近でのスタンピードが同時発生していたという記述を見つけたのだ。
トゥレスおじさんも同じような知識を持っていて、今回もそれが起きるだろうという話をしていた、らしい。俺は爆睡してた会議でそんな話があったようだ。
イレヴンから報告されて俺もそれは頭に入っている。
同様にそれを知っていたヴァリスタさんも会話に混ざる。
「今この時点で各地に冒険者を手配してスタンピードを各個対策するのは人的資源の不足もあるため見送り。この時期のスタンピードは王都に雪崩式に集まってくる見込みのため、我ら突入組を除いた冒険者は決戦開始の朝から、魔獣相手に王都で防衛線を果たす……という話であったと記憶している」
「王城の大型砲台も出来た今、万が一の物量で押し込まれても何とか出来る可能性が高いし、前回の魔族との戦争よりは魔装具が要らない分、守り通すのは容易だろう、という話で……既にギルドにも通知が行っていたと思いますが」
「……そう、だったか……?」
ヒルデガルドさんが豆鉄砲喰らったドラゴニュートの顔してる。
え、ヒルデガルドさん大丈夫か? よく見ればお顔にすっごい疲労感が出てないか??
もしかして前回の会議の話が頭に入ってないくらいこの人疲れてないか? ブラック労働してないなんかこの人???
「……そうだった、かもしれん。スタンピードは現時点では心配が要らない、という事でいいのか……だとすると、次に私は何をするべきか……魔王城を探しに行くか……」
「……ヒルデガルド殿? 大丈夫か?」
この人限界でーす!!!(確信)
あっなんか勘まで鳴り響き始めましたわ! ヒルデガルドさんをここで休ませてやらないと駄目ですわコレ!!
ヒルデガルドさん残業3日目のOLみたいな状態になってます!! 働きすぎて頭廻ってないですよこの人!!
「ヒルデガルドさん休もう!! 絶対今働いちゃ駄目なコンディションですって!! 前に休んだのいつですか!?」
「ん、ロック……前に……しっかり休んだのは、いつだろう……お前に抱いてもらった夜が最後か……?」
「ダメだこれッ!! イレヴン、ヒルデガルドさんにいっちゃん効果ある回復魔法かけたってー! リンもー!」
「承知しました」
「ヒルデ、だいじょうぶ? おくすりのむ?」
慌てて駆け寄って聞いてみれば、ローティリッチで俺との夜を過ごした後、この人ずっと働いてたらしい。
ドラゴニュートがどれだけ徹夜できるか俺は限界を知らないが、しかしリンを見ても毎日しっかりぐっすり睡眠時間を取っている。眠い時にはよくあくびをしているし、ドラゴニュートだから睡眠しなくていいなんてことはない。ちゃんと休む必要があるはずで。
それなのにヒルデガルドさんは休んでない。
俺との逢瀬を交わした後からしっかり寝てないとか。
あれもう何日前のことだ? ローティリッチから帰って、その日の夜にノインさん抱いて、翌日にティオを抱いて、その翌日にリンとノワールさん抱いて、翌日はイレヴンとサザンカさん抱いて、翌日にノインさんとティオ抱いてるから……5日前か!?
やべーぞ100時間以上連続稼働してるぞこの人!! 仮眠はあったかもしれないけどコンディションが最悪だぞ!!
そんなコンディションじゃ昨日の会議で聞き漏らしも発生するわね! 緊急事態ですわよ!!
「ん……ダメージは受けていないから回復は不要だぞ……?」
「回復が必要なのは心のほうですよぉ!?」
「ヤバい、全然ヒール効いてない……」
俺の号令で回復魔法をかけ始めるイレヴンとリン。ティオやソプラノさんもそれに続いてヒルデガルドさんに回復魔法を重ねがけするが、効果は薄いようだ。
ヒール系の魔法はいわゆるHP、体力を回復することは出来るのだが、疲労とかを一瞬で飛ばしたりはできないってマルカートさんに教えてもらった。
今のヒルデガルドさんは疲労マックスだから、どんなにヒールしても根本の疲れは取れないのかもしれん。
あーいけませんいけません。
これは由々しき事態である。
突入組の重要戦力であるヒルデガルドさんが寝不足で戦えないなんてことになったら戦力減。それで負けたら笑い話にもならない。
ここはレベリングに参加しない俺が何とかするしかあるまい!
ヒルデガルドさん労わり大作戦を始めるッ!!
「ヒルデガルドさん」
「何だ、ロック=イーリーアウス。そんな顔で……安心しろ、最終日の前はちゃんと休むように────ッ!?」
ヒルデガルドさんに不意打ち気味に近づいて、有無を言わさず唇を奪ってやった。
「────」
「ん、む、ちゅ♡……っ!? ぷは、くっ、ロック、急に何んっ……!」
「だめ、逃がしませんよ」
「な、んっ、ちゅ、ちゅむ、ぷぁ、んっ♡……っ♡…………」
一瞬、何の抵抗もなく俺の唇を受け入れたヒルデガルドさんだが、我に返って唇を引きはがしに来た。
だが断る。俺はヒルデガルドさんの抵抗を上手く捌いて、何度もキスの雨を降らして、有無を言わさずヒルデガルドさんの肉体をリラックスさせる。
その内に抵抗は弱まっていき、少しずつヒルデガルドさんが俺の体を抱きしめるように弱々しく腕を廻してきて、熱を求めるように体を密着させてきた。
舌を絡めれば、最初はおずおずと、次第に大きく舌を動かして、逆にこちらを求めるようにヒルデガルドさんの舌が絡みついてきた。
やはり頭が廻っていないのだろう。
通常時のヒルデガルドさんなら、人前で急にこんなことすれば、少なくとも世間体を気にして尻尾でビターン! ってしてくる所だろうに。
しかし今ヒルデガルドさんの体は限界だ。安らぎを求めすぎている。
だからこそ俺という熱のある人体が密着すれば、まるで冬眠するかのように尻尾を俺の脚に絡め始めて、キスを受け入れて、じっとりと休息モードに頭を切り替えていく。
安心させてやる事で、自分がどれだけ疲れているかを思い出してもらう。
そのためにキスをして、過労状態のヒルデガルドさんをびっくりさせて、瞳を閉じさせて、人肌の温かさを与えることで休息モードに切り替えてやったんですね。(RTA)
「んー……ちゅぅ♡ ちゅ、ちゅ、んーっ……♡ ロックぅ…………────すぅ」
「────ヨシ!」
そしてとうとう、俺とキスすることで幸せな安心を与えられたヒルデガルドさんが意識を落とした。
キスを受け入れるために目を閉じさせたのが大きかったな。ヒルデガルドさんの全身をしっかりと抱きしめてやる事で、力が徐々に抜けていった。
そのまま俺にしな垂れかかってきて、闘技場の舞台の上でしゃがみ込む様に膝を崩して、横たわった時点で睡魔に抗えずに眠ったのだ。
完璧な仕事をこなしたと言えるだろう。褒めてくれてもいいんだよ。
「……すっご……」
「キスでドラゴニュートを堕とすなんて……そんなに上手なんですかロックくん……」
「…………」
褒めてよ。なんでそんな目で見てくるんですかねアルトさんもソプラノさんも。
シミレさんは無言でごくりと喉を鳴らさないでくださいよ。俺今結構マジなシーンだと思ってるんだから。
まぁとりあえず、こうしてヒルデガルドさんを落ち着けることに成功させた。
とにかく今日はこれからぐっすりじっくり休んでもらいましょう。そうする。
「……てなわけで、まぁ。ヒルデガルドさんがなんか自分を追い詰めるような感じで働いてたので、今日は俺これから一日ヒルデガルドさんを癒してやりますわ。マッサージしたり飯作ったりして……それでいいすかねヴァリスタさん、メルセデスさん」
「うむ。明らかに過労気味だったからな、一度しっかり休ませるのがよいだろう」
「ヒルデガルド殿も、姉御殿の件で頭がいっぱいだったのかもしれないな……フォルクルスとの遭遇で話を聞いて、心配を深めていたのだろう。だからこそ、動いていないと不安だったか……。ロック少年、彼女の事は任せてもいいかな」
「うん、俺もメルセデスさんと同じ推理。なんで俺んちでぐっすり休ませますね」
メルセデスさんが言った通りだと俺も考えていた。
多分、姉のニーズヘッグの件をフォルクルスから聞いた時点で、姉を取り戻したいという思いがヒルデガルドさんの中で強くなったのだろう。
だからこそ働いた。闘技場でのレベリングもそうだし、世界中を調査する時にもよく飛び回ってくれていた。
夜も騎士団との打ち合わせとか王族との打ち合わせにも参加してたみたいだし、ホントに休む間もなく働いてたんじゃないかな。
そうした方が不安をまぎれさせられて、楽だったのだろう。
本当に姉を取り戻せるのか……心配だったんだ。
ずっと、三姉妹の絆を取り戻すのを求めていたヒルデガルドさんだから。
希望の糸を垂らされて、でもそれが本物かどうかわからなくて。
だから不安になって、限界まで自分を追い詰めてしまったんだ。
そもそもヒルデガルドさんってクソ真面目な事する人じゃないのにね。
昔から自由奔放に世界を飛び回るのが好き、って本人が言ってたのに、慣れない不眠不休の労働なんてするもんだから、自分の疲労を自覚さえしてなかったんじゃないかと思う。
その辺もちょっとゆっくり話しますかね、目が覚めたら。
「とりあえずベッドまで運んで全身をマッサージしてやりますかね。サザンカさん、ヒルデガルドさんをそっと持ち上げてもらえます? 俺んちまで運んじゃおう」
「承知」
「マッサージとか言って変な事するつもりじゃないでしょうねアンタ」
「俺のマッサージの効果はアルトさんも知ってるでしょ? 真面目にやりますよ流石に」
一先ずサザンカさんにヒルデガルドさんを自宅まで運んでもらうことにした。
ベッドに寝かせて、寝てる間に全身マッサージして筋肉をほぐして、今夜の飯の準備をして……みんなが午後のレベリングをしてる間、ちょうどいい仕事が出来たわ。
ゆっくり休んでもらいましょう。